プロローグ 天野星太は高校生である
はじめまして、またはお久しぶりです。
何度か続きを考えておらず作品を潰してしまったので、今回はちゃんと結末まであらすじをたてております。
かわいい女の子をたくさん書きたいです。頑張ります。
では、よろしくお願いします。
11月ともなるとだいぶ肌寒い。
特に朝はなおさらで、布団が呪われた装備になってしまう。
そんな寒い朝の町を、一人の青年が走っていた。
上下黒のジャージにランニングシューズという“いかにも”な格好でリズムよくアスファルトを蹴っていく彼、天野星太は高校一年生である。
さらに正確に言うと、清潔感のある黒い短髪のイケメン。そのうえ高身長で細マッチョという抜群のルックスを持ち、おまけに文武両道、家は大きな日本家屋で、お手伝いさんまでいるハイパー高校生である!
さらにさらに正確に言うと、母は病死、父は長らく出張で、妹は事故に遭って以来植物状態。その結果今はお手伝いさんと二人暮らしという、ラノベであれば間違いなく主人公なウルトラハイパー高校生なのである!!
・・・そんなウルトラハイパー高校生がなぜ朝早くから走っているのかというと、日課であるランニングの帰宅途中なのであった。
近所の天心山という山の遊歩コースをぐるりと一周。余裕があっても急がず、少しキツくても諦めず、毎朝かれこれ十年近く走り続けている。
別に星太は陸上部ではない。あくまでもトレーニングとして、このランニングは彼の日常なのであった。
そして、今日もいつも通りそのトレーニングをこなしていたわけだが、星太の目にひとつ、いや一人、いつも通りではないものが飛び込んできた。
住宅街の路地をつなぐ信号すらない小さな交差点。その真ん中で動いている白い髪の女性。
いやまあ、この時間に人と会うこと自体は特別珍しいというわけではない。たまに犬の散歩をしている人とすれ違い、挨拶を交わす程度のことはある。
しかし彼女は大きな茶色いキャリーケースを横に置き、顔の前で大きな紙をハンドルのように右に左にグルグルと回しながら、自分もその場でグルグルと回り、「んー?んー?」と唸っている。
星太は一応十六年と少し生きてきたが、こんなにもわかりやすい『道に迷っている人』を見たのは初めてだ。
服装は緑色のチェックスカートに茶色のブレザー。学校の制服のようだが、この辺りでは見ないデザインである。
どうしても明らかに怪しい人なのだが、毎朝通っている道だ、迷っているのなら案内ぐらいできるだろう。
素通りしてしまうのも後味が悪い・・・というか正直こんなインパクトの結末を知らずにいると一日気になってしまいそうなので、星太は怪しいぐるぐるウーマンに声をかけようと決めた。
「あの…。」
彼女の前で足を止め、好奇心が猫を殺さないように祈りながら話しかける。
「ふぇっ!?」
どうやら相当ぐるぐるに集中していたらしい。彼女は突然話しかけられたことに驚いたのか間の抜けた声を出すと、バタバタと大きな紙をたたんで星太を見上げた。
自然と目が合い、それまで隠されていた顔が明らかになる。
彼女の絹のように白い長髪はサラサラで、寒さで少し赤らんだ柔らかそうな顔には吸い込まれそうな琥珀色の瞳が並んでいる。
奇怪な行動ばかりに気を取られていたが、星太の目の前の女性は少し幼げながらも女性としての魅力がはっきりと主張されているような…わかりやすく言うとめちゃくちゃ可愛かった。
その美少女はどうしたのか、星太を視界に捉えたまま口を半開きにして静止している。星太も星太で想定外な美人の登場に呆けてしまっていた。
ただでさえ音の少ない朝の町で立ち尽くす二人。小鳥のチュンチュンという鳴き声がやたらと遠くに聞こえる。
「・・・あっ、もしかして道に迷っているのかなって思って!迷惑だったらすみません。」
