早くも正体ばれそうです
早朝。カーテンから溢れた太陽の光が暗い部屋に一筋の光の道をを作った。それと同時に、部屋のドアがノックされた。
俺が返事をしようと、座っていたソファーから腰を上げる。だが、俺の返事も聞かずに、メイドが部屋に入ってきてしまった。
「もうお目覚めでしたか、真央様。朝食の準備が整いました。今から食堂までご案内致しますので、談話室にお集まり下さい。」
「あ、はい。わかりました。」
「それでは後ほど。」
そのまま後ろに下がると、部屋を出て行った。
昨日の夜、伊耶那岐に気絶させられてから目がさめると、既に夜明けだった。特にやる事もなかったので、部屋に付いているシャワーを浴びた。石鹸は元いた世界と同じで三つに分かれていた。しかし、どれも石鹸としては珍しい匂いがした。決して嫌な匂いではないのだが、初めて嗅いだその匂いに、少し驚いた。
シャワーを終えて外に出ると、着替えがない事に気付いた。仕方ないので、魔法の練習も兼ねて、服を綺麗にする為に『クリーン』という魔法を掛けてみた。予想以上に鈍っていたので少し手間取ったが、慣れて来ると簡単に使える様になった。
こりゃ、他の魔法も1度使っておくか。
その後は服を着て、そのままソファーに座ってボーとしていた。
なので、自分のお腹が空いている事に気付いたのはメイドが来てからだ。
談話室に行くと、すでに他の9人は集まっていた。一応待たせてしまったので一言謝ったが、武志しか反応してくれなかった。別に辛くなんかないんだからねっ。
メイドに案内されて食堂に行くと、そこには豪勢な料理が机の上にずらっと並んでいた。
「うわ〜。」
思わず、誰かの口から感嘆の声が漏れる。テーブルの上には、1人づつにスクランブルエッグ、ハム、パン、サラダ、そしてテーブルの真ん中に骨つきのチキンとサンドイッチが盛られていた。
両サイドに6人、4人、上座に1人分と椅子が設けられていた。男子は昨日と同じ並びで座り、女子達も各々の順番で座っていく。また俺は端っこだ。落ち着くから別にいいけど。
席に座ったのはいいが、料理が豪華過ぎて手が出しずらい。全員が、誰か1人食べるのを待っている状態となっている。
「おやおや、我が宮廷のコック達の料理はお口に合いませんでしたかな?」
突然、扉からコスおが入ってきた。全員が驚きの目を集中させる。しかし、当の本人は気づいて居らず、そのまま上座の椅子へと座った。
「私もご一緒してよろしいかな?」
2個目の質問で、やっと状況を飲み込めた。
「あ、あの。別に構いませんが。」
何とかブレ高1、もとい、大河が応対する。コスおはそれに納得したかの様に頷き、自分の料理をここへ運ぶようにメイドに命じた。
「はっはっは。そう身構えずとも良い。余は今後の予定について聞きにきたのだ。気にせず食事を続けてくれ。」
「あ、はい。どうも。」
気にしなくていいと言われても、昨日会ったおっさんに見られながら食事をするとなると、それは無理だ。ただでさえ料理が豪華なのだ。そうそう食事が喉を通らない。俺以外は。
全員が、弱々しくご飯を口にしている中、俺は自分の前に用意されたご飯を食べ終え、骨つきのチキンとサンドイッチに手を出し始めた。
それを愉快そうに見てくるコスお。正直、気持ちが悪いが無視している。
俺以外のやつらが食べることを止めた頃、委員長が突然口を開いた。あれ?こいつの名前何だっけ?
