初めての王都
「カカルドさん、やっぱり何かいいことでもあったんじゃないんですか?」
ガタガタと揺れる馬車の中――正確には馬ではなく、人間に害を及ばさないどこにでもいる魔物なのだそうだが――向かいに座るアナザが、もうかれこれ三度目にもなるセリフを言ってくる。
ハッキリ言ってしつこい。それに、何度聞かれたところで変わらない。俺も同じようにこれで三度目になる答えを返す。
「だから、何もないって言ってるだろ」
「そうですか……」
俺が素直に答える気がないと分かったのか、アナザは渋々といった感じで口を閉ざした。
まったく、やっと静かになったか。しつこい男は嫌われるぞ? 俺みたいに。……まあ、俺が嫌われる理由は前世から「キモいから」がほとんどだったのだが。
「ふぅ……」
勝手に暗くなりかけた気持ちをため息とともに吐き出し、俺はちょっとした気分転換も兼ねて窓の外に目を向ける。凄まじい速さで後ろに流れていく風景を眺めながら俺は考える。
やっぱり、第一印象って大事だよな……。もし次生まれ変われる機会があったら迷わず顔はイケメンにしてもらおう。というか本当になんで俺はあの時、女神に顔を普通にしてくれ、なんてトチ狂ったことを言ってしまったのだろうか。
いや、その理由自体は覚えている。たしか、自分がイケメンになると他者を見下すとかなんとかだったはずだ。今思えばなんて下らない理由なのだろうかと後悔をしているわけなのだが。
だが、これについては一つ言い訳をさせて欲しい。俺はあの時、まさか自分の顔が地球での普通、つまり異世界でのブサイクになるなんて思ってもみなかったのだ。更に、あの時は顔の他にも色々と俺の知らないことが多すぎた。
例えば【ギフト】について。俺がこの世界に転生してアースの世界の常識を知るまで、てっきり【ギフト】は一人一つのもので、【ギフト】を三つ持っている俺は特別なのだとばかり思っていたのだ。
そのため、苦労せずにハーレムが築けるだろうと思い込んでしまい、結果的に「イケメンじゃなくてもいいかな」なんていう驕りを生み出すことになってしまったのだ。
もしあの時に将来俺がこうなることを知っていたら、確実にイケメンとなる道を選んでいただろう。
というか、そもそもなんでこの世界にはこんなにも美男美女しかいないのだろうか。俺のようなブサイクが全く――いや、一人いたか。
俺は三日前に出会った女性、ツライさんの姿を頭の中に思い浮かべる。
ブサイクという言葉で思い浮かべてしまったことを心の中で詫びながら、俺はツライさんとの会話を思い返す。
――ツライさんから名前を聞いたあのあと、俺も直ぐに自分の名前を名乗った。そして、あの時は変にテンションが上がっていたということもあり、俺の方から積極的にツライさんに話し掛けたのだ。
コミュ障の俺が仕事以外で自分から異性に話し掛けるなんて、自分でも信じられないことなのだが、その甲斐あってツライさんとは色々と会話することが出来た。
最初こそ警戒はされていたが、俺が心から友達になりたいということを必死に伝えると、なんとか信じてもらえたようで、その後はお互い村から冒険者を夢見て出てきたということで話が合い、約束の時間になるまで互いのことを話し合った。
流石になんで追い掛けられていたのかは聞けなかったが、あの筋肉男が言っていた「雷魔法を使う魔法使い」というのはやはりツライさんのことのようで、ツライさんは自分で【雷】という雷魔法が扱えるようになるギフトを持っているのだと言っていた。
本当ならそのままツライさんと一緒に行きたかったのだが、先にアナザと約束をしてしまった以上仕方がなかった。
だが、別れ際にツライさんが「今日のようにまたどこかでお会い出来る日を楽しみにしています」と言ってくれたので、ぜひ俺も会える日を最大の楽しみにこれからも生きていこうと思う。
「ん?」
