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退屈少女の不思議な結婚  作者: 華
第一章 退屈から脱出するには
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第四話 少女の性格

すみません、最後らへんを大幅に付け足しました。先に読み終えちゃってる人はなるべく読んでおいてください。お願いします。

そして私はただいま中学生の恐怖の権化である高校入試を二日後に控えております。

コリンに聞かれたら心底馬鹿にした目で『え、何やってんのお前、馬鹿なの? ねえ馬鹿なの?』と聞かれることでしょう、はい。あの子は生みの親だからと言って容赦してくれるような性格の持ち主ではないのです、残念ながら。

そういうことなので更新遅くなります。合格発表終わったらちゃんとため込んでいた分はドバっと更新しますので安心してください。はい、それはもうドバドバっと更新してしまおうと思ってます。では、精いっぱい精進してきますので、皆さまもどうか祈ってくださるとありがたいです。おこがましいですが。

『は、はああああっ!?』

 リリスの言葉に一番驚いたのは、床に倒れこんでいたコリンだった。ばばっと一瞬で起き上がり、目と口をパカッと開いてリリスを見上げる。今の今まで泣きそうだった顔にはすっかり顔色が戻り、逆に真っ赤になっていた。

 それを見て、リリスは大口を開けて笑い始めた。

「あはははは! あんた、本気にしたのかい? 相変わらずまだまだ青いねえ」

 体を二つに折り曲げて、腹を抱えて彼女は笑う。その容姿に会わない豪快な笑い方と喋り方に、サーラは毒気を抜かれて目を瞬かせた。

『う、うるさい! からかうのもいい加減にしろっ! 俺はお前のおもちゃじゃないんだ!』

「あたしはそうは思わないけどねえ? いつもの態度はどうしたんだいあんた。すっかり萎れてるじゃないか。ホウレンソウよりしなっしなだよ」

『俺は緑黄色野菜じゃねえ!』

 激昂した様子のコリンのことなど意に介さず、リリスはけらけらと笑い続けている。その様子を見て、サーラはこっそりアランのもとへと舞い戻った。

「二人とも誰なの?」

 耳打ちするのと同じくらい声を潜めて尋ねると、アランは少しくたびれたように答えた。

「二人とも、ここに住み着いている妖精だよ。コリンはブラウニー、リリスはサラマンダーだ」

 突如出てきた単語に、サーラは脳内の辞書を開いた。

 確か、ブラウニーは家に住み着く妖精で、サラマンダーは火を操る妖精だったはずだ。

 そう言われてみれば、二人の風体はそれらの妖精と合致するものがあるように思えた。……リリスに関しては、そこまで大胆な服を着る必要があるのかどうかだけは疑問だが。しかし概ね二人とも、見る人が見れば種族が分かる格好をしている。

「それはそうとあんた、奥様に説教されてたみたいだったけれど。何かあったのかい?」

 さらりとコリンの傷口をえぐったことに、リリスは気づいていない。

 ぴしりと固まってしまったコリンに訝しげな視線を向けて、リリスは何かを理解したように何度か頷いた。

「ああ、あんたまた何か失礼なことしたんだろう。今度は何だい、奥様に毒でも盛ったかい?」

 冗談めかしてそう言ったものの、シーンと静まり返った空気にリリスは顔色を変えた。

「本当にやったのかいあんた! 筋金入りの馬鹿だね!」

 母親のようにコリンをしかりつけるリリスを見て、サーラは首を傾げた。

「何を怒っているの?」

 そのつぶやきに、リリスはきょとんとして動きを止める。

「何って奥様、コリンの馬鹿に毒を盛られたんじゃないんですか?」

「まあ、盛られたか盛られてないかで言えば、盛られたわね。けど死んではいないし、そもそもそんなことで私は怒っているのではないわよ」

『ち、違うのか?』

 困惑と安心が入り混じった声音に、サーラは素直に頷く。

「別にあなたたちが私を嫌悪しようと嫌悪しまいと、それは私にとって重要なことではないわ。私が怒っているのは、アランに命令したことと、アランの表情を消したことについてだけよ」

 今度は二人ともきょとんとした。おかしな沈黙がそこに流れる。

「……どういうことです?」

「そのままよ。私は人生がすっごく退屈なの。退屈じゃないのはアランと一緒に居る時だけ。だから、アランの表情を消すことは許さない」

 きっぱりと、何かの誓いのように告げるサーラを見て、二人は同時に顔を見合わせた。そのままアイコンタクトをしている。

(意味わかるかい?)

