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4.青年との出会いとスキルの追加効果

 無事に屋根のある拠点を得てから5日が経った。

 この5日間で、俺の生活もかなり豊かになっている。理由はいくつかあるが、最も大きかったのはやはり拠点の存在である。物の管理が楽になり、安全面での気疲れがなくなったことで、拠点を中心に行動範囲を広げることができたのだ。

 拠点を中心に据えて説明すると、東側に小川が流れている。小川の反対側を少し進むと5mくらいの段差で崖になっていて、崖下には付近よりも木の密度が濃い森が広がっている。西側の森は山の恵みが多かった。りんごに似た果樹や薬草を発見した。りんごの樹は5本くらいあり、手の届く範囲にあった実をいくつか失敬させてもらった。薬草はというと、これは木の根元に散見された。毒消し草とは葉の形状が違っている。これは袋の中に多めにストックさせてもらっている。

 どうもこの袋、マジックアイテムのようで、見た目の大きさの割にかなりの物が入る。初めのころは中の品物を目視で確認できていたのは、内容物が少ない場合のようで、今ではなぜか見た目は空っぽに見えるのだ。しかしながら、中にはホーンラビの肉や素材、薬草、毒消し草、りんご等々、結構な量を入れることができている。しかも、保存状態がキープされている。ただし、やはり大型の木材を容れるといった無茶はできなかった。何か特殊な判断基準があるようだ。

 西の森では新しい魔物との戦闘もあった。ゼリー状の体を持つスライムだ。動きは遅く、鈍い動きで体当たりらしきことをしてくるだけだったので、ここまでの戦闘では全く苦戦することなく倒せている。件のスライムからは「スライムゼリー」なる素材と魔石を手に入れる事ができた。


スライムゼリー・・・スライムの体の内側の部分。少量の魔力を含んでいる。ポーションの触媒として広く使用されている。

スライムの魔石・・・スライムの体内で生成される魔石。魔力がわずかに上昇する効果がある。


 このスライムゼリーの説明に興味を惹かれ、ポーションを作れないか薬の調合にも挑戦してみた。まずはスライムゼリーと薬草を準備する。さすがに並べておくだけでは何も起こらなかった。次に、薬草を適当な石ですりつぶしてみる。葉から液が出たところでスライムゼリーに垂らしてみるが、やはり変化なし。今度はスライムゼリーの方に手を加えてみる。こちらは多少石で細かくほぐしていく。そして、木のコップに2つの材料を入れ混ぜていく。ちなみにこの木のコップは木工スキルで作ったものだ。

「おおっ、できたできた!。ハハッ、火で煮なくていいのは助かった。」

 初級ポーションとともに、調合スキルも習得することができた。


初級ポーション・・・体力を少量回復させることができる。薬草よりも回復速度、回復量が多い。

調合・・・素材を掛け合わせて様々な薬、新たな物、マジックアイテムを作る技術。作成者のスキルLvにより、出来上がる物の効果が変わる。


 ポーション。RPGの回復アイテムの代表格だ。薬草は素材状態のためか、回復量はかなり少ないようで、調合によりポーションにすることで回復量や速度が上がるらしい。この調合もスキルも木工スキルと同じ仕様で、スキルレベルの上昇により作れるものが増えていく。レベルが2になったところで初級解毒ポーションが解禁になったので、こちらも作成してみる。


初級解毒ポーション・・・簡単な毒を解除することのできる薬。中級以上の毒は解除できない。毒消し草よりも解毒速度が速い。


 こちらも有用な道具である。いつ何時毒に犯されるかわからないので、あって困る物ではないだろう。俺は手に入れた毒消し草と薬草のほとんどをポーションに変えていった。「目利きの極意」により、時折発見できる良品を素材にすることで、中級ポーションと中級解毒ポーションも作成が可能であった。スキルレベルも順調に上がり、現在Lv8まできている。今後別の調合に利用することも考え、薬草類のままでも何個かストックしておいた。


中級ポーション・・・体力を中程度回復させることができる。

中級解毒ポーション・・・初級解毒ポーションよりも解毒効果が高い薬。簡単な毒の回復速度はかなり速い。


 北側は元来た道を戻る感じだ。こちらはホーンラビが多く、スライムはほとんどいない。魔物によって生息というか縄張りがあるのか、この辺りでは入り混じっている様子は見られなかった。食料と素材集めにと、適度に狩っている。ホーンラビやスライムと比べると強敵であるゴブリンはあれから一度も目撃できていない。「はぐれ」だったのか、それかもっと森の奥にいくことで遭遇するのかは定かではない。北側は毒消し草が散見できることが特徴である。薬草と比べるとかなり数が少ないので、貴重なのかもしれない。


