冒険の始まり②
何度倒されたことだろう。雑魚だと思って舐めてかかった結果なんども倒された。でもそのおかげで自分の能力が向上できた。まだ勝つと決まったわけではないが、少しだけ感謝の気持ちを抱えながら森の中を歩いていた。
「来たな」
じっとこちらを見つめるその眼はとても雑魚モンスターのような雰囲気とは思えなかった。そして俺も戦闘体制に入った瞬間にその魔物は俺に向かって突進してきた。
「そいつに何度もやられたっけな。もうそのスピードは覚えてらぁ!」
魔物に向かって人差し指を突き出し、指先に魔力を集中させる。
「ライトニング」
指先から放たれた魔法は躱すことが困難だとわかるほどの速度の稲妻だ。さらに魔力を指先一点に集中したため、とても洗練されたものだった。そして一瞬のうちに魔物の体を貫通し、その場で動きを止めた。
「やったか…?」
その威力がわかるほどの魔物の体に穴がぽっかり空いており、穴の周囲はドス黒く焦げていた。電撃の影響なのか体を小刻みに震わせており、動きだす様子も無いため俺は魔物に近づいていった。
「お前のおかげでこれだけの魔法が使えるようになった。突進してくるスピードにも目が慣れて動けるようにもなった。ありがとうな」
手を合わせて魔物に感謝の気持ちを伝えてその場を去ろうとしたときだった。魔物の体がウネウネと動き出し空いた穴が自然と修復していく。
「おいおい…マジかよ…。こんなの最初に戦う魔物のレベルなのかよ!」
「ガアアアアアアア!!!!」
どう見ても完全復活だ。いや、それどころか怒りがプラスされていて今までで1番やばい状況になっている気がする。
攻撃が来る前に魔物との距離を取るために後ろに飛んだが、さっきの倍はあるであろうスピードで俺に向かって突進してきた。
「くそ!アイアン!」
とてもじゃないが避けれる状況じゃないため、自分自身に防御力が上がる魔法をかけた。そして空中で魔物の体当たりを喰らった俺は、かなり遠くまで吹き飛ばされた。
「がはっ…はぁはぁ…。なんとか耐えれたな…。まったく勘弁してほしいぐらいの強さだな。これからもあんなのと大量に戦わないといけないって考えたら早く夢から目覚めたいもんだ」
愚痴ってる間に回復魔法を唱えて傷ついた箇所を癒していく。息つく間もなく魔物は俺の元へと再びやってきた。俺に向けた咆哮は森の木々を揺らし、周辺の空気を一変させた。
「すごいな…だけど俺も簡単に負けるわけにはいかない。全力でぶっ倒してやるよ!」
魔物が口を開き大きく息を吸い込んだ。どんどん体が大きくなっていき、俺も見上げるほどの大きさになった。
「おいおい…さすがにこれであのスピードの体当たりなんて喰らったら目が覚めそうだな。こっちもやられる前にやらしてもらうぞ」
両腕を前に出し何度も唱えた魔法を唱えた。高火力のイメージ。全てを呑み込む炎のイメージを強く想像し、魔物に向かって黒い炎を繰り出した。
「ファイヤーバード!!」
黒い炎の鳥が魔物に向かって飛び立った。魔物もそいつに向かって全力の体当たりを仕掛けた。その体当たりの威力は凄まじく、俺が出した炎の鳥を吹き飛ばし、そのまま俺に向かって突き進んできた。
「残念。そいつは消えないんだ」
吹き飛ばされたと思った炎の鳥は、再生しその魔物の内部から黒い炎で燃やし尽くした。
「ガアアアアアアア!!」
魔物の体が萎んでいく。その体は俺に届くことなく燃え尽きていく。魔物も何度も再生を試みるが、その度に魔法によって繰り出した黒い炎が燃やし尽くしていった。
そして、ついに魔物の体力が尽きた。
魔物の体から炎が消えた。これは完全に燃やし尽くしたということだ。この魔法は切り札だった。なぜなら魔力のほとんどを持っていかれるからだ。
俺はふらつきながら燃えカスになっている魔物に近づいていった。今度こそ復活することはない。
そして自分に自信をつけてくれた魔物に今度こそ感謝をしたい。
「今度こそ終わりだな。お前、めちゃくちゃ強かったよ。でも最初に戦ったのがお前でよかった」
その場で倒れ込み、空を見上げながら魔力を使い果たした俺は目を閉じて眠りについてしまった。
夢を見ることなく深い眠りについた。どれくらい眠っただろう。力が…魔力が戻ってくる。ゆっくりと目を開けるとそこには先程倒したはずの魔物がいた。
「なっ!!」
すぐに臨戦態勢に入るが、魔物は襲ってくる気配はない。むしろ友好的な態度で飛び跳ねている。
「あ、あれ…?大丈夫そう?」
ホッとしていると頭の中に魔物の声が響いてきた。
「黒き少年よ。よくぞ我を倒した」
魔物はジッと俺を見つめながら話しかけている。
「これは…魔物の声…?」
「そうだ。我は始まりを司る者なり。ここ始まりの森で冒険者を目指す者にこの世界の戦闘を教える役割を担っている」
「いやいや、教えるってレベルじゃないでしょ。強すぎるし最初からこんな戦いを求められたらキツすぎるって」
俺は素直に魔物と戦った感想を述べた。夢なら簡単に無双とかさせてほしいものだ。なぜこんなにも努力をしないといけないのか。
「ふむ…。本来なら我を倒すということはあり得ないのだ」
「は?どういうことだよ」
「我はここに訪れる冒険者に対して、そのレベルに合わせた戦いをするのだ。そしてここは始まりの森。冒険者のほとんどが駆け出しだ。だからある程度戦闘をし、相手に戦い方を学ばせたのちに消える存在なのだ」
その魔物の言葉を理解するには少しだけ時間がかかった。
「ということは…負けイベってことか…?でも俺は何度もお前に倒された!それはどういうことだよ!」
戦い方を学ばせるというわりには、俺は一撃で何度も倒された。あれじゃあ学ばせるも何もない。
「何度も倒された…?お前が言っている意味がわからぬ。我とお前が戦ったのは今日が初めてではないか」
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