麗、倒れる。
「わぁ・・・っ」
焔センパイに連れられ、体育館に入ったわたしの目の前に広がった景色は、一言では表せません。なんといいますか・・・
「おっ!中学ぶりー!元気してた?」
「おう。お前は?」
「ああ・・・実はさ。一昨日食ったラーメンにニンニク入っててさ。死にかけてた。昨日まで入院してたんだよね」
「おまっ、ドラキュラなのにニンニク入ってる料理食べんなよ」
「しかたねーだろ?人間界に来てから好物になっちまったんだから・・・さっ!」
「おわぁ!叩くんじゃねーよ!腕取れたじゃねーか!」
「あはははっ!相変わらずお前の肩のネジはゆるいなぁ!」
「受かってよかったねぇー」
「私の脳を持ってすれば余裕「チョロすぎね「ねぇ、あの人かっこよくない「春休みなにしてた」
「あー、四つの首いっぺんに喋ったらわからないよう」
すごいとしか言えません・・・
「どうだ春野くん。驚いたか?」
「海主センパイたちに先に出会ってなかったら気絶してたかもしれないです」
「フフ、そうだろうな。」
目の前にはいろいろな人間ではない方々がひしめいていました。目がチカチカします。
「さて、きみの受験番号を見て、前のプラカードに書いてある番号の列に並ぶんだ。大丈夫。いきなり襲われたりはしない。俺が見ている」
頼りになるセンパイです。
「わかりました!では、失礼します。さっきは助けてくれてありがとうございました!」
「ああ、またな」
わたしは焔センパイのもとを離れ、列に向かいました。わたしの受験番号は237。あ、あそこですね。
「すみません、通してくださいっ」
人間と違って、みなさん体のサイズがまちまちです。通りにくい・・・
「おい、あれ・・・」
「マジかよ。すげぇな」
あれ?周りがざわついてます。なにかあったのでしょうか?・・・あれ?みんなわたしのほうを見てます。
「人間じゃん!ウチの高校くるなんて凄い神経してんな!」
「え?わたし?」
ものすごーくデジャヴを感じます・・・
「わざわざ陣外高校に?珍しいな!」
「うわぁー、見るからにひ弱そうじゃない。三年間無事に過ごせるかしら?」
ひー、やっぱりみなさん物凄い見た目の方が多いですー!いきなり見つめないでー!
「た、食べちゃダメですよ?」
「まだ何も言ってないぞ?」
「べつに私たち人間が食べたくて仕方ないわけじゃないわ」
ほっ。みなさんが海主センパイみたいな方々ではないみたいです。
「人間界の奴らとは争うつもりはないな。けっこういい世界だもんさ。俺らの世界より発展してるものがたくさんある。特に食い物」
顔中にあるたくさんの目が輝いてます。やっぱり食べるのが第一なんですね。
「人間って食べたことないけど、明らかにマズそうよね」
「肉があんまついてなさそうだしな。俺は牛のほうがいい」
ステーキとか食べるんでしょうか。
食べられないことを喜ぶべきなのか、人間を馬鹿にされたことを怒るべきなのか、わたしにはわかりませんでした。
「結構中学んときは俺も浮いてたけど、この高校ならそういうことも一切ねぇ。むしろ人間のお前のほうが珍しい学校だ」
まぁ、そうですよね。見渡してもわたし以外の人間を見つけられません。
「ま、いきなり食っちまうなんてことはないから安心しな」
たくさんの目がぱちくりしてます。・・・ちょっと慣れてきたので面白いです。
「何て名前?私は烏野 聡子。種族は・・・なにかしら、まぁ見たとおりね」
たしかに。大きいカラスさんですもんね。わたしは思わず烏野さんの羽をさわりました。
「わぁ、ふかふかです」
カラスってさわるの初めてです。わたしの知ってるカラスもこんなさわり心地なんでしょうか。
「あんま強くさわんないでよね。セットに時間かかるんだから」
「あ、ごめんなさい」
「まぁ、いいわよ。それで?名前は?」
「春野 麗っていいます。よろしくお願いします。烏野さん」
「可愛い名前ね。羨ましいわ」
「あ、ありがとうございます」
名前を褒められました。なんかこそばゆいです。
「はいはい!俺は百目 千太郎ってんだ。よろしくな春野!」
「アンタ、目が多いくせに千はおろか百もないわね」
