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 ニーデズに茶を勧めると一口口にしてホッと息を吐いた。


「僕は、そのぉ、前世の記憶といってもはっきりせず、利点は少しだけ勉強が得意というだけなのですが」


「だよねっ! チートなんてないよね」


「はい。思い当たりません。でも勉強は得意です」


「それって、チートじゃなくて前世の記憶の一部だろう?」


「そうですね。特別感はありませんから」


「あ、だからニーデズは男爵子息なのにBクラスなんだっ! 本当はAクラスになれたんじゃないの?」


 今日のスポーツ学のクリケット試合はAクラス対Bクラスだった。


 学園は成績順にクラス分けされている。俺は高位貴族令息として幼い頃から厳しい家庭教師がつけられていて当然Aクラスだ。


「はい。でも、目立ちすぎるのは嫌なので……」

 

 確かに男爵子息がBクラスというだけでもなかなかないことなのに、Aクラスとなったら注目も嫉妬もされるだろう。


「そっかぁ。そういう判断も大切な処世術だよな。偉いよ」


「Bクラスでも異端児扱いですけど。でも、僕は男爵家の四男なのでどうしても王城高官になりたくて、最低Bクラスである必要があるんです」


「へぇ。ニーデズは高官を目指しているんだぁ」


 この情報は心に留めておく。


「はい。前世の記憶で金儲けなんていうのは夢話ですよ。僕、前世ではたぶん三十代だと思うんですけど、男爵家でできることなんて思い浮かびませんでした。

思い浮かんだとしても男爵家では資金もありませんので何かできるとも思えませんが」


「なるほど。

で? なんで俺に『ゴルフ』って声を掛けたんだい?」


「ガーシェル公爵子息様の」

「ストップ! フユルーシでいいから」


「えっ!? でも? あの? 僕、男爵家ですし……」


「んー、前世ではそんな風習なかっただろう?」


「ですが……」


「じゃあ、『様』付けでいいから名前呼び」


「はいっ! フユルーシ様っ!」


 俺は鼻で一息吐いた。身分差は仕方ないことなのだ。


「あの、フユルーシ様がクリケットバットをゴルフクラブの様にお振りになっていたんですっ!」


「それで『ゴルフ』って言いに来たの? もし俺がわからなかったらどうするの?」


「あ……」


 ニーデズは今更ながらに顔を青くする。


「同じ前世の記憶があるのかもと思ったら思わず夢中で声を掛けてしまって……」


「うん。わかるよ。こんな不思議体験、理解してもらえるなんて思えないもんね」


 コクリコクリと頷くニーデズ。きっと前世を思い出した時から不安があったのだと思う。


「でもさ、クリケットバットもゴルフクラブもそんなに変わらないだろう? よくわかったね」


「一度や二度でしたら下打ち用の素振りかもと思うかもしれませんが、フユルーシ様は十回すべてがゴルフスイングでした」


「アハハ……。数えてたんだ」


「はい。クリケットの素振りなら大なり小なり前足は踏み出して前へ突き出します。でも、フユルーシ様は足は踏み出さず腰を回転させておりました」


「なるほどね」


「フユルーシ様はなぜあのような素振りをされておられたのですか?」


「うーん。素振りは無意識。

一昨日、山の中でさぁ、クルミを棒で打ったんだよ。それが面白くて面白くてっ!

そうかぁ。ゴルフかぁ。ニーデズに指摘されるその言葉さえ忘れていたよ」


「そうなのですか?」


「うん。俺の前世の記憶ってそんな感じなんだよね。指摘されたり体験したりしていけばいろいろと思い出していくのかもしれない」


「それ、わかります。僕も領地繁栄に何か思い出せないかって頑張ってはみたのですが、何も考えつかなくて」


 ニーデズは自虐するように悲しそうに笑った。

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