(分かったら苦労しねえ。けどめちゃくちゃ怖かった!)

(……そうかい)

「? 二人とも、何をしてるの?」

 純粋な疑問を投げかけるような視線にコリンはたじろいだが、リリスはさらりと受け流す。

「何でもないですよ。ただ、あたしらはまだ奥様の思考を理解できるまでには至ってないってことで……あの、すいません、敬語止めてもいいですかね?」

 途中で辛くなってきたようで、リリスは会話の途中にそんなことを言い出した。

 別段気分を害するでもなく、サーラはそれに頷く。

「別にいいわよ」

 あまりにもあっさりとした対応にぱちくりとリリスは目を瞬かせた。

「え、いいのかい?」

「了承取る前に敬語じゃなくなってるじゃない。ていうかわたしは堅苦しい言葉があんまり好きじゃないもの。全然かまわないわよ。むしろ敬語を使わないでくれた方が負担が減るわ」

 そもそもサーラは身分の差というものにそれほど頓着とんちゃくしない。興味がないといってもいい。別に誰が敬語で話しかけたところで、サーラの退屈な気分が晴れるわけではないのだ。

 しかし、サーラのあまりの切り替えの早さに、つい妖精二人は顔を見合わせてしまった。

 すると、アランの下へと行ったサーラは、唐突に二人のほうを向いてソファを指さす。

「それはそうと、二人とも座ったら? 暇なのよ、私。あ、アランはそうでもなかったかしら?」

「いや、僕もそれほど予定があるわけじゃない。結婚直後は何故か仕事が減るらしいんだ。妻と一緒に過ごすことが仕事だとは言われたが」

「そんなことが仕事になるのかしら? おかしなこともあるのね」

 意味が全く分かっていないらしい二人を見て、コリンとリリスは同時に苦笑いする。演技ではなく素であることがまた不思議だ。

 そのあとに再び座ること勧められた二人は、最初はためらっていたのだが、二度三度と勧められてようやく向かいのソファに座った。

「二人とも紅茶でいい?」

 そう言って、サーラは部屋の中にある、紅茶の瓶がずらりとそろった戸棚に近づいた。あまりにも自然な動きに、誰しもの反応が遅れてしまった。

 一泊遅れて、表情の変化が分かりやすくなってきたアランが声を上げる。

「サーラは、自分で紅茶を入れることが出来るのか」

「私はたいていのことは自分で出来るわよ。誰かにやってもらうのは死ぬほどつまらなかったから、頼み込んでやらせてもらっていたの」

 伯爵令嬢が、自分のとはいえ紅茶を自ら入れることなどめったにないことぐらい、サーラ自身も知っている。けれど、ただ待っているのは恐ろしく退屈なのだ。侍女に迷惑をかけるのもどうかと思い、父と母に直談判したほどである。

 そのことを話すと、アランの瞳が興味を惹かれたように光る。

「サーラはやはり、退屈なのが嫌いなのか?」

「ええ、この世で一番大嫌いよ。だから、私はアランと一緒に居たいの」

 ふふ、と思わず微笑むと、アランが急に立ち上がってサーラに近づき、その頭を撫でた。

「僕も、君と一緒に居ると退屈しないよ。なぜだろうね? 妖精さえいてくれればそれでいいと思っていたんだけど」

「そんなのもったいないじゃない。何でもいいから試してみれば、それなりに楽しめるわよ。ほどほどにしておかないと面倒なことになるけど」

 遠い目をしたサーラに首を傾げつつも、アランはさして追求をしなかった。その代わりにカップを用意し、絶妙なタイミングでそれを渡す。すると、サーラがそのカップに見事なパフォーマンスを交えつつ紅茶を注ぐ。まだ会って半月ほどしかたっていないというのに、二人の阿吽の呼吸に、妖精たちは目をいた。

 たかが紅茶、と侮ってはいけないことを、使用人の真似事もしている二人はよく理解している。

「どうぞ」

 まるで客人をもてなすような洗練された動きに、二人は恐縮しつつも紅茶を飲んだ。同じ銘柄の物を、サーラも今飲んでいる。

『……うまい』

「……おいしいじゃないか」

 二人同時に漏れた賛辞に、サーラは嬉しそうに微笑んだ。人生は退屈だが、褒められるのは嫌いではない。それが今まであまり見たこともなかった妖精だというのなら、なおさら。