烏野さん、落ち着いた綺麗な声です。・・・口はなんだか悪いようですけど。
「うるっせ!親はそれくらいあんぞ!」
「うわ、なにそれ、キモい」
「化けガラスがなにをー?!」
「あわわ、百目さんも烏野さんも喧嘩はやめてくださいっ!」
入学したばかりなんですから、みなさんには仲良くしてもらいたいです。
騒ぎを見て、色々な人たちがこちらにやってきました。
「へぇ、人間じゃん。共学じゃなかったから見るの久しぶり」
「あのゴーレムとカラス、なに喧嘩してんだ?」
「そろそろ入学式始まるから列に戻ったほうがいいぜ?」
みなさん、見た目のおかげで名前を覚えるのは楽そうです。
「ちっ、おいカラス。後で覚えとけよ?」
「嫌よ。面倒だもの」
「うがー!」
百目さんは身体中から湯気を出しながら自分の列に戻っていきました。
「春野さん、よろしくね。咄嗟とはいえ、ひ弱なんて言って悪かったわ」
「いえ、わたしのほうこそいきなりさわってごめんなさい。これから仲良くしてくださいね?」
改めて挨拶をするわたしですが、烏野さんは顔をしかめます。あれ、なんか悪いこと言っちゃいましたか?
「・・・あのさ、同い年なんだからその堅っ苦しい敬語やめない?」
あ、そうでした。同い年なんですよね。ここにいるみなさんとわたし。・・・実感わかないです・・・
「私は気安く呼ばせてもらうわ。麗」
「・・・うん、聡子ちゃん」
「それでよし。じゃあ、またね麗」
聡子ちゃんも列に戻っていきました。わぁ、早くも友達ができてしまいました。嬉しいです!
わたしが列に入ると、スピーカーから声が聞こえてきました。
「あー、みなさん静粛に。これから第17回陣外高等学校入学式を始めます。時間押しちゃってるんでちゃっちゃと始めます」
なんだか適当な気がしますけど、大丈夫なんでしょうか・・・
「学校長挨拶」
校長先生・・・どんなすごい人がくるのでしょうか。
がしゃんがしゃんと、重い音が体育館に響きます。・・・あの人、鎧を着てますね。あの人が校長先生なんでしょうか。他のみなさんを見た後だとなんだか普通の見た目ですね。もしかして人間なんでしょうか。だとしたら鎧を着てるなんてすこし変わった人です。
壇上に上がった校長先生は軽く会釈をし、マイクを取って挨拶を始めました。
「みなさん、この度は入学、おめでとう。校長のタイラー・ハンスだ。以後お見知り置きを。短めに済ますから安心してくれ。時間も押しているみたいだしね。さて、私が毎年挨拶として言わせてもらっているのは、人間界との共存の重要さだ。人間以外の私たち魔物の世界は魔界と呼ばれている。知っているね?私はもちろん魔界の出身だ。しかし、もう君たちの代だと魔界生まれという子はあまりいないだろう。魔界は高度な魔術は発展していたが、地球のような文明は未発達だ。我々は地球の人々に快く受け入れられ、今を生きている。君たちにこれから学んで欲しいことは、地球人と心を通わせ、地球の技術や文化、歴史を身に刻むことだ。それをいずれ魔界に持ち帰り、魔界の発展に役立ててほしい」
みなさん、真剣に聞いています。魔界・・・。そんな世界があったんですか。どうりでいろいろな人がいるわけです・・・。
「だが、魔界の発展を望む一方、君たちには地球でも幸せに暮らしてほしいとも思っている。魔界に比べたら、地球は素晴らしい世界だ。地球生まれの子もたくさん増えた。地球で自分のやりたいことを見つけることもいいだろう。私は精一杯応援する。これから三年間、ここに集まった仲間たちで、充実した日々を送ってほしい。ようこそ、陣外高校へ。以上をもって校長挨拶とする」
校長先生が挨拶を終えると、割れんばかりの拍手がおきました。雄叫びをあげる生徒もいます。短い話で、魔物と呼ばれるみなさんに向けた話なのに、人間のわたしも、なんだか心打たれる挨拶でした。
「時間が無いみたいだから、私は早く退散しようかな」
校長先生はさっきの凛とした声とは違い、柔らかい口調になりました。
「じゃ、困ったことがあったら私にもぜひ相談してくれ」
マイクを離し、また会釈をすると、校長先生は向きを変え、歩き始めました。しかし、歩くのをやめ、立ち止まりました。どうしたんでしょう?
