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ムーン・セイヴァーズ  作者: 白洲ヨム
Chapter-09 『My Snow White』
100/173

Section-3

更新履歴 21/10/16 文章のレイアウト変更・表現の修正


(わわ……わわわあああ!)



 機体の前面に展開したバリアへ、周囲から続々と敵の砲火が注がれてくる。

 私はその全てを受け止めながら、内心悲痛な叫びを上げていた。

 それがあまりに多く、また激しかったので、恐怖を感じずにはいられなかったのである。


 そこまでの集中砲火を、私が受けている理由――それは斉川君の撤退により、母艦の護衛役が自分だけになってしまったから。

 二人分の攻撃が重なったせいで、こんな恐ろしい状況に追い込まれているわけだ。


 もちろん前衛としては、他に橘君と春日井さんもいるのだが。

 しかし彼らは基本、敵を攻撃するのが仕事である。

 常に動き回りながら戦うので、静止している私とでは、狙われやすさが段違いなのだ。

 こちらに砲撃が集まるのは、至極当たり前の結果と言えるだろう。


 となると自然、問題になってくるのは――


(これ……いつまで大丈夫なのかな……?)


 この激しい攻撃に、機体のバリアがどれだけ耐えられるのか、という点だ。

 一応今までに破られたことはないが、しかしここまで集中砲火された経験も無いので、流石にどうなるか予測がつかぬのである。

 もし貫かれたらどうしよう、そうなったら間違いなく撃墜だ、と怯えずにはいられない。


 そんな私の不安を汲み取ったのか、そこに柳井君が鋭く声をかけてくる。


『朝倉! 少し下がれ!

 前は橘と春日井に任せればいい!』


 前線は危険だからいったん後退しろ、ということだろう。

 確かにそうすれば、自然と敵に狙われづらくなるので、まず撃墜されることはない。

 本音を言うのなら、今すぐにでも彼の言う通りにしたいところだ。


 それでも現状、そういう選択をするのはかなり難しい。

 だって私が後退してしまえば、母艦が無防備になるし、春日井さん達への攻撃も激しくなるから。

 戦局に与える影響が極めて大きい、というわけだ。

 指揮を担う志藤さんの指示なく、勝手にやっていいことではないのである。


 その辺の事情を、私が訴えかけようとすると――


「で、でも……そんな、勝手に……」


 柳井君もそれで察したのか、今度は志藤さんの方に呼びかけ、撤退の指示を求めた。


『志藤! このままじゃ朝倉が危険だ!

 いったん退かせてやってくれ!』


 しかし彼女は、やや間を置いてから、ひどく苦しげに答えを返してくる。


『……申し訳ありません。

 ここで朝倉さんに下がられてしまうと、前線が維持できなくなります。

 もう少しだけ、せめて斉川君が戻るまで頑張ってもらえませんか?』


 常に冷静な彼女らしい、厳しくとも妥当な判断だった。

 こんな状況で私が後退すれば、味方が瓦解してしまう可能性もあるし、勝手な退却など認められるわけがないのだ。

 城壁を動かすなど最初から考慮の外、とでも言うべきだろうか。


 そんな志藤さんの言葉は、私にひとつの現実を突きつけてくる。

 自分のポジションは、決して気楽なものなどではない、と思い知らされたのだ。


 なぜなら味方の盾となる以上、こう言った正面切っての戦いで、最初に撃墜されるのは自分だから。

 城が攻撃を受ける際、真っ先に破壊されるのは城壁、と言い換えても良いか。


 つまり味方の数が減り、戦況が不利になるほど、私の危険度は増すわけだ。

 『何も考えなくていいから楽』なのは、あくまで自軍が有利な場合のみであり、実際は最も危険な立場とさえ言えるのだろう。

 その認識は、すでに冷えきっていた私の心を、よりいっそう重くしていった。


 するとそこに、柳井君の漏らした、ひどく悔しげな呟きが聞こえてくる。

 彼もまた、私の置かれた状況を理解し、それに苛立ちと歯痒さを感じたらしい。


『くそっ!』


 しかし次いで柳井君は、その感情を引きずることなく、すぐさま反撃に転じた。

 私を狙う敵に対し、続けざまに攻撃を実行、次々に落としていったのだ。

 現状でできる最善を尽くし、少しでも私のダメージを抑えようとしたのだろう。


 ならばと私も、当然のようにそれを手伝おうとしたのだが。

 ただ残念なことに、その私の目論見が実現することはなかった。

 身を守るだけで精一杯という状態ゆえ、彼の支援など望むべくもなかったのである。


 しかもそうして、苦しい戦いを続ける私の前に――


(あっ! あれは……)


 突如として、一機の『ゴーレム』が姿を現す。

 後方に控えていた奴が、他の敵をかきわけ、前線に進み出てきたのだ。

 こちらの数が減った今こそ好機、と考えたのかもしれない。


 もちろん、私にとってはたいへん由々しき事態である。

 なぜならあいつの主砲は、たった一撃食らうだけでも、バリアに歪みが出るほどの火力があるから。

 まともにぶつかり合うのは避けたい相手、というわけだ。


 だから普段は、主に斉川君が対応してくれる。

 彼の機体であれば、敵と正面から撃ち合えるだけの火力があるので、基本はそちらにお任せなのだ。

 他力本願な感じもするが、まあ単純に適材適所であろう。


 ただしその斉川君は、先ほど母艦に撤退してしまったので、今はもう頼れない。

 また春日井さんと橘君は離れた場所にいて、志藤さんは機体が不調、栗原さんは補給中……というのが部隊各員の現状だ。

 つまりあいつの相手ができるのは、付近に私しかいないのである。


 その苦しい状況を、同じく見て取ったのだろう。

 すぐ柳井君から、戦い方についての指示が飛んでくる。


『あいつは俺が片付ける!

