麗、報告する。
「おう、春野。こいつが美乃里だ」
「・・・柴咲 美乃里です。よ、よろしくお願いします・・・」
学食に戻ったわたしたちはお昼ご飯を一緒に食べることになりました。そして、先ほど知り合った館林さんに柴咲さんを紹介してもらいました。
「春野 麗です!柴咲さん、よろしくお願いしますねっ」
「は、はい・・・」
なんだか怯えられてるみたいです。ちょっと馴れ馴れしくしすぎだったでしょうか・・・。
「春野、まぁ気にしないでくれ。こいつ昔にちょっと人間の女子達といろいろあってな。慣れてないんだ。あとすげぇ人見知りなんだよ」
「そうだったんですか」
なるほど。いろいろとわけありみたいですね。柴咲さん、館林さんの後ろに隠れてます。
「ホラ、美乃里。この人間は安全な人間だぞー。怖くないぞー」
まるでわたしが猛獣みたいな扱いですね。
「ほ、ほんと・・・?」
「ほんとほんと。なぁ?春野」
でも仲良くなるためには猛獣扱いもへっちゃらです!
「そうです!わたしは安全な人間ですっ!」
「得意げに胸張ってるし・・・」
後ろの聡子ちゃんがため息をついてます。
「「くくくく・・・」」
百目さんと館林さんと一緒に来た牛さんも笑いをこらえてます。
「安全な人間ですので!出てきてください!わたしと友達になりましょう!」
ばっと両手を広げます。食堂にいるみなさんがクスクス笑っています。
「ほら、美乃里」
「う、うん」
おずおずと館林さんの後ろから柴咲さんが出てきました。やりました!一歩前進です!
「わたしと友達になってくれませんか?」
「あ、あの、わ、私でよければ・・・」
「やったぁ!ありがとうございますっ!」
わたしは柴咲さんの手をとりました。
「は、春野さん!?」
「こんなに早く友達が増えて嬉しいです!」
「・・・」
あれ?柴咲さんが呆気に取られてるみたいです。
「あれー?まるで俺いなかったみたいな扱いなんだけどなー?」
柴咲さんの後ろにいる館林さんがにやにやと笑っています。
「もちろん館林さんもさっき友達になったじゃないですか!」
「それにしちゃ反応が薄かったっていうかー」
「す、すみません。どうすればよかったのでしょう?」
「友達になったんだし、友情のハグとか?」
「ええー?!」
「颯太っ?!」
はぐって抱きつくってことですよね?!男の子にそういうことするのはちょっと恥ずかしいです!・・・あれ、館林さんが笑いをこらえてます。
「なに慌ててんだ。冗談だよ。冗談。気にするこたぁねーぞ?」
「そうですか!そうですよね!」
「もう、冗談でもそんなこと言うなんて・・・颯太のバカ・・・」
ふー。冗談でよかったです。
えーと、わたしは友達になってもらった後、柴咲さんに頼みたいことがあったんですけど・・・
「あ、そうだ!柴咲さん!」
「え、なに・・・?」
「その耳っ!」
その瞬間、柴咲さんがビクッとしました。不安そうな顔で館林さんを振り返ります。しかし、館林さんはにこやかに頷きました。そして柴咲さんはもう一度わたしのほうを向きます。
「私の、耳・・・?」
「はいっ。とっても可愛いです!館林さんから聞きましたけど、その耳本物なんですよね?そこでお願いがあるんですけど、・・・触ってみてもいいですか?」
「え・・・」
「やっぱり、嫌ですかね?」
「別に・・・いいけど」
「いいんですか?ありがとうございます!」
見た目が同じ人間だけに、少しどきどきします。
「さて、失礼して・・・」
わぁ・・・ふにふにしてます。気持ちいい・・・。
「んっ・・・」
「ご、ごめんなさい!痛かったですか?」
ばっとわたしは手を離しました。
「大丈夫・・・。でも、気持ち悪くないの?春野さんや颯太と同じ人間の見た目なのにこんな耳が生えてて」
さっきより耳がたれてます。なんだか感情表現に便利な耳なんですね。ちょっと羨ましいです。
「そんなこと気にしませんよ?いいじゃないですか。とっても可愛いですよ!」
「か、可愛い?」
柴咲さん、赤くなってます。照れ屋さんなのかな?
