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ムーン・セイヴァーズ  作者: 白洲ヨム
Chapter-01 『Missing』
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Section-9

更新履歴 21/9/8 文章のレイアウト変更・表現の修正


「サトル! もういい、先に行け!」



 俺がそんな、少年漫画のワンシーンのごとき、恥ずかしいセリフを悟に放った理由。

 それは当然、もう自分には生き残れる見込みなど無い、と潔く諦めたからである。


 ゆえに何とか彼だけでも逃がそうと、自分を見捨てていくよう促したのだ。

 まあ状況を鑑みれば、十分に妥当な判断だろう。


 その俺の敗北宣言に、悟は攻め寄せる敵を打ち払いながら、ひどく驚いた様子で応じた。


『カイト? 何言ってるんだよ!』


 それに俺が返したのは、やはり漫画チックに格好つけたセリフだ。


「このままじゃ共倒れだ! お前だけでも逃げろ!」


 ただしその言葉を口にした瞬間、ふと猛烈な気恥ずかしさが募ってくる。

 まるで全身の血が沸騰したかのように、一気に体中が熱くなってきたのだ。

 きっとヘッドセットの下の顔は、真っ赤に染まっているに違いない。


 まあそれはそうだろう、だってどんなに追い詰められた状況だとしても、これはあくまでゲームなのだから。

 実際の戦場で戦っているわけではないのに、何を本気になっているのか、と自嘲して当然だ。

 そのせいでもはや、胸の内にあるのは、なぜあんな事を言ってしまったんだという後悔のみである。


 しかしそうして羞恥心に苛まれる俺を、悟は予想外に熱く叱咤してくる。


『そんな事できるわけないだろ! まだ望みはあるんだ!

 頑張れよ! 諦めるなよっ!』


 何とも珍しい、感情の高ぶりがはっきりと現れた口調である。

 まるで本当の戦争でもしているかのような態度、と言ったところか。

 どうやら彼、このゲームのリアルな雰囲気に、すっかり吞まれてしまっているらしい。


 それは意外と言うよりも、違和感を覚えずにはいられない事実である。

 彼は性格的に、そこまで思い込みの激しいタイプではないから。

 いったいどうして、今回はこんなにも熱くなっているのだろうか……


 ……という疑問を強く感じていたにも関わらず、結局のところ俺はそこで、悟と同じような振る舞いをしてしまった。

 なんと相手の雰囲気につられて、自分も語気をさらに強め、荒々しく反論を行ったのである。


「いいから行けって!

 この状況じゃ、どう考えても俺は逃げられないだろうが!

 変に構って、自分まで落とされるなっ!

 わかるだろっ!」


 すると悟は、そんな俺の剣幕に押されたように、急に勢いを失って黙り込む。

 主張に納得してくれたのかは不明だが、とりあえず頭の方は冷えたらしい。


 となるとこれで、少なくとも彼の方は、無事に撤退を成功させることだろう。

 己の失態に、友を巻き込まずに済んで万々歳、というところだ。


 だがそうして、相棒の翻意に安堵し、こっちも少し熱くなりすぎたかな……と反省を始めた俺に――


(まったく……手間をかけさせやがって。

 まあ、俺も少し言い過ぎだったかな)


