麗、遭遇する。
なんてこった・・・どういうことだこれ・・・
「颯太、一緒のクラスになれてよかったね!」
「・・・・・・」
覚悟していたとはいえ、予想以上だった。
「おーい?颯太?聞こえてるー?」
「・・・あ、あぁ。なんだよ美乃里」
「むぅ、聞いてなかったでしょ。一緒のクラスになれてよかったねって!」
「そうだな。・・・ほんとによかった」
「えへへ。そんなに嬉しい?」
ああ、正直こいつと一緒のクラスじゃなかったら、俺は明日から不登校になっていたかもしれない。
「高校になっても暴れるぜぇ!グォォォッ!」
「風紀委員の先輩がいるうちは無理だろ」
「あっつ!火吹くなって!」
「落ち着けよお前ら」
「そういうお前も毒の霧まくなよ?」
あ、RPGかこれ・・・。ゲームのやりすぎかなんかで幻覚見てるとしか思えん・・・
「颯太?なんか今日は変だよ?」
「わ、悪いな。初日だから緊張してるんだ」
「颯太が?へぇー、意外だね」
いきなりベラベラ喋るのもなんだから、自己紹介でもするか。俺は館林 颯太。人間だ。今年からピッカピカの高校一年生。ワケあってこの魔物の巣窟、陣外高等学校に入学することになった。魔物は小さい頃から見てないというわけではないが、魔物「しか」いないところに放り込まれるとは思ってもみなかった。周りを見渡してもどこもかしこも魔物、魔物。本当に俺は五体満足でこの学校を卒業できるのだろうか。
「高校生活、楽しみだねぇ!」
「美乃里、耳。耳出てる」
「あっ。いけないっ。・・・あれ、でももう隠す必要もないんじゃない?」
「・・・まぁ、そうか」
俺の席にやってきてテンション高めにピョンピョンと跳ねて騒いでるのは、柴咲 美乃里。俺の幼馴染だ。幼稚園の頃に家の隣に越して来て、それ以来、お隣さん同士とやらで家族ぐるみの付き合いが長い。ちなみにこれは自慢だが、美人だ。
「これで心おきなくジャンプできるね」
「おう。好きなだけ跳べ」
「体育の時間が楽しみだなぁ」
美乃里の見た目は俺達人間と大差ないが、決定的に違うところがある。
「耳も隠さなくてすむし、この開放感だよ!」
「はいはい。よかったじゃねぇか」
頭にウサギの耳のようなものが生えている。そう。美乃里は魔物なのだ。
「ここなら私の耳なんてほんの些細なものだよね」
「そのために来たんだろ」
「颯太がついて来てくれるって言ってくれた時はホントに嬉しかったよ」
「お前一人だと心配だからな」
「む、私だってもう高1なんだよ?子供扱いしないでよー」
「やだ」
「なにをーっ!」
いや、正しくは美乃里は魔物ではなく、人間と魔物の「ハーフ」だ。よくわからんが美乃里の母さんがどうやってか魔界と呼ばれる世界に迷い込んだ時に美乃里の親父さんと運命的な出会いをしたらしい。そして魔界で美乃里を出産し、育てていこうとしたところ、魔界と地球をつなぐ道が現れ、地球に移住することになったのだ。
「俺らもとうとう高校生か。早いもんだな」
「あはは。颯太おじいさんみたい」
「るっせ」
「ふふ。・・・でも、ホントによかったの?私なんかに合わせて陣外高校に来ちゃって」
美乃里の耳が垂れている。こいつの表情は本当に読みやすい。
「なんでそんなこと聞くんだよ」
「だって、颯太ならもっと頭のいい高校行けたよ?」
確かにここの学校の入試問題は楽勝だったな。
「別にいいんだよ。どこの学校に行こうが俺の勝手だ」
「でも・・・」
躁鬱の差が激しいヤツだ。俺は美乃里の頭に手を置いた。
「颯太・・・?」
「わっかんねぇかなー、俺はお前と一緒の高校に行きたいからここに来たんだ。それ以外の理由があるか」
美乃里の顔がみるみる赤くなっていく。相変わらずこいつは面白い。
「そ、そ、そういうセリフってあんましサラッと言うもんじゃないよ?!」
「なんでだよ」
