俺の名は・・・か
くぉい!
空は青く、海は波を小刻みに起こす。カモメが今日と言う日を祝福するかのようにクェクェと鳴く。
そんな情景を横目に、エイデン学園に向かう列車の中はとても
しんみりしていた。
いや、してほしかった。
「ギャハハハハハ」 鉄塊の中で響く少女の声。
彼女は一瞬にして冷静を取り戻し、目の前にいる少年をチラッと見る。
何笑ってんだよと思いながら少年も目を合わす。
「ギャハハハハハ ハーッハッハハハハハハハ!!」
思い出したかのようにさっきより笑う。お腹を抱えて笑う。脚をバタバタさせて笑う。
「おい、お前今、一瞬我慢しようとしたな?その気遣いが余計に腹立つんだが。」一瞬とはいえ、チャージした分だけ笑いは増幅する。
(そもそも何でコイツ笑ってんだよ。てかよく酸素持つな。)
最初は笑われたことに驚いたが、笑われ過ぎたため不快に思い、更に笑われたため、徐々に違うとこへ関心がいく。
そして、少女の口から大笑いの燃料が明かされる。
「だっ!だってぇー! 名前! さぁ!かぁ!まぁ!きぃ!しぃ!ん! っだってーぇ! ひゃひゃひゃ」
(コイツ笑い方キモいな。)
最早笑われていることなどどうでもよくなった少年、もとい進。
「あなたどこ出身よぉっひっ!」笑いながら、笑い泣きで目尻に追いやられた涙を指で拭う。
「あーそう言うことか。確かに珍しいっちゃ珍しいな。昔は、よくある形式だなんて話を聞いたことあったけど、自分の名前だしそんなに違和感はなかったぜ」
引っ張られた割には少女の壊れた理由が大した事なく、何故か少し肩透かしを食らった。変にハードルが上がっていたのか、笑われた時間が長すぎたため感覚が馬鹿になったのかは永遠の謎。
「坂巻って! じゃばのば みたいな名前じゃないっ!」微かに笑いながら馬鹿にしている。しかし、さっきのに比べればこんなもの笑っている内に入らない。そして進は思う。じゃばのば君に罪はないはずだと。
「まぁ周りから浮かない名前っていうのは良いかも知れないな」
最早怒るなどと言う感情は暫く思い出せそうにない。
しかし、じゃばのば君に罪はないはずだ。
「ふっふーん。ジュゼル=ペン=ベル 可愛い名前でしょ!」どや顔で腕を組ながら言う。
「あぁ良い名前だな・・・・・ペン・・・ぷっ」
ペンという間抜けな響きに吹き出す進。
「ちょ、ちょっとー!そこ取らないでくれる!普通ベルの方取るでしょうがぁ!」 少し顔を赤らめながら両手の甲を腰に付け、叱る少女もといベル。
さっきまでと立場が逆転したのも、ベルの感情を逆撫でした原因であろう。
「悪かったよ」そう微笑むと互いに目を合わせ、クスりとする。
「あはははははは」
互いに笑い合う微笑ましい光景だ。そして彼らは心の中でも通じ合う。
(さっきまでお前が笑ってたのに、今度は俺の方が有利になっちまったなぁ。これこそ笑っちまうぜ!)
(さぁ!かぁ!まぁ!きぃ!しぃ!ん! ぷっ!)
通じ合ってはいなかった。
「はぁ・・・」ため息をつく進に対し、まだ笑っているベル。
「もうやめよう、こんなことは」さっきまでとはうって変わる雰囲気を出す進。 まだベルは笑っている。
「な、何急にしんみりしちゃってぇ」暗い進に砕けた感じで話す。
しかし!!次の一言でベルの笑いは止まり、涙の意味が変わる。
「俺達・・・入学式に間に合わねぇよ・・・」
現実逃避していたベルの顔は青ざめる。無理にテンションを上げていたベルの表情は・・・青ざめる。
「うぅわぁーん! なんでよぉー!間に合う時間に起きたのにぃー!」
(えぇ・・・俺、遅めの時間に出たぞ・・・。コイツ俺より後に来たよな・・・?それで間に合う時間って・・同情出来ねえな・・・。)
常に温度差を保ちながら、二人を乗せた列車はとうとう巨大な離島を真下に見下ろす!!
それは一つの町を優に包む程の大きさであり!!周囲を木々の数々、いいや!!森や樹海と言っても過言ではない力強い緑が被っている!!
そして象徴すべきは!!島の中央にお城ではないかと言う位にそびえ立つ校舎だ!!
校舎は三つに別れていて、渡り廊下の様なもので繋がっている。
校舎の離れには、巨大な島の中にいる生徒全てが入れる集会場!!運動やイベントなども行う競技場!!そして生徒達が回りを巻き込まないように闘えるバトルフィールドなどかある!!
この迫力に遅刻が決定している二人の胸も高鳴る。
「うわぁー。ねぇ!進! 見てみて!凄い!大きいよ!」
無邪気にはしゃぐベルを見ながら、自分の名前がさりげなく呼ばれている事で少し嬉しそうにする進。
「何ニヤついてんのよ! あっ!あれ見て!あれ虎ちゃんじゃない?」
「そうか、虎・・・虎!? おい、そんなのも居んのかよ」
虎につられて窓の外を覗き見るも、その景色の壮大さに魅了される。
「ここか・・・一体ここでどんなことが起きるんだろうな・・・」
(いつもそうだ。俺は面倒くさがり屋だが、自分では想像出来ない出来事に直面すると心が高まっちまう。)
進の顔が凛々しくなり、鋭い目線は校舎に向けられる。
そこに待つ強者を睨む様に。
そして列車は、巨大な離島の小さな駅へ静かに身を寄せる。
プシューッと空気の抜けた音を出し、列車の扉が開く。
「いやー!やっと着いたかー!ずっと座ってんのも疲れんなー!」所々静かだった進は、溜まった陰気を解放するように背筋をピンと伸ばした。
そんな進が放出した陰気を吸い取った様に、ベルは背筋を丸め、両腕を前に出し、内股の姿勢でドンヨリとする。
「うぅ...」
「どうした?着いたかんだから喜べよ」
「これだけ遅刻してるのよぉ!怒られるの決定なのよぉ!喜べないわよ~ もう休んだ方がマシかも・・・」
(笑って怒って泣く、コイツ忙しいな。
間違ってもコイツの感情でだけは働きたくない。)
「まぁ別に死ぬ訳じゃ無いんだ。どうせ怒られるなら早めにッてな!ハハハッ!」
(コイツこんな元気だったっけ・・・まぁいいわ・・・)
進の嫌がらせを無駄な前向きさだと捉え、二人は集会場に向かう。
集会場までは舗装された校舎行きの道を歩き、後に二手に別れる場所を左手にまっすぐ進むと着く。脇道には木々が生い茂っているが、舗装されている道中には、飲食店やプールなどがある。
「ちょ、ちょっと遠いな・・帰るか・・はぁ」
「さっきまでの元気はどうしたのよ!もう少しで着くわよー」
進の足が棒になっている。進は肉体的、ベルは精神的にボロボロになりながらようやく大きな扉の前にたどり着く。
「ここか・・・」
「開けるわよ!」
こうして文字通り、彼らによって新たな扉は開かれる。
がうぉい!