両親との初めての出会い
さて、俺は無事に転生することが出来たのだろうか……。
手足や身体の感覚はあるな。いや、そもそもこうして自我がある時点で何らかの生物には転生出来たと考えていいだろう。
まぁ考えるよりも目を開けて実際に見た方が早いのだろうが、何分目を開けるのが怖い。
というのも、女神様との最後がアレだったためしっかりと人間に転生しているか判らないのだ。目を開けて自分の体を確認したらモンスターでした、とかマジで笑えない。
試しに手足をバタバタとさせてみる。
なんか思った通りに動かない。しかし、今動いてみて判ったことがある。俺は人型で間違いない。
だとすると問題はゴブリンの可能性があるということなんだが……
どうしようかと考えを巡らせていると、俺の耳にギィィというドアが開かれたような音が届いた。
俺は反射的に音がした方向に顔を向ける。
すると、音はピッタリと止んだ。なんだろうか。ドアに良い思い出がない俺としてはすごい不安になる。
そんなことを思いながら静かに身を潜めていると、頭上から小さなヒソヒソとした声が聞こえてきた。
「ふふっ、やっぱりうちの子の寝顔は最高にかわいいわね」
「かわいいのは当たり前だろ?なにせ君の子いや、君と僕の子なんだから」
「もう、アナタったら!」
「ハハハッ」
「フフフッ」
ぜんぜんヒソヒソじゃなかったな。
しかし、夫婦と思われる二人のこの会話で今更ながらに気付いたことがある。もし仮に、本当に転生をすることが出来たのだとしたら、今の俺の姿は赤ん坊ということになるのではないだろうか。それならば動き辛いこの体にも納得がいく。
そして、夫婦と思われるこの二人は恐らく俺の両親ということになる。
だとすると、これは無事に転生をすることが出来たと考えてもいいのではないだろうか。
……目を開けて見るか。
俺はその真偽を確かめるため、自分の両親が流暢に言葉を話すゴブリンではありませんようにと祈りながら、薄っすらと目を開いた。
目を開けるとそこには、茶髪ロングの年若い綺麗な女性が俺の顔を覗き込み、柔らかな笑みをこちらに向けていた。
そして、視線を少し横にずらすと同じく茶髪で優しそうな細マッチョな男性の姿があった。
恐らくこの二人が俺の両親なのだろう。ちゃんとした人間で良かった。てかそれにしても美男美女すぎやしないだろうか?
俺が顔をまじまじと見ていると、そんな俺の視線に気が付いたのか母親らしき女性が
「あら? 起こしちゃた? ごめんなさいね」
そう言って、俺は抱き上げられた。そして、あやす様に体を優しく揺らされる。
素晴らしい。あと二時間はこの状態でいられる。とはいえ今は状況の確認が先だろう。
抱き上げられたまま、首だけを動かし周囲を軽く見渡す。
どうやらここは室内のようだ。見た感じ家自体は少し粗い木造建築のようで、なんというか、田舎のばあちゃん家を思い出す。天井には電灯や電球などはなく、代わりに壁にオイルランプのようなものが掛かっている。恐らくこれが灯りになるのだろう。
そんな感じで次々と見ていく。
うん。見た限りでは普通の家っぽい。両親も普通の人だし、なんか身構えて損したな。
そう俺が一安心したところで、急な眠気が襲ってきた。
思えば、俺の今の姿が赤ん坊ということも含め、先程から非現実の連続だったのだ。開き直って現実逃避をしていたとはいえ、気付かない内に精神的な疲れが溜まっていたのだろう。
ここにきて初めての安堵感に、更に母親と思われる女性のあやしの力も手伝って、今めちゃくちゃ眠い。めちゃくちゃ眠いのただが、今寝ると起きた時が少し怖い。実はこれは全て夢で、目を覚ましたら病院のベッド上でした、みたいな。
そうして俺が頭の中で眠気と激戦を繰り広げていると、母親らしき女性が
「あらあら。ふふっ。お眠みたいね」
あやす手を止め、俺を柵の付いた赤ん坊用のベッドにそっと戻した。
「うん、そうみたいだね。それじゃ、何も問題は無いみたいだし僕たちもそろそろ戻ろうか」
父親と思われる男性が俺の顔を一度確認したあと、ドアに向かって歩いて行く。
「そうね」
母親と思われる女性も男性に続く。
行かないで欲しい。
そう思って、必死に手を伸ばそうとするが、まだ赤ん坊の身体に慣れていないのに加え、この異常なまでの眠気に、上手く身体が動かない。
俺があたふたとしていると、ちょうど部屋を出た母親と思われる女性がこちらに振り返ると
「おやすみなさい。カカルド」
小さな微笑みを残し、そっとドアが閉められた。