「王様。あの。」
「ん?どうした?」
コスおは、食べていたサンドイッチをお皿に置くと、委員長に耳を傾けた。
「私達はそろそろ、騎士団長に稽古をつけて頂く時間なので、これにて失礼させてもらいます。」
「おお、もうそんな時間であったか。余がいたせいで、少し長居させてしまったな。
何か必要な武器などかあったら、遠慮せずに頼ってほしい。余の持てる全ての力を持ってそなた達を勇者にしてみせる。」
「お任せてください!王様!僕たち立派な勇者になります。」
コスおの心配を打ち消す様に、大きな声で返事をするイケメン。あれ?こいつの名前も忘れたわ。イラついたことは覚えてんだけどな。
「うむ。そう言ってくれると余も安心できる。それでは、頼んだぞ。」
「はい!」
突然立ち上がり、イケメンが勝手に答える。お前は勝手に任されるなよ。巻き込むな。
全員が立ち上がり、部屋を出て行くので、俺も急いで後ろを着いて行く。
もう少し食べたかった・・・。
部屋を出るとメイドがおり、騎士団長の所まで案内すると言うので、例によって後ろを着いて行く勇者一同。
しばらく歩いて行くと大きな庭に出た。その庭は一面が草原で、障害物になるような物は一切なかった。
「ここは屋外訓練場でございます。この訓練場においては、何をなさっても構いません。この訓練場を焦土に変えたとしても、問題はありません。いつでも自由にお使い下さい。
もうそろそろ、騎士団長様が来られるので少々お待ちください。」
どうやら、ここは庭ではなく訓練場らしい。城の内部にある庭にしては、華がないと思った。各々が辺りを見回したり、準備運動をしたりしている。俺は面倒くさいのでしていない。
数分後、鎧に身を包まれた男が近づいてくるのを感じた。そいつは自分の体に魔法をかけているらしく、足音と気配を完全に消していた。おそらく、こいつが騎士団長だ。俺たちを試す為に、何か考えての事だろう。なので、俺は気づかないフリをして、その男が動くのを待った。周りのやつらを見るが、気づいているのは俺だけのようだ。一部の女子達は呑気に話をしている。イケメンと。
ちっ、ちっ、ぺっ
鎧の男のがだんだん近づいて来て、俺たちから見えない位置で止まった。そこで、1人の男子がその男がいる事に気付いた。あの、男の娘(仮)だ。そいつはなぜか、さっきからずっと俺の事をチラチラ見てきている。気づいてないと思っているのだろうか。
しかし、鎧の男の人に気づた途端、突然立ち上がりいつでも回避できる体制をとっている。何者だ?あいつ。
彼の事が気になり、近づこうとしたその時だった。鎧の男は魔法の詠唱を始めた。俺は念のために、魔法防壁をいつでも展開出来るようにする。鎧の男が魔法を発動する瞬間、イケメンがそれに気付き、声を上げる。
「っ!全員伏せろ!」
彼の声が出た瞬間、火系魔法が放たれた。しかし、その軌道は俺たちの頭上を越えていたので俺は伏せなかった。他の奴らは男の娘(仮)以外、全員伏せていた。
「な、なに⁉︎」
「なんだ⁉︎敵か⁉︎」
伏せていた奴らは全員がパニックに陥っていた。
「みんな落ち着くんだ!今、バラバラになったら危ない!
そこの、鎧の男!何の真似だ!」
イケメンが周りの奴らを落ち着けるのと同時に、鎧の男に敵意を向ける。
鎧の男に視線が集まり、伏せているやつらはそいつから離れるように動き、イケメンの所に集まっている。
本当に馬鹿な奴らはだと思う。
一箇所に集まったら、どうぞ狙って下さいと言っているのと同じだ。一瞬でパーティー全滅だわ。
鎧の男は俺らの方へ近づいて来て
「わっはっはっは!すまない、すまない。驚かしたようだな。どうか許してほしい。」
豪快に笑ってきた。
「・・・・?」
一箇所に集まった奴らは全員、頭にハテナが浮かんでいた。自分達の命を狙ってきたと思っていた奴が、敵意を無くして笑いながら近づいて来ているのだ。処理落ちしているのだろう。
「紹介が遅れた。私はセンドラル王国騎士団長のマハウス・モロリドだ。よろしく、勇者諸君。」
どうやら本当に騎士団長だったようだ。一目見ただけでも、実力はそこそこある。鍛え上げられた筋肉は鎧を着ていてもわかる。魔法を使用した際、隙となりうる詠唱の部分を最短で済ましていた。人間がこれをするには相当の訓練と実践を積んできたのだろう。
