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 ハルベルト長兄夫妻とナツシェリア姉夫妻との領地行きの日は朝早くに出発した。王都屋敷からタァサス屋敷までは馬車で六時間ほどだ。さらにハルベルト長兄はむちゃくちゃな提案をしてきた。


「俺たちは先に行くが、女性と荷物はゆっくり一日かけて来ればいい」


 俺たちには俺とニーデズが含まれているのだろう。サマケッド義兄は当然のようにナツシェリア姉上と同行すると言った。


 数人の騎馬護衛を連れて俺たちの馬車は飛ばした。それはもう、朝飯抜いてよかったよぉと思うくらい飛ばした。本来上の立場の者が乗る席、つまり進行方向を向いた側に俺とニーデズが座らせてもらったにも関わらず、ハルベルト長兄と長兄の側近は慣れているようで涼しい顔だった。


 タァサス屋敷に寄らずにガルフセンターへ行く。


「俺……無理……」


 馬車を降りた俺はベンチに雪崩れこんだ。


「僕も……すみません」


 ニーデズは俺の近くの草むらに座り込む。


「フユルーシ様! 大丈夫ですか?」


 ガルフセンターからメッセスとウルトが駆けつけた。メッセスがメイドに指示をする。


「メッセス、ウルト。ハル兄さんを頼むよ」


 二人は苦笑いした。


「かしこまりました。もしご気分が戻られないようでしたら、お屋敷にお戻りください」


「しばらく馬車は乗りたくない」


 可哀相な者を見る困り顔をした二人は俺に一度頭を下げてからハルベルト長兄を連れて中に消えていった。


 ニーデズと二人、死人のようになっていると中から小気味いい打球音とヨイショの掛け声が聞こえた。


 回復してきたので目に当てていた濡れタオルをメイドに渡す。ちょうどよくニーデズも立ち上がった。

 二人で中に入るとハルベルト長兄が夢中になっていた。

 さらに驚いたことに父上もいて、父上までも夢中になっていた。先程から聞こえてきた小気味いい音は父上だったようだ。ハルベルト長兄はまだまともにボールに当たっていない。


「お二人……そっくりですね」


 ハルベルト長兄が左利きなため背中合わせに立っている二人はまるで鏡のようだった。夢中でボールのセットを急かす姿も。


「二人が客でないことが残念だ。いくらでもぼったくれたのに」


 ニーデズが肩を揺らして笑った。


「大旦那様はかなり上達なさいましたね」


 立ち姿は似ているが、スイングは父上の方がかっこいい。


「ウルトにボーナスやらなくちゃな」


 しばらく二人の様子を見ていた。


「ん?」


 俺は父上の様子が気になった。


「フユ! お前は天才かもしれないっ!」


 ハルベルト長兄がティーエリアから叫ぶ。どうやら少しは当たるようになってきたようだ。


「楽しんでもらえて何よりです」


「父上に負けているのは悔しいが今は仕方ない」


「ハル。それはガルフの楽しみ方が間違えているぞ」


 父上はハルベルト長兄に俺が披露した趣味読書の話をした。俺より上手く説得力があるのは解せない。


 休み時間を入れて三時間ほど遊んで屋敷へ戻ることになった。


 途中で昼食や買い物をしたという女性たちは夕方近くにやっと屋敷へやってきて、存分に遊んだ俺たちとほとんど同じ時間だった。


 湯浴みをして食堂へ行く。食事をしながらハルベルト長兄が興奮してガルフが楽しかったとサマケッド義兄に説明する。


「やる前はな、高々ボールを打つだけだって思ったんだけど、やってみたらこれが当たらないんだよ。当たらない事が悔しすぎて夢中になってしまったよ」


「ボールは置いてあるだけなのですよね? 当たらないなんてことあります?」


「お前も明日やればわかる。お前がクリケットを得意としていることは知っているが、だからって簡単なものじゃないぞ」


 家族との食事はガルフの話で和やかに進んだ。

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