「な、なんでもだよ!」
「理由になってねーぞ」
「うぐぐ・・・」
異性として意識はされてるんだろうが、なまじ付き合いが長いから伝わりにくい。この学校に来たのもさっき言ったのが割とマジな理由なんだが、どう思われているやら。
「入学早々イチャついてんじゃねーよ人間」
「ん?」
後ろを振り向くと、牛がいた。いや、牛人間か?多分ミノタウロスってやつだろうな。
「いいいイチャついてなんかいないよっ?!」
美乃里がぶんぶんと手をふる。
「どう見たってそうだろ。くそーっ、羨ましいぜ。俺も彼女が欲しい!」
牛男はぶふーっと荒い鼻息を吐いた。
「あんたにもそう見えるか?いいこと言ってくれんじゃん。友達になろうぜ」
俺はいきなりこの牛男に話しかけられたことで、俺の中の何かが吹っ切れた。もう慣れていかなきゃこの学校ではやっていけない気がした。俺は牛男に握手を求める。
「俺は館林 颯太。よろしくな」
牛男もごつい見た目とは裏腹に、なかなか友好的な奴のようだ。握手に応じてくる。
「おう。俺は火牛 太郎だ。よろしくなリア充の人間」
からかうように牛男、火牛は言う。
「それなんだけどな」
俺は身を乗り出し、火牛のでかい顔についている小さい耳に小声で話しかけた。
「実はこいつとは小さい頃からの幼馴染なんだが、俺のさりげないアプローチが通った試しがない。だから付き合ってるとかじゃないんだ」
火牛は一瞬キョトンとし、そして大声で笑った。
「がははは!!そりゃ辛ぇなぁ!頑張れよ館林!」
「え、え?どうしたの颯太。この人いきなり笑いだしたけど」
美乃里はまだ状況がわかっていないようだ。
「ありがとよ火牛。後で飯一緒に食べようぜ。あいつのニブさを語ってやる」
「彼女でもねぇやつのノロケを聞いたってしょうがねぇぞ館林!」
「まぁ、そう言うなよ。火牛。俺も愚痴りたい時はある。あと、颯太でいいぞ」
「そうか。ならば俺は太郎と呼べ。颯太」
なんだか、普通の人間よりよっぽど友達になりやすいな。この学校、向いてるかもしれない。
「あれ?私が仲間はずれだよ!颯太!」
「うっせー鈍感」
「え、どゆこと?」
なんだかんだ、どうにかなりそうだ。
「完璧なまとめっぷりだったね。すごいよ聡子ちゃん!」
「そう?ありがと」
聡子ちゃんが先生に半ば強制的にクラス委員長にさせられてしまいましたが、見事にその役目を果たしました。自己紹介も滞りなく終わり、委員会決めも素早く決まってしまいました。先生は相変わらずずっと寝ているだけでしたが、チャイムが鳴ると、大あくびをしながら起きて出て行きました。ちなみに、出て行く時に聡子ちゃんにむかって
「凄いな、いい声。もう俺の代わりに担任もやってくれねぇか?」
と冗談を言い、(本当に冗談だったんでしょうか)聡子ちゃんにはたかれ、クラスがどっと湧きました。
今わたしたちは授業が終わり、まぁ授業といっても勉強をするわけではありませんでしたが。学食に来ています!お昼を聡子ちゃんと一緒に食べる約束をしていましたが、聡子ちゃんはお弁当を今日は持って来ていないとのことでした。わたしはお弁当を持って、聡子ちゃんについていきました。
「はーい、牛丼おまち!」
「うまそー!」
「やっぱり地球のメシは最高だぜ!」
口々にみなさん地球のご飯が美味しいと言っています。そういえば入学式で会ったあの目がたくさんある・・・そう、百目さんもそんなこと言ってましたね。魔界ってところのご飯はそんなに美味しくないんでしょうか。
「魔界のご飯?知らないわ。食べたことないし」
聡子ちゃんは地球で生まれて、魔界には一度も行ったことはないそうです。魔界のご飯を食べてないのも納得ですね。持っているトレーに乗っているのも見たことのある料理ばかりです。
「ふむ、魔界のご飯・・・なんだか逆に興味が湧いたような・・・」
