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2人で1人なうちら  作者: つつじ ももか
12/42

本宅で

---------12----------



 私と理恵果は今、お風呂に入ってる。体はそれぞれ自分で洗った。それから私は理恵果に髪を洗ってもらって、トリートメントをしてもらっている。


「みかりん、どお?」

「うん! すごい上手になったね。りえりんは覚えるのが早いね。えらいえらい」

「良かった。みかりんの教えるのが上手だからだよ。ありがとう」


 理恵果は私の髪をトリートメントし終わって、洗い流しをしている。やっぱり楽だ。


「はい、みかりん。洗い流しが終わったよ。次は私の髪をお願い」

「わかった。場所変わろう?」

「うん」


 タオルを髪に巻いてから、椅子に座った理恵果の髪をシャンプーで洗う。頭皮を揉むように。本当は美容院みたいな、寝てられるシャンプー台があったら良いなと思った。


「りえりんの髪、ストレートで羨ましいな。ついでに胸も羨ましいけど」

「あはは。みかりんだって、おっきくなるよ。それに私は、みかりんの、その自然なゆるやかな髪の流れが良いなって思うよ?」

「そういうもんかなぁ、縮毛矯正したいなー」

「だめー。それって髪が痛むんでしょ?」

「うん、まあね。髪がぺっちゃんこになるからね」

「そのままが良いと思うけどなー。高いんでしょう? 縮毛矯正って」

「うん。私の行ってる美容室だと、カットとか込み込みで1万円はする……」

「もったいないって」

「うーん。りえりんがそこまで言うなら、やめとく」

「そのままが一番!」


 そんな事を話しながら、私は理恵果の髪を洗い終わって流して、次にトリートメントをする。そのままが一番か……。それもそうかもしれない。縮毛矯正だって髪が伸びれば、また伸びた部分は元の髪質だし。何年かにかけなおす必要もある。するしないは人それぞれだけど、理恵果がそういうならそのままにしよう。毛根の中の遺伝子まで変えられれば良いんだけどなあ。



「……うん、髪に浸透してなめらかになった。すすぐよ~」

「よろしく~」

 アイロンは使いたくないから、なるべくブローの時にまっすぐになるように私も色々研究しようかな? 理恵果の髪を見ながら考えた。これから冬になって乾燥しやすくなるから、お手入れもがんばらないと。


「はい。流し終わったよ、りえりん」

「ありがとうー。やっぱり楽だね」

「うん!」

「それじゃあ、湯船につかろうよ」

「うん。分かった。あんまり長くはつからないようにしよ? 千津おばさんも待ってるかもだし」

「そうだね。ごはん、何かな~」

「行ってからのお楽しみだね」

「だね」


 私たちは、ちょっと短めに湯船につかってからお風呂を出た。夜になるとだいぶ冷えてくる。風邪をひかないようにしないと。


「あれ? りえりん、今日はナイトブラしないんだ?」

「うん。たまに面倒になるんだ。だから、今日はパッド入りのキャミで良いの」

「りえりんは大きいんだから、ちゃんとしないとじゃない?」

「いいじゃない、たまには。休ブラ日。なんちゃって」

「まぁ確かに締め付け感は、ありそうだから気持ちは分かる」

「今度さ、一緒にパンツ買いに行こうよ。で、その時にみかりんのナイトブラも買う。ってのはどお?」

「そうねー。新しいの、そろそろ2枚か3枚欲しいな」

「おばさんに言えば、お金はくれると思うから。どうせなら少し良い質のかわいいの上下セットとかも買いたいね」

「そうだね……くしゅん!」

「あっ。ごめん。早く着替えよ」

「うん」


 喋りながら着替えていたら、ちょっと寒気がしてしまった。あったかパンツを重ね着しても、そろそろいいかな。そんな事を思いながら下着をつけてから部屋着に着替える。理恵果はパーカーにショーパン、もこもこの靴下。私は、白のタートルネックの縦セーターに理恵果と同じデニムのショーパンとお揃いのもこもこの靴下だ。


 玄関で普段履くスニーカーを出す。理恵果も、「離れと本宅を行き来するだけだから」という理由で履きこなした薄いピンク色のスポーツシューズを出した。


 私は一度トイレに寄って、使っていたタンポンを取り出して汚物入れに捨てた。ナプキン入れから取り出してナプキンをつける。高分子吸収剤を使わない綿の素材で出来ていると説明が書いてある。厚みがあって多少着け感はあるけど肌に優しい感じ。布製のナプキンにも興味はある。もしかしたら、千津おばさんが知ってるかもしれないから、今度聞いてみようと思った。


