嫁入り支度が一箱足りません——六つの箱を並べた幼馴染が求婚まで数えます
「一つ足りない? では、無関係だと言い張っている箱も運んでください」
私が指を一本立てると、ジュリアンは長卓の向こうで目を瞬いた。
「無関係だから、あちらに置いてあるんですが」
「一つ、疑い。二つ、間違った札。三つ目にようやく箱を見てください。順番が逆です」
「僕が疑われているのに、ずいぶん楽しそうですね、ローラ」
「楽しくありません。数えられるものがあると落ち着くだけです」
言いながら二本目の指を立ててしまった。説得力、ただいま失踪。
ソフィーの嫁入り支度は六箱あるはずだった。ところが受取役のジュリアンが確認したところ、目録の第四箱が見当たらない。代わりに第五箱の札が二枚ある。
当然、最後に受け取ったジュリアンが疑われた。
本人は背筋を伸ばしていたけれど、右手だけが何度も上着の縫い目をなぞっている。幼いころ、叱られると私の後ろへ隠れていた手だ。三年前に私の背丈を追い越したからといって、手まで別人にはならない。
「その箱をこちらへ。ええ、札が重複しているほうです」
使用人が六つ目を運び入れる。
私は六箱を二列三箱に並べた。左右の卓には同文の目録を一部ずつ。左の読み手は箱へ触れない。右の現物確認役は、読まれた番号と品を復唱してから蓋を開ける。
「第一箱、刺繍入りの卓布、十二枚」
「十二枚。確認いたしました」
「第二箱、銀糸の夜会靴、二足」
「二足。確認いたしました」
ジュリアンは私の横に立ち、紙ではなく手元を見ていた。紐をどちらへよけるか。蓋をどの角度まで上げるか。確認済みの品へ誰の指も戻らないよう、どこに人を立たせるか。
そんなに見なくても、犯人扱いされた腹いせに箱を殴ったりはしませんよ。
第四番を読み上げたところで、第五の札がついた箱から該当品が出た。ソフィーが自分で縫った寝台掛け、その下に第四箱の控え札。上から第五の札を重ねて結んだだけだ。
「確認した一箱ごとに、三つ数えてから封を戻す」
一つ。
二つ。
三つ。
現物確認役が封を戻した。
「六箱すべてあります。なくなったのは第四箱ではなく、札を付けた方の注意力ですね」
ヘレン伯母様が扇を閉じる。
「箱を疑う前に目を疑いなさい」
優雅な口調で、疑った者を全員まとめて刺した。さすが伯母様。扇は閉じても逃げ道は閉じる。
「お兄様!」
不足が解けた途端、ソフィーは兄を素通りして私へ抱きついた。
「ローラ、ありがとう!」
「僕ではなく?」
「お兄様は立って見ていただけでしょう?」
ジュリアンの口が半分開いた。気の毒なので肩を叩いておく。昔から妹に勝てたことがない。数えるまでもなく全敗だ。
「手順を知らなかったんですから、仕方ありません。次から覚えればよいのです」
「次も僕が疑われる前提ですか」
「嫁入り支度の箱は、妙に人を疑わせますから」
「覚えておきます」
彼は二列三箱を見下ろした。
その目だけは、冗談を聞いた顔ではなかった。
* * *
「それは目録外です」
ひと月後、私は銀器箱の目録を閉じながら言った。
「夕食を取ったか聞いただけですよ」
「だからです」
「食事は家計に入るでしょう」
「私の夕食は両家の月末帳に載りません」
「では、どこに載せるんです?」
私が知りたい。できれば温かいうちに食卓へ載せてほしい。
けれど今夜は銀器を収めた六つの小箱で、一組分の匙が足りない。夕食は逃げません。たぶん。冷めて別の料理になるだけです。煮込みは脂の板へ、パンは護身具へ。料理人の努力に対する侮辱が順調に進んでいる。
「卓をもう一つ」
私が使用人へ頼むより先に、ジュリアンが壁際の小卓を持ち上げた。長い腕で脚を浮かせ、封蝋の欠片を踏まないよう半歩ずつ運ぶ。
前回と同じ位置へ置いた。
六つの小箱は二列三箱。目録は左右に一部ずつ。読み手と現物確認役も、彼が指で示して分けた。
「第三箱、肉料理用の匙が十二本」
「十一本です」
「第四箱は?」
「菓子用の匙が十三本」
肉料理用が一本、第四箱へ紛れ込んでいた。銀の柄に刻まれた蔓模様は同じ。大きさが指一本分違うだけである。
違うのに。人は並べないと、案外見ない。
「三つ、待って」
私が指を折ると、ジュリアンは三つ目で第四箱の封を戻した。もう私の手元を見ていない。自分の手で紐を押さえ、封がまっすぐ収まったか確かめている。
