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29.新たな一歩

応援して下さる方が目茶苦茶増えて驚きです(汗)

これからも頑張ります!!


 翌日。俺はギドーさんに伴われとある施設の前に来ていた。

「ここですな。私も隊商時代に隊長の代わりに手続きで訪れたことがあるくらいで、ほとんど来たことはありま

せんので、ご案内できる自信はないのですが・・・。ここならタクトさんの要望に応えられるかもしれません。

ささ、行きましょうか。」

 ここはモレジオの町役場。現代風にいえば市役所である。

「いえいえ、いつも突然無理を言ってしまってすみません。ギドーさんがいて下さる方が話もスムーズに進むの

で助かっています。いい土地があればいいんですが・・・。」

「いい場所が見つかるといいですな。私としても胸が高鳴ります。」

 そう、俺たちは家を探しに町役場に来ていたのだ。




「家ですか? それはまたすごい探し物ですな・・・。タクトさんはモレジオに本拠を構えるおつもりなんですか?」

 モレジオに着いた翌朝、朝食を摂った後で俺はギドーさんに相談を持ち掛けたのだ。

「ええ、この町は人が多く集まっていますし、鍛冶師の道を究める過程でしばらく世話になると思うんです。ロンも俺も、とりあえず冒険者ランクを上げる目的もありますしね。ゼオルやシュリカたち、それに一番はキュウマとキョウコら子どもたちのこともあって、この町に拠点を構えておくのもアリかなと思ったんです。明日まではこの宿にお世話になるにしても、今後のことは考えないとなぁと思って・・・。拠点を構えるにしても、それにどれくらいハードルがあるのか、しばらくは宿暮らしの方がいいのか、ギドーさんなら詳しいのかなと思いまして。」

「なるほど。ですが、私もまさかこれほど早く大金を得られるとは思っていなかったもので、根無し草の行商人を続けていたせいか、そちらの方面には正直感心が薄かったのです。お役に立てるかどうか・・・。」

 ギドーさんの言うことももっともだ。行商人がしっかりと拠点を構えるのは考えにくい。それならば店舗をすでに造っているはずである。

「この町の住宅を扱っている不動産屋はご存じないですか?」

「フドウサンウヤ、とは? 初めて聞く名前ですな?」

 どうもこの世界には不動産を扱うという概念が定着していないようである。

「なんというか、簡単に言えば土地とか、建物とかを専門に扱う業者ですね。大きな州とか地域は王様や貴族が領地を分け与えるんでしょうけど、こういう町の場合はどうなんですかね?」

 ギドーさんは合点がいったというように頷いた。

「なるほどなるほど。そういうことですな。それでしたらとりあえず町役場に行かれるのが一番かと思いますね。家の売買などは個人間で行われるのが常ですが、町に住むには一定の税を納める必要があります。税を管理している町役場に行けば、人の住んでいない空き家や差し押さえ等で権利の浮いている土地などがわかると思いますよ?」

「あー、ホントですね! それは考えつかなかったな、さすがギドーさん。それじゃあ町役場に行ってみます。ありがとうございます!」

「いえいえ、私も後学のためにご一緒してもいいですかな?」

「いいんですか? 助かります!」

 というわけで、俺はギドーさんとともに町役場へ赴くことになったのである。



 町役場は冒険者ギルドからさらに町の中心部に近い場所に位置している。モレジオの創成期からある建物ということで、後からできた冒険者ギルドに比べると古めかしい。しかし、町が大きくなるにつれて増築を繰り返しているのか、規模はなかなかのものである。

 建物内に入ると、多くの職員が動き回っていた。こちらはギルドのような表示札がなかったので、手近な窓口の職員さんに相談することにした。女性の職員さんが応対してくれた。

「お忙しいところすみません。空き家や住宅用地の相談で来たんですが、担当の方はいらっしゃいますか?」

「おはようございます。新しく住民登録をされたい方ですかね? 住宅の相談はあちらの窓口へどうぞ。」

 別の窓口を指示してくれたので、俺たちはそちらへ向かう。住宅担当の窓口といったところだろうか。こちらは男性の職員さんが応対してくれた。

「こんにちは。タクトと言います。本拠になるような空き家、もしくは拠点を建てることができるような用地を探していて相談に来ました。色々と伺いたいのですが、よろしいですか?」

