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ムーン・セイヴァーズ  作者: 白洲ヨム
Chapter-10 『Dear my prince』
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Prologue

更新履歴 21/10/20 文章のレイアウト変更・表現の修正


 結局、何がしたいんだろうなあ、俺。


 柳井満は、自分という人間に対して、たまにそう思うことがあった。



 なぜなら自分の人生に、明確な目的――将来の夢とか叶えたい願いとか――を見出したことがなかったから。

 これまで十数年生きてきて、本当に本当にただの一度も。


 基本は毎日、友達と遊びほうけてばかり。

 努力や苦労とは縁遠く、達成感や充足感も希薄で、面白おかしくはあってもどこか空っぽ。

 常にそういう、薄っぺらいこと極まりない生活を送っていたのだ。


 だから自分が何をしたくて、どうなりたくて、何のために存在しているのか――それがずっと、わからないままで生きていた。

 芯とか柱みたいなものが無い、クラゲのような精神構造だった、とも言えるだろう。


 そのせいなのか、俺は一人になるのを極度に嫌っていた。

 孤独を感じるとすぐ、不安や寂しさがとめどなく湧き出してくるから。

 誰かしら側にいないと、普通に落ち着いていることさえできなかったのだ。


 それゆえいつも誰かと一緒にいて、しかもそいつらと共に延々騒いでいた。

 互いにくだらない冗談を飛ばし、些細なことでも共感し合って、テンションが落ちないよう維持し続ける。

 そんな馬鹿騒ぎを、寝ている時以外は全て、ほとんど絶え間なく繰り返していたのである。


 おそらくそれは、胸の内にある、形の無い不安を紛らすためだったのだろう。

 楽しくお喋りしていれば、難しい事や嫌な事を考えなくて済むから、無意識の内にそういう行動をとっていたのだ。

 マグロは常に泳いでないと死ぬと言うが――新鮮な酸素を取り込むため、動き続けていないとまずいらしい――まさにそんな生き方であった。


 当然それが原因で、あまり世間的な評判は良くなかった。

 軽薄で脳天気な奴とか、どこまで本気かわからない奴とか、とにかく散々に言われてたのだ。

 人望など欠片も無い、と表現したっていいだろう。

 本来ならそういう状態を、自分なりに改善するため努力すべきだったのかもしれない。


 しかし俺は、自分のその欠点について、特別深刻に考えたことはなかった。

 そんなに大した問題じゃないさ、と軽く捉えたまま、呑気な毎日を送っていた。


 いやここは、むしろ考えずに済んでいた、と言うべきか。

 いつだってすぐ側に、気の合う仲間がいたおかげで、不安に囚われることがなかったのだ。


 そう、俺には友達がたくさんいた。


 どんな時も一緒にいて、話しているだけで笑い声が絶えない。

 一生このまま過ごせたら、どれほど自分は幸福なのだろう。

 心からそう思える、本当に気の良い連中がいてくれたのだ。

 無論、彼らといる時は孤独を感じることがなく、また怖いことだって何ひとつ無かった。


 それで結局、俺は自分の悩みと真剣に向き合わなかった。

 今が楽しければそれでいいじゃん、という感じで、ずっとずっと目を逸らしていたのである。

 近い将来、その甘い考えによって、重い代償を支払うことになるとも知らずに。


 そして、そんな時だ。


 まだまだ好き勝手、自由気ままに過ごしていた頃のことなのだ。


 俺が、『彼女』に出会ったのは。



『おっ、貸し切りじゃ~ん』


 俺はその時、たまたま予定の合う友人がおらず、大いにヒマを持て余していた。

 それでちょっとした気まぐれを起こし、軽い探検気分で、図書室なんぞに立ち寄ったのだ。

 いつも行かない場所に行けば、何か面白いものが見れるかも、と期待して。


 ただし当然のように、すぐ飽きた。

 だってそこは異様に静かで、ほとんど人の姿も見えず、また特別興味を引くようなものもなかったから。

 まあ本になんて元々関心が無いわけだし、それがごくごく自然な流れではあった。


 なので間を置かず、俺は図書室を立ち去ろうとしたのだが。

 しかしその直前、受付に気配無く佇む、一人の女の子を発見した。


 その子はいかにも図書委員、と言った風情の、ひどく地味な見た目の女子生徒だった。

 もちろん惹かれるようなところは一切無かったし、話が合うとも思えなかった。

 普段の自分であれば、気にかけることなく無視しただろう。


 しかし当時は、さすがにこのまま帰ったのでは来た意味が無い、と思っていた。

 なので無駄足になるくらいなら、軽く喋ってみるのもいいか……と即座に翻意し、俺はその子に話しかけた。


『なあなあ、あんたって図書委員?』


 そしてそれに、やたら挙動不審に応じた彼女と、しばらく会話を交わした。


『は……はい。そうですけど』


 もっともその内容は、正直よく覚えていない。

 常日頃から考えて会話する方ではないので、ほとんど記憶に残らなかったのだ。

 少し本のことなど喋った気はするが、印象としてはせいぜいそれくらいである。


 だから彼女との関わりは、当然のようにその場限りで終わった。

 別れを告げて立ち去った後は、お互いさっさと自分の生活に戻ったのである。

 そして以降は、決して再び交わることがない……


 ……はず、だったのだが。

 結局のところ俺は、その図書室をもう一度訪ねることになった。

 大した間を空けることもなく、すぐと言っていいくらいの早いタイミングで。


 自分がそういう行動に出た理由は、やっぱりよく覚えていない。

 また雨にでも降られたか、あるいは暇つぶしにいいと思ったか、実は密かに図書委員さんを気に入ってでもいたのか……


 そのいずれなのかは不明だが、とにかく俺は、再度図書室を訪れた。

 深くは考えることなく、本当に本当に軽い気持ちで。


『おっす~、元気してた~? 図書委員さ~ん』


 そんな俺に対し、図書委員さんは突然、一冊の本を差し出してきた。


『あの……これ。頼まれていた物です。どうぞ』


 そしてその言葉の意味がわからず、少しばかり呆けてしまった俺に、事情の説明を始めた。


『……自分でも読める本を選んでくれ、という話でしたから。

 一応、読みやすくて娯楽性の高いものを用意してみました』


 そう言われてようやく、確かにそんな事を頼んだ気もするな、と俺は思い出した。

 きれいさっぱり忘れていたが、前回訪問時の別れ際、自分から依頼をしていたらしい。

 つまりは彼女、きちんとそれを果たして、俺のことを待ってくれていたわけだ。


 その瞬間、俺は直感した。


 あっ、これ友達いないパターンだ、と。


 交友関係が狭いから、ちょっとした関わりでも重要な相手になっちゃうやつだ、と。


 そう図書委員さんの心理状態を、素早く的確に把握したのである。

 その辺の察しの良さは、わりと人並み外れていたから。


 だから少し、彼女と関わることにした。

 その数少ない友達になってやろう、と思ったのだ。

 彼女の境遇に同情し、また自分ならそれを解決できる、と考えていたがゆえに。


 そう、俺は『コミュニケーション能力』ってやつに自信があったのだ。

 誰とでも気兼ねなく話せるし、またすぐ友達になれていたから。

 どんな相手でも楽しませてやれると自負していた、と言ってもいい。

 それで彼女に対しても、ちょっと付き合ってやるかな、なんて気分になったのだろう。


 その人を小馬鹿にした、失礼千万な選択が――



 自分の運命を大きく変えるとは、全く知る由もないままに……








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