扉という門番
きぉい!
風が木々がを揺らし、それに喜びで答えるように木葉も自身の揺れで小さな風を起こす。
その近くの巨大な箱の中では低音が響く。外観の大きさの割りにそれ以外の音はしない。
第六十四回エイデン学園入学式の様子である。
開会式からは四十分程経っていて、式次第は三つを消化した後だった。
現在、第八代学園長式辞の真っ最中。
床に整列した椅子に、およそ作法やマナー等の入門書でも読んだのではないかという綺麗さで座る生徒達。ただ綺麗というだけではなく、大勢の生徒が学園長の話に耳を傾け、説法を解かれてるが如く真剣に聞き入る。
物音一つ立てられない、そんな空気が会場を包む。これら全てが当然だとばかりに目をつむり壁際に立つ教師陣。
そんな中、学園長が立つ壇上とは対極にある大きなメイン扉が軋み始める。
キシキシッ 式辞以外の音は存在しない空間に、突如として現れた異音。静寂を保っていた生徒達も違和感を感じたが、集中力を切らさない。
そして構わずマイクを通し自分の意を伝える学園長。
「う!・・ぐ!開かねぇぇぞ!この扉!」
「もう!アンタ男でしょ!?しょうがないわね、どきなさい!」
キシキシギッ! そんな動じない人間を試すように、さっきより奇音を奏でるメイン扉。
それに呼応するように体をムズムズさせたり、息を大きく吸って吐き出し始める生徒達。集中力が揺らぐ。
「えー君達は・・・えー・・・」
そして目の前の光景に気を取られたのか、徐々に話すペースが崩れていく学園長。
「あれ・・・結構重いわね!」
「ほら、お前も開かねぇじゃん。」
「開くわよぉ!こんのののののぉ!」
この異変に収拾をつけようと、壁際にいる教師陣がメイン扉へ向かおうとした。
その時だった!!
ギガゴンッ!!
軋みをあげていた扉がこれまでより大きく音を立て、とうとう開く!
これには、たまらず生徒達も後ろを振り返る!!
学園長は話すのを完全にやめた!!
教師陣は唖然!!
何事かと見つめる生徒からは、逆光でシルエット状になっているものの、二人の人間が確認できる!!
そしてシルエットが口を開く!!
「はぁ~やっと開いたぜ~ かたすぎるだろ~この扉ぁ!」
「あんた手伝ってる様に見せてなんもやってないじゃない!あたしが頑張って開けたんだからね!!」
「ま~開いたんだから良いじゃねぇか。二人の手柄ってことだな」
「も~!貸しだからね!」 ベル達である。
扉という隔たりを無くし地上と下界が繋がったようだ。
彼らの長い旅路はここで終わる。
しかし、まだ彼らは知らない。
式中のメイン扉は使用禁止であるということ、遅刻者用の入り口は・・・また別にあるということを・・・。
ここで一人の女性教師が進達の前に立つ。
「・・・あれ?」
ここで地上との空気差に気付く。
教師の顔を見て察する。 コイツ・・・怒ってる!
教師は怒っている。式典をぶち壊されたこと、遅刻をして来たこと、遅刻者用の案内を見ないこと、空気差に中々気づかないこと、その他。
教師は二人を追い出し、扉を閉め、自らも外に出た。怒っているので思い切り閉めようとしたが、学園長のそれはやめてという視線を感じ取り、静かに閉める。
覚悟はしていたが、とうとうその時が来たと怯える二人。
ー説教の時間だー
「お前ら・・式中にこの扉を開けるとはどういうことだ?・・おかげでめちゃくちゃだ」
進は思ったこの人は間違えている。ここは訂正しなければならないと。
「俺達じゃない!・・・先生!・・・扉を開けたのは・・・コイツです!」ベルを売る
「ちょ!?ちょっと!何アンタ逃げてんのよ!さっきかたすぎるとか言ってだでしよ!!」
「へー手伝ってる様に見せてなんもやってないじゃないって言ってたの誰でしたッけー?」
「あーら?それでも二人の手柄だったわよねー?」
罪を擦り付け合う二人に対し、怒りが込み上げる教師。
「いい加減にしろぉーい!!」
二人の頭は大きく腫れた。
「遅刻は別に罰があるから今は何も言わないでやろう。しかしなんだ!見たところ仲が良い様だが、少しは相手を庇わんか!」
目をぱちくりするような顔の二人。
「なんだよ、そこで怒られんのかよ・・・素直に聴いてりゃよかったぜ・・・。」
「何よ!アンタが言い始めたんじゃない!」
小声でまたケンカを始める。
しかし、教師の目は厳しかった。またケンカしようものなら二度目の鉄拳が来そうだった。
「まーでも!遅刻したのは俺のせいなんだよ!アハハ!」
「いやー!彼がいなかったらここまでこれなかったわよ!アハハ!」
なりふり構わない姿にもはや説教する気など起きなくなった教師は行動を次に移す。
「はぁ、もういい。この扉はな、内側に絵が描かれていて、それ自体が装飾品なんだ。入学式や卒業式等では、これを背景に行うのが伝統なのだ。
それだけじゃない、開けるときは古い立て付けということもあって甲高い音がする、故に式中で開けることは禁止されている。」
そうだったんだ・・・とっても迷惑かけちゃってた・・・私
落ち込むベル。
やべ、聞いてなかった・・・
落ちこ・・・聞いていない進。
「まぁ遅刻者がいると分かっていながら、こういう事態を想定しなかったのはこっちの落ち度でもある。互いに次から気を付けよう。いいな!」
厳しくも愛のある指導に教師の威厳を感じ、声を揃える二人。
「はい!」
「よし!それじゃあ式に参加しろ!」
「はい!」
「覚悟しろ!学園長の話はかなり長いぞ!」
「はい!・・・え?」
テンションが下がるのを必死に抑え二人は集会場にはいる。
遅刻者用の扉で・・・。
まぁい!