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8.ゴブリン襲撃とルドンの村防衛戦(前編)

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「どどど、どうするよバルク。あいつら、ついに来やがった!」

村の全員が広場に集まり、落ち着かなさげに周りの人としゃべっている。皆が慌てるのも無理はない。ゴブリン達がついに襲撃してきたのだ。



 話は1時間ほど前に遡る。

 この日、俺たち村の中心メンバーは村の中央にある広場に集まっていた。村の防衛設備に目途が立ったからだ。ここからはより具体的に、ゴブリン達が襲撃してきた時の分担や動きを確認しようという目的である。みんなの真ん中の地面には簡易的な村の地図が描かれていた。

 ファーゴ不在ということもあり、バルクが場を仕切っている。

「みんなの頑張りで防衛設備はかなりできあがった! タクトもサンキュな。お前らスキルが発現したんだったな。どいつもこいつもやかましいっての。」

 バルクをはじめ、参加者の顔は明るい。

「バルクよ、村の周りを見ただろ? あれならゴブリンどころか、ドラゴンが襲ってきてもビクともしねぇって!」

「さすがにドラゴンはやばいだろ(笑)!」

「ハッハッハ、まぁ冗談はそれぐらいにしとけ。さて、まず全体の方針だが、当然専守防衛だ。敵さんが来たら村の入り口の跳ね橋を上げて、村内に籠る。」

 バルクの発言に皆黙って頷く。防衛設備ができているとはいえ、確認したところ村人のほぼ全員が戦闘経験など無いのだ。当然Lvは1で、加齢によってステータスが下がりつつある者がほとんだ。元気な者は村から出ているのだから当然である。この中では、俺がLv5、駆け出し冒険者のロンがLv2である。そして、さすが元Cランク冒険者のバルクはLv26と破格の高さだった。ゴブリンはおそらくLv4程度だろうから、それだけのLv差があれば楽勝だ。ただ、どういうわけか戦闘に出たがらない。何か理由がありそうだが、今この状況で聞くのは野暮というものだろう。

 俺はゴブリンのことで、気になったことを尋ねてみた。

「ゴブリンは武器を持つ程度の知能はありますよね? 自分はこの前森で1匹だったやつと戦いました。その時はこの斧、だいぶ俺が使いこんじゃいましたけど、でした。他に何を持っている可能性がありますか?」

 アイテム袋からいつもの斧を取り出してみんなに見せる。バルクは腕を組み、左手を顎に当ててしばらく考えていたが、答えた内容は俺の想像とかけ離れてはいなかった。

「斧が多い。そもそもゴブリン達は人型の魔物でも小型な方だ。後は短刀、こういうサーベル状のやつだ。他には短めの槍や小型の弓だ。こんなかじゃ弓が一番やっかいだ。まぁそこまで大型の弓は使いこなせないはずだ。」

 やはりゴブリンのイメージ通りだ。彼らは武器を持てるが、そこまでの知能はないだろう。

 と、その時だ。村の北側に設置した櫓から「カンカンカン」と鐘を3回連続で叩く音が聞こえてきた。変事を知らせる三点鐘だ。

 音を聞き、すかさずバルクが走り出す。すごいスピードだ。俺も追いかけるがぐんぐん離されていく。幸い広くはない村なので、すぐに追いつき、バルクの背を追って櫓へと登る。見張り台に足をかけ、地上を見下ろせる台に上がると、見張り役の男性とバルクが外周側の淵に手をかけ、様子を伺っているところだった。

 俺も空いたスペースに身を寄せ、下を見ると、掘のすぐそばに小さな動くものがいる。ゴブリンである。奴らは数日で完成した堀や木柵に驚いているようだ。今日も楽に食料にありつけると思っていたのか、悔しそうにこちらに何語かわからない言葉で文句を言っている。

「すぐに跳ね橋を上げろ! 急げ! ゴブリンは近いぞ!」

バルクが足元にいる村人たちを怒鳴りつけた。会合から遅れてやってきた人たちが揃ってきていた。慌てて跳ね橋を上げると、ゴブリンたちは急いで接近を試みたが、村の中に入る橋に跳び乗ることはできなかった。8体いるゴブリンのうち、果敢なやつがまだ水が完全に入り切っていない堀に飛び込んだが、逆茂木もあり村に近づくことはできなかったようで、悪態をつきながら戻っていった。

「むっ、弓だ! 皆柵から距離を取れ!」

小型の弓を持っていたゴブリンが矢を射かけてきた。しかしこれも、木柵に阻まれた。柵の上の方に何本か矢が刺さったものの、村内にまで到達したものは1本もなかった。

ゴブリン達はしばらく矢を射かけてきたものの、侵入は不可能と察したのか、8体とも来た道を戻っていった。ゴブリン達が見えなくなったのを確認すると、バルクが大音声で勝ち鬨を上げた。

「よーし、ゴブリン達は撤退していった! 俺たちの、みんなの勝ちだ!」

「よっしゃー!」

「勝った!勝ったぞぉ!」

バルクに続いてその場のみんなが歓声を上げる。村にとっては初勝利だ。直接の戦闘こそなかったが、勝利には違いない。

俺たちは警戒を解き、勝利を分かち合った。



しかし、勝利もつかの間、次の日からゴブリン達は連日現れるようになった。

初めての襲撃の翌日は、ゴブリンの数が10体に増えた。そして、驚くべきことに、矢が村内に入ってきたのだ。幸い、木柵の近くの地面に刺さり、けが人は皆無であったが、「村内でも死傷するのだ」という事実は、村人たちには衝撃であった。矢には限りがあるので、バルクは村人たちに木柵から離れるように指示を出し、この日もゴブリン達は撤退していった。