 悟は次いで、思いもよらぬ言葉を発し、一瞬でこちらの度肝を抜いてきた。


『……ひどいなあ、カイト。

 青春の悩みを聞いてくれるんじゃなかったのかい?』


 当然俺としては、ぼんやりとした反応を返すしかない。


「は……?」


 発言があまりに唐突、かつ場違いだったので、何を言ってるのかすぐに把握できなかったのだ。

 この機体に人間のような顔があったら、さぞかし間抜けな表情を浮かべていたことだろう。


 そうして驚きのあまり、俺は完全に言葉を失っていたのだが。

 そこへ悟は、不自然なほどに軽く明るい口調で、自身の意図を説明し始める。


『ほら、さっき言ってたじゃないか。

 何か悩みがあるんなら、いつでも相談に乗ってやる、って。

 だからそれを、後で聞いてもらおうと思ってさ』


 つまり朝の登校中に俺が発した、たわいのない冗談――元気が無いのは悩みがあるせいか? というあれだ――を、なぜだかここで持ち出してきたわけである。


 まあそういう会話を交わしたのは事実なので、とりあえずそれには、肯定の返事をしたものの……


「あ、ああ……まあ、そうだったか」


 しかし無論、悟がその話を、この期に及んで蒸し返す理由は判然としない。

 だって彼は今も、迫り来る敵を迎撃している最中なのだ。

 呑気にお悩み相談、なんて暇は無いはずである。

 本当にいったいなぜ、こんな話題を振ってきたのだろうか。


 おまけにそう混乱する俺を、一切フォローすることもなく、悟は次いで唐突に話題を変えた。

 急に彼には似合わぬ、ひどく大げさな事を言い始めたのだ。


『実は僕、クラスのみんなに話さなきゃいけない事があるんだ。

 それはみんなの未来っていうか……今後に関わってくる、すごく重要な話』


 そしてそれに驚く俺を置き去りに、どんどん自分の話を続け――


『でもみんなの前で話すとか、僕あんまり慣れてないからさ。

 さっきのホームルームでもほら、滅茶苦茶に失敗しちゃったし。

 ホント、自分が情けないよ』


 その最後、俺に協力を求めてくる。


『それで次は、カイトに協力してもらって、きちんと成功させたいと思ってる。

 だからここで脱落されると、相談できる人がいなくなって、ものすごく困るんだよ』


 どうやらこいつ、先のホームルームで、自分の話がうまく伝わらなかったことを後悔しているらしい。

 そこでその失敗を取り戻すため、俺の支援を必要としているようだ。

 もちろんそういう事情であれば、こちらとしても望むところだし、要請を断る理由なんて何ひとつありはしない……わけだが。


 ただし、その一方で――


(……なんか、ずいぶん変な言い方だな)


 それに続いて発せられた、『脱落』とか『いなくなって』という表現には、どことなく不穏な印象を受けていた。


 だってその言葉をありのまま受け取れば、あたかもこのゲームで撃墜されたが最後、本当に俺が死ぬみたいではないか。

 どうして彼は、突然そんな訳のわからぬことを言い出したのだろう。


 その戸惑いは、再び俺の心に、悟に対しての大きな違和感を生じさせる。


(なんだ……? 何があったんだ……?)


 やはり今のこいつは、どこかおかしいぞ、と。

 だとしたら彼に、いったいどんな心境の変化があったのだろう、と。

 そういう疑念を抱き、何やら警戒心のようなものまで芽生えてきてしまったのだ。

 まあこうも異変が重なれば、それも致し方ない反応であろう。


 ただそんな風に、俺がネガティブな感情に囚われていることを察したのか。

 次いで悟は、不意に口調を重く沈み込ませると――


『ごめん、変な話をして。

 おかしいことを言ってるっていうのは、自分でもわかってるんだ。

 わかってるんだけど、うまく説明できなくて……』


 言い訳をするように、いくつか弱音を吐いた後、突如として声に力を取り戻し――


『でも……でも、それでも!』


 哀れみを感じるほど必死な口調で、まっすぐ助けを求めてきた。


『頼むよ、カイト。僕には他に、頼れる相手がいないんだ』


 その瞬間、俺の胸の内に、『こいつのために何かしてやりたい』という熱い気持ちが生まれる。

 それは体の芯で燃え盛り、全身をくまなく焼き焦がしていくほどの強い感情だった。

 要はすっかり後ろ向きになっていた気持ちが、ここに来て再び勢いづいてきたわけだ。


 なぜなら滅多に助けを求めることなんてない、この気遣い屋のお人好しに、こんなにも頼りにされてしまったから。

 自分のことが必要だ、とはっきり言われてしまったから。

 その事実がもたらす嬉しさと使命感で、心が隅々までいっぱいになったのである。


 だから、俺はすかさず――



「あーあ……ホント、しょうがない奴だな!」








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