「よく覚えていましたね」
「教わりましたから」
「将来の奥方は助かります。銀器が一本迷子になっても、あなたが見つけられますもの」
ジュリアンの指が封の上で止まった。
「将来の奥方」
「ええ。家計を学んでいるのは、そのためでしょう?」
「ローラは、そう思っているんですね」
「ほかに何が?」
彼は私を見た。灰色の瞳が細くなり、口元は笑おうとして失敗したように片方だけ上がる。
答えず、閉じた銀器箱を端へ寄せた。
なぜ黙るのですか。三つまでなら待ちますよ。四つ以上は追加料金です。
「ところで、夕食は」
「もう結構です。食べる時間が惜しくなりました」
「今の話のどこに食欲を失う要素が?」
「失ってはいません。先にローラへの質問を諦めました」
ひどい。生徒が教師の指導可能性を見限った。
その夜、私は冷えた煮込みを三口食べ、最終頁へ数字を書き入れた。ジュリアンは向かいで封の位置を確かめている。
月末帳を締める羽根ペンは、いつも私の右手にあった。
彼が覚えた理由については考えなかった。
考える必要のないものは目録へ入れない。入れなければ管理もしなくてよい。なんと便利な方法だろう。家計には絶対に勧められない。
* * *
「この一箱は、家の備品です」
数か月後、その一言で私の嫁入り支度が五箱になった。
相手も日取りも決まっていないのに、支度だけは六箱ある。亡き母が揃えた布地、私が少しずつ足した衣類、伯母様から贈られた銀の鏡。使う日が来るかは別として、品数と状態を月ごとに締めるのが私の役目だった。
役目だった。
長卓には二部あるはずの目録が開かれている。一部には六箱。もう一部には五箱。五箱と記された目録の最終頁だけ紙の色が新しく、行末の揃い方まで妙に美しい。私の字を写した者は、私より私の字を丁寧に書くらしい。腹立たしい才能である。
六番目の箱は部屋にない。
そこだけ床板が四角く白かった。
「私は六箱すべてを、先月ここで確認しました」
私が言うと、家令は目録から顔を上げなかった。
「ですが、一部には五箱とあります。もう一箱は家の備品目録へ移されております」
「移した覚えはありません」
「最終頁を締めるのは、ローラ様です」
「だからこそ分かります。これは私が締めた頁ではありません」
では、誰が差し替えたのか。
その問いに名前を出せなければ、私の言葉は自分を守るための声になる。箱を動かし、帳面を締め、封を確かめる者が、嫁入り支度を一箱多く見せた。そう並べられると、ずいぶん分かりやすい。
分かりやすすぎる話は、たいてい現物を見ていない。
「二部の目録と箱を同室で照合させてください」
「疑いを受けたご本人が原本と現物へ触れることはできません」
「私が触れずとも、読み手と確認役を分ければ」
「その役を割り振るのも、これまでローラ様でした」
一つ、原本へ触れられない。
二つ、箱を動かせない。
三つ、指示も自己弁護になる。
はい、終了。私という差配者は三手で置物になった。せめて高価そうな顔をして立っていよう。
伯母様は双方の目録を見比べていた。すぐに私を庇う一言をくださらないのは、冷たいからではない。一言で消した疑いは、一言で戻る。箱が見つからなければ、私の仕事だけが永遠に疑われる。
「六番目は、今どこに?」
「家の寝具を収める部屋です」
「では運んで——」
私は一歩出かけた。
家令の手が上がる。
止められたのは身体ではない。つま先が床へ戻る場所だった。
「ローラ様は、こちらでお待ちください」
「……承知しました」
左脚が震えていた。立ちっぱなしだからだ。朝から二つの帳面を締め、自分の昼食は菓子一つで済ませた。昨夜も寝台へ入ったのは鐘が三つ鳴ったあと。
具合が悪いなどと言えば、疑いを受けて逃げたように見える。
だから立つ。
立って、六箱目があった白い四角を見る。
私の寝台には、冬用の厚い掛け布がない。家の客間で不足が出た月に回した。食卓の銀杯も一つ減らした。嫁入り支度へ余分を積んだどころか、私の部屋は補填される側ではなく、いつも補填する側だった。
それを証明する目録を、私が締めている。
私の字で。
私の羽根ペンで。
私にしか証明できないから、私の証明だけでは足りない。
これは困った。
困った、で済ませるには胃が空っぽすぎる。
「椅子を」
低い声がして、長卓の端に椅子が置かれた。