「はいっ。とっても!」
「・・・えへへ」
「!」
やっと笑顔になってくれました!距離がぐっと近くなった気がします!
「笑顔も可愛いですよ!ほら、落ち込んでないでもっと笑いましょう!こちょこちょー」
柴咲さんが笑顔を見せてくれたので、わたしはつい調子にのって柴咲さんのお腹をくすぐりました。柴咲さんの耳がびよんと立ちます。・・・ふふ。面白いです。
「ひゃっ!春野さん!あははっ、くすぐったいっ!」
「うふふふ。やめてって言ってもやめませんよー!」
「このーっやったなーっ!?」
柴咲さんも負けじとわたしのお腹や首をくすぐってきます。
「きゃっ!あははは!や、やめてくださいっ!」
くすぐったい!早くもギブアップです!柴咲さんくすぐり上手すぎますっ!
「やめてって言ってもやめないのはそっちじゃなかったっけ?」
「そうでした!きゃあー!やめてー!」
「やだよーっ!」
柴咲さん、とってもいい笑顔です。よかった。今本当に友達になった気がします。それはそうと、笑いすぎて苦しいです!誰か助けてー!
「美少女二人がお互いにくすぐり合う・・・すっげぇイイ」
「なにうっとり見つめてんのよ気持ち悪い」
「そんなこと言って・・・羨ましいんだろ。烏野も混ざってくればいいじゃねぇか」
「なっ・・・そんなワケないでしょ?!麗もあの子もお子ちゃまなんだから・・・!」
「うーわ図星かよ」
「う、うるさいっ!」
「ちょ、いてぇ!叩くのナシ!マジで痛いから!」
「颯太、いいのか?春野さんに柴咲さん取られちまったぞ?」
「いーんだよ太郎。あいつにも女友達くらいいるべきだ。春野とは今後も仲良くしてやってほしいもんだぜ」
「まるで父親のようだな。なぁ颯太よ」
「うっせ。俺はあいつの友達の年季が違うぜ」
「フフ。そうか。でも、実は春野が羨ましかったりするだろ」
「うん。俺もめっちゃ美乃里をくすぐりたい」
「即答かよ」
そんなこんなでまたわたしに新しい友達が増えました!・・・みなさん、お昼ご飯を一緒に食べるということをすっかり忘れてましたが。
「へぇー、麗ちゃん3組なんだ。私と颯太と火牛くんは4組だよ」
「お隣だったんだ。それじゃすぐ遊びに行けるね!」
「うんっ!」
わたしは美乃里ちゃんとすっかり打ち解けることができました。名前でお互いのことを呼び合うようになれたのも、くすぐられたかいがあったというものです。聡子ちゃんの真似をして
「気安く呼ばせてもらうわ」
と言ったのですが、みんなに大笑いされてしまいました。キマったと思ったのに、残念です・・・。
「・・・さっきまでオドオドしてた美乃里がああも簡単に相手を名前呼びするようになるとはな・・・。春野、恐ろしい奴だぜ」
「何キャラなのよあんた」
「ただの美乃里の友達さ。今はな」
「ふーん?なんか苦労してそうね」
「わかるか?」
「少しはね」
向こうで館林さんと聡子ちゃんがなんだか大人な雰囲気で喋ってます。やっぱり同じ一年生なのに落ち着きが違いますね。
「うあー、昼休みが終わっちまうよー。俺の青春のひと時が終わっちまうー」
「百目さん?」
百目さんのたくさんの目が今にも泣きそうな形になっています。
「そんな大げさなリアクションしなくてもいいんじゃないか?」
牛さん、いえ、火牛さんというらしいです。火牛さんも美乃里ちゃんと同じクラスのかただとか。館林さんのお友達みたいですね。そして、す、凄い迫力です。
「いーや!大げさにもなるぜ!火牛!お前はいいよな!館林と友達だから柴咲もセットでついてくるし!」
「む、セットとは失礼な」
美乃里ちゃん、すごいふくれっ面です。
「俺は春野とも柴咲とも違うクラスなんだぜ?!俺のクラスの女子はすげぇ見た目の奴ばっかりだ!不公平だぜ!」
