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2人で1人なうちら  作者: つつじ ももか
3/42

おふろ

---------03----------



 理恵果の居る洋間のドアを開けると、ぬいぐるみを抱きしめて寝ている姿が目に入ってきた。もしかして疲れてたりするのかな。

 私は静かに歩いていって、自分のベッドの隣にある勉強机に置いてある、荷物の入った大きめの通学バッグから部屋着を取り出した。出窓は外からは見えないガラスを使ってあるそうなので、そのまま紺色の制服のブレザーのボタンを外して脱いだ。それから6つあるダブルのベストの黒いボタンを外しながら軽く息をはいた。

 バッグから薄青色のデニムジーンズを取り出すと、スカートを履いたまま足を通す。まぁ部屋には理恵果しか居ないけど、いつもの習慣で。それからスカートのホックを外してファスナーを下ろし脱いだ。軽く形を整えてから、先ほどのブレザーを掛けたスカートハンガーに付いているクリップで留めた。

 それから上着の水色のパーカーを着て、ブラウスは洗濯するので、脱いだときに勉強机に畳んである。出窓にはオレンジがかった陽の光が差し込んでいて夕方が近いことを示している。すっかり部屋着姿になった私は、くうくうと寝息をたてている理恵果のベッドに向かって体をさすって起こす。



「理恵果ー、起きて。制服がしわになっちゃうよ、せめて着替えてから寝なよ」

「うう~ん……。もうちょっとぉ」

 しょうがないなぁ、と腰に手を当てながら再び起こしにかかる。

「はいはい、おきましょう……ねっ」

 少々強引に布団から理恵果を離すと、不服そうな目で「もう、寝てたのにー」と眠たそうに目を擦りながら渋々起きた。

「しわになっちゃうってば、制服が」

「あぁー。そういえばそのままだった……」


 起きた理恵果は、まだ夢うつつなのだろうか。無造作に制服のブレザーを脱いで布団の上に置いた。


「ちゃんとハンガーにかけようよ、もう」

「うーん。あれ? 美香里、いつの間に着替えたの?」

「さっきトイレから戻ってきたら、寝てたからその時に着替えたの」

「そうなんだ。あふ……」


 あくびをしながら理恵果は制服から私服に着替えていた。むむ、やっぱり私より胸おおきいな、Dくらいかな。


「理恵果ってけっこう胸あるよね。Dくらい?」

「当たりでごじゃいます。美香里は……おっぱいマッサージをがんばって私に追いつきなさーい」


 そう言って、両手で胸を下から揺らして私をからかう。ひどい、乳差別だ!


「マッサージくらいしてますよーだ! でもなんかこれ以上は大きくなりそうにないんだよね……ガクッ」

「大きいなりに悩みだってあるんだよ? 形とか乳輪の大きさとか色々……」

「遺伝もあるのかなぁ。できればもう少し欲しかったなあ」


 自分の胸を軽く押さえながらため息をつく。そうだ、大きいだけじゃないんだ、美しさを私は求めるんだ。めざせ美乳……。


「なにぶつぶつ言ってんの? 美香里はー」


 そう言いながら私の背後にまわって、いたずらに私の胸を揉んできた。


「ふーん。大体Bに近いAくらい? それだけあれば別にいいと思うけどなあ」

「持たざる人の気持ちは、きっと分かんないもん」

「まあ、まだうちらはぴちぴちのJK1なんだし、これから大きくなるかもよ? たぶん」

「そういうもんかしら?」

「そういうもんよ」



 そろそろ日が暮れる時間になるという事で、私はもう少ししたらお風呂に入ろうと提案した。我が家では、ごはんの前にお風呂に入る習慣だった。理恵果の家はどっちなのかな? 先にごはんなのかな。