「はっ・・・・・・」
はっ?
「はっくしょん!」
校長先生は盛大なくしゃみをしました。生徒たちから笑い声が上がります。なんだかお茶目な先生ですね。
「いやー、すまない。魔界には無い花粉とやらが厄介でね。この時期はくしゃみが出る・・・はっくしょん!」
花粉症ですね。魔界と言っていたので、校長先生も魔物なんでしょうが、見た目は鎧を着た普通の人間なんですけど・・・。魔物さんも花粉症にかかるんですね。校長先生、くしゃみしながらよろよろと壇上から降りようとしてます。そうとう我慢してたみたいです。大丈夫でしょうか・・・
「は・・・はーっくしょんっっ!」
ごとり
「・・・・・・え」
え・・・校長先生の・・・く、く、く、首が・・・と、と、取れちゃいましたよ・・・?
「・・・・・・・・・きゅう」
わたしは気を失ってしまいました。
「・・・・・・ら!・・・らら!・・・うらら!」
うーん、わたしを呼ぶのは誰でしょう?
「麗っ!」
目を開けるとそこには大きなカラスが・・・
「ふぁ?・・・おばぁちゃん・・・カラスさんが家の中にいるよー・・・?」
「なに寝ぼけてんのよ」
カラスに口ばしでおでこをつつかれました。
「いたっ。・・・あれ、ここは・・・」
家じゃないみたいです。
「麗、あなた入学式中に倒れたのよ?大丈夫?」
そうでした。わたしは入学式の時、校長先生の首が取れて落ちたのを見て、気絶したみたいです。
「本当に大丈夫?私の名前わかる?」
「・・・大丈夫。へいきだよ。聡子ちゃん」
カラスさん、ではなく。友達になったばかりの、烏野 聡子ちゃんでした。わたしの心配をしてくれているみたいです。
「なら良かった。どうしたってのよ?いきなり倒れて」
さっきまで元気だったじゃない、と聡子ちゃんは言います。でも、あんな光景をいきなり見たら、気絶せずにはいられませんよ。
「そうだ!校長先生の首が取れちゃったんだよ!校長先生、大丈夫なの?魔物さんは花粉症にかかると死んじゃうの?」
校長先生、入学式に会ったばかりなのにもうお別れなんでしょうか・・・
聡子ちゃんは一瞬きょとんとした顔をすると、すぐに笑いだしました。
「え?なんで笑うの?わたしなんか変なこと言ったかな?」
「ふふふ。なに?あなたそんなことで倒れたの?」
「そんなことって・・・」
首が取れちゃったんですよ?大事件ですよ?首が取れちゃったら、さすがに魔物さんといえども・・・
「麗は校長の種族を知らないみたいね。それならさぞかしショッキングな光景だったでしょうね」
え、種族?海主センパイがりざー、なんとかで焔センパイが竜っていうあれですかね。
「校長の種族はデュラハン。まぁ、えぇと、首なし騎士ってところね」
「首なし・・・騎士?」
「まぁ、人間の女子高生にしたらマイナーな魔物かもね。とにかく、校長は無事よ。あなたが倒れた後、校長は自分の首を拾って笑ってたもの」
わたしは魔物さんについてなにも知らないです。そんなすごい魔物さんもいるんですね・・・世の中は広いです。
「そういうことだ」
後ろから低い声がしました。
「あ、校長先生・・・」
ほんとに生きてます。・・・不思議です。
「いやぁー、人間が入学してるとはね。驚いたよ。いや、先に驚かせてしまったのは私かな?すまなかったね」
差し出された手をわたしはとって握手を交わします。
「いえ、校長先生が生きててよかったです」
「あっはっは。魔物はタフなんだぞ?花粉症ごときで死んでいられるものか」
意外に気さくな方です。
「もう身体のほうは平気かね?」
「はい。ご迷惑をおかけしました」
「なに、気にすることはない。だが、人間の君にとってはちょっとしたことでも驚くかもしれないが、この程度のことで倒れていたらこれから先もたないぞ?」
「はい・・・頑張ります」
「責めたわけではないのだが・・・言い方が悪かったかな。すまないね」
「いえ、ご忠告ありがとうございます校長先生。春野麗、精進します!」
校長先生は朗らかに笑いました。
「はっはっは。素直でいい生徒だ。君ならウチの生徒達とも仲良くやっていけるだろう。頑張りたまえ」
「はいっ!」
わたしも、魔物についてたくさん勉強して、皆さんとどんどん友達になろうと思います。校長先生に頑張ると約束したからには、ちょっとやそっとのことでは驚かないようにしなければなりませんね・・・!