「多分ゴブリン達の中にも個体差があるんでしょうね。力の強いやつが引けば、当然矢の飛距離も伸びる。」

「あぁ。奴らは現状木柵や堀を突破できねぇ。大丈夫だとは思うが、それでも矢が中に入ってくるのはやべぇな。みんな腰が引けちまってらぁ。」

 今のところ人的被害は出ていない。木柵の高さがそれなりにあるため、背丈の低いゴブリンが侵入する可能性はかなり低かった。木柵に近づきすぎなければ、矢でダメージを受けるリスクもないだろう。

 

 さらに次の日。この日もゴブリン達は矢で攻撃してきた。そして驚くべきことに別動隊がいたのだ。俺たちはこれまでの経験から北側にしか注意を向けていなかったが、メインとなるゴブリン部隊が俺たちをひきつけている間に、なんと別動隊が堀に木の棒やら細い木材で橋をかけ、家畜小屋や収穫前の作物を襲ったのだ。家畜はすでに退避させていて被害はなかったが、収穫前の作物をだいぶ持っていかれてしまった。この事態には肝を冷やした。籠城するにせよ、食糧の備蓄は必要だったし、村人たちは今後冬を越さなければならないのだ。作物への被害は深刻な食糧危機を招く。

 

 3日目はついにこちらかも反撃を試みることにした。前日のうちに伐採スキルを持つ村人たちに材木を準備してもらい、櫓をさらに3台、村の東と西、南に設置した。これにより四方からの来襲を早期に発見する。次に、作物の被害が予想される畑の堀の周りにさらに空堀を作り、わざと1か所だけ堀を作らないでおき、敵の侵入経路を指定する。最後にやや低めの木柵を準備しておき、俺自身がその柵の後ろに待機し、近づいてきたゴブリンに石を投擲するのだ。念のため何人かの村人にも後ろで待機してもらい、仕留め損なわないように配慮した。陽動があるであろう村の北側の櫓でも投石してもらうことにした。この作戦はある程度うまくいった。空堀のない通路をかなり狭くしたことで、敵は1体ないし2体程度しか一度に正面に立たない。ねらいを集中しやすいので、投擲の効果も高かった。運の良い事にここには弓を持つゴブリンがいなかったため、こちらに接近したやつはバルクから借り受けたドワーフの斧の一撃でかたをつけることができた。敵も人間たちの思わぬ反撃に戸惑ったのか、3分の2を倒したところで撤退していった。俺の投擲スキルも上昇し、同じ場所で共に戦った3人に投擲スキルが発現した。また、斧で戦闘したのが功を奏し、俺は新たに斧術スキルを習得することができたのだった。Lvも6へと上昇したので、今回は丈夫さにステータスを割り振ることにした。


こうして、ルドン村の攻防戦は膠着状態に陥った。



 翌日は何事もなく過ぎた。

 嬉しい報告もあった。ファーゴさんから連絡があり、ギルドから冒険者を派遣してもらえることになったらしいのだ。早馬からの伝令を受け取ったロンは父の無事を喜んでいたし、村人たちもほっと胸をなでおろしていた。

 安堵する村人たちとは裏腹に、俺は何か得体のしれない不安に駆られていた。

(本当に大丈夫だろうか・・・。まだ安心するのは早い気がする。)

 周りと違う俺の様子を察したのだろう。バルクに肩を叩かれ、「ちょっと場所変えようや。」と目線で合図してきた。強面ながら、周囲への気配りを怠らないのはさすがである。

 場所をバルクの店に移し、適当なテーブルに座る。野郎2人になったところで、バルクが俺の不安を察した様子で水を向けてきた。

「ずいぶん浮かない顔じゃねぇか。何か気になることでもあるんだろ?」

「ええ、ゴブリン達の動きが妙に賢いっていうか、統制が取れている気がするんです。」

 俺の指摘にバルクは軽く目を見張っている。歴戦の冒険者のバルクも同じようにきな臭さを感じているようだった。

「ったく、お前ホントに生産職を夢見てるクチか? なんならそこいらの冒険者連中よりよっぽどいい勘してやがる。・・・俺もそう思っていたところだ。やつらは動物的な衝動を優先する。知能としては低級の魔物のはずなんだ。初日のこと覚えてるか? やつらこれまで何度も襲撃してきてるが、初日に柵の高さやこちらの配置を探っている感じだった。その後の攻撃パターンも,陽動を含めてよく考えてやがる。」

「なんか指揮官というか、他の種族やもっと上位の魔物に操られている、というような可能性はありませんか?」

「聞いたことはねぇが・・・それも含めて籠城すべきだろうな。それにゴブリン達の数もだ。もっと大掛かりに攻めてくることも考えておけ。俺も村の連中に伝えておく。タクト、お前なりに何かアイデアは無ぇか? 何でもいい。今は藁にもすがりたいってやつさ。」

 バルクもファーゴ不在の中、実質的な村のリーダーとして、現状を打開したい気持ちが強いのだ。いつ人的被害が出るとも限らないのだ。

 俺は、ここ数日の戦闘での経験の蓄積と現代知識を踏まえ、実はかねてから考えて作戦を伝えてみることにした。


「実は考えがありまして・・・。」

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