「ねぇ、理恵果のお家ってごはんが先? それともお風呂なの?」

「何その新婚さんみたいな会話。それとも私? が入ってなーい」

「なにそれ。そうじゃなくて、私の家は先にお風呂入ってからごはんのタイプなのよ」

「え? うちと一緒じゃん。それじゃあ、一緒にお風呂入る?」

「それはかまわないけど。一応まだ私はお客さんみたいなものだし、先に入ったりしたら悪いかな、とか」

「全然だいじょうぶ。美香里ならオッケー。気にしない気にしない」


 そう言ってにっこりと笑う。理恵果のおおらかで楽天的な所が私は好きだ。どちらかというと生真面目な私は、そういうおおらかさが羨ましかった。


「それではお客様。浴室へご案内いたします」


 まるで旅館の女将さんのような口調でおどけて言う理恵果。


「あら、それじゃあお願いしようかしら」


 おどけに合わせて私もお客さんを演じる。こういう楽しさはあの家には無かったな。私は1人っ子だったし。じゃれあえる人が一緒にいると気持ちも軽くなるね。ついでに後で洗濯するブラウスも手に持った。


 さっきトイレに行った時に見えた木製のお洒落な左側のドアを理恵果が開ける。


「こちらがダイニングとキッチンになります。浴室はダイニングの右手のドアでございますわ、うふ」


 旅館の客間にキッチンがあるなんて、と思いながらクスリと笑う。案内された浴室の前には2畳ほどの洗面所と脱衣所になっていた。一通りそろっているから、ごはんとか交代で作ったりするのかな。なんか、そういうのって良いね。


「まあ、可愛らしいお風呂ですわね、おほほ」

「美香里、ちょっとおばさんっぽい」

「だよね。自分でもそう思った」



 そんなやり取りをしながら、私は理恵果と一緒に着替えを持ってお風呂に入る事にした。


「あ、そのカゴに脱いだの入れてね。ピンク色のが私で水色のが美香里のね。脱いだブラはブラ用の洗濯ネットに入れといてね。ちゃんと中のパッドも外しておくように。洗濯するときにカビ防止と型崩れしないようにだから」

「分かった。私が水色好きなの覚えてくれてて嬉しいな。て言うか、やっぱりカップが大きいとより型崩れしやすいんだね」

「そういうこと。まあ、数万円もしない安いものだけど、それだってブラって値段高いし洗う時に形が崩れやすいからね」

「それはそうね。私も前はブラのパッドをつけたままで洗濯してたんだけど、ある日、カップの中に黒カビがあってさ、もうびっくりしたよ。それからはパッドも外して洗うようになったの」

「でしょでしょ?」

「ブラも消耗品だからね」


 2人して裸になってお風呂に入る。先に理恵果が体と髪を洗うことになって、私は髪にタオルを巻いて浴槽のお湯につかる。理恵果の体つきは、ふっくらとしていて可愛いと思う。髪はストレートで長さは丁度乳首が隠れるか隠れないかくらいで、私よりちょっと短め。

 透明のアクリルのお風呂椅子に座りながら、体を洗って髪を洗う姿をぼんやりと湯船の気持ちよさに身を委ねながら見つめた。髪を洗ってる時の仕草を見て、ふと私の口から自然とダメだしの言葉が出る。