騎士団長のマハウスは俺たちを一通り見渡すと、何かを納得したかの様に頷いた。
「・・・ふむ、3人か。その内の1人は詠唱前、1人は詠唱後に気づいておったな。つまりあいつか・・・」
何かブツブツ喋りながら、考えをまとめている。やっと理解が追いついてきたイケメンとその他は立ち上がって何かを話していた。しかし、目線はマハウスからは外していない。
「そこの顔のいい勇者よ」
「は、はい。」
突然、指をさされたイケメンは戸惑いながらも、反応を返した。
「始めて戦闘するにしては、良い動きをしていた。私の魔法にいち早く気付き、周りの仲間への指示、そして私への警戒を仲間に諭させた事。戦闘などしたこともない子供達と言う割には面白い逸材だ。」
「そ、それはどうも。」
突然褒めらた事に対し、反応が少し鈍い。あいつ、まだ少し整理できていないな。周りの奴らはイケメンの事を凄いの何のと褒め讃えている。
本当に逸材か?あいつ。
「だが、もっと気になるやつが2人くらいおるのだが。」
騎士団長の言葉にイケメンとその他は静かになり、耳を傾ける。
「そこの帽子の少年よ。どうして、私の詠唱に気付いた?」
「っ!」
まさか、自分が指名されるとは思いもよらなかったのか、凄い動揺している。なんか、かわいい。
「えっ、あ、あの、その、えーと、あの。」
なんとかして、意思を伝えたい気持ちは伝わってくる。しかし、人の心を読むこと出来る人がここにはいない為、彼の意思は誰にもわからない。
「そう焦らずとも良い。急に聞いてしまってすまなかったな。」
どうやら、彼の性格を察したのかマハウスは話しを終わらした。そして、今度は俺を指でさし、先程より低い声で質問をしてきた。
「失礼な事を聞くが、そなた何者だ?」
それは、少々敵意が混じった質問だった。彼の声を聞いた他の奴らも一斉に俺へと視線を集めてくる。
「そなたは、私がここに来る前から気づいておったな。私は『無気配レベル4』と『消音』と言う2つの隠蔽魔法を使用していた。私の気配は限りなく完全に消えていたはずだ。その状態の私に気づくのは相当な実力がなくては不可能だ。」
俺はマハウスの洞察力に感心を覚えた。まさか、これだけの情報で相手の実力を測るとは。
だが、俺にとっては少々マズイ。俺はこの世界のある程度の情報が集まったら、ここを出るつもりでいる。それは、あと数日、長くて数週間で終わらせるつもりだ。力が少し戻る前は少なくとも、ここを出るのは半年くらい先になる予定だった。しかし、今の力の状態ならば、普通に生きていける。その自信があった。
それに、元魔王のおれがここにいるのは何だか居心地が悪い。
故に、今ここで力があることがバレてしまうと後々厄介な事になりそうなのだ。ここではあまり、力がある様には思われたくない。なので、この場を何とか切り抜けなくてはいけない。
「どうしてそう思った?」
「簡単な事だ。私があの物陰に着く前から誰かが私を見ている気配がした。私の事に気付いたのは3人。その中で、私がここに着てから気付いたのが2人。つまり、私の事をあそこに着く前から見ていたのは、残ったそなたという事だ。」
俺は安堵した。マハウスが意外にも非論理的な説明したからだ。これなら、上手くかわせそうだ。
「そうか、なら答えは簡単だな。勘違いだ。お前の攻撃を避けなかったのも、ただ状況に追いつかなかっただけだ。」
俺は、一番理解がされやすい解答をした。非論理的なもの程、覆しやすい物はない。単純な答えですらそれを上回るのだ。俺は心の中で、安堵の溜息をついた。
周りの奴らも、俺の意見に納得して入る。あんな奴にそんな芸当ができるはずがない、私達のイケメンの方が凄いとそう顔で訴えている。正直、イラつく。
「・・・なるほど、能ある鷹はなんとやらか。」
マハウスは何だか納得いかないような顔をしていたが、何かを察したのか突然意見を変えた。
「そうか、そうか。私の勘違いのようだな。わっはっはっ!許せ勇者よ。」
「別に気にしていないから気にするな。」
「それは、かたじけない。」
どうやら、危機は脱したようだ。しかし、こいつには細心の注意を払っておく必要があるな。俺はこいつの事を要注意人物として振り分けた。
「それでは、勇者の方々お待たせした。これから、訓練を始める。」
この世界の武の情報を学ぶ時間が始まった。
今年もよろしくおねがいします