俺がツライさんのことを思い出していると、アナザがとても何か言いたそうな顔をしてこちらを見ていた。
「どうかしたか?」
「いや、なんでもないです……」
「そうか。言いたいことがあるなら言ってくれて構わないぞ」
「ああ、はい……」
どうしたのだろうか。アナザにしては珍しく歯切れが悪いな。だがまあ、言わないということはそれほど重要なことではないのだろう。それにしても、またツライさんと会えるといいな。
「はぁ……」
俺がもう一度思い出に浸っていると、アナザが小さくため息を吐いたのが俺の耳に聞こえてきた。
◇◆◇◆◇
しばらく経って、代わり映えしない景色に俺がウトウトしていると、アナザから声がかかった。
「カカルドさん、見えてきましたよ」
「お、マジか」
馬車の窓から外を確認すると、前方には円状に広がる巨大な壁が立っていた。あの壁に包み込まれるように都市が広がっているわけだ。
そうして徐々に近づいていくにつれ、その王都を守る壁がいかに巨大か、そして人間が魔物をどれほど警戒しているのかを実感させられる。
「でかっ」
城門前、やはり見上げるほど巨大な壁は、今まで通ってきた街などとは比べ物にならないほどデカい。巨人に進撃されてもおかしくない巨大さだ。
ふと、空に目を向けてみると、何やら薄い膜のようなものが都市を守るように広がっていることに気が付いた。
異世界ファンタジーによくある、魔法結界とかいうやつだろうか? よく分からないが、恐らく飛行能力を持った魔物対策とかなのだろう。
壁に似合った分厚い鉄製の門をくぐり抜け、街の中に入る。
やはり王都ということだけあって道は石畳でしっかりと舗装されており、両脇にはレンガ造りの家屋が立ち並んでいる。行き交う人々の顔には笑顔が絶えず、人の賑やかさが肌で感じられた。
そんな活気あふれる街並みを堪能しつつ、馬車が進むことしばらく。馬車はある建物の前で止まった。
「ん?」
急に馬車が止まったことを不思議に思っていると、アナザが荷台の扉を開けた。そして、
「すいません、カカルドさん。ここで降りてもらっていいですか」
「え?」
あれ、俺何かアナザを怒らせるようなことしちゃったか?
突然の降車宣言に不安を覚えていると、アナザが更に言葉を続けた。
「ここに宿を取っているんですよ。僕はこのままギルドの方に報告があるので、カカルドさんは先に宿で休んでいて下さい。話は既に通してあるので受付に僕の名前を出してもらえれば大丈夫だと思います」
「……ここ宿屋なのか。何から何まで悪いな」
「いえ、僕がカカルドさんを無理にパーティーに誘ったんてすから、これくらい当然ですよ」
「そうか。じゃあ、お言葉に甘えて先に休ませてもらうよ」
馬車から降りた俺は、改めて自分が泊まる宿屋を見る。
……めちゃくちゃ立派な宿屋だ。ここに泊まるのに幾らかかるかは知らないが、俺のようなE級冒険者が簡単に払える金額ではないのはたしかだろう。だとすれば、この際ありがたく高級宿屋をしっかりと堪能することにしよう。
ほとんどが馬車の中だったとはいえ、それでも旅の疲れがあるのは事実だしな。
「それでは、また」
アナザはそれだけ言い残すと馬車を歩かせて行ってしまった。それを見送った俺は、宿屋に入ろうと扉に手を伸ばし――。
……なんだろう。初めての王都ということもあってか緊張するな。
「……よし、いくか」
アナザという頼れる人物がいなくなり、初めての王都に俺が一人だけという状況に不安を感じつつも、俺は気合を入れて再度扉に向けて手を伸ばし――。
「ねえ、邪魔なんだけど」
――突如後ろから声がかけられる。
「え?」
後ろを振り返ると、そこには冒険者と思われる三人組の女性がいた。
「入らないんだったらどいてくれる?」
「あ、すいません」
俺は直ぐに横に退けるが、どうやらそれだけではお気に召さなかったようで先頭に立つ女性が一つ舌打ちをした。
