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第一話 国家再建の足掛かり

『来たれ来たれ妾が欲する逸材よ。参れ参れ人民が欲する逸材よ。現れ現れ(あらわれあらわれ)国家が欲する逸材よ』


祝詞を書き連ねた円環の魔法陣の中央で妾は祝詞を唱え、切に願った。


どうかこの国を、救ってくれ。と__


幾度も幾度も祝詞を上げ続け幾時も流れた時、魔法陣が光始めた。

その閃光に眼を焼かれながらも、さらに祝詞を上げ続ける。


頼むから。この国を救ってくれ!


その一心で上げ続けた祝詞。閃光が止むのと共に妾の目の前に1人の男が立っているのが見えた。

なかなかに容姿は整っており、背も170半ばというところ。それよりもその肉体に目を見張る。

短い袖から伸びる引き締まった上腕二頭筋と肩回りの筋肉はそのかいなの太さと逞しさを強調してくる。

筋肉をこよなく愛する妾にはあまりにも垂涎の筋肉であるが、それどころではない。


「汝よ。よくぞ応じてくれた」


どうにか声は裏返らず発生できた。

男はオロオロと周りを見渡し、なにか納得したように頷くと、妾に向かってこう言い放った。


「貴女ですか? 今朝からずっと私に囁いてたのは?」


すこぶる不機嫌そうに言って来る。わ、妾は負けなかった。


「そ、そうである。気分を害したなら謝ろう。妾は第100代皇帝リンレン・イワノミヤ。汝の名は?」


「私は山本 小六(やまもと ころく)と申します」


やや、不機嫌そうながらも状況を理解しているようだ。


「ふむ小六だな。此度は小六に頼みがあり召喚させてもらった。我が国の再建をせよ。……いや。小六殿、どうか頼むから、我が国を再建していただきたい!」


「え? えーっと……まぁ、社畜するのも嫌だったし、異世界とか憧れてたからいいんですけど……なぜ『()()()()』なんですか?」


そうなぜ国家再建を異世界人を召喚してまでなさねばならぬのか……それには時を遡る必要がある。


 東歴2026年のことである。

このころ妾はまだ幼子で、ようやっと文字の読み書きと四則計算を覚え始めていたころだった。

ちょうどそのころ、海を渡った隣国の『民中』という国と領土問題で軍事的衝突寸前にまでなっていた。

こうなった経緯としては我が国『扶桑皇国』と『民中』のほぼ中間にあった我が国の領島を、『民中』の漁民が不法占拠したことに端を発する。

 それからというもの、どんどん増える軍事費軍事費……年々それは膨れ上がり、それに合わせて『民中』も軍事拡大を目覚ましくさせていた。

いまでは国民の50人に1人は軍人。つまり200万もの兵士を擁する超軍事国家に『扶桑皇国』はなってしまったのだ。

 そして昨年、東歴2036年のこと、ついに『民中』は圧迫する軍事費により国家が『()()』した。

 財政再建にかこつけて、妾の父上。つまり第99代ゴカヤマ皇帝は民中に経済援助や技術支援を行い、かわりに入植を100万人(これは当時の総国民の100分の1にあたる)行った。それも多くが農民だった。これが間違いだったことは1月と経たず判明する。それは皆が疫病や風土病によりほとんどが、死んだからだ。

 これを悔い、父上は民を集めた大広場で、皇帝を妾に移すことを宣言し、自害した。あとは、いきなりお鉢が回ってきた皇帝としての仕事と責務と重責。そしてここ20代以上なかった女帝という特異性。まだ16の齢の妾には、荷が勝ちすぎた。そこで家臣に仕事を任せ治世学に励むことにすると、ものの一月で売国奴がでるわでるわ……。その粗方を粛正したのは良いが、今度は国家の舵取りに長けたものはほとんど残らなかった。