「アランも、コーヒー飲む?」

「ああ、飲むよ」

 言われるなり、サーラはすぐにコーヒーを入れに行った。ほんの数分で戻ってくる。

「はい、どうぞ。私はコーヒーは飲まないから、あまりおいしくはないかもしれないけれど」

 自信なさげにそう言うが、アランはためらうことなくコーヒーを口に運ぶと、少しだけ微笑んだように見えた。

「うん、美味しいよ」

「……よかった」

 安心したように胸に手を当てる。

 その光景をなんとも複雑そうな顔で見ていた妖精二人の視線には、二人は全く気付かなかったが。

 今の今まで殺伐さつばつとした雰囲気だったというのに何ともまあ便利な精神の持ち主たちだと、妖精二人はほのぼのとしている二人を見つめてためいきをついた。

 しかし、そんな雰囲気の中、唐突にリリスがコリンに目を向ける。

「それはそうと、あんた、随分迷惑かけたねえ、この家の奥様に」

 奥さまに、の部分をものすごく強調されて、コリンはたじろぐ。

「こういう時、なんて言うのかは分かるだろうね?」

 あくまでも優しく、しかしその実全く笑っていない目を向けられて、コリンの背には怖気が走った。

 ギギギ、というような音を立てつつサーラに向き直り、ぎこちない動きで頭を下げる。

「ご、ごめんなさい。もうしません」

 すると、間髪入れずに答えが返ってきた。

「私じゃなくて、アランに謝って頂戴」

 それに驚いたのはアランだった。いや、アランの驚きは傍目には全然分からないが、とにかくアランは驚いた。

「僕、何もされてないけど」

「アランが無表情以外の感情を表に出さないようになっちゃったら、私死んじゃうもの。私がされたことよりも重要事項よ」

 命よりも重要なのがアランの表情とは、なんとも剛毅な心構えである。

「さ、謝るならアランにお願いね」

「え、ええと……ごめんなさい」

 困惑しつつも謝るのが正解だと判断したのか、コリンはアランに向かって頭を下げた。アランにはその混乱した頭の中が容易に想像できた。自分も混乱しているのだから。

 しかし、コリンの謝罪を見て、サーラは満足したようににっこりと笑う。

「はい、終了。これでこの件はおしまいね。さ、私も紅茶のもうっと」

 何事もなかったように紅茶を入れに行ったサーラ。

 その一部始終を傍観していた女性リリスは、半ば考えることを放棄していた。

 ……これは、かなりの強者つわものだ。

 得体の知れない脅威が部屋を支配していた。



 ✡✡✡



(その後、二人のいない応接間にて)

「コリン、奥様がすごく強いってことが分かっただろう。もうあんなことするんじゃないよ」

『いや、いやいやいや、強いっていうかあれどう考えても頭おかしいだろ。 何あれ、何考えてんの!? あんな人間あり!?』

「ありかなしかって言えば実際にあるんだからしょうがないだろう。旦那様のことを心底愛していらっしゃるようで何よりじゃないか」

『え、あれが? あのアランにべったりなキモイのが? え、本気で言ってんの?』

「純粋な疑問の目で見ないことだね。あの二人にしかわからない愛情表現があるんだろう」

『いや、アランも驚いてたじゃん。表情はいつも通りだったけどさ、銅像みたいに固まっちゃってたじゃん。『何言いだしてるんだ』みたいな目であの女のこと見てたじゃん』

「口を慎んだ方がいいんじゃないのかい。あたしは感動しちゃったよ。旦那様のことを心底愛している奥様がいらっしゃってくれて、本当によかったよ」

『……妙に晴々してるしすっごい白々しい顔してるけど、それ、本気で思ってんの?』

「うん? 別に?」

『……ああ、うん、もういいや。俺はあの人のことは心っ底嫌いだけど、とりあえずはおとなしくしといてやるよ』

「……コリン、今あんたすっごくかっこ悪いね」

『う、うるせえな。……おい、あんた今あわれんだみたいな目でおれを見ただろ。やめろよ勘違いされるだろ! 俺はあわれじゃねえからな!』

「そうだね、あんたも大変なんだもんね。反抗期のチンピラみたいな態度をとっちまうのも分かるよ、うん。あたしは味方だからね」

『誰がチンピラだよ誰が! まず基本として人の話を聞けよ! おい、涙流してんじゃねえ!』



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