似て非なるもの
三題噺もどき―にひゃくごじゅうなな。
目の前に、どこまでも広がる野原があった。
足元のあたりに、土と野原の境目がある。
広がる野原の先には、暖かな光があふれている。
―あぁ、これは、夢だ。
背の高さがバラバラで。種類もバラバラ。統一感なんて全くない。
そのくせ、同じように見えてしまう。
まるで、人間のようだと、思っても見たりする。
「……」
実際どうだろう。
案外似ているのではないか?
強者が弱者を飲もうとするようなところとか。
「……」
強者は、弱者を飲み込んで。
生きる場所を奪い。悪びれもせず。当然のように。
―あぁ、でもそれは。そもそもの種が違うからそうなるのか。自らの種を長く生き長らえ刺せるために、他の種を滅ぼして居るのか。
同じ種同士では、強者も弱者もなさそうだ。そういうやつもいるかもしれないが、あいにく、そういう知識は持っていない。
「……」
なんだか。
目の前に広がる野原の草花と、人間が。似ているだなんて、申し訳ないような気がしてきた。
彼らに、失礼な気がしてきた。
「……」
確かに、見目はバラバラ。種類もまばら。統一感なんてない。けれど、他から見れば同じに見える。
そういう所は、どこか共通しているものがあるように見える。
「……」
けれど、その本質が、全くの別物だ。
彼らは、同種であれば奪うこともしないだろうし。排他的に扱うこともしないだろう。
その種が弱ければ、他の種に呑まれるかもしれないが。それは、どちらかというと、人間と動物の関係に当たる気がする。
植物同士の話ではない。
「……」
人間は。
人は。
どうして、同じ人間という種の癖に。
争い、減らし。増やし。争い、減らし。増やし。
何を、意味のないことをやっているんだろう。
「……」
見目が違うと言うだけで、人間は。
目の色が違う。
肌の色が違う。
髪の色が違う。
言葉が違う。
信仰が違う。
思考が違う。
血のつながりが違う。
たったそれだけで。
異なる別の種のように扱い。
それを遠ざけ。
それを忌み嫌い。
それを捨ていく。
「……」
そうやって捨てられた側の人間は、どうなるんだろうな。
―どうなると思う。
捨てられ。見放され。誰にも縋ることができず。
生きている事そのものを、否定され。
生まれてこなきゃよかったと言われ。
「……」
それでも、死ぬことができずに。
1人で、暗いこの世界で、息をひそめて息を殺して、生きている。
人間だ。
どうなる。
どうしたらいい。
どうしたらよかった…?
「……」
目の前には広がる野原がある。
これは夢だ。
けれど、この中に入ってしまえば、終わりだと分かっている。
「……」
これはまぁ、三途の川と同じようなものだろう。
この野原を進んで、その先にある何かに足を踏み入れれば。
目覚めることは出来ずに、そのまま永遠の眠りにつくことになる。
「……」
あぁ、それもいいかもしれない。
目が覚めて、現実に戻ったところで。
理不尽な世界で。
路地の片隅で。
捨てられた人間として。
息を殺して生きていかなくてはいけない。
生きながらに、死んでいかないといけない。
「……」
けれど、足は少しも動かない。
渡ってみようと思っても、足は全くいうことを聞かない。
「……」
むしろ。
動くまいと、足の指に力が入る。
ぎゅうと、地面を強くつかむ。
死ぬまいと。
生きてやると。
「―――」
そろそろ、起きないといけないようだ。
ここに、これ以上いることも。いる意味もないと。
突然叫びだした野原が、追い出そうとしている。
「―――」
「―――」
「―――」
「―――」
重い瞼をあげる。
視界には、青空が広がる。
どこまでも続くはずのそれは、ビルのせいで区切られて。
狭い。小さな。青空がある。
お題:野原・光・青空