「おっと失礼」
「ひゃああああ?!」
首がまた取れ・・・っ!!
「麗・・・言ってるそばから・・・」
あっ。
「くくくく。すまんすまん。それでは失礼する!」
校長先生は自分の首を小脇に抱えながら、笑って保健室から出ていきました。
「校長・・・麗をからかって楽しんでたわね・・・」
聡子ちゃんがため息をついています。
「でも優しくて、いい人みたいだよ。校長先生。ね?聡子ちゃん」
「はぁ・・・麗は純粋でいい子だね」
「?」
また褒められました。なんででしょう。
「まぁ、いいや。麗、もう平気?大丈夫なら教室に行こう?」
そうでした。せっかく初日なのに保健室で寝てたらもったいないです。
「うん。もう大丈夫。ついていてくれてありがとう聡子ちゃん」
「・・・。う、うん。気にしないで」
聡子ちゃん、なんで顔をそむけてるんでしょう?
「あ、来たぜ。ぶっ倒れたやつ」
教室に入ってみると、やはり中学の頃は全然想像もできなかった光景が目の前に。
「人間なんて久しぶりに見るわ名前は「どうして倒れたの「どこから来たの「私の種族はわかるかしら」
わっ。さっき見た首が四つある人です。同じクラスだったんですね。
「えと、どの方の質問から答えたらいいんでしょう?」
みんな違う質問だったように聞こえたので頭がこんがらがります・・・
「「「「わたし」」」」
全員の首が同時にぐいっとこちらに寄ってきます。すごい迫力です。
「・・・たすけて聡子ちゃん」
わたしは後ろの聡子ちゃんに助けを求めます。聡子ちゃんはため息をつきながら首を左右に振りました。
「はぁ・・・マトモに相手してたらもたないよ麗」
聡子ちゃんは四つ首の女の人を見ます。・・・また喧嘩になっちゃいそうな・・・
「あんたの三つの質問にはこれからこの子が答えるよ」
えっ、すごい。聡子ちゃんは全部聞こえてたんですね!
「麗、こいつはスキュラ。本当は六つの首があるんだけど、なんか四つしか無いのよね」
すきゅら・・・まるで知らない名前です。
『ネタばらしするとはひどい「知らない子に私の種族を「四つ言ってそれを当てさせるゲームが「好きだったのにどうしてくれるの』
四つ首のすきゅらさんはむすっとしてます。
「なんだ、あんた麗にもわかるように喋れるじゃない」
『そりゃそうよ「身体は一つなんだから「でも連携するのは「嫌なの』
「難儀なヤツね・・・」
クラスのみんながわたしたちのやりとりを見ています。
「でもめんどうなの「非効率だし「頑張れば私の言葉もいっぺんに聞けるようになる「頑張って聞いて」
「なんでこの子が頑張らなくちゃならないのよ・・・」
聡子ちゃんが呆れてます。
「この子は人間なのよ?魔物の私たちみたいに簡単に順応できるわけないじゃない」
「私が人間に合わせる?「生意気なカラスね「焼き鳥って美味しいわよね「カラスって食べられるのかしら」
「ちゃんと喋れるように邪魔な三つの首吹っ飛ばしてもいいのよ・・・?」
なんだか二人の雰囲気が険悪な感じに・・・
「いや、でもまぁ、俺こいつの喋ってることわかんなかったわ」
「あははっ。俺も」
「あんたたちは黙ってて・・・!」
キッと聡子ちゃんは男子生徒を睨みつけました。聡子ちゃんもすごい迫力です。・・・でも、初日から喧嘩はよくないですね。
「聡子ちゃん。ちょっといい?」
聡子ちゃんの羽毛を押しのけて、わたしは前に出ます。
「麗、こいつもあなたにわかるよう喋れるんだからそう言うように言ったら?」
聡子ちゃんは少し苛立ってるみたいです。でも、それはそこにいるすきゅらさんも同じだと思います。
「ううん。わたしはこの人の言うことを同時に分かれるように頑張るよ」
「麗・・・」