ここまでのステータス及びスキル


イシザキ・タクト

Lv5

力   25 → 27

丈夫さ 20

素早さ 12

知恵  20

魔力  15

攻撃  25+2 → 27

防御  20+0


 所持スキル 調理Lv3 棒術Lv7 暗視Lv8 気配察知Lv3 伐採Lv16

       木工Lv10 調合Lv8 投擲Lv2


 この5日間でレベルは2あがり、Lv5になった。スライムやホーンラビはゴブリンほどの経験値はないだろうが、特にスライムは調合スキルのためにかなりの数を狩っている。今回もステータスは力に割り振った。作業が効率的になるのは助かるのだ。スキルも少しずつでは上昇してきた。



 いつも通りの準備を終え、小屋の扉を閉める。今日もいい天気だ。

「今日はこれまで手をつけていない南側にしよう。人里があるといいんだけどな。」

 この日、俺は南側の探索をすることに決めていた。食糧事情が改善されてきたし、拠点もあるので、無理をせずとも生活していくことはできる。未知の場所を探索することを決めたのは別の理由だった。

俺は無性に人恋しかったのだ。これまで1週間も誰かと会話をしないことはなかった。現世では家族がいたし、職場には同僚もいた。決して友だちが多いわけではないが、連絡をすれば反応はあったし、世界的な感染症が広がる前はよく飲みにもいったものだ。外に買い物にいけば、コンビニやスーパーで応対してくれる店員さんもいた。誰かと接しないことがこれほどストレスになるとは思ってもみなかった。他にも、この世界の情報や生活していくための物品などを確保もしたい。痛んできたまぁでも、とにかく誰かと会話したいのが一番である。

「そういや俺、うさぎ年だわ。さみしがり屋だったりすんのかな・・・。」

 30がらみのおっさんが何を言ってるんだと突っ込みがはいりそうだが、マジでさびしいですハイ。

 我ながらだいぶ独り言も多くなってきた気がする。

 


 南側に向けて歩き始めてしばらくすると、気配察知のスキルに反応があった。

 俺は歩みを止め、近くの太めの木の裏側に身を潜めつつ様子を伺うことした。対象は1体。推定される大きさはこれまでで最も大きく人間に近い感じである。向こうも止まったり動いたりを繰り返していて、動きに規則性は見られない。ここから魔物かどうか判断できなかったので、警戒を解かずに様子を見ていると、向こうから簡易的な皮の胸当てを装備した男性が近づいてくるではないか。相手はこちらにまだ気づいていないようだ。何かを探しているのか、視線を地面に向けつつ、ゆっくりとこちらに近づいている。少しずつ姿がはっきりしてくる。見たところ俺より若い男性で、人族であった。武器は構えていない。