「タクトさんですか? お手数ですが、身分証になるようなものはお持ちですか?」

 身分証の提示を求められた。なんだか役所っぽい。

「この冒険者証で大丈夫ですか?」

「構いませんよ。お預かりします。・・・はい、大丈夫です。空き家か用地ということですが、建物部分を建てるツテがおありということでしょうか? 冒険者の方ですよね?」

「はい。上物は大丈夫です。えっと何か問題でも・・・?」

「あ、いえすみません。冒険者の方と言われたので、ずいぶん丁寧な方だなと思ったんです。それに、仕事柄各地を行き来される方が多いので、住宅は宿で済ます方が多いので・・・。そもそも、これはちょっと愚痴になってしまいますが、最近は勝手に家を建てる者が多くてですね。こうやって正式に相談にいらっしゃる方は珍しいんですよ。ちょっと待っててください。今かける物をお持ちしますよ。」

 そう言うと、職員さんは手近なイスを持ち、わざわざ窓口を回ってこちら側に持ってきてくれた。

「ありがとうございます。ええっと、お名前を伺っても?」

「私はアサンと言います。タクトさんと、そちらの方は?」

「私はギドーと申します。行商を営んでおります。」

 自己紹介が終わり、3人ともイスに腰を下ろした。俺は早速、気になっていたところから質問することにした。

「まずお伺いしたいのが、税金のシステムです。この町にお世話になるとしたら、どこにどのような税金を納める必要がありますか?」

 税と聞いて、アサンさんが驚いた表情を浮かべた。

「なんと、そこまできちんとお考えでしたか。いやー、税と聞くと嫌な顔をする人は多いですが、町を運営するためにはなくてはなりません。きちんとご理解くださってありがたいです。」

 確かに俺もかつては租税には辟易したものだ。ただ、税を納めないと社会インフラがマヒしてしまうのは小学生でも知っている。ここはきちんと納めるべきだ。

「この町では半年以上滞在の意志又は事実がある者に税が発生します。対象は世帯ではなく個人ですね。これが最も基本になります。後は、商いをされる方には各種ギルドを通して売り上げの一部が税として徴収されます。そちらのギドーさんはすでにお支払い頂いていると思いますので、よくご存じだと思います。ただし、行商の方と、常設で店舗をお持ちの方では税率が違ってまいりますのでご注意ください。」

 人頭税と所得税といったイメージのようだ。現代に比べるとかなり単純である。

「とはいえ、この町は人口流入率が高いですからね。この租税のシステムを知っている者も多くはない。これはこちらの落ち度でもありますが、徴税はうまく言っているとはいえません。ただ、それでも各種ギルドからの納税は一定程度担保されているので今のところ問題なくきてはいますけどね。」

 確かに、町の入り口にいた貧民たちが税を払っているとは到底思えないし、冒険者たちが冒険以外のことに意識を向けるのも考え難い。自分が徴税側だったらと思うと頭が痛くなってくる。

「生活していく上での税はこちらに直接納めることもできますし、冒険者の方であれば冒険者ギルドの窓口で申請すれば報酬から天引きなどの方法もあります。とりあえず、税についてはこんなところですね。次に、用地の話ですが、用地自体はかなりの数があります。ただ、これは登記上の話で、実際には違法に住民が家を建てていたりするので、あまりあてになりません。主街区は基本的に既に建物が建っていますから、空き地のようなところはない状況です。どうしても更地が欲しければ、一度建物を解体する必要が生じます。」

「そうですよね。役場まで歩いてきましたが、空き地って全然ありませんでした。」

「そうなんです。ただ、空き家となっている建物はこちらが把握している数だけでも結構ありますよ。人の入れ替わりが激しい町ですからね。ええっと、空き家となっている建物から条件に合う物を探したいと思いますので、タクトさんとギドーさんの方で、いくつか条件をあげて頂けますか?」

