帰路
『コントロールアース』
オークが完全に痺れたのを確認し、俺は安全にオークから角を切り取った。切り取った角は革袋の中に入れ、それを懐に仕舞う。帰りに同じ魔法を発動させ地上に戻る。
よし、これで依頼は達成だ。さて、あとは……。
俺は落とし穴に向き直り、魔法を発動させる。
『クリエイトアース』
魔法の発動に応じ空中に大量の土塊が現れた。それを次々とオークのいる穴の中に放り込む。
やはり、元ある土を直接操作するのとは違い、ただ魔法で土を生み出すだけならば魔力の消費は少ないな。
消費魔力の違いを実感しながら、俺は考える。
さて、俺が何故こんなことをやっているかというと、言うまでもなくオークを窒息させ倒すためだ。
もちろん、オークを倒すだけなら俺の持っている槍で頭をちょこちょこしたり、心臓に槍が到達するまでざくざくすれば簡単に絶命をさせることは出来るだろう。
しかし、それは余りにエグい。可愛らしい擬音を使っても拭えないほどのエグさなのだ。そんなものを間近でみたら俺がぶくぶくしてしまう。
いくらこの世界で多少慣れたとはいえグロいものは昔からダメだった。それに、そもそも人の形をした生き物に刃物を向けるということ自体どうしても躊躇ってしまう。
ヴィオラさんのように、命中百の一撃必殺技を息をするように繰り出してくる化け物ならば何の躊躇いもなく行けるが――というか躊躇っていたら殺される――自分と同じ人間相手だと、武器を向けた瞬間怖気付いてしまう。
以前冒険者に襲われ際、殺傷能力の高い魔法を優先して使用しなかったのはそういった理由からだ。
もし、俺の振るった槍が相手の心臓を突き刺してしまったら。そう考えるだけでも恐ろしい。
勿論、この世界は力が全ての弱肉強食で、殺らなければ殺られる世界だということは理解している。しかし、こういった世界だからこそより一層気を付けないといけないと思うのだ。
「……ん? あっ」
顔にかかった影にふと前を見れば、俺の前に、いつの間にか魔法で創った土塊が高々と積み上げられていた。
しまった、考えるのに夢中で穴を埋めるどころかいつの間にかこんな土柱まで創ってしまっていた。
俺はすぐに魔法発動の手を止め、壊すために新しく攻撃魔法を発動させようと手を翳し――。
「いや、別にこのままでもいいか」
翳した手をスっと降ろした。
別にオークさえ倒せればそれでいいのだ。ならばわざわざ魔力を使ってまで壊すこともないだろう。それに、土が多いに越したこともないはずだ。
「よし、じゃあ帰るか」
まあ、帰るにはまだ早い時間帯だろうがいつまでもこんな所にいても意味ないしな。帰ったら早速レイラの装備選びをしてみようか。
聞いたところによると『魔力付与』と呼ばれる魔法で、元々の防具に何か能力を付けてくれる武器屋もあるらしい。
レイラはあの装備をとても気に入っていたようだったし、買い換えるんじゃなくそこに行って見るのもいいかもしれない。
桃髪までとはいかなくても、回避能力に長けた装備ならば多少は魔物とも戦えるはずだ。まずは初級魔法を中級魔法と同等の強さにするところまで鍛えて、あとは弱い安全な魔物との実戦だな。
この森なら奥まで入らない限り特別強い魔物に遭遇することはない。オークくらいなら簡単に逃げ切れるしな。
「今度来る時はレイラと一緒に来るか」
そう俺がボソリと呟いた時だった。
――ガサ
近くで茂みの揺れる音がした。
「ん?」
すぐに周りを見渡すが、辺りには何もいない。
……風か? 魔物だと少し厄介だが……。
槍を構え、暫くの間そこで辺りを警戒するが何かが出てくる様子はない。
「……気のせいか?」
よく分からんが、取り敢えず早く帰った方がいいか。気のせいかはメタルギアソリッドだと死亡フラグだしな。俺は無能ではない。
「【身体能力上昇】」
身体強化のギフトを発動させ俺は急いで駆け出した。
前にも言ったが【身体能力上昇】は名前の通り発動させることで身体能力を一時的に高めることが出来る。しかしこの能力は使えば使うほど強くなるというわけではないのだ。
繰り返し発動させればその分身体に負荷はかかるし、何より自分の動く速さに頭が追いつかない。今の俺では連続三回発動させるのが限度だろう。因みにその三回発動させた状態のことを俺はシャアと呼んでいる。
まあ、考えてみれば何のデメリットなく無制限に身体強化なんて中級の強さじゃないしな。一見能力が上級クラスのものでも、そのギフトの等級が中級である以上その分どこかにデメリットが存在する。
俺の【未来視】も能力だけを見れば、数瞬先の危険を読み取るという上級クラスに並ぶ強さだが、実際は突然起きる未来視の効果に反応出来ず、逆に危険になってしまう場合が多い。
咄嗟に【身体能力上昇】を発動させることで何とか回避出来ているが、もし身体強化のギフトを持っていなければ【未来視】は完全に使えない外れギフトになっていただろう。
そう考えると上級クラスのギフトには、どれも外れといったものが無いような気がするな。
俺の知る中では、短期間で練達した槍の技術を複数人に教え込むことが出来る父の【槍術】や、アナザが持っている俺の完全上位互換【虫の知らせ】。あとは――。
「……」
ふと、俺の頭の中にレイラの姿が浮かんだ。結局、レイラの上級ギフトは分からないままだ。
父やアナザのような強力なギフトならば、言ってくれた方がレイラも目標に近づけるはずだが、それでも言わないということは、やはり何か事情があるのだろう。
もちろん、だからといってその事情を無理やり聞き出そうとは思わないし、聞けるはずもない。
何か不安や問題があるのなら俺に相談して欲しいが……恐らく打ち明けるほど俺のことを信用してはいないのだろう。
今はただ、強くなりたいというレイラの願いを叶えてあげられるように努力するしかないな。
「そろそろ着くか」
王都の巨大な壁が見えきた。さっさとオークの角を納品して、早くレイラと武器屋に行こう。時間は沢山あるが、その武器屋がいつ閉まるかは分からない。
「【身体能力上昇】」
いつの間にか効果が切れていたギフトをもう一度発動させ、俺は帰る足を更に速めた。