「理恵果ー。髪は頭皮をマッサージするように洗うの。それにシャンプーの後にはコームで髪の流れを整えると良いんだって」

「ほぇ? そうなんだ。知らなかった、美香里って詳しいね」

「うん。私はさ、くせっ毛だから洗う時にコームは必需品なのよ。そうしないと、乾かしたときに髪がばぁって広がって大変になっちゃうんだから」

「美香里って天パーだったんだ。私、てっきりアイロンでも当ててるのかと思ってた」

「アイロンは髪をつぶしちゃうし、ダメージで毛先とかカサカサになりそうで使ってないよ?」

「ふぅん……。何かスタイリストさんみたいに知識いっぱいだね、美香里って。それじゃあ、私が洗い終わった後に見させてもらおうっと」

「まっかせなさーい。おねえさんの洗い方をよく見ていて。動画とか見て色々研究したんだから」

「おねえさんって、同い年じゃん。あれ? 美香里の誕生日って?」

「私は3月の22日だよ。理恵果は?」

「えっへん、11月の18日で美香里よりもお姉さんなのです。よって私のことはお姉ちゃんと呼びなさーい」

「あはは、仕方ないな。お姉ちゃんに可愛い可愛い妹が、髪の洗い方を教えて差し上げますですのことよ?」

「何その可笑しな言い回し。お姉ちゃんはそんな子に育てた覚えはありませんよ?」


 そんな事を喋りながら楽しいお風呂の時間は過ぎていく。


「良いですか、お姉ちゃん? シャンプーの後はこうして毛先をコームで整えるのよ? それからトリートメントは手に少しだけ取ったら、石鹸を泡立てるように両手でなじませると、手の体温でまろやかになって髪に馴染みやすくなるの」

「へぇー、私の妹はかしこいね。将来は美容師さんにでも?」

「そういう道もあるかもね。想像すらしてなかったけど。髪の状態が良いと気分も上がるでしょ? そういうメンタルな面もあるんだよね」

「つまり、髪は女の命ってことかしら、美香里?」

「そういうことです。お姉さま」

「様になっちゃった私、うふ」


 ふと理恵果に振り向くと、湯船につかっていい感じにくつろいでる。浴槽の淵に腕をだらしなく伸ばして私を見てる。その腕を見て、私の柔らかかった表情が少し翳った。


「理恵果……。その腕の。もしかしてリスカした痕?」

「そうだよー。前にちょっとね」


 理恵果はさらりと言って、笑みすら浮かべている。


「ごめん、理恵果。何か辛い事とかあったの?」

「なんで美香里が謝るの? それはまあ、あったって言えばあったけど。リスカなんて髪をコームで梳かすみたいなもんだよ。……ありがとう、気にしてくれて」


 リスカなんて大した事ないという感じで言った理恵果は、笑っている様で泣いている様な、なんとも言えない表情をしながら左手首の痕を愛おしそうに手でさすっている。


 そうだった。理恵果は母親からDVを受けていたんだっけ。このままリスカの話をしてもなんだし、私は「そうなんだ」と軽く受け止めておくだけにした。


「それからトリートメントは毛先にいっぱいで、手のひらに残ったのは、もう1度クルクルして広げてから他の所に薄く伸ばすの。お湯で流すときは背中もキュキュって少しこすって付いたトリートメント成分を落とさないとね。後で背中が痒くなっちゃうからね」

「そうなんだー。よく寝る前に背中が痒くなっちゃうことが多かったんだけど、もしかして背中まで洗い流しをしてなかったのかも」


 理恵果が背中をこすってる。もしかして想像して痒くなったとか?

 トリートメントが終わったので、髪の水気を手で絞り落としてから、もう一度タオルを髪に巻いて湯船に一緒に入る。さっきまで、なるべく背中に髪が付かない様にしていたので首が疲れちゃっていたのだ。


「ふー、首が疲れた」

「あはは。美香里ずっと首を上に向けてたもんね、そりゃ疲れるって」

「うん。本当は横に毛束を持ってくるっていうのもアリなんだけど、どうしてか私にはそういうこだわりがあるみたい」

「うーん……これは、これからはトリートメントとかは、お互いしてあげっこをする。っていうのはどお?」

「それいいかも! 1人だと出来なかった事が出来るし。相手の状態とかも分かるし。それ賛成大賛成」

「じゃあ決まりね。髪のトリートメントとかシャンプーとか、洗いっこで決まりじゃー」


 なぜか湯船の中で意気投合してハイタッチする。さっきのちょっとした気まずい雰囲気は、きれいさっぱり無くなっていた。


「そろそろ出よう?」

「うん」

「もしかして、ドライヤーも乾かしっこって事?」

「さすが美香里、物分りがよろしい!」

「お姉さまの為ですもの」

「自分のためでもあるでしょ?」

「まあ、そういうことです、はい」



 2人はお風呂場から出て、脱衣所で用意していた下着とパジャマを着る。あ、理恵果はナイトブラするのか。それもそうか、あれだけ大きければ寝る間もする必要は出てくるんだ。私もこれから着けようかな、ナイトブラ。

 

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