表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。

短編・ショートショート

騙され

作者: 葦沢かもめ

 誰かを騙して陰で笑おうなんて奴を、神様が見逃すはずがありません。だから神様なんていないのです。

 もし山道に子供に化けた子狐が倒れていて、

「お腹が痛いよう。どうか助けてくださいな」

と、旅人を騙そうとしていても、やはり神様はいないのです。

 でもその子狐は不運なことに、演技はまだまだ未熟者でした。尻尾がひゅるんとお尻に生えたままだったのです。これではさすがに旅人も勘付いてしまいます。

”さて、どうしたものか。このまま見逃してやってもいいが、しかし老人が悪戯されるといけない。ここは少しからかってやるか”

 ちょっとばかり思案して、旅人は妙案を思いつきました。

「これは大変だ。さ、これをお食べ」

 そう言って子供に化けた子狐に差し出したのは、一粒のドロップでした。甘いものは旅人にとって必要な携行品ですから、ちょうどポケットに入っていたのです。それを子狐は喜んで受け取ろうとしましたが、あまりに事がうまく運んだせいか、旅人を疑ったようでした。

「甘い匂いがするねぇ。それは本当に薬ですか?」

「知らないのかい? 今は文明というのが進んで、苦い薬なんてもうお払い箱さ。そんなの誰も飲みたくないだろう? 今は甘い薬が流行しているんだ」

「それもそうだ。でもお高いんじゃないのかい?」

「いいのさ、気にするな。これも人助けだ」

 それを聞いた子狐はどうやら安心したようで、口元をニヤリとさせました。

「そうか、人助けか。なら悪く思うなよ」

 途端にボワンと変化の術を解くと、ドロップを大事そうに抱えて藪に飛び込んで、そのまま姿をくらましてしまいました。

「やれやれ、これでアイツも懲りるだろう」

 これは一つ善い事をしたと満足した旅人は、その場を後にしました。

 しかし、しばらく歩いているうちに旅人は気付いたのです。

”もしや、アイツは最初からドロップが目当てだったのではないだろうか。旅人はたいてい甘いものを持っているから、きっとそれを知っていたんじゃなかろうか”

 そんなことを考え始めると、どうやってもそのように思えてきてしまうのは、やはり旅人でも同じでした。

”ああ、しまった。でなければあんなふうに分かりやすく尻尾なんて出すかい? 悔しいなあ”

 旅人はこうも思いました。

”なんで神様はいないんだ”


 その次の日の朝。山の麓にある町の宿屋を出た旅人は、老主人から聞かされた奇妙な話のことで、頭がいっぱいでした。

 今朝まだ暗いうちに老主人が店先の準備をしていると、山の方に狐火が見えたというのです。それはたった一つの小さな狐火で、遠くの方からキューンという鳴き声が聞こえると、消えてなくなったのだそうな。その狐の鳴き声は、今まで聞いたことのないくらいに悲しい響きだったと老主人は語っていました。

 それでようやく旅人は気付いたのです。あの子狐は本当に薬が欲しかったのだと。大事な誰かのために、下手なりに人間に化けたのだと。

 もう遅いと分かっていても、旅人は心の中で念じました。

”子狐に幸せを”

 でも、やはり神様はいないのです。誰かを騙して陰で笑おうなんて奴を、神様が見逃すはずがありませんから。

 お読み頂きありがとうございます。この小説は「冬の童話祭2012」への参加作品として、下に載せた私のTwitter小説から着想を得て、新たに筆を取ったものです。多少の設定のズレは見なかったことにして下さい。


◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇


それにしても悪いことをしてしまった。昨日山に入ったら、目の前で子狐が倒れて苦しんでいたんだ。つい悪戯をしたくなって、薬だと言ってドロップをやると、子狐はそれを大事そうに抱えて、元気に跳ねていっちまいやがった。恐らくは母狐の病気か何かで薬が欲しかったんだろうさ。 #twnovel


URL:https://twitter.com/#!/AshizawaKamome/status/110529277774135296


◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇


 Twitter小説は、一つのツイートの最大文字数である140字以内で書く小説のことです。「ついのべ」とか「140字小説」とも呼ばれます。しかもタグと呼ばれる文字列「#twnovel」をツイートの中に入れないといけないので、実際は131文字で書かなければなりません(タグは検索して読んでもらうために使われるものです)。

 そんな制約はありますが、その解釈は多様で、一つのツイートで一つの物語を書く人もいますし、幾つかのツイートで一つの物語を書く人もいます。実際のTwitter小説が読んでみたいという方は、Twitterで「#twnovel」と検索してみてください。「小説家になろう」にTwitter小説のまとめを置いている人もいるので、そちらもチェックしてみてください(私も公開しています!)。

 以上、長々とお話ししてしまいましたが(ステマじゃないです)、もし興味が湧いたらぜひやってみてくださいね。

 では。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[一言] どっかで聞いたことあるような話だと思いましたw
[良い点] 読み終わって虚しさに胸が締め付けられるようでした。twitter小説っていう短い文で小説を書いているだけあって終わり方が上手いです。 [気になる点] 見当たりません。
2012/02/11 10:15 退会済み
管理
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