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【悲報】俺氏、勇者に彼女寝取られる  作者: 馬刺の気持ち
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相談

「……どういうことだ?」


 レイラの変わりように内心驚きつつも、慎重にその言葉の意味を尋ねる。


 しかし、そんな俺の態度が気に入らなかったのか、レイラの表情に明らかな怒気が混ざる。


「……っ! とぼけないで下さい……! 本当は、私のギフトを知っているのでしょう!?」


 歯を食いしばり、俺を睨む。


 ……いくら睨まれても、分からないものは分からない。それに、ギフトとはどういうことだ?


 俺は、正直に知らないことを伝えようと、


「悪いけど、本当に俺は――」


「やめて下さい!」


 吐き出すような、激しい怒声に遮られた。


「……」


 見れば、レイラは先ほどよりも肩が震え、しゃくりあげている。


「もう、やめてっ、下さい……。私は、もう、裏切られるのは、嫌なんです」

 

 レイラは嗚咽の混ざった声で、途切れ途切れに言った。


 ……過去に何かあったのか。俺はこんな時、どうすればいいのだろうか。こんな体験今まで生きてきた中で、もちろん前世でも無かった。


 ひとまず落ち着くまで待った方がいいのか、それとも根拠もなく、レイラが泣いている理由も何も知らず「大丈夫」なんて言っていいのか。


 ……何が正解なのかは分からないが、それでも今は俺に出来ることをやるしかない。


 俺はレイラに向き直る。


 嗚咽を漏らしながら泣き続けるレイラに、俺の声が聞こえているかは分からない。


「……レイラ、本当に俺は何も知らないんだ。信じられないかもしれないが、レイラの力になりたいのは本当だ。だから、何かあれば言って欲しい。絶対に、裏切ったりなんかしないから」




◇◆◇◆◇




「さて……」


 泣き疲れたのだろう、いつの間にかベッドで眠っていたレイラに毛布をかけつつ、考える。


 ……俺は、少しこの少女のことを軽く考えていたかもしれない。というか、そもそもこの異世界というもの自体、どこかラノベを見ているような、そんな軽い気持ちでいた部分もあったかもしれない。


 当たり前な話ではあるが、レイラだって俺と変わらない一人の人間なのだ。軽い気持ちで奴隷なんて買っていいはずがなかった。


 ひとまず、どうしようか。明日はレイラのことをアナザに説明するとして、その後はどうすればいい? 


 まさか、ずっとこのまま宿屋にいさせるわけにもいかないだろう。もちろん、レイラがそれを望むなら別だが……。


「……はぁ」


 小さくため息を吐きながら、近くにある椅子に腰掛ける。


 本当に、どうすればいいのだろうか。どうにかレイラには元気になってほしい。せっかくの一度きりしかない人生を、他人のせいで悲観したままなんて勿体ない。前世でそれを深く学んだブサイクの俺が言うのだ、間違いない。

 

「……ひとまず、明日だな」


 レイラの願いであろう、姉に会わせることは出来ないが、他の何かだったら俺でも叶えてあげられるかもしれない。冒険者になりたいとか、美味しいものを食べたいとか。


 とりあえず、今日はもう寝るか。明日はレイラのことを説明するだけでなく、バーバランさんの件もある。


「……よいしょ」


 もう一度、椅子に深く腰掛けて目を瞑る。監獄の床に比べれば、かなり眠りやすい。


 俺自身も疲れは溜まっていたようで、目を瞑るとすぐに眠気が襲ってきた。


 そうして、俺の意識は闇に落ちていった。




◇◆◇◆◇




「――ん?」


 何かの音で俺は目を覚ました。


「あっ……」


 寝ぼけながらも視線を前にやると、お腹を押さえたレイラがこちらを見て立っていた。


 ……どうしたのだろうか?


 起きていない頭でそんなことを考えていると、グゥゥ~とレイラから腹の音が響いた。そして


「……ごめんなさい」


「え?」


レイラの言葉で俺はハッと我に帰る。


「あ、いや。俺の方こそ、そこまで気が回らなくて悪い。……下に食堂があるから、まずはそこに食べに行こう」


 俺は寝起きの頭で考える。


たしか、俺たちが泊まっているこの宿屋は一階が食堂になっているはずだ。俺は王都に来てすぐに監獄に入れられた為未だに利用したことはないが。


「……いいのですか?」


「もちろんだ。俺も前々から気になっていたし、ちょうどいい」


「……ありがとうございます」


「それくらい大丈夫だ。軽く支度をしたら、早速行ってみよう」


とりあえず、昨日のことに関しては諸々後回しだ。レイラもあまり触れられたくない話だろうし。


 俺は、テーブルの上に置かれた革袋から金貨を十枚取り出す。そして、【闇堕ち】の上級魔法を発動させる。


 ――上級魔法『暗黒』


 魔法の発動に合わせ、目の前に小さな()が現れる。


 俺はその闇の中に金貨を突っ込み、そして心の中で「消えろ」と念じると、その闇は煙のようにフッと消えていった。


「……今のは?」


 後ろを振り返ると、レイラが少し警戒したようにこちらを見ていた。


 ……驚かせてしまったか。


 俺はレイラに今の魔法を軽く説明する。


「今の魔法は、ただ物の収納に便利な魔法だ。見た目はヤバそうだが、特に問題はない」

 

