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第十四話 波乱の幕開け

大変遅くなり申し訳ございません。

私の災害派遣は7月29日にて終了(即自の災害派遣は7月31日を以て終了)しました。

今後はローペースになりますが連載していきます。






かくして、航空母艦とかいう新型軍艦の進水式を見るわけになった。

会場となるヨコス海軍工廠の門扉には、衛兵が立ち並び、捧銃で出迎えてくれる。彼らは建造開始時から駐在する関東方面隊第6歩兵連隊だ。妾を迎えるのにあたって、近衛連隊も進水式の警備にあたっているほどの厳重さである。

ただ、妾が臨席する予定ではなかったため、現場にはかなりの負担を掛けたらしい。だが、誰一人嫌な顔をせず、それどころか歓喜したと聞く。それだけで妾は安堵する。

皇帝専用車となった装甲車が式場に着いた。装甲車を降りてすぐに、巨大な建物に驚かされた。はっきり言って、城よりもはるかに巨大で、圧倒される。

これこそが皇国が誇るヨコス海軍工廠第一造船所だ。先帝である父上が残した軍拡の名残。当時は不要なほどに大きな造船所の建造には家臣一同反対したらしいが、いまこうして役に立っているのを見ると、先見の明があったことは明らかである。

このような巨大な造船所は国内ではヨコス工廠の第一、二造船所の2か所ある。世界では合衆国と王国が豪華客船用に1か所ある程度だが、両国とも露天建造なのに対し、こちらは屋根が付いた屋内建造方式である。しかし、残念ながらこの造船所のために予算は圧迫され、その他中小の造船所を除き、戦艦や重巡洋艦を建造できる大型の造船所は、ここを含めてもわずか4か所の造船所しかない。うち1か所は民間船舶用の造船所であり、実質3か所しか国内にはない。そのために、わざわざ王国に戦艦の建造委託を行ったという事情もある。そう考えれば、やはり愚策だったのかもしれない。

そんなことに思考を巡らせつつ扉をくぐる。会場に入ると、皆、妾に対し敬礼を行う。

その面々の中にはエチゼン大将を始め、錚々(そうそう)たる海軍の重鎮が集う。さらには魔研の所長や研究員、軍研の研究員も多く見受けられた。

厳密な緘口令が敷かれ、それ以外の者は皆無。いわば、『関係者』のみでの進水式である。

案内されるがままに、妾は主賓席の一番の上座に座る。隣に小六が、その隣には近衛連隊長としてのサクヤ、皇帝直轄騎士軍団長のヤマベが続く。エチゼン達海軍組や魔・軍研組は主催者側の席についていた。

式が挙行され、祝辞としては簡易なもので、この空母の進水式を言祝ぐことにする。

尤も、関係者しかいないとはいえ、空母という呼称すら最重要機密のため、大型高速輸送艦と呼ぶよう、昨日は小六に耳がタコができるほど良い聞かされた。


「祝辞。金木犀の香りが漂い始め、秋晴れの本日に新型艦が進水することは、とても喜ばしいことである。皇国を取り巻く環境は刻一刻と変化し、半年ほど前までは、一様に暗かった民草の顔も、いまでは一様に明るくなって来ておるのを、妾自身、感じておる。だが、その変化もそうした良いものだけでなく、良くない変化も多岐にわたる。特に合衆国との関係悪化はかつてないものとなり、今後はより一層、緊張することであろう。我々はそのためにも国力を高め、一致団結する必要がある。この大型高速輸送艦の進水により、皇国はかつてないほどの大きな、海軍史の一歩を踏み出した。諸君らの働きにより、非常に早い速度での建造となっておる。皇国のために、皇国国民のために、皆の衆、より一層奮起してほしい。以上で祝辞を終わる」


