夢の始まり④
何時間経っただろうか。気づけば外も暗くなっていた。時間など忘れるくらいに俺は本に夢中になっていた。
まず魔術についてだが、基本的には5つの属性がある。
『火・水・風・雷・土』
これらはRPGゲームなどによくあるオーソドックスなものだ。さらにそこから属性を組み合わせて様々な魔法を使えるようになるらしい。
俺もいろいろと試してみたがどうしてもこの本に書いてあることと違うものがある。
最初に出したファイアーボールもそうだが、なぜか威力が凄まじいのだ。この本には何度も何度も術を唱えて、魔法の熟練度を上げなければ強くならない…と記載されてある。
「まぁ強いほうがカッコいいし戦うときも便利になるだろうしいいか」
都合の良いことには楽観的なのが俺の性格だ。『なぜ?』という部分に深く追求するのは自分にとってマイナスなことが起こりそうな場合のみだ。そんな人間いくらでもいるだろう。
その後、基本的な5属性の魔法以外でもどんなことができるのか試してみた。わかったことら創造力を働かせてもこの世界に存在しないものは魔法として使うことができないということ。俺は試しにゲームでよくある召喚魔法というものを使ってみた。
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「いでよ、イフリート!!」
両手をかざし想像を働かせ炎の精霊を生み出そうとしたが反応は全く無かった。他にも水や雷や氷などの精霊の名を呼ぶも結果は同じだった。
これはこの世界に精霊というものが存在しないという結果に結びついた。だが、自分自身を精霊のような見た目にすることはできた。
体の周囲にまとわりつくように炎を出し、その熱に負けないように薄く水の膜で体を覆うとまるで炎の精霊にでもなったような見た目だった。
「この膜が無いと全身大火傷で大変なことになるけど、毎回こんなことやるのカッコ悪いし手間だな…」
どうにかできないかと考えた結果、自分自身に常に魔法を跳ね返す魔法を使用することにした。そうすることによって、自分が使う魔法は自分には影響が無くなり何をしても問題がなくなる。
だが1つだけ注意しないといけないのは回復魔法を使うときだ。反射を解除しないと回復もできなくなくなるので、実戦のときは気をつけなければならない。
こんな感じで魔術におけるいろはを学んだところで今日は疲れが限界に達した。
「今日はもう寝ることにするか…って夢の中でも寝るのかよ」
小屋のベッドで横になりながら自分で言ってクスッとしている。
「次にこの世界に来たときは剣術とか武術も勉強しないと…あとは早く森を抜けて…もしいるのならソフィアに会ってみたい…」
そのまま目を閉じて俺は夢の中でも眠りについた。
「ん…寝てた…」
ゆっくり目を開き天井を見上げるといつも見ている天井とは違うものだった。
そう、夢の中で眠り夢の中で目を覚ましたのだ。
「あれ、てっきり夢から覚めると思ったのにまだ夢の中だ。じゃあ今日は剣術と武術について勉強できるじゃん!ラッキー!」
すぐにベッドから起きて体を伸ばす。今日も外は雲一つない晴天で体を動かすにはもってこいだ。
俺は外に出て木の枝を折り、それを剣の代わりにした。本に書いてある動きを真似して何度も剣を振ったが、この動きが正解なのかわからなかった。
「なんかしっくり来ないな…本に書いてある通りに動けてはいるけどさすがに実際に戦ってみないと…。」
さすがに今なら魔法も使えるし雑魚モンスターに負けるってことはないだろう。そうと決まれば行動は早かった。これまでに得た力を試したい気持ちが溢れ、森の中へ走った。モンスターに遭遇するようなるべく音を立てて走った。
それはすぐに現れた。後ろを振り返るともうさっきまでいた小屋は見えない。気づけば森の中央付近にでも到達したのだろうか。
「現れたな雑魚!この前までの俺とは違うから一気に倒させてもらうぜ!」
意気揚々と持っていた木の枝を振り上げ、モンスターに向かって一気に走り出した。
「うおおおおお!!」
大きな雄叫びと共に繰り出した剣技によってそのモンスターは倒れた…という幻想はすぐに打ち砕かれた。代わりに持っていた木の枝がバラバラに砕け散った。
当たり前だ。こんな木の枝で倒せるわけがない。さらに中途半端に刺激を与えたことによって明らかに俺に対して怒りの感情を剥き出しにしているように見えた。
過去2回倒されている記憶が頭の中で蘇る。少しばかり恐怖という名の感情が先程までの逸る気持ちを飲み込んでいく。
その刹那、きれいな水色の体が俺に勢いよく向かってきた。
「くそ!結局魔法に頼るしかないのかよ!次はもっと修行して絶対剣技で倒してやるからな!」
向かってくるモンスターに対して両手を伸ばし強く念じた。
「ファイアーボール!!」
その両手から放たれた火球は今まで出したものとは比べものにならないほど小さいものだった。魔物には命中したが、何事も無かったかのようにかき消されそのまま止まることなく魔物は俺に体当たりをした。
「ぐっっ!!」
また吹き飛ばされそのまま意識が遠くなる。このままだと何も変わらない。あっさり負けるわけにはいかない。
「ヒール…」
意識が飛びそうだったが必死に堪えて回復魔法を自分にかけた。しかし、その回復量は微々たるものでほとんど効いていないのと変わらなかった。
そしてそのまま俺は意識を失った。
「はっ…!!」
目を覚ますと夢から覚めた家のベッドの上だった。俺は悔しさのあまりに腕を振り下ろし、ドンと大きな音がベッドから響いた。
「なんで魔法が上手く使えなかったんだよ…あんなに強い威力でたくさん出せたのに…なんで…」
夢の世界なのに上手くいかないことに対して俺は悔しさが溢れた。ゲームのようにはいかない。もっとあの世界のこと知ってあんな魔物ぐらい簡単に倒せるようになりたい。
顔を上げると『アップデート完了』の文字がモニターに表示されていた。
「やるしかないか」
俺はそのまま椅子に座り、ゲームを始めた。
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