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ムーン・セイヴァーズ  作者: 白洲ヨム
Chapter-01 『Missing』
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Section-8

更新履歴 21/9/8 文章のレイアウト変更・表現の修正


 漆黒の宇宙で青く輝く地球から、まっすぐ自分の方へと伸びてくる、巨大な光の塊。


 それはあの『ゴーレム』の主砲をも超える、破格の火力を有した砲撃の輝きだ。



 言うまでもないことだが、もちろん地球そのものから放たれたわけではない。

 ちょうどその位置に居た何者かが、光学迷彩のようなもので己の姿を隠し、その状態で俺に攻撃をしてきたのだ。

 つまりは謎の敵からの奇襲に、すっかり不意を突かれてしまった、ということである。


 であれば当然ながら、このままぼんやりしているわけにはいかない。

 なので俺は、その恐ろしい攻撃に巻き込まれぬよう、必死で回避運動を続けた。

 砲撃の射線から逃れるため、さらに機体を横へ移動させたのだ。


 しかし残念ながら、時すでに遅し。

 俺は結局、高速で迫るその光から逃れられず、あえなく機体の右半分を呑み込まれることとなった。


「ぐっ、うわああああっ!」


 同時に機体の隅々にまで、車に轢かれたかのような衝撃が走り抜ける。

 次いで四肢が激しく軋み、根元からねじ切られていく感覚も生じた。

 おそらくこのままだと、遠からず粉微塵に砕かれてしまうだろう。


 そうして敵の猛攻に晒される俺へ、悟はずっと、必死に声をかけてくれていたのだが――


『カイトっ! カイト、しっかり!』


 それに答える暇も余裕も、今の俺には一片すら残ってはいない。

 濁流に巻かれた木の葉のように、為す術なく蹂躙され翻弄されるのみである。

 つまりはもはや、スクラップにされるのを待つばかり、という状態なのだ……


 しかしほどなくして、その俺の予測は――


(がああぁぁ……あっ?)


 たいへん幸運、かつひどく予想外なことに、あっさりと覆される。


(止まっ……た?)


 体を取り巻くその猛烈な光が、突如完全に消え去ってくれたからだ。

 それは時間にすれば、ほんの数秒の出来事でしかなかっただろう。

 どうやらあの砲撃、あまり長く持続できるものではないらしい。


 結果何とか九死に一生を得た俺へ、再び悟が心配そうに呼びかけてきた。


『カイト! 大丈夫かい!』


 俺は息も絶え絶え、と言った口調で、どうにかそれへの答えを絞り出す。


「あ、ああ……何とかな……」


 もっともその言葉とは裏腹に、機体の方は大丈夫でも何でもない。

 先ほどの砲火の直撃を受けた結果、右半身がほぼ失われていたからである。

 辛うじて撃墜だけは免れたものの、機体に深刻な損傷を負ってしまった、というわけだ。


 当然こうなってしまうと、戦闘継続は間違いなく不可能である。

 非常に悔しいことが、今の俺には、もはや撤退する以外の選択肢は無い。


 すると俺が、そう自分の現状を認識したまさにそのタイミングで、狙い澄ましたように志藤からの通信が入った。


『各員に伝達。現時刻をもって、戦闘行動を終了します。

 速やかに母艦へ撤退してください』


 これにてミッション終了、各機直ちに帰還せよ、という指示だ。

 どうやら予定の時間が経過したので、皆を引き上げさせようとしているらしい。


 つまりはこのまま戦場に留まっていれば、独り寂しく宇宙空間へと置き去りにされ、めでたく撃墜扱いでゲームデータ全消去……というわけである。

 無論何としてでも、その恐ろしい事態だけは回避しなければならない。


 そうした俺の気持ちへ同調するかのように、同じく例の指示を確認したらしい悟が、焦った様子で退却を呼びかけてくる。


『カイト! もう撤退しよう!