「りえりん、待った? おまたせ」

「替えてきた?」

「うん。りえりんの持ってるナプキンって肌触りがいいね。自分で見つけたの?」

「ほら、生理用品売り場って色々種類あって迷ってて。そしたら、肌に優しいっていうのがあったから試しに買ってみたんだ」

「そうだね。なんか今まで使ってたのよりも、ちょっと厚ぼったいね」

「うん。1箱の枚数は少ないのに他のと値段が変わらないから、ちょっとお金かかっちゃうけどね。でもちゃんと吸収してくれるよ」

「そうなんだ。前使ってたのだったら、ポーチに5枚は軽く入ったけど、これは3枚か4枚か……。もっと大きなポーチが欲しいな」

「そうだね。あとさ、みかりんは通学バッグじゃん?」

「うん」

「私とお揃いでリュックにしようよ。いろちで同じやつ」

「それも良いなー」

「私、おばさんに相談して、おねだりしてみるよ。みかりんとお揃いがいいんだ」

「そだね。りえりんとお揃い、いいね」



 本宅のチャイムをピンポーンと鳴らす。

 しばらく経つと玄関の扉が開いて、千津おばさんが笑顔をのぞかせてきた。ついでに良い匂いもしてきた。理恵果はお腹すいてたって言ってたけど、私はそうでもなかった。

 でも、ご飯の良い匂いを嗅いだら、なんか急にお腹が減ってきた。


「いらっしゃい、ごはんが出来てるわよ?」

「はい、おばさん。私、お腹すいてぐうぐう言ってる」

「私も、良い匂い嗅いだら、お腹がすきました。千津おばさん」

「まあま。さあさあ、2人とも中に入って」

「「おじゃましまーす」」


 キッチンに通されると、テーブルにおかずが沢山あって感動した。あ、あの黒いのおかず。保田先生にもらったプリントにあった、ひじきかな? 油揚げや人参も入っていて美味しそう。

 司叔父さんがテーブルの席に座って先に箸をつけていたが、私たちを見ると「いらっしゃい」と笑いかけてきた。


「なんだか、女性が3人もいると少し居づらいというか、何と言うか畏まってしまうな」

「ふふふ。あなた今までだって理恵果もいたんだし。美香理さんが来て1人増えたからって、そんなにならなくても」

「まぁな。美香里さん、自分の家だと思ってくれて構わないからね」

「はい、ありがとうございます」

「みかりん、座って座って」

「うん」

「なんだか、賑やかで楽しいわ。さあ頂きましょう」


 4人でテーブルを囲んで食事をするっていう事に、あまり慣れていないのでちょっと緊張する。でも、理恵果が私の事を見て目くばせで「大丈夫」と訴えてきたのを感じたので少し気分が和らいだ。司叔父さんが亡くなった父に雰囲気が似ているので、ちらちらと見てしまう。


「美香里さん、何かこちらを見ているみたいだが、何か話したい事でも?」

「いえ、私の亡くなった父に少し似ているなぁと思ったので。思わず」

「そうか……。何歳の時にお父さんは?」

「私が12歳の時です」

「なるほど。それは辛い思いをしただろうね」

「はい。それから母とも色々とあって……」

「あなた。あの事を美香里さんと理恵果に話しましょうか?」

「……。そうだな、ちょうど皆いることだし、話すには良い頃合か」


「美香里さん。そして理恵果。私たちはずっと考えていたのよ。2人の親権のことを」

「私とみかりんの……親権?」

「家でも、あなた達を迎えに学校へ行ってる間にも、車の中で考えていたの。ね、あなた」

「ん……。食べながらで何だが、タイミングも大切だしな」

 

 司叔父さんと千津おばさんが、私と理恵果をちょっと真剣な目で見つめる。私は理恵果と目を合わせて、「何だろうね」という言いたくて小首をかしげた。


「つかおじ、おばさん。何でも言って? みかりんも関係あるみたいだし」

「理恵果は母親からDVを受けていて、それで今は私たちが引き取って住まわせて、そして学校にも通わせている。そして美香里さん。君も母親に捨てられたと千津から聞いた。父親も他界している。つまり本来なら養護施設などに行くところだが、私の考えで離れに理恵果と住んでもらっている」


 司叔父さんは、お茶を一口飲んだ。私も一旦箸を置いて、話を聞こうと少し背筋を伸ばした。理恵果は、変わらずに箸をすすめている。千津おばさんは、食卓の場を和らげようと笑顔を絶やさない。私と合う視線にも、にっこりとした笑顔を返してくれている。


