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【悲報】俺氏、勇者に彼女寝取られる  作者: 馬刺の気持ち
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バーバラン

「分からない、とはどういうことでしょうか」

  

 俺が尋ねるとお婆さんは、どうやら自分でもおかしな事を言っているという自覚はあったらしく、一つため息を吐くと、そのワケを静かに語り出した。


「……もう何十年も前の話になるのじゃが、気が付いたらワシは、だだっ広い草原のど真ん中に一人立っておったのじゃ」


 ……気が付いたら、草原のど真ん中に、一人で?


 俺はお婆さんの言葉を不審に思い、聞き返す。


「気が付いたら……ですか?」


「そうじゃ。魔法の使い方も、剣の握り方も分かっておるのに、大切な記憶だけがスッポリと抜け落ちたように、なぜそこにおったのか、何も思い出せなかったのじゃよ」


「……」


 淋しそうに語るお婆さんの姿を見て、俺はつい黙ってしまう。


 そんな俺に気にすることなく、お婆さんは言葉を続ける。


「そうして途方に暮れたワシは、最後の手段として先ほど言った【テレポート】を使ったのじゃが……なんと、移動した先がこの国のとある貴族の邸宅じゃた」


「え?」


 お婆さんの言葉に、俺は疑問が浮かぶ。


「【テレポート】は予め選んでいた場所に移動する能力なんですよね。ということは、以前にその貴族の邸宅に足を踏み入れたことがあるということですか?」


「じゃから、ワシにはそれすらも分からんのじゃよ。どうやら【テレポート】で飛べる先はもう一つあったようじゃが、今となっては確認する術もないしのう。それで、貴族の邸宅に出たワシは駆けつけた兵士共に捕らえられ、今に至るというわけじゃ」


「……今に至るって」


 簡単に言った、最後の言葉の重みを理解し、俺は絶句する。


 ……つまり、この監獄に何十年も閉じ込められていたということか。


 俺が言葉を失っていると、お婆さんは静かに床に座り頭を下げた。


「さっきはいきなり怒鳴ってすまんかった。……それで、どうじゃ。少しは考えてくれんかのう?」


「そうですね……」


 正直、俺にはなんて答えていいか分からない。


 まず、このお婆さんの話には全く現実味が無い。まあ、魔法がある時点で現実なんてものは地球に置いて来ているのだが、話が滅茶苦茶すぎる。


 気が付いたら草原にいて、それ以前の記憶がない。【テレポート】を使ったらこの国の貴族の邸宅に出て、兵士に捕まった。それからずっと牢屋にいる。


 常識的に考えて――常識も地球に置いて来たが――この話を信用出来るはずがない。それどころか【テレポート】というギフトを持っていることすらも嘘かもしれない。


 ……ただ、この話がどこまで本当かは分からないが、それでも、先ほどのお婆さんの淋しげな表情は本物のように感じられた。


 もちろん、それだけの理由で脱獄させるわけにはいかないが……。


「………ひとまず、事情は分かりました。ですが、その話を全て鵜呑みにするわけにはいきません。ですから、まずは確認をしたいと思います」


「確認じゃと?」


「はい。実は、僕はとある理由からこの牢屋に、一時的に投獄されているだけですので、恐らく脱獄をするまでもなく近い内にここを出ることになると思います。その際に僕の知人に確認を取りたいのですが、よろしいでしょうか」


「……もちろん構わんが、それよりお主、ではなぜ先ほど脱獄しようとしておったのじゃ?」


「色んなことに耐えられなくなったんです」


 俺が即答すると、お婆さんは苦笑いを浮かべながら答えた。


「……そうか、お主も色々と大変のようじゃな。ああ、そうじゃ、確認をするのじゃったら、ワシの名前を教えといた方がよいじゃろう。ワシはバーバランという」


「バーバランさんですね、分かりました。では、先ほどの話が全て本当だった場合、バーバランさんには、コソコソと脱獄などではなく、堂々と正面からここを出て頂きます」


 俺の答えを聞いて、バーバランさんが一瞬驚いたような顔をすると、


「……カッカッカッカ! そうかそうか、正面から堂々と、じゃな。それじゃあ、その時を楽しみに待つことにしようかのう」


 バーバランさんは、ひとしきり笑い終わると立ち上がり言葉を続けた。


「お主のお陰で、久しぶりに楽しいと思える時間を過ごせた。これだけでもお主には感謝せんとな。……とはいえ、少し喋り過ぎたようじゃ。すまんがワシは、お主がもう一度ここへ戻ってくるまでの間、少し体力を回復させてもらうことにする。さすがに魔力が持たんからのう」


「分かりました」

 

 そうしてバーバランさんは「それじゃあのう」とだけ言い残すと、牢屋の奥へと消えていった。


 俺も明日に備えて、藁のベッドへと飛び込む。


 恐らく、バーバランさんのあの様子からして、俺の言葉を信じてはいないのだろう。事実、何十年も前から監獄にいるバーバランさんの身の潔白を証明して正面から堂々と、なんて俺に出来るはずもないしな。


 俺がどう頑張ってもバーバランさんがここを出るには、【テレポート】を使えるのを前提に考えないといけない。


 まあ取り敢えず、バーバランさんの話が本当かどうかを確認しておこう。違ったらそこまでだしな。


 ……そのためには、まずはここを無事に出所するのが今の目標だな。

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