割れんばかりの拍手のあと、エチゼンらの挨拶が終わり、除幕となった。

といっても、会場側から船が見えないように白い布で仕切られているだけだが、それでも縦横全体にわたって布が張られている。

やはり、ここでも小六が噛んでいるのだろう。したり顔でにやついておる。

この除幕式も鋏でロープを切ればよいらしく、鋏を渡され、やはり妾が切る。

バチン!と、いい音を立ててロープが切れ、布が両側に分かれ落ちていく。

そこには、造船所に負けないほど大きな船が鎮座する。そう空母である。


その大きさは皇国の主力戦艦であるクニツ型以上だ。クニツ型は全長180m近く、他国と比較しても大型である。だが、この船はそれを大きく上回っておる。正面からしか見えないため今のところ全容はわからぬが、底から甲板までの高さだけで25mはあろうか。艦体の横幅は20m近くあり、甲板はその艦体から伸びた柱に支えられ、大きく横にはみ出しているのが見て取れる。歩いて艦の側面に回り、その長さに驚愕する。

全長が200m以上はあるではないか!歩けどあるけど、なかなか艦尾に着かない。

恐ろしく大きい。そうとしか言いようがない。その後、艦の右舷についておる昇降機に乗り、最上甲板へと(いざな)われる。すると、だだっ広い1枚の甲板にたどり着く。たしかに、艦橋を挟むように昇降機が前後に1個ずつならび、平らで広い甲板には荷物を満載できるため、輸送艦に思えなくもない。

最上甲板から上2つの層は航空機……もとい、物資を載せる広い空間が広がる。

艦内を案内してもらう。急な勾配の梯子階段を昇ったり降りたりしながら、様々なところを見て回る。まだ何も物が置かれていないが、食堂や兵士の寝泊りする部屋を見て回る。どれも軍艦とは思えない程、ゆったりとした作りになっていた。艦橋の発令所や魔導機関室などを見て回る。そして貴賓室。どのつくりを見てもゆったりとしていたが、特に貴賓室はゆったりとしていた。軍艦でありながら、航海中はゆっくりと過ごすことができそうだ。尤も有事の際の出撃には調度品を取っ払い、傷病者のための白いベットが並ぶ「臨時病室」として利用されるそうだが……。

そこで昨日渡された「見学の時まで広げないように」と言われていた資料を広げ、その性能に愕然とする。


『新軍艦 航空母艦

基準排水量16,800t 行試排水量20,300t 満載排水量21,200t 

乗員定員700名(搭乗員含む) 

全長230メートル、全幅32メートル 全高28メートル(艦橋含む) 

主基 大型軍艦用魔導機関 4基

最大速力34ノット 基本航海速度18ノット 基本航続距離9200海里 最大航続距離12,000海里(航空機用魔石貯蔵庫の魔石も使用)

配備予定 三七式艦上戦闘機(現在 初期少数生産型機による実地試験及び搭乗員育成中)32機+予備6機、三七式艦上爆撃機(現在 本格量産開始。搭乗員育成中)24機+予備8機、三七式艦上汎用機(現在 本格量産開始。搭乗員育成中)8機+予備2機。

装甲部 魔導製錬式複合装甲を採用。最大厚さ70㎜(艦中央の弾薬個・機関部付近)、最低厚さ30㎜(艦首・艦尾付近)。飛行甲板装甲厚さ30㎜。錆止め用塗料に反魔石紛を使用、列強諸国の魔砲の魔力を低減可能とする』


恐ろしいまでの諸元である。

いくら軍事に疎い妾でも、これがどれほどすごいのかくらいは理解できる。クニツ型にくらべ総トン数はかなり低めじゃが、全長も全幅もクニツ型を上回る中でのこの建造速度は異常だ。

建造計画は7月ごろから始まっていたと聞いていたが、いくらなんでもこの諸元でこの短期間での進水式は早すぎる!

わずか3カ月でこれほど巨大なものがどうやって出来上がるものか!?

そのことを小六に聞くと「魔法師や魔導師に一気に鋼材を精製し、そのまま魔法で組み上げていってもらうと、すごい早かったです」と言われた。


「魔法を……船を造るのにつかわせたのか?」


「はい。むしろいままで何故しなかったのか、甚だ疑問ですが」


魔法で軍艦を建造するなど、欧州諸国や合衆国でも思いつくまい。


「魔法も魔導も、結局は理論と理屈を理解して、それを脳内で思い描き、それを使役する。ということですから、不可能ではないと思って、製鉄所で魔法を使える人にやってもらったら出来ちゃったもので……」


あはは……などとのんきに笑っているが、笑い事ではない。

この技術は魔導機関など比較にならない、とんでもなく凄い技術というのがわからないのか!?

