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片手にピストル

作者: 瀬川潮
掲載日:2015/01/16

 武器が、大量発生した。

 武器といっても人によるが、多くのケースが拳銃などの比較的軽量な個人携帯兵器のようだ。

 問題は発生場所で、そのほとんどが利き手の手の平に発生した。だから、「人による」というわけだ。

 原因は、不明。

 さらに特筆すべきはその発生状態で、どのケースも手に癒着する形だ。詳しく言うと、例えば拳銃の場合、それは利き手で正常に握った状態で、しかも人差し指がトリガーに掛かった状態――つまり、いつでも発砲できる形で発生しているのだ。

 発生して癒着した武器は、どうやっても取れなかった。

 反戦平和主義の婦人などは、自らの右腕を切り落とすという荒療治に出たが、今度はその切り口から大きなナイフが生えてきたことに驚き、そのナイフで自殺したという。

 世界は激しく困惑した。

 利き手の自由を奪われては、近代文明の生活は大幅に制限される。制限される上に、常に誤射や誤爆と背中合わせで生活しなければならないのだ。物騒なことこの上ない。

 もちろん誤射や誤爆などに対しては、自由な左手で安全装置を掛け直す、ナイフにカバーをつけるといった対処法はある。

 ただし、その方法を取った人物は、例外なく一定期間経過後、発狂したように己の武器を使い大量無差別殺人に走った。武器を押え込むような行動は、ストレスを増大させてしまう結果を招くことを人々は学んだ。弾を抜いてもいつのまにか装填されているし、分解すると手から外れていつのまにか別の武器が発生していた。

 人類は多いに困惑した。

 実は、もっと困惑したことがほかにもある。

 人と融合した武器の引き金は、どうやら通常の「引き金」ではなかったことだ。

 誰もに平等に与えられた武器の引き金は、心。

 怒りや激情、不平など、喜び以外で心が高じてしまうと己の意志とは関係なく反射的に人に向かって発砲などするようだ。

 この時、人であれば誰でもいいらしく、とにかく手近な、確実に殺傷できる人が被害に遭ったようだ。

 ついに人類は滅亡か?

 一時そう囁かれたが、しばらくすると、意外にも平和な日々が訪れた。

 誰も、怒らなくなったのだ。

 人類は、この結論に達するまで約半数を失っていたが、以前とはくらべものにならない日常レベルでの平和が訪れたのだ。

 隣人同志のいざこざがなくなった。

 いじめがなくなった。

 夫婦喧嘩がなくなった。

 そして何より、誰もが他人を気遣うようになった。

 そして、いつしか武器も消えた。

 ついに人類は、武器から解放されたのだ。

「武器よ、さらば」と誰かが言った。

 こうして、人類は滅亡の危機を逃れたのだ。誰もが笑顔を見せた。

 幸福な幸福な、ハッピーエンド。


 ……と、いうわけにはいかなかった。

 それまでの平和は、目の前の武器を怖れた、いわば武器による人類滅亡の回避。

 人の心は弱いもので、武器がなくなったとたん心の底から怒りはじめた。そりゃもう、今までためこんでた分を一気に吐き出すように。

 どかん、と誰かが爆発した。

 それを見た誰かが悲鳴を上げて、どかん。

 騒ぎに興奮してさらに多くが、どかん、どかん。

 次々、あちこちで、どかん、どかん、どかん……。

 武器を押え込むような行動はストレスを増大させるようなもの。さらにそのストレスさえ押え込んだ結果、武器は目に見える形から、人の内部へとその癒着場所を変えたようだ。――爆弾という新たな武器に姿を変えて。

 こうして、人類は滅亡したのだった。


 ……え、お前は誰だって? 人類はお前がいるから全滅したわけじゃないって?

 おあいにく。

 あっしゃあ、癒着される前から武器に癒着していた武器商人。

 心は冷たいし、血も通ってないようなもんでさあ。

 人からはよく、「悪魔、人非人!」って罵られたもんさね。

 この、人の心を持たない悪魔を人として数えてくれるような女神がいりゃあ、まだ人間は滅亡してないって言えるんだがね。

 そうは思わないかい、ご同輩。



   おしまい

 ふらっと、瀬川です。


 他サイトの、比較的縛りのきつい競作企画に深夜真世名義で出展した旧作品です。

 「何かが大量発生する」、「大量発生したもので人類は滅亡する」、そしてあと一つ、比較的軽い縛りがあったばす。その三つの条件で執筆しています。昨晩アップした「遥かなる火の鳥」と同じ「大量発生もの」企画でした。2004年の作品。

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