「お父さんの言いたいのはね、美香里さん、理恵果。あなた達は2人とも両親の居ない状態だから、それなら藤堂の、うちの子になってもらった方が良いかもしれないって事なの」


「みかりんと私が、つかおじとおばさんの子供になるってこと?」

「そうよ。美香里さんは、私たち藤堂のお家の子供に、養女になるのはイヤかしら?」

「いえ……。そうなれたら良いなと思います」

「私もみかりんと姉妹になれると良いなって思う。姉妹だよ? そしたら、家族にもなれるね、みかりん」

「私とりえりんが姉妹……。家族……」


 私は想像した。お父さんが死んでしまって、お母さんには捨てられた。確かに私は養護施設とかに行ってるはずだ。なのに、この離れに住まわせてもらっている。今の暮らしはとても楽しいし、理恵果が傍に居てくれるのは、すごい嬉しい。夢に魘されても理恵果が助けてくれる。司叔父さんも、千津おばさんも好きか嫌いかで言えば好きだ。

 孤児(みなしご)の私が、また家族というものに包まれて……。こんなに幸せなことはない。


「私は、幸せになってもいいの?」

「みかりん……。当たり前じゃない!」

「当たり前……。幸せ……」


「おばさん、私は良いと思う。でも、みかりんはまだ……本当のお母さんのことが好きなの。母親の愛を求めているの。つかおじ、もしもなれるなら、私はみかりんと一緒の家族になりたい。おばさん、みかりんに本当のお母さん以上に愛情を注げられる?」

「車の中で言ったわよ? 私は2人とも自分の子供だと思っているって」


 そう言うと千津おばさんは、ちょっと伏し目がちになって話しを続けた。


「私はね、昔に病気になってしまって手術をしたの。子供を作るところを、その手術で失ったわ。この意味、2人は分かるわよね?」

「……。初めて聞いた。おばさん、それで……おばさん達には子供がいなかったの?」

「ええ。それから理恵果が来て、美香里さんが来て……間近に2人の女の子を見るようになってから、諦めていた子供が欲しいって思いがより強くなってきたの」

「そうだったんですね、千津おばさん……」


 私たち3人の話しを黙って聞いて、しばらく考えていたようだった司叔父さんが口を開いた。


「千津も辛い思いをした。私はその千津の思いを汲み取ってあげたいと思う。どうかな? 美香里さん。私たち藤堂の子供になってはくれないか? 理恵果は賛成なようだが?」

「もちろん。私はそうなってくれれば、みかりんと姉妹になれて、すっごい嬉しいよ」


 確かにそうなった方が私も嬉しい。天国にいるお父さん。私、理恵果たちの中に入って幸せになってもいいかな? そう思って思わず上の方を見た。そしてお母さんの事を想った。お母さん……。あなたは私を捨ててから、今の今まで連絡もない。もう私は要らないって思ってもいいの?


 父親と母親の事を考えてたら、いつの間にか自然に涙が零れていた。その涙の意味を理恵果は分かっているようで、そっと私の手を握ってきた。「私もだから、ね」って言ってくれているみたいだった。

 ふと背中が温かくなったのを感じた。振り返ると千津おばさんが後ろに来てくれて、私を優しくふわりと抱きしめてくれていた。お母さんの面影と千津おばさんの笑顔が重なる……。


「ち、ず……おかあさん……」

「いいのよ、みかり。まだ『ちず』が付いたお母さんでも。少しずつでいいから、ね」


「よし。千津、近い内に美香里さ……美香里の『母』の所へ行って協議をしよう。そして理恵果の事での協議のスピードも速めよう」

「ええ、私は始めからその心算(つもり)でしたから」


 私はもう一度、幸せになれるの? なっていいの? いいよね? だってみんなとっても優しいから。

 私、幸せに……家族が欲しいから……。いいよね?


「さあ、ごはんを食べましょう? みんなで」

「ぐすっ……はい。うん」

「つかおじ、おばさん。……ありがとう。私も2人の事をお父さん、お母さんって呼べるようになれる気がする。みかりんも、さっき『おかあさん』っておばさんの事、呼んだもんね」

「うふふ。なんか嬉しかったわ。ね、あなた」

「そういうことだな、ははは」


 きっと、あの悪夢もこの人たちなら癒してくれる。気になるのは、理恵果の人格変わりだけど。私は理恵果に助けられてるんだから、人格変わりの時は私が助けるんだ。

 

 それから4人は食卓を囲んで同じご飯を食べた。おいしかった、温かかった。

 子供を授かることの出来なかった夫婦、DVを受けて孤独だった理恵果。そして両親の居ない美香里の4人が1つの家族になる、初めての夜だった。

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