「やーめとけ。人間にゃ無理だぜ」
なんだか聞いたような声が後ろから。聡子ちゃんが渋い顔をしてます。
「あんたは・・・」
「あっ、百目さん。こんにちは」
噂をすればなんとやらです。後ろにはトレーを持った百目さんが立っていました。たくさんの目がぱちくりしてます。
「覚えてくれてた?嬉しいなぁ!ここいい?」
「いいですよ」
わたしはにこやかに言いました。だけど聡子ちゃんがなんだか不機嫌そうです。そういえば入学式のとき、少し言い合いになっていたような。
「あんた、よくもまぁぬけぬけとやってこれるわね・・・」
「カタいこと言うなよ化けガラス。俺だって女子生徒と昼メシ食うっていう青春を味わいたい」
「味わうのは昼食だけにしたら?」
「なんだとぉ?」
「ついでに私の一撃も味わわせてあげようかしら・・・?」
「わー!二人ともやめてくださいっ!」
わたしは二人の間に割って入りました。
「麗・・・」
「春野・・・」
「お昼ご飯は仲良く食べましょう?ねっ?」
二人ともなんとか落ち着きを取り戻してくれました。
「まぁ、麗がそういうなら・・・」
「しゃーねぇな」
わたしが真ん中に座り、左に百目さん、右に聡子ちゃんが座りました。これで喧嘩になりそうになっても止められます。さぁ、食べましょう!
それからはというもの、聡子ちゃんと百目さんがしょっちゅう喧嘩を始めようとしましたけど、なんとかわたしが止めました。なんでこの二人はよく喧嘩しようとするのでしょう。一番小さいのに止める役のわたしの身にもなってもらいたいものです。
「そういえば春野」
「ふぁい?」
「あー、飲み込んでからでいい」
「ふぁい」
「・・・」
「烏野、お前なに春野見つめてんだ?」
「べ、別にいいでしょ」
「悪いとは言ってねーだろが」
「ふー。なんですか百目さん?」
「倒れた後なのに体調のほうは大丈夫なのか?」
「ずいぶん広まるのが早いですね・・・」
まさか全校生徒にぶっ倒れ娘の名前が浸透してないといいんですけど。
「はい。大丈夫です」
「そか。よかったな。急いで運んだかいがあったってもんだぜ」
「え、わたしを保健室まで運んでくれたの百目さんなんですか?」
百目さんは自慢げに笑いました。
「おうよ。颯爽と駆けつけて、あっという間に保健室まで直行よ!」
聡子ちゃんは悪く言うけど、百目さん、とってもいい人です!
「そうなんですかぁ。百目さん、どうもありがとうございました!」
「・・・春野に礼を言われるとなんか破壊力があるな」
「それだけはあんたに同意するわ。百目」
「?」
なんだかよくわからないけど、少し仲良くなってくれたみたいです。よかったよかった。
「それにしても・・・」
「はい?」
「人間が肉付き悪い骨ばったやつとか言ったけど、ありゃ撤回だな。・・・背中越しに伝わるあの感触・・・凄かったぜ」
百目さんがわたしに向かってぐっと親指を立てます。・・・なんのことでしょう?わたしが首を傾げていると、隣の聡子ちゃんが立ち上がりました。
「百目・・・あんたってやつは・・・!」
「やっべ」
「??」
「公然とセクハラすんなっっ!!」
ばっしーんっっ
聡子ちゃんの平手(羽根でした)が百目さんの頬っぺたを直撃しました。凄い音です。
「さ、聡子ちゃん?!なにしてるの?!」
「麗!こいつから離れて!汚らわしい目ん玉お化けよ!」
「さっぱりわからないよぅ!」
「いてててて、すげぇ威力・・・」
百目さんがよろよろと立ち上がります。
「いや、春野には礼を言わずにはいられなかった・・・入学早々役得だったぜ・・・」
「も、百目さん・・・」
百目さんはそれだけ言うとまたばたーんと大きな音を立てて倒れてしまいました。わたしお礼を言われるようなことした覚えはありませんけど、とにかく大変です!