 その損傷じゃ、これ以上は戦えないだろ!』


 それに対し、強がる余裕がほぼ残っていなかった俺は、素早く彼の提案に応じた。


「ああ……わかってる! 撤退だ!」


 無論こうも手酷くやられておきながら、反撃もせずに撤退するという選択は、俺にとってかなりの屈辱である。

 やられっぱなしのままでは、どうしたって気持ちが収まらないのだ。

 正直に言えば、逃げるのはせめて一矢報いてからにしたい。


 とは言えその問題を考慮したとしても、やはり今回は退いた方がいいだろう。

 だいぶポイントは稼げたし、何より機体がこれだけ重い損傷を受けているのだ。

 さらに戦いを続けるのは、どう考えても無謀でしかない。


 だいたい悟の警告が無かったら、俺は間違いなく撃墜されていたはずだ。

 それがこうして無事でいられるのは、間違いなく友の献身のおかげであり、本来たいへんに得難い幸運なのである。

 ならばそれを噛み締めつつ、さっさと退却するのが上策だろう。


 そう自分の中で割り切ると、俺は早速機体のスラスターを起動し、未練を振り切り撤退を開始しようとする。


 しかし残念ながら、そんな俺の思いとは裏腹に――


(……なんだ? 鈍いぞ!)


 後退を試みた機体の反応が、なぜだかひどく悪い。

 どれだけスラスターの出力を上げようとしても、さっぱり加速ができないのだ。

 これではせいぜい、速度はいつもの半分程度というところだろう。


 またそれに加えて、四肢の挙動もおそろしくぎこちなかった。

 やたらと動きが鈍いので、腕を上げるだけでもひと苦労なのだ。

 これでは長いレースを走りきったばかりの、体が芯まで疲労したマラソン選手である。

 どうやら先ほど受けた損傷のせいで、機体各所に深刻な不具合が起きているらしい。


 そんな風に俺が、機体操作で難儀しているのを見て取ったのか、悟がすかさずこちらの状態を確かめてくる。


『カイト……? 機体がどこかおかしいのかい?』


 俺はそれに、舌打ちをしたい気分で答えた。


「スラスターがやられた! 速度が出ない!」


 その瞬間、悟からの通信が、絶句したかのように途絶える。

 おそらく状況の厳しさを把握し、動揺して言葉を失ったのだろう。


 まあそれもそのはず、だって俺達は今、母艦からかなり遠い場所に位置しているのだから。

 正直言ってこの速度だと、時間内に帰還できるかどうかはわからない。

 つまりは置き去りにされる見込みが、非常に大きくなってしまったわけだ。


 その原因は無論、俺が調子に乗り、敵陣へ深く突っ込み過ぎたことである。

 それでこんなピンチを招いたわけだから、本当に迂闊なやつと言うしかない。

 これもせっかくの親友の忠告に、きちんと耳を傾けなかった罰、というところか。


(くそっ……!)

 

 しかもそうして己の失態を悔やむ俺へ、さらなる追い討ちをかけるかのように――


(……! 敵がこっちに集まってきた!)


 今まで戦場に広く散らばっていた敵が、突如俺と悟の元へ、雪崩を打つように押し寄せてきた。

 きっと他の皆が撤退を始めたので、その分こちらへ集中してしまったに違いない。


 悟もそれを確認したのか、少し慌てた風の口調ながらも、冷静に指示を出してくる。


『……あっ! カイト、敵が来てる!

 援護するから急いで僕の後ろに!』


 もちろん今の俺には、それに従う以外の道などありはしない。

 なので迷うことなく、その指示を受け入れると――


「わかった! 頼む!」


 スクラップ寸前の自機を強引に動かし、四苦八苦しながら後ろへ方向転換、そのまま残る推進力を総動員して母艦に向かった。


 しかし残念ながら、と言うか予想通りと言うか、その歩みはさっぱり進まない。


(遅い……!)


 それはどれほど自分が必死になろうとも、機体の状態が上向くわけではないからだ。

 むしろ急な動きの負荷に耐えかねたかのごとく、よりいっそうスピードは落ちていくばかりなのである。

 どうやら自機の状態は、ますます悪くなっているらしい。


 しかも一方で、敵の包囲網はみるみる狭まっていく。

 悟も奮戦してはいたが、さすがに単独でその全てを止めることはできない。

 もういつ追い付かれても不思議はない……といった雰囲気である。


 そう自身の現状を、正確に把握した俺は――


(これは、無理だな……)


 とうとうそこでひとつの決断を下し、それをすかさず悟に伝えた。



「サトル! もういい、先に行け!」








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