L,D,S,Q,G
わぉい!
八時半までは頻繁に出ている離島の列車も、そこを過ぎると二十分に一本しか駅に身を寄せなくなる。
今では小鳥が警戒心無く線路に留まっていて、自然と自然の一部として同化している。
そんな中、春の生暖かさにより一つの室内がじわじわと温度を上げる。
汗ばみ、喉が渇き、目は虚ろになっても、ゆったりのため上がる熱に気付くことはない。
集会場の出来事である。
「ハァハァ」
そんな呼吸音が何処からともなく聞こえる。
こんな状態を作った原因は熱だけではない。
「であるからしてー」
学園長の長話である。
時間を要してはいるが、ただ無駄話をしているわけではない。
何かと大きく特殊な教育機関なので、話さなければいけないことが多いのだ。
そして話の速度が遅い。
「なげぇな。もうかれこれ一時間は話してねぇか?」
「何いってんのよ。私達これでも遅れて来てるんだからね。最初からいた人達があんな綺麗な姿勢をキープしてるんだから、我慢しなきゃ。」
辺りをグルっと見回す進。
「いや・・・キープっつうか・・・アイツら・・気絶してるぜ?」
「え?・・・あ」
大半の生徒は目をあけ、座ったまま気絶している。
「と、途中退場とか出来ないのかしら・・・これって・・・」
謎の信念を目にしたベルはこの入学式が早く終わることを願う。
とその時。
「!?」
二人は何かの視線を感じる。
進達を叱った女性教師だ。
(何喋ってんだこのバカどもは・・・静かにしとらんかい・・・)
女性教師を見た瞬間に伝わる。
喋るな!・・・そう言いたいのだという事。教師の周りにはメラメラと変なオーラが出ていた。 多分。
二人はすぐさま前を向き学園長の話をきく。
「えー今から百四十八年前に発見されたエネルギー、バルハースト。これは、発見者エクト=バルハーストから命名されています。このエネルギーは発見された年に人との融合を可能にさせましたねー。当初は後天的に付与されるものでしたが、バルハーストが遺伝子に干渉を及ぼし、今では先天的なものになりました。」
「しかし、全員がそうという訳ではありません。バルハーストは十数年で消滅し、今では限られた人間しか体内に宿してはいないのです。君達は天に選ばれた。入るべくしてこの学園に入ったのです。」
(へぇ、成り立ちの話かぁ。つーか長い時間使ってまだここなのかよ。こりゃまだかかりそうだな。)
「バルハーストの特徴として、身体能力の上昇、血液との融合により現れる固有能力があります。体がその負荷に耐えれる様、力は抑えられていますが、経験と段階を踏むことで徐々に解放されます。我々はこの段階のことをレベルと呼んでいます。世間では、バルハーストを宿す者をレベル持ちなんて呼んでいますな。」
「これからは幾度となく戦闘訓練等があるでしょう。しかし、この学園を卒業したものは大半、能力を悪用する人間を取り締まる職業:ホルトボータ:になります。そのためにも訓練の手を抜かず、レベルを一つでも多く上げてくださいね。君達の未来が輝くことを祈っています。」
その後、学園長の話は三時間続いた。式は次々に消化され、ようやく待ちに待ったエンディングのアナウンスが行われる。
「以上を持ちまして、第六十四回エイデン学園の入学式を終了致します。」
(やっと終わったのか・・・座りすぎて尻が痛い。)
そんな思いをした進と、おそらく後半寝ていただろうベルは集会場を後にし、帰りの列車に乗る。
「そういえば進って寮暮らしなのよね?あそこって少し学校と遠くない?」
「あぁ、あれは中学の時の寮だよ。卒業してすぐには住むとこ見つけられないだろうって、そこのオーナーがまだ居させてくれてるんだ。」
「へぇーそう。」
「まぁ明日からは、エイデンの寮に住むんだけどな。」
「校舎の離れにあるとこね。それなら私と一緒よ。なんなら明日一緒に登校しない?」
「そうするか、またパワー要員が必要かも知れないしな。」
ムッとするベル。その拳は強く握られていた。
列車の中で呑気に外を見る進の頭は、後に腫れる。
次の日の朝
支度を終え、オーナーに挨拶済ませた進は、待ち合わせ場所である学園行きの駅に着く。
そこには、同じく支度を終えたベルが待っていた。
「おはよー進」
「おう、おはよう」
(朝から元気だなコイツは。そんで今日は俺より早いし。)
二人は列車を経由して学園に着く。
(昨日とは違って、遅刻しないと気が楽だな。)
そんな事を思っているのか、今日は調子が良さそうな進とベル。
二手に別れる道を集会場ではない方へ直進し、校舎へ向かう。
「うわでけーな・・・」
「遠くで見たときも思ったけど、目の前にすると改めて凄いわね」
およそ門ではないかという大きさの扉をぬけて、人でごった返すエントランスにある張り紙を見る。
教室の案内表である。
「人が多いな。全然見えないんだか・・。えーと教室はどこかなーと」
自分の教室を出席番号で探す進。
「あー見つけた!」見つけると同時に指をさし、叫ぶベル。
「ねー見て!見て!私Sクラスだったわよ!」
「まじかよ。もう見つけたのかよ。」
指された方を見た進はこう言う。
「あ、俺もあった。」
「え?どこ?どこ?どこにあるの?」
「ほれ、あそこ」
進の指さす方向を見るベルは驚愕する。
「え!?アンタもSクラス!?」ベルの出席番号の近くに進の出席番号があった。
「なんでよ!?私実技試験トップだったのよ!?なんであの非力なアンタが私と同じなのよ!」
「まぁ俺実技はドベだったけど、筆記はトップだったからな。」
「え・・・?アンタ頭良かったの?・・・以外だわ。」信じられない物を見た、そんな顔をするベルに対して進は呟く。
(コイツにだけは言われたくないな)、と。
「ちなみに実技はドベ、筆記はトップの俺と、実技トップのお前が同じクラスっつう事はつまり・・・テメェは筆記がド・・・ ブフォア!!」
勢いよく・・・殴られた!!
「まぁいいわ・・・アンタも少しは出来るって事ね・・・Sクラスおめでとう・・」
「何か勘違いしてるようだが、Sクラスってのは真ん中のクラスだぜ?」
「え?・・・」
クラスは上からL,D,S,Q,G,とある。
(とことんバカだなコイツ。)
ドタバタな二人が全く浮かない。そんな人混みを通り抜け、進とベルは自分達の教室へ向かう。
はぉい!