ジュリアンだった。
「必要ありません」
「今にも床を数え始めそうな顔をしています」
「床板は数えません。帳面に載らないので」
「座ってください」
「嫌です」
「では僕も立ちます」
彼は本当に私の隣へ立った。肩が触れそうで触れない距離。助けを求めれば届く距離だ。
私は口を開いた。
何を言えばいい。
六箱目を見つけて。目録を読んで。私を信じて。
どれも、自分のために頼む言葉だった。
喉が動いただけで、声は出なかった。
ジュリアンは私を見なかった。空の位置を見て、次に二部の目録を見る。最後に、閉じたままの扉へ顔を向けた。
「家の備品だという箱を、ここへ運んでください。僕が運びます」
「ジュリアン様、今はローラ様の嫁入り支度を確認しているところです」
「だから必要です。無関係だという箱も、同じ部屋へ」
私の言葉だ。
数か月前の私の順番を、彼の声がたどっていく。
家令が伯母様を見る。
伯母様は扇を一度だけ傾けた。
「運ばせなさい。ただし、ローラには触れさせないこと」
「触れません」
ジュリアンの返事は短かった。
私へ慰めも約束もしない。
彼は上着を脱いで椅子の背へかけ、袖口を二度折った。
* * *
最初の箱を、ジュリアンが両腕で持ち上げる。
腰を落とし、底へ指をかけ、胸元まで引き寄せる。床の白い四角へ置く直前、右足で位置を測った。角が線から指一本ずれたのを見て、持ち上げ直す。
一箱目。
二箱目は、その右へ。
三箱目まで同じ列。
四箱目を向かいへ置き、五箱目を横へ滑らせる。
最後に運び込まれた家の備品だという箱は、寝具部屋の札を下げていた。ジュリアンはその札に触れず、両手で底を抱える。額に髪が落ちた。腕へ筋が浮き、呼吸一つで持ち上がる。
空いていた六番目の場所へ置いた。
六箱、二列三箱。
部屋にいた使用人たちの手が、一斉に止まった。
ジュリアンは私を見た。
私は座っていなかった。けれど、もう床へ沈みそうでもなかった。
「目録を二部。左右の卓へ」
彼は左の目録へ家令を、右の現物へ二人の使用人を置いた。読む者の手から箱を遠ざけ、箱へ触れる者の前から紙を離す。
「左は番号と品名を読むだけ。右は復唱して現物を確認してください。僕は封を見ます。ローラは」
そこで初めて、彼の声が止まった。
「ローラは、順番が違っていたら言ってください」
それなら自己弁護ではない。
彼が進める手順の確認だ。
「第一箱からです」
「第一箱、冬用の外套二着。青灰色と濃紺」
「二着。色も一致しております」
開ける。
広げる。
畳み直す。
封を戻す。
「第二箱、普段着六着」
「六着。確認いたしました」
箱の位置は動かさない。確認済みの品へ別の手を入れない。左右の記録が一致してから、次へ進む。
第三箱。
第四箱。
第五箱。
私が何年も繰り返してきた作業だ。
なのに自分の箱を自分で開けられないだけで、足元に底がない。順番を言ってくれる声があるだけで、底が一枚ずつ戻ってくる。
「第六箱」
家令の声がわずかに掠れた。
「花嫁用の寝台掛け一枚。白地に青の刺繍。銀の手鏡一面。未使用の寝衣四着」
現物確認役が、寝具部屋の札を外した。
その下から、古い封蝋が現れた。
私の封だ。
箱の縁へ二か所。先月、私が押した形のまま残っている。札だけが、その上から別の紐で結ばれていた。
「封に損傷はありません」
「開けてください」
蓋が上がる。
白地に青い蔓を刺した寝台掛けが、いちばん上にあった。右下の蔓だけ葉が一枚多い。十六歳の私が刺繍の数を間違えて、直すのを諦めたものだ。
その下に銀の手鏡。
さらに未使用の寝衣が四着。
「目録どおりです」
「箱の内側も」
ジュリアンが促すと、使用人が蓋の裏を確かめた。細い革紐に、先月の確認札が通っている。私の筆跡で第六箱。封を閉じる前に内側へ残す控えだ。
外側の札だけが、家の備品へ変えられていた。
「六箱とも、ローラの目録と現物が一致しました。もう一部の最終頁だけが違います」
現物が全部、答えた。
胃の底がきゅっと縮んだ。空腹とは違う。いや空腹でもある。私の身体は重要な場面でも複数の訴えを同時提出してくる。
「確認が終わりました」
ジュリアンは封を持ったまま、私を見る。
「三つ数えてから封を戻す」
一つ。
彼の親指が、封蝋の縁を支える。
二つ。
