久しぶりの街
「……さて」
俺は倒れているイケメンを見下ろしながら、ボソリと呟く。
このイケメンがどのタイミングで気絶をしたのかは分からないが、少なからず俺は非道にも気絶をした人間に石を投げつけてしまった。
こればっかりは申し訳ない。
「ごめん……」
俺は気絶をしているイケメンに向けて小さく謝罪の言葉を口にする。
素直にごめんなさいが言えるのって俺の美徳だと思う。
さて、それは別として取り敢えず、この動かなくなったイケメンはどこかに隠した方がいいな。
流石に道のど真ん中で倒れられていると目立ち過ぎる。そう思って、倒れているイケメンの腕を引っ張るが――
「重過ぎんだろコイツ」
全く動かないんだが。この重さでどうやって歩いてたんだ?
見たところ、イケメンは特に筋肉質というわけでもなさそうだ。ということは何かギフトの影響があったのか、それともこの装備に秘密があるのか……。
「剥ぐか」
俺は一瞬で決断する。
どちらにしろ、コイツを動かすには重さの原因だと思われるこの装備を取らないといけないのだ。
このイケメンが何者かは知らないが、変に目立って山賊や魔物に殺されるよりはよっぽどいいだろう。
……とはいえ、これどうやったら剥げるんだろうか。
試しに鎧を引っ張ってみるが、もちろんそれだけでは外れない。
……うーむ。どうしたものか。外し方を一通り考えて見るが、やはり分からない。取り敢えずその腰に付けている丈夫そうな革袋の中身は俺が貰っておこう。
こちらは鎧と違って無理やり引っ張ってみたら簡単に取れた。中身を確認すると、大量の硬貨が入っていた。硬貨の色は金銀同と様々で、中には鎧と同じ白銀のものまであった。
コレやべぇな。たしか銅貨が地球でいうところの百円、大銅貨が千円、銀貨が一万円、金貨が十万円だったよな。この白銀色の硬貨は知らないが、見た感じ金貨だけでも百万円はあるぞ。コレやべぇな。マジやべぇ。
これで入市税が払える。
俺はその中から入市税分の大銅貨一枚をつまみ上げ、自分のポケットに入れる。俺が山賊や盗賊に成り下がった瞬間だ。
そして残りの硬貨は革袋に入れて、元あったように腰に付け直しておく。大銅貨一枚だけならバレないだろう。それに俺の顔見られてないし。
考え方や手口が完全に犯罪者のソレだが、この世界は殺るか殺られるかなのだ。取られたくないのならば、取られないように必死に努力するしかない。
とはいえ、この考え方は元日本人としてアウトだろう。なので俺はバッグに入れていた回復のポーションを取り出しイケメンの頭元に置いておく。
この回復のポーションは買うとすれば大銅貨三枚はいる。本当は売る目的で持ってきたのだが、イケメンにはどうかこれで許して貰うしかない。
さて、と。
俺は立ち上がり、もう一度イケメンを見下ろす。
俺の方の問題――入市税――は解決したが、イケメン本体の問題が解決していない。
まず、イケメンをどうやって動かせばいいのか。何かしら魔法を使えば行けそうだが、誤ってその魔法をイケメンに叩き込む形にでもなったらマズいからなぁ。
「……」
考えるが、何もいい案が浮かばないまま時間だけが過ぎていく。くそ、こうなったらもう最後の手段だ。
「……まあ、しょうがない。うん。恨まないでくれ」
そう呟いて、俺はイケメンに向けて魔法を発動させた。
◇◆◇◆◇
「大銅貨一枚だ」
街の門前に立っている兵士に、俺はポケットから取り出した大銅貨を手渡す。
「お願いします」
「よし。通っていいそ。問題は起こすなよ」
「はい、分かりました」
俺は兵士に軽く頭を下げて門を通過する。
……やっとここまで来れた。長かった。俺がここまで来れたのは間違いなくあのイケメンのお陰だ。ありがとうイケメン。
俺は心の中でイケメンに深く感謝をしながら道の両脇に立ち並ぶ露店を見て回る。
――ちなみにそのイケメンはというと、地面の中に埋めてきた。いや、この言い方だと少し語弊が生じるな。そうだな、しっかりと息が出来るように地面に埋めてきた。
というのも、あの後何をやってもイケメンを動かせなかった俺は、「まあ、見えなければいいか」という結論に至り、土魔法を使ってイケメンの鼻と口だけを残してそれ以外を全て地面の中に埋めたのだ。
一応誰かに踏まれないようにと、イケメンが埋まっている地面の上に、俺が確認のためにイケメンに投げつけた石と回復のポーションを置いてきた。
傍からみたらアレ完全に墓だったな。
それ以外にも踏まれないように、イケメンを埋めた周りの地面を広範囲に渡って水魔法で通れないようにビチャビチャにしたり、近くに分かりやすい落とし穴なんかも作った。
みんなが通る道をグチャグチャにするなんて、と思われるかもしれないが、あの道に限っては誰かが通ることなんてあり得ないと言っても過言ではない。
何故ならあの森には、一年前からあると言われている山賊の大規模なアジトがあり、それを知っている商人や旅人なんかはあの道を絶対に通らないのだそうだ。
――あれ。てか今思ったけど、もしかして俺があの道を通れたのって殆ど奇跡に近いんじゃないだろうか。それとも、誰も通らないから山賊が拠点をどこか遠くに移動したのか。……まあ、どちらにしろ運が良かったな。
俺はそんな事を考えながら異世界の街中をブラブラと歩く。前に一度来たことがあるとはいえ、長い間村の中で過ごしていた俺からすれば全てが新鮮だ。日本にいた頃を思い出す。
そんな感じでダラダラ歩いていると、不意に俺の腹がグーと鳴った。
……本当ならここら辺で朝食を摂りたいところなのだが、なにぶん金がないため何も買うことが出来ない。やはり、まずは目的の冒険者ギルドに向かうことが最優先だな。……取り敢えず、しょうがないから干し肉でも食べるか。
少しでも空腹を抑えるために、バッグから取り出した干し肉を齧りながら俺は冒険者ギルドに一直線に向かった。