三日月と共に
――ああ……。
少し湿気たベッドの上であなたは右手で私を抱きしめる。私はその優しさに包みこまれるようにして両手であなたを触る。
――いつまで……。
こうしていられるのだろう。
――できるなら……。
いつまででもこうしていたい。
「明日、必ず帰ってくるから」
嗅ぎ慣れた煙草の匂いのする息を細く吐きながら言う。
「分かった」
目は合わせない。
目を見てしまったら嘘だと分かってしまうから。
「帰ってきたらさ」
続けてあなたは言う。
「この家でさ、子供を作って釣りでもしながら暮らすんだ」
「……それで?」
「それで? そうだな、川から帰ってきたら美味しい料理を作ってくれてるだろ。それでも一緒に食べようかな」
「イヤよ。そんなの」
「嫌か」
「私も一緒に連れてって」
「そうだな、じゃあ三人で一緒に釣りに行ってそこでサンドイッチを食べよう」
「うん」
「紅茶も一緒に持って行ってさ」
「うん」
「おやつにはファッジでどうだ」
「うん」
「食べ終わったら俺のかわいい奥さんとかわいい子供は二人で楽しく川辺で遊んでるの。俺はそれを眺めながら一服しながら釣りをするんだ。時々ファッジを口に放り込みながら。
素敵な未来と思わない?」
「……うん」
それなら。
「だったらさ」
約束して。
「必ず」
帰ってくると。
「帰ってきて」
「……ああ」
気づけばあなたに這わしていた両手は、思いの強さと比例するように握りしめていた。
「馬鹿野郎。俺が約束破ったことあるかよ」
「むしろ守ったことがない」
「そういわれればそうだな」
自分で言ったことにはにかみながらまた煙を吸い上げ、さらに言った。
「じゃあこれが最初の守った約束だ」
「必ずよ」
「ああ。だからひとつ俺のお願いを聞いてくれよ」
「何よ」
「待っててくれ」
あなたのお願い事はたったそれだけの言葉。でも、それだけで十分だった。
「分かった」
あなたの吐いた白い息は天井に着くと霧散し消えていった。
お読みいただきありがとうございます。
感想などくださるとしっぽふりふりしながら嬉しがります。でも拙い文章なの分かってるし絹ごし豆腐メンタルなのであまりいじめないでね。
ついったーしています。
よかったらどうぞ。
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