 もっと具体的にいうと、これは『奴隷紋操作』と同様に、監獄の中で新しく見つけた上級魔法の一つだ。


 今のように、現れた()の中に何か物を入れることができ、物がかさはった時などに便利な魔法だ。


 今見てもらったように、この闇の中には()()()()程の大きさのものしか入れることが出来ない。なので俺は財布とは別に、金貨など非常時に使えるものを入れている。ちなみに、生物なども入れることが出来ないので戦闘面もほとんど役に立たない。


 まあ、その分蓄積される『悪いもの』が少ないので、こうして比較的簡単に使えるわけなのだが。


「――よし、行くか」


 支度も終わり、レイラを連れて部屋を出る。


 扉の鍵を閉め、食堂に向けて足を数歩進めたところで、後ろから聞き覚えのある声をかけられた。


「あ、カカルドさん」


「ん? ああ、アナザか」


 振り返り、挨拶を交わす。何気に一ヶ月振りだ。


 そういえば同じ宿屋だったな。いつも会う時はギルドに現地集合だったから、部屋に直接行くという考えが思いつかなかった。


「あれ? そちらの奴隷はどうしたんですか」


 ちょうどいい、今のうちにレイラのことを説明しておこう。


「ああ、そのことについて少し話がある。レイラ、ちょっといい――」


 横を見て、レイラの異変に気が付いた。


 ……尻尾が膨らんでいる?


 猫耳族特有のレイラの長い尻尾が、普段よりも膨らんでいる。


 先ほど部屋にいた時は、こんなことはなかったはずだが……。これは一体どういう状態なんだ?


「どうかしましたか?」


 アナザの声でハッと我に返る。


「いや、なんでもない。それで、さっきの続きなんだが――」


 アナザに一通りレイラのことを説明する。


「それで、もしレイラが冒険者になったとしたらどうなるんだ?」


「……うーん」


 俺の説明を聞いて、アナザは少し難しい顔をする。


「まず、カカルドさんもご存知の通り奴隷でも冒険者登録は出来ます。しかし、正式に冒険者として登録はされますが、奴隷一人で依頼を受けたりすることは出来ません」


「……まあ、そうなるよな」


「はい。基本的にはその奴隷の主人と同じ扱いにはなりますが、奴隷自体にランク付けはされませんし、パーティーでの報酬なども奴隷には支払われません」


「……なるほど。それ以外には何かあるか?」


「大体はそれくらいですね。……あ、それと、奴隷を買ったことはヴィオラには言わない方がいいかもしれませんね」


 そう言って、アナザは苦笑いを浮かべる。


 ……それについては俺も完全に同意だ。


 奴隷が『紅蓮』のパーティーに入ると桃髪が知った時、どんな言動を取るか。E級の俺がこのパーティーに入った時の桃髪の嫌がりようを見れば容易に想像がついてしまう。


「……ああ、そうだな。もしヴィオラさんに見つかったらなんて言われるか――」


「あ!」


 突如、俺の耳に最近聞いたことのある甲高い声が届いた。


 声のした方向を見れば、やはり、そこには桃髪の姿があった。


 なんて間の悪い。噂をすれば、というやつか。


「アンタ、その女の子は何?」


 近づいてきた桃髪が、凄い形相でこちらを睨んでくる。


「うっ……」


 その迫力に、俺は思わず黙ってしまう。


「何か言いなさいよ」


 俺の返答に痺れを切らしたのか、ズイと桃髪が一歩を踏み込んでくる。それに合わせ同じく俺も一歩下がる。


 と、そんな俺たちの状況を見かねたアナザがフォローに入ってくれる。


「ヴィオラ、少し落ち着いてくれ。別にカカルドさんはヴィオラが思っているような目的でこの奴隷を買ったわけじゃないんだ」


「……奴隷?」


「あっ……」


 アナザが見事に墓穴を掘る。いや、どちらにしろレイラの首に『奴隷の首輪』が付いている時点で同じだっただろう。アナザを責めることは出来ない。


 即座に俺はレイラの前に立つ。まさか、奴隷だからといって攻撃などはしないと思うが、一応【身体能力上昇】を発動させておこう。


「……アンタ、なんでこの女の子を買ったの?」


 桃髪が先ほどよりも鋭い眼つきで俺を睨んでくる。


 ……なんでそんなことを聞いてくるのだろうか? よく分からないが、ここは答えないとマズい雰囲気だ。


「アナザが言ってくれたように、別にそういった目的で買ったわけじゃない。それと、パーティーのことだがこの少女は――」


「あっそ」


「――え?」


 気付いたら、目の前に桃髪がいなくなっていた。


 どこに行った!? 


 桃髪の驚異的なスピードは監獄で知っているが、いきなり消えられると本当に分からない。


 ふと、自分の後ろに気配を感じ俺は振り返る。そこには――。


「……もう大丈夫よ」


 レイラを抱きしめ、優しく慰めの言葉をかけている桃髪の姿があった。


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