 残ったのは気の弱い家臣と野心に溢れ人に溢れかえるお荷物の軍隊だけであった……。


「とまぁ、このような感じじゃ……。説明してなんだが、扶桑皇国ももういつ破綻するかわからぬほど、国家は骨抜きじゃ。破綻せんでもいつ謀反がおきるか。いまは近衛師団が皇都に常駐しておるからなんとかなっておるが……」


「いま特に不味いのは?」


「……もう、食糧の備蓄がほとんどない」


「は? 今なんと?」


「じゃから、食糧がないのじゃ! 兵隊があるだけ物を食うから食糧の備蓄がないのじゃ!」


「ならその兵隊に畑を耕させればいかがです?」


「な……」


今、こやつなんといった。兵に農夫の真似事をさせろと言わなかったか?


「い、いま聞き間違えただろうか……? 小六よ、『兵に農夫をしろ』といったのか?」


「はい。そういいましたが?」


なんてやつを召喚してしまったんだ。

それでは兵に訓練そっちのけで畑を耕せとか、王族に平民の暮らしをしろと言ってるようなもの。それを理解できないのだろうか?

いわば水と油の関係である。消費しかしらないものに生産をさせるとか正気の沙汰ではない。


「私なら、兵隊を説き伏せる方法をいくつかあるのですが……手っ取り早いのがよろしいでしょう?」


小六は悪そうに頬笑む。それは悪魔の囁きに聞こえた。

一歩間違えれば、奈落の底に落ちる崖の上。それでも手を伸ばさずにいられない。そんな魅惑の果実が目の前にあるのに、手を伸ばさない人間がいるだろうか?いや、いない。

どうやら妾も所詮、そんな下賤な人間と変わらなかった。


皇国歴2037年7月4日。

悪魔の囁き。もとい、小六の進言から一月後。

各地の軍宛の魔導放送で宣言した。


「兵士諸君に勅命する。今後1年間、田畑を耕し、食を得よ」


天下の宝刀……勅命だった。

皇帝になってみたのはいいが、粛正しすぎてこういった当たり前のことを進言してくれる臣下は誰もいない。

なにはともあれ、これでなんとかなる。あとは農業庁に丸投げしてしまおう。うむ。それがいい。そう思い、のんびりと歩いているとツカツカと後ろからすごい速度でアイツがくる。

私の甘い考えにいち早く気づく男だ。


「皇帝陛下。1週間後にアイ県に視察に行きますよ」


「ちょ、ちょっと待て。1週間後にアイ県だと?! 魔導車でも丸2日はかかる……」


「ですので、急ごしらえではありますが、より早く安全に移動できる乗り物を作成させております。まぁ、安全性を優先したため、少々、乗り心地は悪いかもしれませんがご了承ください」


なんという用意周到さ。妾が嫌がるのを見越して、逃げ道を完全に潰してきた。

だんだんとこの男に腹が立ってきたが、我慢のしどころ。ここで一々怒っていては皇帝の威厳がないではないか。


「ふ、ふむ。ご苦労である。では、その乗り物とやらをぜひ見てみたいのだが」


「はい。では、本日の昼食後にご案内いたします。それまでにいくつか決裁いただきたい案件がありますので、後程、確認をお願いします」


「心得た」


この男を召喚したのは失敗だったかもしれない。なぜなら、こんなにも仕事ができるとは思ってもいなかったのだ。というより最近、仕事を増やされている気さえする。


「小六よ。最近、妾の仕事が増えているように感じるのだが……?」


「皇帝陛下。僭越ながら申し上げます。仕事は探せばいくらでもあるのです。付け加えるなら、むしろ今は少なめに陛下に裁可願っています。なぜなら、すべてを陛下にお持ちすれば、恐らく、陛下は城から逃げ出すほど!決裁案件が多いですので。いまは、火急のものだけを決済願っている段階です」