「わたしはすきゅらっていう人たちは知らなかったけど、こうして出会えたんだもん。わたしも知って、理解したい。仲良くしたい」
教室は静まりかえっています。
「すきゅらさん、どうか聡子ちゃんを嫌いにならないで。聡子ちゃんも右も左も分からないわたしのためにいろいろ気にかけてくれてるんだと思う。でもわたしは二人にも仲良くなってもらいたいよ。・・・わたし頑張るからケンカしないで。ね?」
二人は黙ってわたしの顔を見て、そしてお互いに見つめ合いました。
「・・・妙な気分だわ化けガラス「不思議な人間「必死な目ね「喧嘩なんてしてないのに」
「あんたも感じた?この子なんか不思議なのよね。まぁ、喧嘩してたつもりはないけど、少し喧嘩腰だったかしら。ごめんなさい」
「私もちょっと熱くなってた「カラスはまずそう食べるのやめよう「すまなかったわ「初日から険悪な関係になるつもりはこちらもない」
「ちょっと、まずそうとはどういうことよ」
聡子ちゃんも少しですが、笑顔を見せました。さっきまで張り詰めた空気だったのに和らいだように感じました。よかったです。
「あれが、少しかよ」
「あははっ。確かに」
さっき聡子ちゃんに睨まれた男子生徒が笑います。
「あんたたち・・・黙らせてやろうかしら?」
「すまん」
「口が滑った」
なにはともあれ、ケンカにならずにすんでよかったです。高校生になって初めての友達の聡子ちゃんが争うのはわたしも嫌です。
「おい、そこのお前らぁ、席につけー」
気だるげな声が教室に響きました。
「担任だ」
「やべっ」
ガタガタとみなさんが席につきます。わたしもはやく席を見つけなきゃ・・・あ、でもわたしどこに座ればいいのでしょう。担任の先生に聞けばわかるでしょうか。
「あ、先生、わたしはどこに座れ・・・ば・・・」
振り返ったわたしは一瞬言葉に詰まりました。ぼさぼさの髪の毛、よれよれのシャツ、でも、先生の見た目は明らかに人間だったのです。
「あー?お前か、倒れてた生徒は。人間だったんだな」
「あ、えと、その」
「なんだ物珍しそうな顔をして。俺の顔になんかついてるか?」
「いえ、そうではないのですが・・・」
「ならいいじゃねぇか。あんまりジロジロ見んな。お前の席はあそこだ」
先生は教室の真ん中あたりにある木の机を指差します。あそこがわたしの席なんですね。
「は、はい。ありがとうございます」
わたしが席につくと、先生が教壇に立ち、頭をがしがしとかきました。
「来るのが遅くなった。悪いな。俺が担任だ。以後よろしく。自己紹介は・・・適当にやれ。以上」
なんだか適当な先生です。あ、もしかして入学式のアナウンスってこの先生かもしれません。
「今日は授業自体はない。まぁ、クラスメイトの顔見せってところだ。俺は座ってるから各自自己紹介でもしてくれ。・・・何か質問あるか?」
そういえば先生はどんな種族なんでしょう?ちょっと気になります。見た目もわたしと変わらないし、校長先生みたいに人間にかなり近い魔物もたくさんいるんでしょうか。
「はいっ」
わたしは手をあげました。
「ん?お前か、ぶっ倒れ娘。なんだ?」
すごい変なあだ名をつけられてしまいました・・・いえ、そんなことよりも聞きたいことがあるんでした。
「春野 麗といいます。先生はわたしと見た目が似ていますが、どんな種族の魔物さんなんですか?」
教室がしんと静まります。・・・あれ?
「お前、何言ってんだ?」
先生は頭をまたかきながらため息をつきます。
「種族もなにも・・・俺はお前と一緒の人間じゃねぇか」
「・・・・・・えっ?」
「麗・・・」
後ろの聡子ちゃんの呆れ顔が簡単に想像できてしまいました。