止まった時間に気がついた星太は、慌てて話しかけた理由を説明する。このままでは危うく声かけ事案で新聞に載ってしまう。
もっとも『ジャージ姿の高校生が早朝に回転している美少女に声をかける』なんて週刊誌でもお目にかかれない文面だが。
「えっ、あっ、はい!迷ってます!迷ってます!」
どうやら向こうも気がついたようで、二回も見たままの情報を教えてくれた。
とりあえずその返答を聞いて安心する。「は?キモ」なんて言われようものなら軽いトラウマだっただろう。
しかしまだ声をかけただけである。ここからがスタートだ。
星太はできるだけの笑顔で話を続ける。
「俺この辺に住んでるんで、案内できるかもしれないです。もしわかんなくても交番まで案内するんで…。」
「本当ですか!実は私、今日からこの町の高校に通うことになってるんです。それで下宿先に朝一番で挨拶に伺おうと思ってたんですが、迷っちゃって・・・。」
さっきまでの呆け顔からカラッと変わって、美少女は嬉しそうに自分の現状を話す。
てっきり変な人だと思っていたので、普通の受け答えができるんだなあなんて星太は勝手に失礼な感心をしていた。
なるほど転校生か。制服や大荷物にも納得である。それにしてもなかなかハードなスケジューリングだ。
「朝からだなんて大変ですね、この時間だと始発だとかでしょう。」
「あはは…転校が決まったこと自体が結構最近だったのでバタバタしちゃって、お恥ずかしながらおとといにようやく手続きとか準備が終わったんですよ。」
「なるほど、お疲れ様です。もしかしてこの町で高校ということは天心高校ですか?」
どことなく言いにくそうな顔をする彼女を見て、もしかすると触れられたくない話題だったかもしれないと思い、少し強引に話を逸らす。
天心高校とは星太も通う私立高校で、ここ『天心区』唯一の高校だ。転校と言えばここだろう。
目の前の美少女は目を輝かせると、嬉しそうに返事をする。
「はい、そうです!もしかしてお兄さんも天心高校の卒業生だったりするんですか?」
出身どころか半年ほど前に入学したばかりなのだが…。
話題を変えることには成功したものの、高校生に見られなかったのは少しショックである。
確かに昔から大人びた顔立ちだとは言われていたし、ジャージだからわかりにくいかもしれないが…。
嘘をつく必要もないので、星太は申し訳なさそうに訂正する。
「えっと、俺は天心高校の一年生です…。」
「ええっ!?ご、ごめんなさい!その、すごく大人っぽかったからというか…落ち着いてるから…。」
精一杯のフォローという優しさで胸を刺されながら、手をパタパタと動かして慌てる彼女を「よく言われますから。」と言ってなだめてやる。よく表情の変わる人だ。
彼女はどうにか良い言葉を見つけようとしていたが、やがて星太の表情を窺いながらぎこちない笑顔で話に戻る。
「本当にすみません…一年生ってことは私たち同い年だったんですね。」
「わあ、そうですか。これからよろしくお願いしますね。」
「はい!転校初日にこんなに優しい同級生に会えて安心しました。」
彼女も一年生らしい。先輩だとかだったらさらに傷つ…気を遣うのでこちらも一安心である。
星太は案内に集中しようと、本題の目的地を聞き出す。
「それで、案内なんですけど、住所とか下宿先のお宅の名前とかわかりますか?」
「ああ、地図を見せながらお話しますね。」
先ほどグルグル回していた紙は地図だったらしい。
美少女が指をさす先には赤い丸が書かれており、ここが目的地であると自己主張してくれている。
星太は周りの建物や地名を見てだいたいどの辺りかを確認する。どうやら家のかなり近くのようだ。
「この辺りの…天野さんってお宅なんですけど。」
・・・アマノサン?
非常に聞き覚えのある名前だが、アマノサンとは天野さんのことだろうか?
