僕は彼女との距離を縮めたい
僕ーー田中拓海は特に取り柄のない、高校生だ。
学校の休憩時間、今日はいつもと様子が違うようだ。
「瑞希が風邪で休みだなんて」
「そやな、調子狂うな」
「白石様がいない学校なんて学校じゃない」
「俺の瑞希はいつだって、俺の心の中にいて笑顔をくれているぞ」
クラスメイト達が今日、風邪で休んでいる生徒ーー白石瑞希を心配しているようだ。
やはりこのクラスでは瑞希は、中心であると実感する⋯最後の奴は一言ツッコミを入れるべきだろうか。
僕はバイト先に理由を説明して、休みをもらうことが出来た。
理由は当然彼女を看病するためだ。
「ただいま~瑞希!帰ったぞ⋯大丈夫か?」
「びく!」
「うん? 大丈夫か瑞希」
「こちらを見ないでください。 拓海、こんなに早く帰ってくるなんて、アルバイトはどうしたのですか」
「休みをもらった!。 今の瑞希をほっとけないから!」
「私の為に、休みをとったのですか」
どうにか理解してくれた様だね、僕はふと彼女に視線を向ける。
「珍しいな~瑞希の私服姿!」
「拓海が帰ってくる前に、着替えようとおもっていたのに⋯」
「いや!着替えなくてもいいから~、というか~瑞希がなにを着ているかなんて、洗濯物見たらわかるでしょう」
「そんな盲点でした。うぅ⋯しかしこれは私のポリシーで、大切なことなんです」
今日の瑞希はよく話すし、感情もコロコロ変わるからいいなぁ
昔、瑞希が風邪を引いていた時は、彼女は家に引きこもって、看病させてもらえなかったからな。
よし、今日はしっかりかり看病するぞ。
「拓海、心配いりません。 ねぇ、この通り⋯あれ」
「ふらふらじゃないか! ほら~布団まで運ぶぞ!」
「あぁ⋯ふぅふぅ」
「よし、布団まで運んだ! あれ⋯さっきより体温上がったんじゃないか!」
「ふぅ⋯これは風邪と関係ないことですので、心配しないでください」
瑞希がそう言うなら問題ないか。 僕は料理に取り掛かる⋯うん、僕にしてはうまく出来たじゃないか。
「さあ~瑞希、おかゆ持ってきたよ! やっぱり風邪の時の定番は~これだよね! はいあ~ん!」
「え、そのあの⋯自分で食べますので」
「そんなこと言わずに! さぁ~あ~ん」
「ひぃ、ふぅふぅふぅ」
「あれ、美味しくなかったのかな⋯どれどれ、うん~美味しいね。 じゃあもう一度、あ~ん」
「へ、あのそれは、ふぅふぅ⋯とても美味しいです、拓海」
満足してもらえてよかった。さて次はこれだな。
「さあ~ご飯を食べて眠たくなってきたよね!」
「いえ、むしろ目が覚めたと思います」
「えぇ!そんな!⋯でもこんな時でも~大丈夫! 僕が子守り歌を歌うからね!」
「はい? いいえお構いなく、私はもう大丈夫ですから」
「ねんねんころりよ~寝転びよ~瑞希はよい子だねんねしな~」
「こちらの言うこと聞いてないですね⋯」
「寝転んだなら~おやすみ⋯⋯ぐう」
「拓海が寝るのですか? まったくもう⋯おやすみなさい拓海、ありがとうございます。」
あれ⋯僕いつのまにか寝てた。 瑞希はいない、僕はキッチンへと向かった
「おはようございます、拓海」
「おはよう~瑞希!大丈夫?」
「はい、おかげさまで風邪は治りました」
「そうか~よかった! でもまだ病み上がりだから~無理したら駄目だよ!」
「それよりも拓海、お話があります」
「うん!どうしたの~瑞希」
「今後は、わざわざバイトを休んで、看病してもらわなくても大丈夫です。 私なんかの為にあなたの時間を浪費させるのは⋯⋯」
「なんかじゃないよ~瑞希! 瑞希は僕にとって大切な家族なんだから!」
「家族⋯ですか」
「そう!だから~これからもよろしくね!瑞希」
「ふぅふぅふぅふぅ」
「あれ~瑞希、熱まだあるじゃないか!すぐ運ぶね」
「家族⋯これからも」
いつもはしっかりしている彼女だけど、やっぱりほっとけないな⋯⋯少しは距離縮まったかな