ベリベリ伝説
「ベリベリ・ビューティホーですねい!」
ケニーさんがそう言って、うっとりする。
彼の視線の先には、確かにまぁまぁ綺麗な女の子がいた。
フォーティーワン・アイスクリームの店内で、あたしたち二人は向き合って、アイスを食べていた。あたしがベリベリ・ストロベリーのワッフルコーンで、ケニーさんはベリベリ・ブルーベリーのカップだった。
店内には韓国のアイドルグループ『ベリベリベリー』の日本デビュー曲が流れている。
ウィンドウの外に立って誰かを待っているらしいその女の子に見とれながら、ケニーさんはあたしのほうはちっとも見ようとしない。
「あんな子がタイプなの? しゃくれだよ? こんなだよ?」
あたしはその子の唯一の欠点を素早く見つけ、顔真似をした。ケニーさんがやっとあたしを見てくれた。
「蓮美サン、ブタ鼻の三日月お化けみたいな顔になってますよ? ベリベリ・ブサイクです」
あたしはケニーさんの鼻にベリベリストロベリーをぐっしゃり押しつけようとしたけどもったいなかったのでやめた。
「ところでもう、日本語の勉強、必要ないんじゃない? じゅうぶん上手になってるよ? 比喩も的確だし。もう、やめたら?」
「やめても蓮美サン、会ってくれますか?」
眼鏡の奥の青い目が、照れもせずにあたしをまっすぐ見つめて、そう言った。
「べつにあたしじゃなくてもいーんじゃない? 日本人の女子大生ぐらいの年の子だったら誰でもいいんでしょ?」
あたしは視線をはずしてアイスを見つめた。
「いえ、ボクは蓮美サンじゃないとダメです」
「ついさっきまでよそ見してたやつが何を言う」
「蓮美サンが好きなんです。日本語学習を続けているのも、蓮美サンと会いたいがためです」
そして西洋人お得意のロマンチックな口調で、言った。
「愛しています」
ちっ……。
ちくしょう、なんで西洋人にはその言葉がさらりと言えるんだ。なんで、あたしはそんな攻撃にこんなにも弱いんだ。日本人の男の子に言われたらギャグだと思ってツッコミ入れるとこなのに……!
「眉毛……」
ケニーさんが言った。
「似合ってます。成功です。綺麗に整っていますね。見とれてしまいます」
やーん!
気づいてくれるんだ? そんなとこに? 今朝、必死こいて形整えて来てよかった!
「ベリベリ・ビューティホーです」
彼の甘い声にうっとりしながら、アイスから目を上げると、ケニーさんは窓の外に立ってる例の女の子を見ながらそう言っていた。コイツをバッグに忍ばせて来ておいてよかった。そう思いながら、あたしはバッグから、緑色のガムテープを取り出した。
「ケニーさんも綺麗にしてあげる」
「え?」
こっちを振り向いたケニーさんの眉毛に、奇襲でガムテープを貼りつけた。一気に剥がす。
ベリベリベリベリ!
「ノォーーーッ!!」
この日、あたしたちはベリベリ尽くしだった。
結婚した今となっては、二人の間で懐かしい伝説となっている。