「百目さーんっ!」
「おう、太郎。飯行こうぜ」
「そうだな颯太」
「なんでもうそんなに二人は仲良しになってるの・・・?」
「鈍感の美乃里にゃわかんねーな」
「そうだな、がははは!」
「うう、酷い・・・」
涙目になりながら美乃里がちょこちょことついてくる。自然に俺と飯を食べるつもりらしい。・・・これで付き合ってないんだから笑える話だ。
「颯太、今日はどこで食べるの?」
「あー、お前は弁当だっけか。悪ぃ。俺は弁当持って来てないんだわ。だから学食で食べるぜ」
「俺も持ってないから学食だ」
「そっか。じゃあ私もおべんとそこで食べよっと」
「ついて来る気まんまんだったじゃねーか」
「・・・嫌だった?」
またヘタれてるなこいつ。
「なに言ってんだ。俺は大歓迎だ。俺はいつでもお前と飯を一緒に食いたいと思ってるぜ」
また頭を撫でてやる。
「うう、なんかズルいよねそういうの」
美乃里の顔が真っ赤だ。さっきも見たな。
「くくく。颯太よ。いっつもそういうことしてるからいつまでもそういう状態なんじゃないか?」
横で太郎が笑いをこらえている。
「確かにそうかもな」
いつもこんなことしてるからからかわれているように感じてしまうのかもしれない。と言ってもなぁ、昔からこんな状態だったし・・・。
「まぁ俺は応援させてもらうぜ」
「ありがとな太郎。お前見かけによらずいい奴だぜ」
「見かけによらずは余計だ」
こうしたやりとりをしている間にいつの間にか学食に着いていた。さて、人間向きのメニューがあればいいが。・・・ん?なんか中が騒がしいぞ。
「百目さんっ!しっかりしてくださぁい!」
「麗!そいつに情けなんかかける必要ないよ!」
「ひどいよ聡子ちゃん!いきなり叩くなんて!」
「セクハラする奴が悪いのよ!」
「いつ百目さんがそんなことしたのっ?!」
「あーもう!麗は純粋すぎるのよ!」
「えぇ?!わたしがいけないのっ?!」
「なんだありゃ」
「喧嘩かなぁ?」
「みたいだな。初日早々血の気の多い奴らだ」
俺は太郎の見た目を見て、人のこと言えんだろうとツッコみたくなったが、ぐっと我慢した。それにしても、あそこでぶっ倒れてる奴んとこにいるのって・・・
「美乃里、あれって」
「うん。珍しいね。颯太の他にもいたんだ」
美乃里の顔が若干曇る。
あいつ、人間だ。俺の他にもいたなんてな。
「百目さんっ!今度はわたしが運びますっ!・・・ううー重いぃぃ」
「麗、無茶だよ。そのへんにほっといても回復するわ」
「そんなわけにはいかないよ!聡子ちゃんも手伝って!」
「いくら麗に言われてもそれは嫌」
「もーっ!聡子ちゃんのばかーっ!」
あの人間、カラスと口論してるぞ。俺は声を掛けることにした。物好きな人間もいたもんだな。俺も人のこと言えた立場ではないが。
「おい、大丈夫か?」
「残念ながら大丈夫じゃないです・・・できればお手伝いを・・・って、え?」
俺の顔を見て、目の前の女子の顔色が変わる。ふーん、なかなかの美人じゃん。美乃里のほうが可愛いがな。
「え、あれ、あなたは人間ですか?」
「そうだけど。他になんだってんだよ?」
「えーと、あの、わ、わたしも人間なんですよー」
あはは、と目の前の女子は当たり前だろというようなボケをかます。俺は派手にずっこけそうになった。こいつ、少しおバカだ。
「で、なんでまた人間のあんたがゴーレム担いでるんだよ」
「わたしの友達の聡子ちゃん、あ、後ろのカラスさんのことです。百目さんをいきなりはたいちゃって」
