表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
1/6

夢の始まり①

 「またいつものやつか」

 

 ここは夢の世界だ。


 なぜ夢だとわかるのか、それはこの世界の舞台が現実とは違うことがハッキリとわかるからだ。

 現世には無いような大木がいくつもあり、ビル一つない荒野が広がっている景色。

 そう、ここはまるでゲームやアニメで観たことがある世界だということ。


 この夢が始まる場所は必ず同じ場所。深い森を抜けた崖の上にひっそりとある小屋の中だ。

 そこから見渡す景色はとても綺麗で、俺はどこまでも広がっている景色を見ることが夢の中での日課となっていた。


 折角の夢の中だ、冒険をしようという気持ちになる人がほとんどだろう。しかし俺はそうは思わなかった。


 それはこの小屋の中にある書物を読んでいるうちに目が覚めるからだ。


 壁一面にあるとても大きな本棚には大量の古書が並べられている。現実世界とは違う文字で書かれているその本も、夢の中のご都合主義のためなのか、なぜか解読できてしまう。


 その古書にはこの世界でのことが様々書いてあった。


 魔物のこと、魔法のこと、王族や国のこと、そしてこの世界で生きる術…


 その書物の数々は俺の好奇心を湧きだてた。


 そう、ここはゲームの世界なのだ。


 俺はこの夢を見るようになってから1週間が経っていた。


 なぜ毎日同じ夢を見るのか。


 なぜ必ず前日の続きからなのか。


 この夢の終わりはいつになるのか。

 

そして今日も眠りから覚めて俺は何気ない高校生活を送る。


 どこからか声が聞こえる。


 何度も俺の名前を呼ぶ声が。


 いつも聞き慣れているその声に導かれるように、目を覚ますとそこには般若のような顔をしている担任の姿があった。


「おはよう。柊木光くん。いい夢は見れたかな?」


「あ…えっと…夢の中で勉強してたので…いい夢ではないかな?」


 周りからの冷ややかな視線を感じる。それもそうだ。俺が通っているこの高校は地元でも進学校として名を馳せている。真面目に授業を受けて、放課後は塾や予備校に行く生徒が多い。もちろん授業中に居眠りをするような生徒はほとんどいない。


「放課後職員室に来なさい」


 担任はその一言だけ告げるとすぐに授業が再開された。


 元々は俺も周囲の奴らと同じようないわゆる『真面目』という言葉がお似合いの高校生だった。

 1年の頃は授業中に寝るなんてもってのほか、先生に目をつけられることも無く日頃から勉強も怠らなかった。

 成績は決して上位という訳ではないが、平均的なレベルを維持しており、将来はいい大学へ進学することを目標に日々を過ごす優等生だった。


 しかし変化は3ヶ月ほど前、高校2年になった春から徐々に訪れた。


 成績が伸び悩んでいた俺は気晴らしにゲームをするようになった。あくまでも勉強の気晴らし程度にやることを前提に、ということで無名のオープンワールドRPGのゲームだった。


 勇者が魔王を倒すという擦られすぎたストーリー。だが俺が目についたのはヒロインの女の子だった。綺麗な金色の長髪に大きな瞳の可愛らしい顔。どこにでもいる外見のキャラクターのはずだが、なぜかそのキャラに惹かれてしまった。


 『ソフィア』という名前のそのキャラは、主人公が拠点としている都市に住むお姫様だった。

 姫を仲間にして共に旅をするルートと、姫として城から離れず主人公を物資などで援助するルートを選べるストーリーだったが、俺は援助ルートを選んだ。もちろん推しのキャラクターならいつも一緒にいてほしいと思う人が多いだろうが、俺は推しだからこそ危険な目に合わせたくないという感情が生まれたのだ。


 勉強の合間にプレイしていたので、ゲームの進行はとてもゆっくりだった。ストーリーをクリアするだけなら恐らく20時間ほどでクリアできるだろう。しかし、オープンワールドのジャンルのためサブ要素を含めるとそこそこなボリュームになる。


 俺がそのゲームをクリアするのには2ヶ月近く時間を要した。日々少しずつ少しずつプレイして最後に魔王を倒したときは、ちょっとした達成感に包まれていたが、同時に終わってしまう焦燥感もあった。


「これで終わりだと思うな。これが始まりなのだ」


 最後に魔王を倒したときのセリフを聞いたとき、焦燥感は消えた。


「クリア後もいろいろと遊べる要素があるのか!」


 まだまだ遊ばせてくれる喜びと、魔王を倒した達成感に包まれながらその日はゲームを終えた。


 その夜、俺は眠りにつくと夢を見た。

 崖の上にある小屋の中にいた俺は、壁一面に備えられている古書を手に取ろうとしていた。

 見たことない文字がいくつも並べられているが、俺にはなぜかそれが解読できた。

 何冊か手に取りパラパラとページをめくるも、どの本にも最初のページにこう記されていた。


『これが始まり』


 どこかで聞いたような言葉だが、俺にはそれが何か思い出せなかった。


 古屋から出ると目の前には森が広がっていた。それはとても深く、どこまで続いているのかわからないぐらいだった。

 反対側は崖の淵になっていて、落ちたら無事ではすまないような高さに少し足がすくみそうになった。


 とりあえず森の中を進むことにした。どこか見覚えがあるような気がするが、思い出せないためモヤモヤした気持ちのまま15分程歩いた。


 すると、そのモヤモヤが晴れる事態に遭遇した。

 魔物だ。それも何度も倒したことがある魔物。

 そう、それはいつもプレイしていたゲームに出てくる最初の魔物だったのだ。

 明らかに強くはないことがわかる水色のぷにぷにしたフォルムの可愛らしい魔物を見た瞬間、俺はここがどこなのか察した。


「これって…ゲームの中の世界じゃ…?」


 思考を働かせているうちに、その魔物は俺を襲ってきた。思ったより早いスピードで体当たりをしてきたため、俺は吹っ飛ばされた。


「こいつ…ゲームの中なら雑魚モンスターのくせに…!」


 倒すにも俺には武器など持っていない。だがゲームの中で何度も倒してきた雑魚モンスターに負けるわけがないと立ち上がり、俺はそのモンスターに向かって走り出した。


 そのときだった。上からもう1体同じモンスターが降ってきて俺をつぶした。


「くそ…なんでこんな雑魚に…」


 当たりどころが悪かったのか、そのまま俺は気絶してしまった。


 そして俺はそのまま夢から目を覚ました。まるで何事も無かったかのように。魔物がぶつかってきたところを摩っても特にアザができているわけでもない。


「ああ、やっぱり夢か」


 安堵した俺は再び眠りについた。


ご覧いただきありがとうございました。

もしこれから先も読んでみたいと思っていただけたら、ブックマークや評価などして頂けるととても嬉しい限りです。

読者の皆様からの応援が執筆活動の励みとなります。

是非ともよろしくお願いいたします。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