「すげぇ見た目なのはお前もだろ」
「うっせーミノタウロスだって怖かねーぞ!」
百目さん、泣いてるんだか怒ってるんだかわからない顔になってます。
「好きでこの見た目なわけじゃねぇぞ。俺だって異性にゃ怖がられる容姿だしな」
「お互い、醜いもの同士ってことか」
「・・・残念ながらそういうこった」
お二人とも自分で言ってがくーんと肩を落としてます。
「そんなことないですよ。百目さん、火牛さん」
「「春野・・・」」
「そんなに落ち込む必要はありません。百目さんには倒れたわたしを運んでくれるような優しさもありますし、たくさんの目も魅力の一つだと思います。火牛さんのその角も立派でかっこいいです」
「春野はいい子だな・・・」
「無理してフォローしなくてもいいんだぞ?」
火牛さんが苦笑いをしてます。火牛さん、わたしは別に無理してるわけじゃないですよ?
「いえ、わたしはまだあなたたちと知り合ったばかりでそんなことくらいしか言えませんけど、百目さんも、火牛さんもまだまだたくさんいいところがあるはずです。まだ入学したばかりなんですよ?お互いのいいところはこれから知ればいいんです。わたしはこれから見つけますから!」
「麗ちゃん・・・」
「始まったわ。麗の演説」
「なんだ、春野のやつそんなことするのか?」
「見てなさい館林。あの子の妙な求心力は途轍もないものがあるから」
「あぁ、そりゃ俺も身を以て実感した。なんか田舎もんだっていうから都会の学校に馴染めるもんかと心配したが、むしろ人間だけの学校より、この学校のほうが合ってるんじゃないか?」
「そうね。麗は間違えてこの学校に来たって言ってたけど、ある意味正解だったんじゃない?」
「なんだそれ、初耳」
「聞いたら笑っちゃうわよ」
「なんか春野の話のおかげでからかわれた中学時代なんてなんとも思えなくなってきた」
「百目さんは醜くなんてないですよ。個性は大事にするべきです。人間なんて見た目で言ったらほとんど同じようなものなんですから。魔物さんのほうが、いろんな方がいて面白いです」
「人間の考えを聞くのも新鮮味があるもんだな」
「わたしは魔物であるあなたたちのことをもっともっと知りたいです。だからいろいろあなたたちのことを教えてくださいね」
火牛さんと百目さんが固まってます。なにか変なこと言いましたか?
「・・・なんだこの人間、天使か?」
「天使がみんな性格がいいわけじゃねーだろ」
「春野、お前のお母さんかお父さん、背中に白い羽根生えてないか?」
「やだなぁ火牛さん、わたしのお父さんとお母さんは普通の人間ですよぅ」
「つまり天然ものってことか・・・」
「天使っていうか・・・聖母?」
「なんか春野が神格化されてないか?」
「そうね。出会ってからたいして経ってないやつに対してあの態度だもの。その田舎とやらでどういう育ち方したのかしら」
「さぁな」
「さっきから天使、天使ってみなさん言ってますけど、天使さんも地球にいるんですか?天使さんならわたし知ってます!」
「一応いるっちゃいるな。でもイメージと違うかもな」
へぇー。天使さんって本当にいたんですね。この学校にもいるでしょうか。もしかしたら会えるかもしれませんね。
「それはそうと、春野よ」
「なんです?百目さん」
すっかり元通りの顔に戻った百目さん。改まってどうしたんでしょう。
「そのですます調もとってもいい。でも烏野や柴咲と喋ってる時の砕けた口調も・・・とってもイイ」
「はぁ」
「なにが言いたいの百目くん」
「颯太から聞いたぞ。また変なこと考えてるんじゃないだろうな?」
火牛さんがくくく、と笑います。
「なっ、あの野郎!言ったのか?!」
なんのことでしょう?