なるほど、このゴーレムが百目ってやつか。そしてあっちでそっぽ向いてるのが聡子ちゃんとやらね。
「倒れちゃったんでわたしが保健室へ連れて行くところ・・・ですっ」
足プルプルしてんぞ。
「・・・」
気絶してんのか?このゴーレム。こんなゴツい魔物をKOするとはあのカラス、おっかねーな。
「・・・」
あれ、このゴーレム、ちょっとニヤついてるぞ?・・・・・・あぁ、なるほど。
「?ど、どうかしました?できれば手伝っていただけるとありがたいんですけど・・・」
「いや、なんでもない。手伝うぜ。ほら、片方かしな」
「わぁ、ありがとうございますっ!」
女子はにぱっと幸せそうな笑顔する。俺は太郎と美乃里に向き直ると、先に入って待つように言った。そしてゴーレムの空いてるほうの肩を担ぐ。
「ま、すぐ戻る。太郎と飯食って待っててくれ」
「おう。早く戻れよ。柴咲さんが泣くぞ」
「な、泣かないよっ!なに言ってるの!」
「おーう。ちゃっちゃと運んでくるさ」
俺はひらひらと手を振り、学食をあとにした。
「手伝ってくれてありがとうございます。それにしても、同じ人間の生徒がいてくれて、少し嬉しいです!」
ニコニコと隣の女子は笑う。重いだろうに、無理しちゃって。
「あんたは一年生?」
「はいっ。春野 麗といいます!」
「そか。よろしくな春野。俺は館林 颯太。俺も一年だ」
「あなたも一年生なんですか?凄いですね。同じ一年生なのに落ち着きがあって。尊敬しちゃいます」
「そうか?まぁ魔物なんて慣れてるっちゃ慣れてるからなぁ」
少し強がっちまったけど、まっいいか。慣れてるってのは本当だし。
「わたし、田舎から来たんで魔物さんなんて見たことなくて、驚くことばかりです」
田舎モンにしちゃ順応しまくってるような・・・。
「人間同士仲良くしようぜ春野」
「はいっ。館林さん」
人間の知り合いができたのはなかなか収穫だったな。魔物の友人も欲しいとは思ってるが、人間の友人もいないと寂しいもんだ。だが、問題が一つあるな・・・
「そういえば、一緒にいらっしゃった方も人間のお友達なんですか?」
やっぱり。美乃里のことか。
「春野もあいつの頭見たろ?」
「あ、はい。なんだかウサギさんの耳みたいなのがありましたよね。可愛かったです」
よかったな美乃里、褒められたぞ。・・・いや、そんなことじゃなくて。
「あれは別にこの学校に馴染むためのコスプレとかじゃなくてな。・・・あいつは魔物と人間のハーフだ。だから厳密には人間じゃない」
「えっ・・・」
さて、俺は美乃里の友達を長くやってるが、この話をして、聞いた人間の反応はだいたい知っている。気持ち悪がるのが大半だ。魔物と人間の合いの子ということで美乃里は小さい頃イジメにあったこともある。魔物の数人からも「中途半端な人間の見た目をした魔物」とからかわれた。女子は美乃里の容姿故の男子からの人気に嫉妬してたってのもあるだろうが・・・。こいつはどんな反応をする・・・?反応によっちゃ、こいつとは友達なんてやってられない。
「凄いですね!あの耳、本物なんですかっ?」
は?
「あー、まぁそうだけど」
目の前の人間、春野はなんと目を輝かせていた。
「じゃ、じゃあ触ってみてもいいでしょうか・・・?!」
「・・・本人がよけりゃいいんじゃね?」
「わぁ!後で頼みにいきますっ!」
おっどろいた。こんな反応する奴は初めてだ。
「はぁ、なんだ。変わってるな。春野って」
春野はいきなりしょぼくれた顔になる。俺、なんか変なこと言ったか?
