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くちびるに溶けたチョコレート

「ねえスミちゃん、今日ってバレンタインじゃない?」


 ソファーで寝転がって漫画を読むスミナの傍に、手を後ろに回しているユキホが、そう言いながらやってくる。

 いつもの目が据わったにこやかな表情で、彼女はスミナの隣に座った。


「んー、そうだっけか」


 漫画を座面に置いて、モソモソと身を起こしたスミナは、シンプルな黒ゴスロリを纏うユキホにくっつく。


「だからスミちゃんのために、これを注文しておいたわ」


 そう言ってユキホは、手のひらに収まる程度の大きさの、長い小箱をスミナに見せる。


「口紅なんか要らねえぞ?」


 表面に描いてある絵は、どう見ても茶色い口紅にしか見えない


「これはこういうチョコなのよ、スミちゃん」

「ほーん。そんな変わり種があるんだな」


 箱の中身を出したユキホはその蓋を取ると、口紅型のチョコレート容器の底をひねってチョコレート本体を出す。


「早く食わせろよ」

「うふふ。ちょっと待ってね」


 彼女はおもむろにそれを自分の(くちびる)に塗り、スミナに顔を近づける。


「ほら()めて、スミちゃん」

「おっ、おう」


 少し困惑したスミナだが、おずおずとユキホの唇に舌を()わせる。


 付いていたチョコを彼女が全て舐め取ると、


「お、うま――、んむっ!?」


 ユキホは不意にスミナを優しく押し倒し、その唇を塞ぐ。中で舌をうねうねと絡ませて、ユキホもその甘みを味わった。


「……ちょ、ユキ……ッ」

「美味しいわね。スミちゃん」


 顔を真っ赤にして息が荒くなっているスミナに、楽しそうな様子でユキホはそう言う。


 スミナの息が整うのを待って、


「もっと欲しい?」


 ユキホは蠱惑的な表情でスミナを誘う。


「……おう」


 (とろ)けた表情をするスミナは、そう言ってユキホの背中に手を回す。


 それから、チョコレートが全部無くなる夜更けまで、二人はその味を存分に堪能(たんのう)した。

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