「なんのことです?」
「は、春野は知らなくてもいいぞ!うん!大丈夫だ!」
「は、はい・・・」
すごい形相でしたけど、わたしには言えないことなんでしょうか。ちょっと気になりますね。
「館林の野郎・・・。まぁいいや。それでな?」
「はい」
「俺と、春野。友達になったんだよな?」
わたしと火牛さんと美乃里ちゃんは一斉に首を傾げました。
「今までの話からなんでそんなことになるんだ?」
「ど、どゆこと?」
「わたしはそう思ってますけど、違いましたか・・・?」
もしかしたらそう思ってるのはわたしだけかも・・・盛大な勘違いだったら恥ずかしすぎます・・・。
「いや、変な意味はないんだ!確認ってこと!」
「は、はい?」
なんだかわからなくなってきました。
「なんだよ百目、勿体ぶらずに言えよ」
「そうだよー。私もよくわかんなくてモヤモヤするよ」
「よし、春野!」
「は、はい!」
百目さんは深ーく息を吐いて吸いました。
「友達なら俺のこと、『千太郎くん』と呼んでくれないか?!会話の口調も砕けた感じで!」
「「うわぁ・・・」」
火牛さんと美乃里ちゃん息ぴったりでした。すごい微妙そうな顔もなんだか似てます。
なにも一大決心をして言うようなことでもない気がしますね。わたしも少し驚きましたけど、そういうことならお安い御用です!
「だ、だめか?」
「・・・ううん。もちろんいいよ。千太郎くん!」
「は、春野!」
千太郎くんのたくさんの目がキラキラ光ってます。星空みたいでなんだか綺麗です。
「呆れたもんだな。乙女かって話だよ」
「うっせ!俺にとっては大きな一歩だぜ!」
「ウブだねぇ百目くん」
「柴咲、お前も親しさをこめて、千太郎くんと呼んでくれて構わないんだぜ?」
「あ、このゴーレム調子乗ってやがる」
「私は・・・ちょっとイヤかも・・・」
「ぐはっっ!」
「がはははは!断られてやんの!」
「ふふふっ」
「春野までっ?!」
入学初日からこんなに友達が増えて、わたしは幸せ者です!帰っておばあちゃんに報告するのが楽しみです!