確かに彼女の指さす先は天野さんの家・・・というか星太の家なわけだが、下宿の話なんて聞いていない。
しかし、何度地図を見ても指す先は変わらないし、星太の家の住所をインターネットの検索欄に打ち込めばまったく同じ地図が表示されることだろう。
やっと目的地へ向かえると安心した美少女の表情と真逆の表情になりながら、星太は未だに疑問符の消えない結論を告げる。
「天野はウチですが…下宿の話とか聞いてないですよ?」
今度は彼女の表情が変わる。喜怒哀楽を混ぜたようなよくわからない顔である。
変に冷静になった星太が人間ってこんな曖昧な表情もできるんだなあ、なんてよくわからない感想を抱いていると、彼女はその顔のままゆっくりと確認を行う。
「えっと、天野…星太さんのお宅なんですけど?」
「・・・天野星太は俺です。」
「あちゃー…。」
いや、本人を目の前にして「あちゃー」じゃないが、たぶん自分でも同じ反応をしただろうなと思い、ちょっと同情する。
予想外の事態に場が凍ってしまったが、お互い嘘をついているような感じでもないし、とりあえず話を進めるために星太から切り出す。
「あの、もしかしたらウチの使用人が何か知っているかもしれないんで、ひとまずウチに来ますか?このまま棒立ちしててもしょうがないですし。」
「そ、そうですね。色々ご迷惑をおかけしてしまいますが、よろしくお願いします。」
どことなくぎこちないやりとりをして、一度家に行くことに決める。
さすがに自分の家が無関係であるとは思えないし、学校に遅刻しても困るので星太も一度家に帰りたかった。
「じゃあ行きましょうか」と引きつった笑顔で星太が歩き出すと、彼女もそれに続く。
「…。」
「…。」
結論が宙ぶらりんになってしまい、気まずい道中である。星太は普段からおしゃべりよりは無口な感じなのだが、この沈黙は訳が違う。
一人で知らない町に来て迷子になり、さらに初対面の相手と気まずい感じになってしまっている彼女のことを思うとなおさらだ。
何か話題がないかと考え、ふと自己紹介を忘れていたことを思い出した。
「あのっ、そういえばまだちゃんと自己紹介してなかったですよね!変な順番になっちゃいましたけど改めまして、俺は天野星太、天心高校の一年生です。」
「わ、わあ!本当ですね!私は白石月花といいます。さっきも言ったように今日こっちに越してきて、天心高校の一年生になります。」
彼女、月花も話題を探していたのか、オーバーリアクション気味に返事をする。
どうにか場を明るくしようと思い、星太はさらに話を続ける。
「えっと、じゃあ月花って呼べば…いいかな。同級生なんだし、口調もタメ口でどう…?」
笑顔で間合いを計りながら、探るように言う。この後のことも考えると家までの道のりで少しは仲良くなっていたほうが良いだろう。
星太からの提案を聞いた月花は少し驚いたような顔をすると、
「その、呼び方は月花で大丈夫・・・ですけど。私はもう少し慣れてから口調を崩してもいいですか…。」
あちゃー。なるほどさっきの月花はこんな気分だったのか。
やってしまった。少し急に距離を詰めようとしすぎたか。しかし今さら「じゃあ俺も丁寧語で話しますね♪」なんて言えないのでタメ口続行である。
「あっ、違うんです!私今まであんまり男の子の友達っていなくって、ちょっと緊張しちゃうというか…。名前で呼んでもらえるのも、とっても嬉しいんです!」
星太の表情が曇ったのを見てか、月花は少し大きな声で照れくさそうにそう言った。
違う、ということは嫌われただとかそういうわけではないらしい、そうであってください。
それに、今は雰囲気を明るくすることが先決だ。月花も気を使ってくれたのだ。このチャンスを逃すものか。
「あー、じゃあ俺の呼び方考えて?」
「そう、ですね。ええと…じゃあ星太さん、なんてどうですか?ありきたりかもですけど。」
「いいね!嬉しいよ。何回目かわからないけど、これからよろしくね、月花。」
「…!そうですか、こちらこそよろしくお願いしますね、星太さん。」
月花も笑ったのを確認して、星太は今日何度目かわからない安心をする。
帰ったら使用人をどうやって絞り上げようか考えながら、少しなめらかになった会話をつないで、二人は歩いていく。
太陽はもう完全に顔を出し、少しづつ気温も上がり始めていた。
ありがとうございました、いかがだったでしょうか。
女の子が少ない?まだプロローグでございます。我が子はみんなしっかり出番を作ってあげたいのです…。
続きも鋭意執筆中ですので、もしまた見かけることがあればどうぞよろしくお願いします。