「ったく。ブス男がここに来るんじゃないわよ」
「や、やめなよ。ヴィオラちゃん。悪口はよくないよ」
「そうだぞ。いつもリーダーに言われているだろう」
「えぇ、でも――」
――バタン、と扉が閉まることで彼女らの会話は途絶えた。
……入り辛い。まあ、扉の前で突っ立っていた俺も悪いとは思うが、だからって人の悪口をその本人の前で言うのはどうかと思う。
「……少し経ってから入ろう。あと、今日はもう休もう」
不意打ちからのストレートによって大ダメージを負った心を癒やすため、俺は部屋に入り次第寝ることを決意する。もう高級宿屋を堪能とかどうでもいい。寝て忘れよう。
◇◆◇◆◇◆◇
「失礼します」
「おう、入ってくれ」
アナザは部屋の主に確認を取り部屋の中に入る。中はそれといって特徴のある物はなく、ただ部屋の中央にテーブルと、そのテーブルを挟むようにソファが置かれているだけだ。
アナザはそのソファに座る部屋の主――ギルド長ブルースに視線を向ける。
「さて、まずは席に座ってくれ」
「はい」
言われた通りにブルースの座る向かいのソファに腰を下ろす。
「早速本題に入ろう。俺はお前の【虫の知らせ】で聞いた通り急いでB級冒険者たちを送り出したりしたが……改めてお前の口から聞かせてくれ。一体何があった?」
「全てお話しします。まずは――」
アナザは【虫の知らせ】で伝えきれなかったカカルドという人物について、そして今までの経緯を話す。
アナザの持つ上級クラスのギフト【虫の知らせ】は、「何か良くないことが起こる」と事前に感じ取ることが出来るのだ。
ここだけ見れば、カカルドの持つ中級クラスのギフト【未来視】の能力に劣るように感じられるかもしれないが、【虫の知らせ】が上級クラスのギフトとして存在する理由は他にある。
その理由とは、【虫の知らせ】の能力が発動時に限り、魔力を用いることで自分が感じ取った不安要素、つまり「何か良くないこと」を特定の人物に伝えることが出来るのだ。
その人物から自分がいくら離れていようとも、その効果は必ず発揮する。これが最大の魅力だろう。
たしかに、この能力が使えるのは【虫の知らせ】の発揮時、と発動条件は限られているが、アナザは今まで何度もこの能力に助けられてきた。
事実、今回もブルースに伝えることが出来たお陰で迅速に物事が進んだのは間違いない。
ちなみに、アナザがパーティーにカカルドを誘った際に「お礼」と称して硬貨の入った革袋を渡したのも、【虫の知らせ】の一つの能力によるものだ。
倒れていた際に、カカルドが漁っていた革袋を警戒し――何か革袋の中に細工をされた可能性を恐れ、アナザは念の為に何も手を付けない状態でカカルドに返品したのだ。無論、そんなアナザの心配は杞憂に終わったのだが。
「……うーむ」
アナザから一通り聞き終わったブルースは、腕を組み眉を潜める。
「僕の勝手な判断で行動してしまったことは申し訳無いと思っています。ですが、王都で唯一のSランクチーム『紫陽花』が抜けた今、このギルドには強力な力が必要なはずです。そうであれば彼を今のうちにこのギルドに縛っておく方が良いかと思われます」
「……」
アナザの言葉にブルースは更に眉を潜めた。
たしかにアナザの言う通り『紫陽花』が抜けたために生じる穴は大きい。しかし、だからといってアナザから聞いたその男を信用出来るかとはまったくの別問題だ。それに――。
「そもそもとして、だ。お前の【ギフト】を疑うわけではないが、本当にその男は最上級クラスのギフトを持っていたのか?」
ブルースは純粋な疑問を投げかける。それもそのはずだ。なにせ最上級クラスのギフトを持つ者なんて、この国でも数えられるほどしかいないのだ。
そして、最上級クラスのギフトを持つ者には皆共通するところがある。それは――圧倒的なまでの強さだ。