「じゃあね、麗ちゃん!」
「うん。ばいばい美乃里ちゃん!館林さんも、火牛さんも、千太郎くんもまた会いましょう!」
「おう、じゃーな春野、烏野」
「またな」
「今度の昼飯食うときは、誘ってくれよな!・・・マジで!」
「もちろんだよ!じゃあね千太郎くん!」
「・・・生きててよかった」
千太郎くん、顔中の目に涙を浮かべながら自分の教室に帰って行きました。
お昼休みが終わったとはいえ、今日は授業が無いんでした。先生は「授業がねーのになんで来なきゃなんねーんだ」と終始ぶつぶつ文句を言ってました。文句は言いながらも、的確にわかりやすく今後の日程を連絡してくれました。でも、連絡事項が多いため、時間としてはけっこうかかってしまいました。人間の通う学校じゃないからでしょうか、ユニークな連絡事項もあり、そのたびにわたしは笑いを堪えるのに必死でした。
「明日は、1年だけ学校の施設を見て回るぞ。ま、授業はねーから遅刻だけすんじゃねぇぞ」
クラスに歓声が上がります。みなさん授業が無いことに大喜びです。
「とりあえず、連絡は以上だ。お前ら、気をつけて帰れよ」
いつの間にか、放課後になってしまっていました。
「聡子ちゃん、一緒に帰ろう!」
「いいわよ」
「聡子ちゃんはどのあたりに住んでるの?」
「向こうの山の木の上に住んでるわよ」
聡子ちゃんは羽根で窓から見える山を指します。
「ええっ?!」
「麗、あなたの世界のカラスを想像したでしょ」
「え・・・うん」
聡子ちゃんは溜息をつき、羽根をぱたぱたとさせました。
「一応、カラスといっても魔物だからね。あなたの世界のカラスの巣でもある木の枝を合わせただけの簡素なものとは違うわ」
「そ、そうだったんだ」
聡子ちゃんのサイズだったらどんな大きさの巣なんだろうと考えた自分が恥ずかしいです。
「飛んで帰ってもいいんだけど、そういえば麗は飛べないしね。歩いて帰ろうかしら」
「そっか・・・聡子ちゃんは飛べるんだよね。いいなぁ」
自由に空を飛べたら。人間なら多くの人が考えたことがあると思います。
「別に良いことばかりでもないけどね。人間の道具を持てるようになるまで苦労したわ。母さんと父さんも最初は『翼より手が欲しい』って言ってたしね」
「魔物さんもいろいろ苦労してるんだね」
「もう慣れたわ。さぁ、帰りましょ?」
「うんっ」
わたしたちは教室を出ました。隣の美乃里ちゃんのクラスはまだ担任の先生が話をしてるみたいです。お話は終わりそうになさそうだし、聡子ちゃんを待たせると悪いので、今日は聡子ちゃんと二人で帰ることにしました。
「聡子ちゃんの家・・・どんな感じなんだろう・・・」
「たいしたものじゃないわ」
「でも、木の上にあるんでしょ?凄いなぁ」
「今度、招待するわ」
「ほんと?」
わぁ、楽しみです!中学生だった時にさなえちゃんが持ってきていた雑誌に「ろぐはうす」なるものが載っていたのを見て、密かに憧れていたんですよね。
「そんな喜ばないでよ。本当に大した家じゃないわ」
「大丈夫!もうわたしは木の上ってことを聞いただけでワクワクしてます!」
「ふふ。そう?」
「うんっ!」
聡子ちゃんはわたしの頭を優しく撫でました。あったかいけど、なんだかくすぐったいです。
わたしたちはしばらく他愛ない話をしながら町を歩きます。町には人間ではない人たちもちらほらと歩いていました。どうして学校に行く時には気がつかなかったんでしょう。不思議です。
「擬態能力を持っていたり、魔界で習得した魔物もけっこう多いのよ。だいぶ私たち魔物も地球に馴染んではきたけど、やっぱり子供を怖がらせる見た目の魔物も多いしね。人間に化けているやつも今じゃたくさんいるわ」
わたしの疑問に聡子ちゃんはそう答えてくれました。
「人間になれるの?!」
凄いです!変身できるなんて魔法みたいですね。
「正確には似せてるだけだからね。ボロが出ないようにしてるけど、ほら」
聡子ちゃんは少し前を歩いているおじさんを指します。
「右の腰のあたりを見てみて」
「・・・あ」
聡子ちゃんの言うとおり、おじさんの右の腰あたり、シャツから手がもう一本はみ出てます。
「隠し切れていないこともあるわ」
「ふふふ。なんだかおもしろいね」
わたしが笑うと、聡子ちゃんも優しく笑います。
「意外にコツがいるのよ」
「聡子ちゃんもできるの?」
わたしが聞くと、聡子ちゃんはいきなり羽根を慌ただしく羽ばたかせました。
「わ、私はまだ、覚えてな・・・れ、練習中なのよ。なかなか上手くいかないのよね」
へぇー、聡子ちゃんもあのおじさんみたいに人間に変身できるんですね!
