魔物
「お前はそこにいてなんともないのか?」
「……そうですね、特になにも。というか待って下さい。既にここは魔力溜まりの中なんですか?」
「そうだな。お前が今立っている場所はな」
「ああ、なるほど」
だからブルースさんはこれ以上先に進もうとはしないのか。ちょうど俺とブルースさんの間が境界線になっているのだろう。
「俺は先ほどまでお前の話は全て半信半疑――いや、正直に言うと信じたくなかったのだが、実際にお前が魔力溜まりの中を通れる姿を見てしまったからには、もう信じるしかないのだろうな」
ブルースさんは諦めたような、そんな表情で言った。
「とりあえず、こっちに戻ってこい。色々とやることが出来た」
「分かりました」
俺は言われた通りブルースさんのもとに戻る。
「それと、なぜお前が魔力溜まりの中を通れるのかについての詮索はしないが、何かあるんだったら言ってくれよ」
「……はい」
言ってくれと言われても、これについては俺自身も分からない。そもそも、俺はブルースさんに教えてもらうまで魔力溜まりという存在すら知らなかったのだ。
「ひとまず部屋に戻るぞ。ここに来たのはただ確認をしたかっただけだからな。今はバーバランを下手に刺激しない方がいいだろう」
「分かりました。……あ、一ついいでしょうか?」
「なんだ?」
「先ほどギルド長がおっしゃっていた進化について教えて頂けないでしょうか」
バーバランさんが進化した魔物――というより、そもそもバーバランさんは本当に魔物なのか、一回頭の中で色々と整理したい。
今来た道を戻りながら、ブルースさんが丁寧に答えてくれる。
「進化というのは先ほども言った通り魔物が魔力溜まりに長期間触れ続けていることで起こるものだ。進化をすると魔物のあらゆる能力値が上がり、まあ魔物のランクが一つ上がると思えば分かりやすいだろう。他にも特定の条件で進化をする魔物もいるが、大体はそんな感じだな」
「因みに、その特定の条件で進化をする魔物とはどういった魔物がいるのでしょうか?」
「例えば、一番身近で特殊なのがスライムだな。スライムは同じ場所に約十体ほど集合することで一体の魔物になることが確認されている。見た目はただの巨大化したスライムだがその強さは普通のスライムの何十倍もの強さを誇る。普通のスライムがDランクに指定されているのに対し、その巨大化したスライムのランクはAだ。魔物の進化ほど恐ろしいものはない」
つまり、大半の冒険者が対応できるあろう魔物が場合によっては国を脅かすレベルの魔物になることがあるのか。たしかにそれは怖い。というか、スライムの進化する条件が簡単な気がするのだが大丈夫なのだろうか……。
疑問に思いブルースさんに尋ねる。
「そのスライムの進化の特性を悪用される危険ってないんですか?」
「悪用?」
「はい、例えば誰かが意図的にスライムを進化させるとか」
「いや、その心配はないな」
ブルースさんが即答する。
「スライムは自分の種族以外の魔力には非常に敏感でな。人が少しでも近づけばすぐに酸による攻撃をしてくる。まず捕まえるどころか近づくことさえままならないのだ。それにギルドの貼紙を見れば分かるが、スライムの討伐報酬は他の報酬よりも高くしている。そのためスライムが全く同じ場所に何体も現れることはそうありえない」
「あ、なるほど」
そういえばたしかにスライムの報酬だけ他より高かったな。それで冒険者がスライムの討伐ばかりやるわけか。言われて見ればスライムも前に一度会ったきり見てないし。
とはいえ、そうなってくると前に会った敵対しないスライムのことが余計に分からなくなるな。やはり、あれは特別なスライムだったのだろうか……。まあ、どうであれ確認をしないことには分からないか。たぶん明日レイラと冒険者として依頼を受けるだろうから、その時にスライムがいたら試してみるか。
そんなことを考えていると、ブルースさんが何かを思い出したかのように勢いよくこちらを振り向いた。
「そうだお前、ここの職員になってみる気はないか?」
「はい?」
唐突なブルースさんの言葉に俺は聞き返す。
「ここのギルド職員だ。いくら俺らがバーバランの対策を考えようにも、そもそも魔力溜まりをどうにかしないことには何も出来ない。つまり、現状バーバランに接触出来るのはお前しかいないんだ。そこで、バーバランの監視を主に正式にうちのギルド職員として働いてみないか?」
「……いきなり言われましても」
いや、言いたいことは分かるが……。それでも、昨日レイラと約束をしたばっかりなのだ。せっかくレイラが俺を頼ってくれたのに、いきなりその約束を反故にするなど出来るはずがない。
と、そんな俺にブルースさんがボソリと呟いた。
「お前、いま金ないだろ?」
「え?」
何故それを。たしかに昨日の一戦で金貨を大量に使って(物理)しまったために今の俺の持ち金は少し寂しいことになっている。普通に生活をする分にはまだ問題はないが、できることなら余裕が欲しい。
そんな俺の心情を知っているようで、ブルースさんが再度問い掛けてきた。
「どうだ? うちで働いてくれるなら高い額を約束しよう。なによりお前が今ここでうちのギルドの職員になってくれるのはちょうどいい」