 俺ははやる気持ちを押さえ、どう声をかけるか迷ったが立ち上がった。滅茶苦茶緊張してくる。

「あのー、すいません・・・。」

「うわ!びっくりした。あなたは・・・?」

 無警戒のところで突然見知らぬ男から声をかけられ、相手も驚いたようだ。

「驚かせてしまってすいません。私はタクトと言います。近くにお住いの方ですか?」

 言語の魔法が発動しているか、相手の男性(青年と言った方がいいだろうか)、はこち

らの質問に答えてくれた。

「俺はロンって言います。近くのルドンって村に住んでます。旅の方ですか?」

 こちらも問題なく相手の言葉を理解できた。どうやら近くにルドンという村があるらし

い。青年は身軽な格好をしているので、ここからそう遠くはなさそうだ。

「いや、それが・・・信じてもらえるかわからないんですが、名前以外記憶がないんです

。目を覚ましたらこの森の奥にいて、少しずつ探索しながら行動していました。それで、

ロンさんを見つけて声をかけさせて頂きました。」

 俺は記憶喪失ということにしてロンに状況を伝えることにした。まさか異世界から転生

してきたとは言えないし、旅人という設定も考えたが、この世界の常識が全くわからない

のは嘘が多くなり、すぐにばれる。信用できる相手が1人もいない状況を悪化させるのは

得策ではないと考えた。それならば、わからないものはわからないと言う方が誠実だろう

「そうなんですか!? 記憶喪失なんてホントにあるんですね。それは大変でしたね。森

には魔物もいるし、無事でよかったですよ。」

 ロンという青年が話を信じてくれたかはわからないが、少なくともこちらに害意は伝わ

ってこなかった。それに、こちらの身を案じてくている。心根のやさしい子なのだろう。

「ロンさんは何をしに森へ? 先ほどの様子だと何かをお探しのようでしたけど。」

 この世界のことを色々と聞きたいのはやまやまだったが、安全とはいいがたい場所であ

ったし、初対面で色々と聞きだすのはよくないと判断した。

「俺はクエストで来たんです。森で薬草と毒消し草を集めるっていうね。でも全然見当た

らなくて・・・。薬草は少し見つかったんですけどね。」

 そういうとロンは腰の袋から薬草を取り出して見せてくれた。彼の言う通り3本ほど薬

草を見つけたようだ。視線を薬草に向けると、目利きの極意スキルが発動した。3本とも

質はよくないようだ。

(薬草も毒消し草も結構ストックがあったよな・・・。)

 彼の状況を聴き、俺は自分の袋に手を伸ばしかけてやめた。ロンなる青年はまっすぐで

あると同時に、困っているが薬草探しに一生懸命そうだ。それは先ほどの探す様子からも

わかる。ここで俺が薬草を渡すと提案しても、きっと受け取らないか、恐縮するだろう。

それならと、俺は彼に提案する。

「薬草と毒消し草なら、ここまで探索する途中で何か所か群生しているところがあったと

思います。よかったら一緒に探しますよ。」

「いいんですか!?助かるなぁ。あ、でも、タクトさんを先に村に案内しますよ。食べ物

とか、住むところとか、心配だったんじゃないですか?」

「タクトでいいですよ。私もありがたいのでお願いしたいです。ただ、そう時間はかから

ないと思いますから、先に薬草を手に入れて、その後ロンさんについていって村まで案内

してもらえたら助かります。」

「わかりました。あ、こっちもロンでいいですよ。タクトの方がどう見ても年上じゃない

ですか。」

 こうしてロンと同道することが決まった。まずは距離の近い薬草である。一旦拠点にし

ている小屋を経由し、東の森に向かう。小屋を見たロンは、

「6日ですげぇ! 普通もっと大人数でやらないと無理っすよ。」

と驚いていた。木工スキルのおかげだと説明したのだが、ロンは驚きを隠せない様子であ

たった。

「タクトってすごいんだな。スキルって生まれつき持ってる人もいるけど、そこまで多く

ないぞ? 長い時間経験を積んだり、一度にすごい経験をしたりするとLvが上がるらしい

けど。」

「そうなのか? じゃあ運がよかったなぁ。」

「そうだよ。父さんも『農業』のスキル持っているけど、他の家のおじさん達と比べると

作物とかのできが違うもんな。ずっと畑を耕しているけど、それでもまだLv4とかって言

ったなぁ。」

 彼の話を聞きながら、驚愕の事実に押し黙ってしまう。

(長い時間をかけて上がる? ほとんど持っている人がいない? この1週間でかなりの

数のスキルが習得できたし、Lvも上がっているよな・・・。)

 もしかしてあのスキルの「良いことが起こりやすくなる」ってこのことだったのかな、

などと背中にじんわり汗が出るのを感じていると、薬草の群生地の1つに着いた。

「ロン、ここに薬草が群生しているから、必要な数を確保するといいよ。ええっと、特に

これと、このあたりのがいいな。」

 いくつか見つけていた群生地の中でここは比較的薬草(良品)が多いのだった。クエス


トで品質の指定はなさそうだったが、できるだけ良い物を見つけてあげた方がいいと思っ

たのだ。

「他の薬草じゃなくてこの辺のがいいのか? 俺には違いがわかんないな。タクトにはわ

かるのか?」

「よく見ると葉の濃さや艶が微妙に違うんだ。俺も感覚でしかないんだがね。」

 ロンに説明しながら、普通の物と良品を見比べさせてみる。

 すると、ロンが素っ頓狂な声をあげた。

「え、ちょっと! 『目利き』のスキルが手に入った! おっしゃあぁ!」

 彼の喜びようはそれはすごいものだった。先ほどの話ぶりから、彼はまだスキルを何も

持っていなかったようで、初めての習得だったのだろう。興奮冷めやらぬ様子で、跳びあ

がっている。

「おめでとう。ロン。初めては嬉しいよな。そのゲットしたスキルで見てみろ。なんとな

く普通の質の物とは違うだろ?」

「ああ、確かにタクトの言う通り、この辺の薬草は他と違うって俺にもわかる。これがス

キルの力なんだな! ホントすげぇ! 今までこんなこと一度もなかったのにな。」

 子どものようにはしゃぐロンをみながら、俺はふと、ある可能性に思い至り、特別なス

キルの存在を思い出した。

『貴方の人生に幸多からん事を』

 イアソンさんが俺にくれた特別な名前のスキルである。良いことが起こりやすいとは説

明にあったが、まさか・・・。気になってスキルに意識を集中させると、説明の???の

部分が一部増えていることに気づいた。

(何々・・・『追加効果・・・一期一会』なんだこれ?)