当たり前と言えば当たり前な話ではあるが、アナザから聞いた限り、そのカカルドという男からはそういったものが一切感じられなかったのだ。
「……それについては先ほども言った通り、恐らく、としかお答え出来ません。ただ、僕の最上級クラスのギフトでも彼のギフトを見抜けなかったのは事実です。それを考えると、彼も僕と同じく最上級クラスのギフトを持っていると思われます」
「お前が相手のギフトを見抜けないのはあの勇者様だけだと思っていんだがな」
「……あれは別格ですよ」
アナザが力の抜けた様子で答える。
ギフトは一人に三つが普通とされているが、アナザはそれより二つ多い五つギフトを持っている。
しかし、勇者はアナザの倍にもなる十ものギフトを持っているのだ。しかも勇者のどのギフトもアナザには見抜けない――つまり、十ものギフト全てが最上級クラスなのだ。
最上級クラスのギフトが一つあるだけでも化物といわれるこの世界で、勇者はこの世のものとは思えない力を宿している、あまりにも規格外の存在なのだ。
そしてその勇者よりも強いとされる魔王なる存在もいるのだがら、アナザが「勇者」の名前を聞いて脱力してしまったのも無理はない。
「たしかにその通りだな。あれは別格か。……ひとまず、そのカカルドという男については、最上級クラスのギフトを持っているのを前提に考えて様子を見ることにしよう。まだ不明な部分も多い上、ソイツが何処から来たかも分からねぇじゃ――」
ブルースの言葉を遮ってアナザが口を開いた。
「あ、カカルドさんの出処は既に判ってますよ。たしかノキア村という村だったはずです」
「――何? ノキア村だと?」
ブルースはアナザの言葉に思わず聞き返した。ノキア村、という村に聞き覚えがあったからだ。それもつい最近のことだ。
ブルースは自らの記憶の引き出しを探る。
(たしかノキア村は、神託があったとかであの勇者様が向かったところだったよな……。それに――)
「なあ、一つ確認したいんだが、そのノキア村から勇者の仲間になったやつがいたよな?」
「ええ、たしかエクシアという女性の方だったと思いますが」
「それは本当だと思うか?」
「はい? ……本当も何も、勇者の仲間になられた方が実際にノキア村から現れたため、そのノキア村は勇者の仲間を産み育てた村として今後多くの観光客が集まるだろうから、安全を考えて近くにある山賊団を潰せ、と僕に命じたのはギルド長ですよ?」
「あー、それは分かってる。そうじゃなくてだな、そのエクシアというやつが本当に勇者の仲間になるべき存在だったのかと聞いているんだ」
ブルースの問の意図を確かめるため、アナザは声を険しいものとする。
「……どういうことですか?」
「最上級クラスのギフトを持っているカカルドという男もノキア村出身なんだろ? にも拘らず、勇者はカカルドを仲間にせずエクシアという女を仲間にしたわけだ。ということは、そのエクシアという女も勇者の仲間になるだけの力――つまり、最上級クラスのギフトを持っていたってことになる」
「つまり……」
アナザは、ブルースの言わんとすることを察しハッとした表情になる。
「……おかしいと思わないか? 子供がその二人しかいない小さな村から、偶然にもその二人が最上級クラスのギフトを持って生まれるなんてことがありえると思うか?」
言うまでもなく、ありえない。そんな確率は、きっと神の悪戯か何かでもない限り、絶対にありえないだろう。
「……つまりだな、俺が言いたいのは真の勇者の仲間になるべき存在はエクシアではなく、そのカカルドって奴なんじゃないか?」
ブルースの言葉に、アナザは深く考える。
現状カカルドが最上級クラスのギフトを所持しているのはほぼ間違いないだろう。それを考えれば、エクシアが最上級クラスのギフトを持っている確率は限りなく低い。
「……たしかにその可能性は充分に考えられます。ただ、仮にそうだとすれば、勇者は意図的にエクシアを仲間にした可能性の方が高いと思われます」
