夢の始まり③
テスト期間に入った。
勉強と遊びをきちんと分けているつもりだが、あの夢が忘れられない俺は少しばかり集中してテスト勉強に手をつけられないでいた。
「自分が見たいときに見たい夢を見れたらいいのに」
そんなことを思いつつ、夢で読んでいた本の代わりに参考書を開いてペンをすすめた。
ゲームがしたいわけじゃない。
ただあの夢はどこかリアルな気がして、まるで自分がこれから始まる冒険の主人公にでもなったような感覚にさせる。
これまで『優等生』という殻に籠っていた自分が「さぁ、飛び立つぞ」という高揚感に包まれた感覚。
ただそれが忘れられないだけ。
それだけのはずなのに…どうしてもペンが進まない。
モヤモヤした気持ちを抱えるが夢の続きを見ることはできず、もちろん勉強に集中することもなくテスト期間は終わった。
「おーい、光。テスト終わったしみんなでカラオケ行かない?」
「ごめん。寝不足だから帰って寝るよ。また今度行くわ」
そう答えると軽く手を振ってクラスメイトは仲良く去っていった。
俺はクラスに溶け込めているとは決して言えない。それでも何かイベントがあればこうして声をかけてくれることは嬉しかった。
だけど毎回タイミングが悪かった。今日はここ最近勉強に集中できないことが原因による睡眠不足で少しばかり限界がきていた。前回はたしか家の用事と重なっていて参加できなかったはず。
だから俺にはこの学校に友達と呼べる人がいない。いや、今までもいたかどうか怪しい。小学生の頃はよく遊んでいた人がいたが、中学も離れると会わなくなった。
中学生になってからは基本勉強一筋だったこともあり、周囲のグループに溶けこめなかった。ならば高校生になったら…などと思ってもそれまで人間関係を上手に構築してこなかったこともあり、周囲とどう接していいのかわからない。
だから俺は目立たないように学校生活を過ごすことにしたんだ。
だからあの夢がこれからどんな物語を見せてくれるのか楽しみで仕方ないのだ。
学校からの帰り道、俺は大きくため息をつきながら歩き、いつまでも引きずってはいけないと必死に自分に言い聞かせながら気持ちを切り替えようとした。
「よし、次のテストはこうならないように頑張るしかないな」
家に着くとすぐに制服を着替えベッドに横になった。
「明日は休みだしゲームもやりたいな。そういえばアップデートが来てたはずだから更新だけしといて少し寝よう」
パソコンの電源をつけ、なんとか更新ボタンをチェックして俺はベッドに倒れ込んだ。
「…はっ!!」
ベッドから起きるとそこは始まりの小屋だった。
「見れた…!ついに見れた!!勉強頑張ったご褒美ってことだ!…いや、真面目に勉強に集中していたわけじゃないしそれは無いか」
念願の夢を見れた喜びを噛み締めながらドアを開けた。前回のような雨は降っておらず、今日は雲一つない快晴だった。
俺は大きく身体を伸ばし、何をしようか考えたがすぐに家の中に戻った。
「とりあえずこの大量の本を読むって決めてたけど、せっかくこんないい天気なのに読書で終わるのは嫌だな…」
一旦冷静になって考えた。
この場所からどこかに行くためには森を抜けないといけない。だが森には必ず魔物と遭遇する。そして2回ともその魔物にあっさりとやられている。まずはあいつに勝つ方法を考えないといけない。
しかしレベルを上げる経験値を稼ぐ方法がわからない。ゲームの中だとあちらこちらを調べたり、雑魚モンスターをたくさん倒して経験値を上げたが、夢の世界ではどうしたらいいのかわからなかった。
だがそのヒントはここに全てあると第六感が言っている。そう、この大量の本の中に必ずヒントがあると。
さっそく前回読んだ本の隣にある本を本棚から取り出した。
『この世界で生きていく術』
そう書かれた本のページを進めていくと、魔物との戦い方がいろいろ書いてあった。
・剣術
・武術
・魔術
大きく分けるとこの3つに分類されている。それはゲームと同じで、ゲーム内ではその中からどれか1つ自分の成長スタイルを選んでいく…というものだった。
しかしその本にはどれか1つを決めるなどということは書いてなかった。
「ゲームの中では剣術を選んだから…今回は武術か魔術にしたいな。とりあえず冒険といったら魔法的なイメージあるし魔術を伸ばしていくか」
そしてしばらくその本を熟読して魔術について勉強をした。何時間もかけて必死に読んだ。
『魔術というのはそれを扱う者の創造力が必要』
簡単に要約するとその場には無いものを創り出す、またはそこにあるものから派生する何かを生み出す…といったものだった。
「よし、とりあえず外に出て試してみるか」
さっそく小屋の外に出て学んだことを試してみた。よくあるありきたりな魔法。手のひらから炎を出す魔法を試してみよう。
俺は手を広げ前に伸ばし目を瞑った。そしてその手のひらから丸い炎を出すイメージを必死に創り出した。
「ファイアーボール…ファイアーボール…」
何度もその言葉を唱えながら強く念じると、その瞬間は訪れた。
決して大きな火の玉ではないが、確かに出た。手のひらサイズの丸い火球が現れたのだ。
「は…はは!やった!やったぞ!!」
喜んでいるのも束の間、その火球から出る熱に自分の手が火傷をしてしまうのではないだろうかと思ってしまった。
そしてどうすればいいかわからず慌てながら崖に向かって投げ飛ばした。
ゆっくり落ちていく火球が地面に触れた瞬間、大きな爆発音とともに目の前にが炎で包まれていた。
「え…なにこの威力…?」
想像していたものとかけ離れているその力に恐怖心が芽生えた。とりあえずこの炎をどうにかしないといけないと慌てながら今度は空に両手をかざした。
「雨を降らせるイメージ…大量の水でこの炎を消すイメージ…ウォーターレイン…!」
そう唱えると今度は両手から大量の水が噴出され、あっという間に辺り一面の炎を消し去った。
「またできた…できた!!…でもおかしい。普通最初からこんな威力の魔法なんて使えないだろ…」
そう。こんな威力の魔法はまるでゲームの終盤に見るようなものだった。そしてこの後によくあるのがいわゆるMP切れで動けなくなる…といったものだ。
しかし、全くもって動けないなどもなく体に違和感なども無い。まるで無反動と言っても過言ではないくらいだ。
「あの本にら魔法のリスクについては書かれていなかった…。ゲームでよくあるMP的なものについても書かれていない…。まさか永久的に使えるのか?だとするとこの世界の魔術って最強なんじゃ…?でもあのゲームだとMPってあったし…どういうことなんだろう」
その謎を解くためにはもっと知識をつける必要がある。目が覚めるまでの間にどれだけ読めるか。やってやる。
その日は次々と様々な本を手に取り、知識と経験を身につけることにした。
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