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白亜の心根1

 クソみたいな変態の家から運良く逃げ出して、小さな町にたどり着いたアタシは路地裏で頭の無い死体を見つけた。

 死体を見たのはこのときが初めてだった。けど、腹が減りすぎて死にそうだったアタシは、怖がるよりも先に、そいつらが何か食い物を持ってないか、と思って、その上着の裏を探っていた。

 あんまりにも夢中になっていたアタシは、土砂降りの雨が地面を叩く音に紛れて、ゆっくりと近寄ってくる人間の気配に気がつかなかった。

 その人間の黒いブーツが視界に入ってきて、アタシはやっと気がついて振り返ると、自分の左腕に熱さを感じた。

「――ッ」

 その箇所に目をやると、身体に巻いていたボロ布が切れて、その下から血がドクドクあふれ出していた。

 放っといたら多分死ぬ勢いで出てるそれを見ても、アタシは不思議と怖いとは思わなかった。多分脳みそに栄養が足りてなくて、ちゃんとした判断が出来なかったんだと思う。

 そんなぼうっとした頭でアタシは、アタシを切りつけたそいつを見上げた。

「……?」

 まず、見た感じでその人間は女だと分かった。そいつが着ている黒い雨ガッパの下から、フリフリが付いた黒のスカートが見えていた。

 手にでっかい包丁を持ってるせいもあって、アタシはそれをなんかの化け物みたいだと思った。

「女の子……?」

 意味が分からない、とでも言いたげなその顔を見上げると、髪の色が雪みたいに真っ白だったけど、据わった黒い目は泥水みたいに(よど)んでいる様に見えた。

 そこで身体に力が入らなくなって、アタシはうつ伏せに倒れた。

 アタシは(ひど)く現実離れしたそいつの見た目から、お迎えに来た死神なんじゃないか、と今になって考えると頭の悪そうな事を思っていた。

「貴女の目、綺麗ね」

 そんなアタシの『死神』が(そば)に屈んで、アタシの顔を見るとそんなことを言ってきた。

 この薄気味悪い赤目を、綺麗、だと言われたことなんて、これまでただの一度も無かった。

「ねえ貴女、死んじゃうの?」

 見りゃ分かるだろ。からかってんのか、とは思ったけど、そいつにそんな様子は全然なかった。どうやら真剣に訊いてきてるらしい。

 このままならな、とアタシが答えると、そいつはアタシへの劣情や打算も無しに、助ける、なんて言ってきたと思ったら、腕の傷に応急処置をしはじめた。

 これまでアタシは、変態共からそれ以外のものを感じたことが無かった。でもこいつからは、なんだか柔らかくてむずがゆい、だけどどこか心地良いものを感じる。

 処置が終わるとそいつはアタシを優しく抱き上げて、知り合いの医者の所へ連れて行く、と言って歩き出した。

 抱きかかえられる事は今でこそ当たり前になったけど、このときのアタシにはこれ以上に無いほどの幸せだった。


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