 念のため、正面に防御を集中してろ!』


 あの『ゴーレム』は自分が仕留めるから、今まで通り守りを固めていろ、ということだろう。

 確かに私が敵の目を引きつけつつ、彼が狙撃を行えば、安全にあいつを退けられるかもしれない。


 そう指示を理解した私は、早速彼に答えを返してから――


「う……うん!」


 自機のバリアの出力を調整し、『ゴーレム』のいる方向に集中させた。

 これならとりあえず、一撃で破られることはないはずだ。

 後はただ、柳井君が敵を仕留めてくれるのを待つだけである。


 そんな私の期待通り、直後に行動を開始し、『ゴーレム』を攻撃し始めた彼は――


『……よしっ! 仕留めたぞ!』


 瞬く間に敵の頭部を撃ち抜き、あっさりと戦闘不能に追い込んだ。

 相手が主砲の発射準備に入り、動きが止まったところを狙ったらしい。

 これで少なくとも、『ゴーレム』の主砲で撃たれることはなくなったわけだ。


 しかし私が、そう安堵したのも束の間、柳井君が恐ろしいことを口にした。


『しまった……! もう一機来てたのか!』


 なんとその直後、先ほど仕留めた『ゴーレム』の後ろから、別の『ゴーレム』が現れたのだ。

 どうやら味方を目くらましに、こっそりと接近していたらしい。

 当然その敵は、姿を見せると同時に、すぐさまこちらへ主砲を放ってくる。


 それは間を置かず、不測の事態に対応できなかった私へと直撃し――


(うっ、ああっ……!)


 展開中のバリアを、巨大な石が投げ込まれた水面のように、激しく波打ちながら歪ませた。

 またそれと同時に、トラックに追突でもされたかのような、凄まじい騒音と振動も発生させる。

 こんなの何発も受けたら、いつかは必ず耐えきれなくなるはず、と思わされる恐ろしい一撃だ。


 しかし幸いにも、二度とその攻撃が行われることは無かった。

 なぜなら次いで発せられた、柳井君の力強い咆哮の直後――


『このっ! 落ちろ!』


 新しく現れた『ゴーレム』も、頭部に彼の的確な狙撃を食らい、瞬時に爆裂四散したから。

 さすがの腕前と言うか、こういう時は本当に頼りになる人である。


 そう感心する私に、柳井君は緊迫した声音で呼びかけてくる。

 きっと先ほどの攻撃で、私が怪我をしていないか心配したのだろう。


『朝倉! 無事か!』


 なので私は、彼の不安を取り除くため、平静を装ってそれに応じたのだが――


「う……うん。大丈夫、だよ」


 本心では、欠片もそうは思っていなかった。

 なぜなら先の砲撃により、展開するバリアの出力が低下を始めていたから。

 ダメージが許容量をオーバーし、どこかに不具合が出たのかもしれない。

 このまま攻撃を受け続ければ、遠からず打ち破られるだろう、ということだ。


 ただ幸い、その憂いはすぐ無用のものとなった。

 それは直後に志藤さんから、どこか安堵したような声音の、嬉しい報告が届いたおかげである。


『敵軍の撤退を確認しました。

 現時刻をもって状況を終了します。

 みなさん、お疲れ様でした』


 その瞬間、私は心身の緊張を解いて、大きなため息をつく。

 苦戦はしたものの、今回も無事生き延びられた、という事実に深く満足しながら。


(ふー……)


 そこへ再び、柳井君から気遣うような声が届いた。


『朝倉? 大丈夫だったか?』


 私はそれに、すっかりリラックスした状態で、今度こそ本音で応じる。


「あ、うん。大丈夫、問題ないよ。ありがとう」


 しかしなぜか、彼の方の答えは冴えない。


『……そうか』


 何か心配事がある、というのが明らかな反応だ。

 しばらく前からの、彼らしからぬ振る舞いは、まだまだ続いているらしい。

 もちろんどうにかしてあげたかったが、しかしいくら考えても、かける言葉は見つからなかった。


 するとそう私が悩んでいる内に、柳井君はさっさと母艦に撤退を始めてしまう。

 完全に話すタイミングを逃した、というわけだ。

 なので結局、何も告げられぬまま、彼の後に続いて帰還することとなった。


 その道中、私は独り、今回の戦いを思い返す。


(今日も、いつも通り地味だったなあ……)


 群がる敵を蹴散らしたわけでもなく、巨大な目標を打ち倒したわけでもなく、巧みな戦闘指揮を行ったわけでもない。

 私がやったことと言えば、味方の盾となりじっと耐えただけ。

 パッとしないことこの上ない、と表現するのが適切だろう。


 もちろんそれはそれで、非常に重要な役割でもあるのだが。

 しかしこんなの、小学生でもできるんじゃないかな、という疑惑は拭えない。

 皆の役に立っているとか、クラスに貢献できているという実感が、さっぱり湧いてこないのだ。


 ゆえに今、私の心の中は――


(……結局私って、ここで何をやってるんだろうな)



 いつものようにいつものごとく、自虐と葛藤と後悔ばかりであった……








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