「練習してるの?凄いね!じゃあ、見せてもらえないかな?」
わたしは期待の眼差しを聡子ちゃんに向けます。聡子ちゃんは慌てたように羽根を振りました。
「あ、あれはね・・・まだ人には見せられないのよ。ほら、私は完璧にできてからじゃないと見せたくないのよね」
ぷいっ、と聡子ちゃんはそっぽを向きながらそう言いました。
「そっか・・・」
少し残念です・・・。
「う・・・」
すると聡子ちゃんがわたしの肩に羽根をおきます。
「聡子ちゃん?」
「そうね!もうすぐ!高校入学前にけっこう練習したのよ。もうすぐ完成するの。だからその時に見せてあげるわ!」
「えっ、ほんと?!」
聡子ちゃん、どんな風に変身するんだろう。楽しみです!
「ええ、近いうちに見せてあげるわ」
「やったぁ!」
そうして、聡子ちゃんにこのあたりで人間に変身している人を教えてもらいながら歩いていました。わたしの家が近づいてきます。聡子ちゃんは羽根を羽ばたかせると、
「麗、家はこのあたり?」
「うん」
「じゃあこのあたりでお別れしましょうか」
「そうだね。聡子ちゃん、歩きで大変だったでしょ?付き合ってくれてありがとう」
聡子ちゃんはにこりと微笑み、ふわりと浮きました。
「私こそ、初日から友達ができて、一緒に帰れるとは思わなかったわ。これからも一緒に帰りましょう?」
「うんっ!」
「麗。また、明日ね」
「また明日!気をつけて帰ってね!」
「ええ」
そう言うと、聡子ちゃんは凄いスピードで飛び上がり、向こうの山へ飛んでいってしまいました。わたしはというと、聡子ちゃんが見えなくなるまで手を目一杯振っていたのでした。
「おばあちゃーん、ただいまーっ!」
引き戸がガラガラと大きな音を立てて開きます。靴を揃えて中に入ります。
「麗かい。おかえり」
出迎えてくれたおばあちゃんに抱きつきます。
「おや、麗は今日から高校生だろう?甘えん坊さんだ」
「えへへ」
おばあちゃんは優しく頭を撫でてくれました。石鹸の良い匂いがします。
「手を洗っといで。今日は初日だったからいろいろ疲れたろう。今日の夕飯は麗の好物を用意したよ」
「ほんとっ?」
「ああ」
がばっとわたしはおばあちゃんから離れると急ぎ足で洗面所に向かいます。おばあちゃんが呆れた顔で笑いました。
「そんな急がなくても夕飯は逃げやしないよ」
「はーい!」
洗面所で手を洗います。うがいももちろん忘れないように・・・っと。
綺麗になった手をわたしは見つめます。
今日のわたしの手は色々なものに触れました。海主センパイたちのひんやりとした手、聡子ちゃんのふかふかの羽毛、千太郎くんの岩のような腕。美乃里ちゃんの柔らかい耳。ふふ、おばあちゃんが聞いたら驚くかもしれません。楽しみです。
手を洗ったわたしを待っていたのは豪華な夕食。わたしの大好きなおばあちゃんの肉じゃがもあります。わたしが椅子に座ると、おばあちゃんも割烹着を脱いで席に着きます。
「いただきますっ!」
「はいよ。めしあがれ」
「おばあちゃん、今日はとってもすごい人達と出会ったよ!」
「ほう?もう友達ができたのかい?」
「うんっ!」
おばあちゃんは和やかに笑います。
「麗は昔から友達を作るのが得意だね。どんな子なんだい?」
わたしはにやりと笑うと、じゃがいもを口に放り込みます。
「・・・ふふふ。おばあちゃん驚くよー?」
わたしは今日の出来事を話し始めました。
サイドストーリーも随時アップ予定!そちらもよろしくお願いします!