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ニーデズは前世の曖昧な記憶が役にたたないことを嘆く。
「マヨネーズの作り方なんて知らないよなぁ」
俺は大袈裟にカラカラと笑った。
「マヨネーズ? ですか?」
「なんか、今、浮かんだ。マヨネーズで大金持ち話。聞いたことないかい?
ほら、この世界にマヨネーズってないだろう」
「そ、そうですね。言われるまで存在も忘れていました。
マヨネーズですか……。色は黄色ですよね。バターですかね?」
「おお! バターならこの世界にもあるね。確か牛乳が原料のはず」
「バターがマヨネーズになる過程が全くわかりません」
「だよね。異世界で簡単に一攫千金なんてそんなもんなんだよ」
「そうですよね」
「でも、こうしてニーデズと話をするとワードがフッと出てくるものだな」
俺のフユルーシとしてのこれまでの人生でマヨネーズというワードを使ったのは初めてだ。
「僕も! フユルーシ様のスイングを見たら『ゴルフ』っていうワードがふと浮かんだのです」
「アハハ。俺、そんなに独特なスイングだったんだ」
「はいっ! とてもキレイなフィニッシュポーズでした!」
「そう思うってことは、ニーデズも前世でゴルフに携わっていたんだろうな」
「だと思います」
「ゴルフ……やりたいな」
「……ですね」
二人でなんとなく茶を手にした。すでに温い。だが、落ち着くには充分だ。
どちらもしゃべらず軽食に手が伸びる。育ち盛りの十六歳。これだけ旨い軽食なら際限なく食べられそうだ。
腹も膨れ新しい茶を頼み一息つく。再びメイドたちには下がってもらう。
「ニーデズ。やろっか、ゴルフ」
「え!?」
「俺、金ならあるよ。人脈も、父上や兄上に頼めば揃えてもらえるし」
「そ、そんな、でも……うちは……」
ニーデズは自分の実家の心配をしているようだ。家族を大切に思うニーデズに好感が持てる。
「そんなに難しく考える必要ないよ。まずは父上に木工職人を紹介してもらって、クラブを作ろうよ。それくらいなら、俺の一週間分の小遣いでできると思うんだ!」
「っ! 金額は見当もつきませんけど、やっぱり公爵家ってすごいのですね」
「まあ、そうだね。すごいのは家族で、俺じゃないけど。
ボールはどうする?」
「そうですね。まずはクリケットボールで試し打ちでいいのではないでしょうか」
クリケットボールはコルク芯と糸と革でできているはずだ。
「いいね! この世界にゴルフはないんだから無理に前世そっくりにする必要はないと思うんだ」
「なるほど。棒で球を打って穴に何打で入れられるか、それでいいってことですねっ!」
それから二人でいろいろな意見を出し合って、そのうちノートまで出して案を書いて。
ニーデズと笑いながらの時間はあっという間だった。
学園の寮に住んでいるニーデズを執事に馬車で送ってもらう。ニーデズの乗った馬車を見送ると早速父上の元へ向かった。
翌日の放課後、父上に紹介状を書いていただいた木工職人の工房へニーデズを伴って行く。
そこには様々な木が所狭しと並んでいた。
『木』というだけでこんなにも種類があることを失念していた。しかし、それを知っていたとしても『ドライバー』に適した木が何であるかは知らない。
「一本だけ作ってもらうっていうのは難しい感じがするね」
「そうですよね。どれがいいかなんてわかりませんし」
俺たちは暫しあ然と立ち尽くした。