「ほう? 勇者がエクシアは違うと分かった上で仲間にしたと?」
「はい。勇者のパーティーメンバーを思い出して頂ければ分かるのですが、勇者の仲間は全員女でした。勇者が買った奴隷も、強さを重視するのであれば男の方が何倍も役にたつはずなのに、女でした」
そもそも、「勇者」という桁外れの強さを持っている存在には、本来強さを目的とした仲間など不要なのだ。にも拘らず勇者が「戦力の増加」と称して女性を仲間にしているのは、単に己の欲を満たしたいがために過ぎなかった。
「ハッハッハッハッ、なるほどな。そっちの方が説得力がある」
ブルースが笑って答えると、アナザはムッとした表情で言った。
「……笑い事ではありませんよ。人類をかけた戦いにそういった下心を持ち込みのは人としてどうかと思います」
「ああ、悪い」
ブルースは突如不機嫌になったアナザを見て、勇者の仲間になったアナザの想い人『紫陽花』のリーダーを思い出した。彼女等『紫陽花』は冷徹や無慈悲といったことで有名で、とても男になびくようには思えなかった。
そういった背景も手伝って、『紫陽花』が勇者の仲間に入った時、アナザは大きなショックを受けた。同時に、男に靡かない『紫陽花』の姿勢に憧れという感情も強く抱いていたアナザは大きく失望もした。
それを知っているブルースは、失言をしてしまったと反省する。
因みに、アナザに好意を抱いている『紅蓮』のパーティーメンバーは「まだチャンスがある!」と裏で大喜びをしていたのだが、アナザは知る由もない。
「――話を戻しましょう。それで、カカルドさんについてはどうしますか?」
「そうだな……」
カカルドという男が害をなす人物では無いと分かった今、一度考えを改め直す必要がある。
そうしてブルースは充分な時間考えた後、口を開いた。
「まあ、取り敢えずは様子見だな。完全に安全だとこっちで判断した時は、場合によってはギルドの職員になってもらう」
ブルースの言葉を聞いたアナザは小さく「えっ」と驚きを表した。
「ギルドの職員って、そんな簡単になれるものなんですか?」
「簡単ではないが……まあ、ギルド長権限ってやつだな」
「それなら大丈夫ですね。――では、正式に『紅蓮』のメンバーとして登録してもらうために、明日カカルドさんをここへ連れて来ます」
「そうだな。あとはソイツの実力を確かめるためにも、何か適当な依頼を一つ受けて行ってくれたら助かる。それと分かっているとは思うが、ソイツが最上級クラスのギフトを持っていること、お前の仲間には話すなよ」
「え?」
宿に帰ったら一番に仲間に報告をしようと思っていたアナザは、不意を突かれたように動きを止めた。それを見たブルースは呆れたように笑うと、その理由を話す。
「やっぱりか。お前、前に仲間に自分のギフトをバラされたのを忘れたのか?」
「あっ……」
ブルースに言われて思い出す。
少し前、リーダーであるアナザのことを馬鹿にされた『紅蓮』のあるメンバーが、その挑発に乗ってしまい、ついアナザのギフトを一つ口走ってしまうという事件が起きたのだ。
【ギフト】は言うまでもなく、その人間にとって切り札にもなる最大の能力。中には、同じパーティーメンバーにも自分のギフトを全ては話さない人間だっているくらいなのだ。
この弱肉強食の世界で自分の【ギフト】を赤の他人に話すというのは、最も愚かな行為と言っても過言ではない。
ブルースが懸念したのはソコで、感情の制御が出来ずに重要事項をホイホイと他人に話されては非常に困るのだ。
前科のある仲間を頭に思い浮かべ納得したアナザは、苦笑しながらブルースに答える。
「……そうでしたね。分かりました、この事は僕の胸の内に秘めておきます。……それにしても、僕の事を考えてくれるのは嬉しいのですが、やはりヴィオラには困りましたね」