「この学校に入学して何度も言われますけど、わたしって変わってます・・・?」
「いや、別に変な意味じゃないんだけど」
「そうなんですか?」
「そうそう」
「ほっ。よかったぁ」
へぇ、この子なら美乃里とも仲良くなれそうだな。表情がコロコロ変わるのも美乃里そっくりだし。
「後で美乃里を紹介するよ。あ、ついでに太郎も」
「美乃里ちゃんて言うんですか。友達になれるといいなぁ」
なれるさ。春野ならな。
「さて・・・と」
俺は隣のゴーレムに目をやる。相変わらずニヤついている。俺は小声で幸せそうに気絶している百目くんとやらに、春野に聞こえないように耳打ちする。
「なぁ、起きてるだろあんた」
「・・・ぎくっ」
なんとまぁベタな反応だこと。
「春野の良心を利用するたぁ太ぇ野郎だ」
「・・・ぐー」
「寝てもムダだぞ」
「ぐっ。・・・お前も男ならわかるだろ?これは仕方ないよな?」
観念したのか、小声で百目が答えた。まぁ、人間、魔物に関係なく、健全な男子高校生ならわからんでもないがな。
俺は百目の左腕を担ぐ春野に目をやる。担いでいるせいで、百目の腕に春野が胸を押し付ける形になっている。
「うぅ、百目さん・・・もうすぐですよ・・・んしょっ」
重いせいで(百目が体重をわざとかけているんだろうな)春野は何度も担ぎ直すはめになっていた。その度に豊満な胸が腕に押し付けられる。うーむ、無意識でやってるんだな。春野は男のゲスさにもっと気づくべきだろう。それにしても、百目が恍惚の表情だ。目がたくさんあるから気味が悪いったらない。
「ほぅ・・・」
「ほぅ・・・じゃねぇよエロゴーレム。そろそろ起きてやれ。春野にネタばらしすんぞ」
「おまっ・・・そりゃねぇぞ!」
割と大きなコソコソ声なんだが、春野は聞こえていないようだ。百目の重さであうあう言ってやがる。
「今春野に嫌われたら困るのはお前だと思うぞー?お前もどうせ一年だろ?これから三年間、こーんな優しい女子に嫌われたら・・・」
「わ、わかった!自分で歩く!」
大慌てで百目がガバッと俺たちの手から離れ、立ち上がる。
「きゃあっ」
いきなり百目が離れるもんだから春野が後ろにひっくり返りそうになる。百目が見た目に反した俊敏さで春野を受け止めた。
「あ・・・百目さん、ありがとうございます」
「おう」
・・・ドサクサに紛れてしっかり尻を触っている。こいつ、懲りねぇ奴だな。春野じゃなかったら間違いなくビンタコースだぞ。
「大丈夫か?」
「はいっ」
春野は気づいてなかった。春野よ・・・俺はこれから先、とっても心配だぞ。
「百目さん。もう大丈夫なんですか?」
「悪いな。運んでもらっちまって。重かったろ?」
どの口が言うんだ。
「いえ、大丈夫です!館林さんも手伝ってくれましたから!」
「そうか。館林・・・その、ありがとうな」
あからさまな目配せ。・・・しゃーねぇ。わかったよ。言わないでおいてやるよ。
「いいってことよ。百目。なんともなくてよかったな」
百目が胸を撫で下ろす。百目、こりゃ貸しになるぜ?
「百目さん。聡子ちゃんに叩かれたところ、腫れたりしてませんか?」
春野は背伸びをして百目の頬に触れる。
「お、おう、だ、大丈夫だぜ!」
百目がしどろもどろになっている。あんな接近されたらそりゃそうなるかもな。あれも無意識なんだろうな。罪作りな女子だな春野も。
「そうですか・・・よかったぁ」
そして、満面の笑み。うーむ、俺はずっと美乃里一筋だが、これはちとくるもんがあるな・・・。百目には効果抜群だろう。
「さぁ!お昼休みはまだあります!戻って一緒にご飯食べましょうっ!」
春野が嬉しそうに小走りで走り出した。俺も苦笑し、後をついて行こうとすると、百目がうつむいている。
「どうした?百目?本当に具合でも悪くなったか?」
冗談混じりで俺が言うと、百目は小声でつぶやいた。
「さっきの春野を見て、俺は今まで春野にしたことを思い出してとてつもない罪悪感に苛まれている・・・」
「・・・だろうな」
俺は百目の肩を軽く叩き、一緒に春野を追いかけた。