私の視界が滲み、六箱の角が溶けた。目を閉じれば何かが頬へ落ちそうで、閉じられない。
三つ。
封が元の位置へ収まった。
終わった。
私が一度も箱へ触れずに。
私ではない人の手で、私の仕事が正しかったと証明された。
「ローラ」
ジュリアンが袖を戻さないまま、私の前へ来る。
「最初に疑われたとき、僕は何を言っても言い訳になると思っていました。箱の札なんて、受け取った僕が付け替えたと言われれば終わりですから」
私は彼の袖口を見た。折り目が左右で少し違う。きちんとしている彼が、それにも気づいていない。
「あなたが隣で一つずつ順番を言ってくれて、初めて息ができた」
軽口を挟む場所ではなかった。
彼の手には、まだ第六箱を持ち上げた跡が赤く残っている。
「だから覚えました。卓の位置も、目録の置き方も、誰の手を紙から離すかも。あなたが自分のためには使えなくなったとき、僕が使えるように」
「将来の奥方のためでは」
「その奥方にしたい人の隣へ立つためです」
聞こえた。
今、確かに聞こえた。
聞き間違いに番号を振るなら、一つ、空腹。二つ、睡眠不足。三つ、年下の幼馴染が突然おかしなことを言った。
よし。三つもある。十分に誤認の可能性が——。
「僕は、あなたの暮らしを守りたい。帳面を締める日も、夕食を逃す日も、眠れない夜も、一人で補填するのをやめさせたい」
「やめさせる」
「手伝う、と言えば、あなたは自分の分まで僕へ割り振るでしょう」
「よくお分かりで」
「教わりましたから」
ジュリアンは笑わなかった。
「ローラ。僕と結婚してください」
逃げ道のない決算が来た。
一つ、六箱。
二つ、二部の目録。
三つ、差し替えられた頁。
四つ、守られた封。
五つ、逃した夕食。
六つ、覚えすぎた生徒。
「求婚は……七番目の持参品でしょうか」
「違います」
即答された。
「では、どの目録へ?」
「それは目録外です」
「目録外のものは管理できません」
「管理しないでください。返事だけください」
「返事を数字にしてはいけませんか」
「いけません」
「はいなら一、いいえなら二」
「ローラ」
「保留なら三」
「四を追加します。僕がもう一度求婚する」
「選択肢を勝手に増やさないでください!」
ヘレン伯母様が扇の向こうから口を挟んだ。
「求婚を持参品へ入れたら、返品期間はあるのかしら」
「伯母様!」
「ありません」
ジュリアンまで真顔で答えた。
それで、駄目だった。
喉の奥に引っかかっていたものが、変な音になって抜けた。ジュリアンの眉が下がり、同じように吹き出す。
二人で笑った。
六箱を挟んで、疑われた側と救う側を一度ずつ交代して、ようやく同じ場所で。
私は月末帳の最終頁を開いた。自分だけが握っていた羽根ペンを、その上へ置く。
差し出すと、ジュリアンの指が伸びた。
まだ笑いの残る手が羽根ペンを取り、私の手から最終頁を受け取る。
「ここを締めてください」
「今月だけですか」
「まずは今月です」
「では来月、もう一度聞きます」
「求婚を?」
「四番目の選択肢を」
「増やした選択肢は認めません」
「でも、羽根ペンは返しません」
「それは困ります」
「一緒に使えばいいでしょう」
返せと言うはずの指が、帳面の端を彼のほうへ押した。
伯母様の扇がまた閉じる。
「その帳面、二人で締めるなら食卓へ持っていきなさい。煮込みを脂の板にするのは、今月で最後にしてちょうだい」
* * *
夕食は二人分。
温かい煮込みも二人分。焼きたてのパンも二人分。食卓の端には、ジュリアンが締めた月末帳が置かれている。
「朝食も二人分に頼みました」
「まだ早くありませんか」
「今夜は帰りません」
「求婚者は——どうして一人でこんなに場所を取るのですか」
「目録外だからでしょう」
向かいに座る彼の脚が長い。食卓の下で私の靴先へ触れているのに、引く気配がない。
私も引かなかった。
食後、最終頁と羽根ペンは彼の手から戻ってこなかった。
代わりに寝台へ入るまで付き添われ、窓掛けを閉じられ、朝食の時刻まで決められた。管理しないでほしいと言った本人が、私の睡眠だけはずいぶん厳しく管理する。
翌朝、陽が高くなってから目を開けると、扉の外でジュリアンが使用人へ告げていた。
「朝食は二人分で」
私は掛け布を鼻まで引き上げた。
返事はまだ、どの目録にも書いていない。