小六の声に怒りというか哀れみめいた声音が混じる。

これ以上は藪蛇だ。歩速を早め、執務室に進路を変える。


「そういうことであったか。結構だ」


「それと、かならず全ての書類に目を通してから裁可ください。どれも陛下の決裁が必要な重要な書類ですので」


「わかっておる! お主は一言多いのう。……筋肉だけはすこぶるいいのに」


「なにかおっしゃいました?」


「いや、なんでもない」


兎にも角にも、このままでは昼食は片手間に済まさねばならなる。

それだけは何としてでも避けたい一心で、執務室に着くと急いで机の上の書類に目を通していく。

一つ目が『農地改革案』

わかりやすく要点を手書きのメモにまとめてくれている。

内容は、農民から農地を国が徴収し、区画整備・集約をおこない農民に還付するというもの。

また、農地を売却したい場合は買い上げ、国有地とするというもの。

利点は土地の区画整備・集約は兵士が行い、肉体労働とそれにともなう統制の訓練が行える上、測量により兵士の地形把握能力の向上。そして、区画整備と集約により作業性、生産性の向上。

欠点は農民からの反発。とある。

欠点の克服方法として、反抗すれば粛正……というのを二重線で消しているが消えてない。その横に「恭順すれば勲章の授与」とある。さらにその横に「そういった勲章がないなら作ってしまいましょう」とまで書いてある。なんとも型破りだが、悪手ではない。むしろ良手と考えよう。ならば決裁は『可』のほかはない。


二つ目『農業改革案』

これも先ほどのと同じく手書きのメモに要点をまとめられていた。

まず、現状は王族と軍と一部商人が使っている魔導車を農業利用。また魔導車を改良した農用魔導車『とらくたー』の導入と普及。これらの助成を国が積極的に行うことで農業の生産性の向上……。

これは利点しかないため、『可』である。


三つ目が……『兵士数削減案』

うわー……もう反発しか予想できないやつがきてしもうた……。あやつ時々爆裂魔法を放り込んでくる。

とりあえず、メモを読むことにする……。

現在、兵士に田畑を耕させることにより、兵士に『兵以外の生き方』を学ばせることができる。そこで農地改革により設けられた国有地を、除職させた兵士に優先的に貸与することで、反発を軽減しながら農業を拡大できる。また、依願退職し農業を行う兵士には3年間、兵士として勤めていた時の月給半額を交付する。

現在の軍人200万から120万まで減らすのを今後20年かけて行う。

なんと滅茶苦茶な……と思ったが、現状ただ飯食らいの消費するだけの軍人共を生産する側に回せるというのは、なんと魅力的だろうか。それも兵士の片手間ではなく、専業として!

だが、これは一度直に話をすべきだろう。とりあえず保留にする。


四つ目…まだあるのか。『国家基盤再建計画』

なんか仰々しいの来た。目を通すのも苦になってきた。

だが、まずは内容が肝心だ。先と同じくメモに目を通す。

1.歳支出の見合わせ

(収入と支出が合わない県が多数ある。また扶桑皇国の財務省が共謀してると疑われるものも多数。査察の許可)

2.税制の抜本的改革

(現状では大赤字のため、税制の改革が必要。そのための専門家等の出廷の許可)

3.工業基盤の強化

(軍の近未来化、及び農用魔導車等の導入のためにも職人の確保が重要であるため、そのための技術調査の許可)

4.農地・農業改革

(別紙参照)

5.兵士数削減

(別紙参照)

6.軍の近未来化

(別紙参照)

7.立憲君主制の導入

(立憲君主制についての議論を交わす許可)

うむうむ。立憲君主制というのは他国では流行りであるらしいし、議論を交わすのもやぶさかではない。他の部分も調査や査察の許可で特に問題はな……


「軍の『近未来化』ってどういうこと!? 十分うちの軍隊、他国に引けを取らない兵力と戦力なんだぞ!」


思わず叫んでしまう。この荒唐無稽さ……。どうやらもう昼食の時間らしく、侍女がドアをノックした。

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