追加効果「一期一会」

一期一会・・・人との出会いを大切にするという心得。同行者及びパーティメンバー、ク

ランのスキル習得率及びスキル成長速度が速まる。貴方の周りの人々もまた、貴方との時

間を有意義に感じてくれることを願っています。

 とんでもない追加効果であった。スキルが人の人生を左右するのであろうこの世界で、

スキルが他人よりも得やすくなったり、成長速度が高まったりするのは強力な武器たりえ

る。

(イアソンさん・・・。ありがとうございます。でもこれ、滅茶苦茶強力なスキルですよ

・・・。)

 説明の最後の文面は、きっとイアソンさんからのメッセージだろう。俺は感謝しつつも

、恐ろしいスキルを手に入していることに背筋が凍るのだった。

 さて、薬草を首尾よく得た俺たちは、その後拠点の北側へと移動していた。幸い魔物と

の遭遇も無く、無事に毒消し草をゲットすることができた。目利きのスキルを得たロンは

、すでにそのスキルを使こなしていて、俺が毒消し草の場所まで連れていくと、良品を1

本手に入れていた。ここでロンの目利きスキルがLv2になったようで、再び驚き、そして

大喜びであった。

 あまり時間はかからないと踏んでいたのだが、気づけばもう昼過ぎ。俺たちは空腹で悲

鳴をあげる腹を気力で黙らせつつ、拠点にしている小屋に戻ってきた。急いで火を焚き、

スキルでホーンラビの串焼きを作ってやる。ロンは弁当用にパンを2つ持っていたのでそ

れを拝借し、肉を挟んで即席のサンドイッチにした。隠し味にリンゴをすり下ろしたペー

ストを塗ってみた。ここで俺の調理スキルはLv4になり、新しくホーンラビサンドのレシ

ピを得ることができた。一応説明を見ると、ホーンラビサンドには素早さ+1の追加効果

があった。どれくらいの効果時間があるのか気になるところだ。いずれにせよ嬉しい発見

である。

「うんめー! タクトって料理もできるんだな。天才かよ。マジでありがとな!」

「いやいやこっちのセリフだわ。」

「ん、なんか言ったか?」

「いや、こちらの話だ。」

 ロンはサンドイッチを頬張りながら、しきりに今日スキルをゲットしたことを話してい

る。ついでに村のことを聞いてみると、大体村のことがわかってきた。

 ルドンの村はこの世界でも普通かやや規模の小さい村だそうだ。世帯は20そこそこで

、人口は50人くらい。ほとんどがお年寄りか女性、ロンより年下の子どもらしい。以前

はもっと多かったそうだが、長引く魔物との戦いや国同士の争いに駆り出される男たちが

多い。また、冒険者に夢を見て村を出る者、災害による食料不足、病気で命を落とす者も

いるとのこと。ロン以外に若い男は数名しかいないこともあり、今回のクエストを受注し

たのだという。スキルについては、村の中でも10人ほどしか持っておらず、ロンの母親


は水魔法持ちなので、村では唯一の夫婦でのスキル持ちだと言っていた。

 

 食事の後、軽く休憩を挟み、俺たちは小屋を出発した。出発に際し、食べ物のくずや骨

、焚火などは地面に埋めておいた。村には宿泊する施設もあるし、クエストのお礼も兼ね

て泊まっていくようにロンからの申し出もあったからだ。家を空けている間に魔物が住み

着いてはたまらない。

 ロンと会ったあたりを越え、しばらく歩くと見通しがかなりよくなってきた。木の密度

が減り、なだらかな平原が広がっていた。少し丘のような場所もあり、地平線が見えると

いうことはなかったが、見通しがよいのでこれならいきなり魔物に襲われる可能性は少な

いだろう。整地はされていないものの、それなりに人の往来のある道を沿いに進んでいく

「タクト、あれが俺たちのルドン村だよ。」

 森を出て30分くらい歩いただろうか。遠くの方に集落が見えてくる。我が家が近づき

、歩みを早めるロンに先導され、俺はルドンの村に到着したのだった。


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