召喚してすぐの小六はこうではなかった。もう少し思慮深かった気がする。どうやら魔研や農研の研究者と長く居たせいか気質が移ってしまったようだ。


「小六よ。この建造魔法?とでも言おうか。この技術は魔導機関以上に、絶対に他国に漏洩しては成らぬぞ」


「承知しました」


「あと、このペースで各地で建造した場合での年間での建造数と、戦力化までの期間を明後日からまとめるように」


「今日の昼からでは?」


小六が頭に疑問符を浮かべるように問うてくる。

この仕事の虫め!


「お主は今日の昼と明日は休務とする。働き過ぎじゃ。ちと羽を伸ばせ」


妾自身も休みたかったが、なによりも、小六の目の下のクマは昨日よりも一層濃くなっているようだった。

今日も肌色の粉で誤魔化そうとしているようだが、その黒さは隠しきれていない。


「わかりました」


恭しく頭を下げる小六の顔には安堵の表情が浮かび、「やっと休めるぞ」という。


式典も無事異常なく終わりかけていたころ、俄かに外が騒がしくなった気配がした。

すると、サクヤやヤマベの携帯魔導通信機(発明者 小六)の着信音がほぼ同時に鳴る。

本来ならこの場に魔導通信機の持ち込み自体がご法度だが、両者の立場上、妾が許可を与えていた。

だが、普通なら鳴ること自体が不敬にあたるため、緊急の要件以外では掛けないように部下に厳命しているのを妾は見ていた。つまり、その厳命を無視できるほどの緊急の要件が発生したことに他ならない。

彼らは2、3言話すと通話を打ち切り、妾の傍に駆け寄る。


「陛下。車が着き次第、この場を離れください」


サクヤの凛とした声が響く。妾も察した。


「賊か?」


「……はい。それも、……とんでもない賊です」


サクヤが言い淀むのをヤマベが引き継ぐ。


「陸軍の一部がクーデターを起こしました。現在、皇居は包囲されていると、我が騎士軍団よりも連絡がありました」


「規模はどうなのでしょうか?」


そこで小六が割って入る。その目には何かどす黒い恨みめいたものを感じる。


「規模は2個連隊規模。基本武装は剣と槍と弓」


「……スルガ大将か」


小六は目を爛々と輝かせ、舌なめずりまでしている。

正直、引いた。が、どういう状況なのか飲み込めないでいる。


「どういうことじゃ?」


「簡単に言えば、銃などの陸軍用の新型兵器への更新は近衛師団や騎士軍団、そして皇帝派の指揮官がいる部隊を優先的にしておりました。特に、皇都周辺の部隊には。そして挙動を感知させることなくこうも早く皇居を包囲するとなると、皇都内の駐屯所からのクーデターしかありません。そして皇都内でいまだに剣と槍と弓で武装しているのは、スルガ大将派の3個連隊と1個旅団のみ。つまり、首謀者は『スルガ陸軍大将』です」


問題が数多く起きる中、妾は軽い絶望を感じるも、まさかと思って尋ねることにした。


「まさかこのクーデターを誘発したな?」


「まさか、なんのことでしょうか?」


小六は笑っていたが、目は笑っていなかった。

ここで後顧の憂いを断つために、クーデターが起きるように仕向けたのだ。装備の更新の優劣だけでなく、恐らくだが、補給品の質や量などの分配や兵の扱いでスルガを「暴発」させたのだ。


「陛下。この度の賊の討伐にあたり、私、山本小六に指揮権の一時譲渡願えないでしょうか?」


「……お主、すべてはこれが狙いだったのか」


「……そうだったとしても、すべては陛下を思う気持ちあっての行動です。ご理解ください」


「わかった。其方に、3日間だけ近衛師団と直轄騎士軍団の指揮権を譲渡する。ただし、明後日の午後0時までとする。意味は分かるな」


「2日…いや今日中に片を付けましょう」


自信満々の笑みを彼は零す。

妾は、とんでもない化け物を召喚したことをこのときに気が付いた。

第九話 御前会議(後編)のキャラクター名の書き間違いを訂正

複数個所で「スルガ(陸軍大将)」とすべきところを「ヒラガ(財務省長官)」と誤記しておりました。申し訳ございません。

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