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カァー カァー
「んんっ…」
またカラスが鳴いている。
カラスが鳴いているのならば、もう夕暮れなんだろう。
そろそろ家に帰らなきゃ…。
うっすらと眼を開ける。夕暮れの空が、眼に映った。
何度が瞬きをしながら起き上がると、
「やっ」
…どこかで聞いたことのある声が、隣から聞こえてきた。
深呼吸して隣を見ると、やっぱりあの青年がいた。
「…ども」
もう二度目ともなると、ただの偶然とは言いづらい。
「アタシの寝顔に、何か?」
こうなれば開き直るだけだ。
「ん? いや、良く寝ているなぁと思って。可愛い寝顔だし」
…よく『口を開かなければ、美少女』と言われるアタシだ。
寝顔はさぞ可愛かったんだろうな。
「はい、コレ」
青年は紅茶のミニペットボトルを差し出してきた。
「寝てるとノド渇くだろう?」
「…ども」
開けて一口飲んで、ため息が出る。
青年は隣でニコニコしている。
「アタシに何か用?」
「用…と言うか、可愛いなぁと思って」
「アナタ、歳いくつ?」
「オレ? 大学2年生、19歳。キミは?」
「…中学2年生、13歳」
「6歳差かぁ…。今だと、犯罪になっちゃうかな?」
「何が?」
「オレとキミの恋愛」
「ぶっー!」
紅茶をふき出すも、青年はにこにことしていた。
「ろっロリコン?」
「そう言われるけど、オレ、キミにしか興味ないし」
アハハと笑いながら、言うけど…それでも犯罪と言えるのではないだろうか?
ハンカチで口元をふきながら、じっと青年を見る。
アタシを見る眼はとても優しくてあたたかい。
まるで小春日和の陽差しのような…。
「…アタシのどこが良いの? 何にも知らないじゃない」
「知らないなら、知れば良い。これからがある」
まあ、一理ある。
「それに良いところは、今のところは寝顔かな」
アタシの頬を軽くつねり、笑っている。
「寝ている姿はまるでお人形のように可愛い。起きている姿も魅力的だけどね」
「そりゃどうも」
「でも今度から外で寝る時には、オレを側に置いてほしいなぁ。やっぱり若い女の子1人じゃ危ないし」
「アナタみたいなのがいるし?」
「そうだね」
「笑うところじゃないと思うんだけど」
「まっ、オレは寝ているキミに一目惚れだったワケだし? 本当はオレ以外に寝顔を見せたくないってのが本音だし」
「…それって付き合うことが前提で言ってない?」
「えっ? ダメ? オレ、自分で言うのもなんだけど、損させない自信あるよ?」
心底意外そうな顔をする青年に、アタシは思いっきり深くため息をついて見せた。
「まあ…良いケド」
「マジ?」
「自分で聞いといて、何、その顔?」
「いっいやぁ、本当にOKしてくれるとは思わなかったからさ」
気恥ずかしそうに頭をかく青年。
…アタシばかり恥ずかしい思いをしているので、ちょっと優越感。
「でもさ、ちょっと立ってみてよ」
「あっ、うん」
青年は立つと、かなり身長が高かった。
細身なのに、長身。
アタシは女子中学生としては、ちょっと小柄だ。
立ち上がると、青年の胸ぐらいしかない。
「…身長、高いのね」
「まっ、ね」
肩を竦める青年に、思いきって抱きついてみた。
「わっ! どっどうかした?」
…この身長さでは、兄妹に見られるだろうな。
「今日から毎日牛乳飲んで、ストレッチして…」
「何で?」
アタシを抱き締めてくれながら、不思議そうな青年の声が上から降ってくる。
「アナタにつりあう女になる為よ!」
顔を真っ赤にして怒鳴るアタシを見て、青年は笑った。
「ははっ。じっくり待つよ。待つのはキライじゃないし」
そう言って抱き上げてくれた青年に、力いっぱい抱きついた。
このあたたなぬくもりを離さぬよう…。
春日和のような彼に、心惹かれている自分に気付いた。
<完>
作中には出てきませんでしたが、実は女の子の名前が小春、青年の名前が日和になります。
何となく出しそびれてしまいましたので、ここでお知らせをしておきます(笑)。