 俺は横に座るギドーさんに視線を向ける。

「ギドーさんの方で、何かこれっていう条件はありますか?」

 ギドーさんは体の前に手を出し、両手を左右に振りながら答えた。

「いえいえ、そこまで我がままをいうことはできませんよ。この町にいる間、寝泊りする場所に困らないだけでありがたいくらいです。」

「そう言わずに。何でも仰ってください。ギドーさんさえよければ、そのままご自身のお店を本格的に開くまでの繋ぎにしてもらってもいいと思ってるんです。どうぞ遠慮なく、その方がかえって選びやすくなりますしね。」

 俺の提案自体にはやはり惹かれるものがあったようだ。ギドーさんも商人である。いつかは当然一国一城の主になりたいだろうが、安価でかつ安全に資金を貯める機会を得られるのはありがたいはずだ。

「そうですか・・・? 私としては小さくてもいいので商いの窓口になるようなスペースがあるとありがたいですね。もちろん、主街区の大通りに面していたり、中心に近いのがいいのは言うまでもないですが、そうなると当然値段も高くなりますからな。」

 いかにも商人らしい発言である。

「そうですよね。シュリカさんのこともありますし、彼女も飲食や服飾系の仕事をしたいはずだから、1階の一部が店舗になっているような物件がいいですね。俺としては10人前後が寝泊りできる広さが絶対条件ですかね。アサンさん、そういう条件で調べられますか?」

「タクトさんは鍛冶師を目指されているのですし、工房付きの物件でなくてもよろしいんですか?」

 ギドーさんが逆にこちらに気を回して提案してくれた。

「ありがとうございます。俺もちょっとそれは思ったんですけど、本格的に鍛冶をするならもっと資金を調達してから設備がしっかりした物件を狙うのがいいかなと思ったんです。鍛冶場のある物件っていうと周りの建物との関係であんまりいい立地にはならなそうですしね。絶対条件ではないかなぁ。」

 アサンさんは俺たちの話を丁寧に聞き、いくつかの物件をリストアップしてくれた。購入する場合と月割りで契約した場合にかかる金額も調べてくれたのもありがたい。

「ありがとうございます。戻って仲間と相談してみます。ちなみに、購入するにせよ借りるにせよ、手続きはまたこちらに伺えばいいですか?」

「ええ、私が担当ですので、いつでもいらしてください。お待ちしておりますよ。」

 俺とギドーさんはアサンさんに丁寧に礼を述べ、町役場を後にしたのだった。




 俺たちは町役場を出ると適当な露店で昼食を済ませ、別行動をとることにした。ギドーさんは商人ギルドに用があるとのことだったし、俺も鍛冶ギルドに顔を出してみたかったからだ。

 鍛冶ギルドは町の中心から外周部に進んだ先にあった。ハッサンさんの店にあったたたらではなく、もう少し大型の炉がいくつか設置されているようだった。建物の外からでも喧しい鉄を叩く音が聞こえてくる。

 俺は木製の大きなドアを開き、中に入った。中はやはりハッサンさんの店を広くしたような造りで、窓口の他にいくつもの鍛冶スペースが見て取れた。俺の存在に気づいたのだろう。少し若いお兄さんが威勢の良い声で話しかけてきた。

「ようこそモレジオの鍛冶ギルドへ! お客さんんですか? それとも同業の方ですか?」

「こんにちは。タクトと言います。先日この町に来たばかりで、鍛冶師は修行中です。鍛冶はマリの村で教わりました。鍛冶ギルドは初めてなので、お時間が大丈夫でしたら使い方など、教えてもらえませんか?」

 同業者とわかり、若いお兄さんがニカっと笑った。

「タクトさんっすね? 俺はマイクって言います。俺もこのギルドで修行中なんで、お仲間ですね。鍛冶ギルドは鍛冶を生業にする人が集まる互助組織であり、集う場っす。鍛冶に必要な設備が一通り揃っていて、登録すれば空き状況次第ですけど誰でも利用できます。製鉄に必要な材料から、鉄そのものも割安で購入できるんで便利っすよ。金床や金づちなんかも一般に出回っているものは大抵あるんで、壊れても補充できますね。今日なんかもそうですけど、大体日に3~4人鍛冶職人が来てるんで、お客さんは研磨を頼んだり、武器防具製作を依頼したりする感じっすよ。この町には熟練の職人もいらっしゃるんで、その方に修行をつけてもらう機会もうまくするとあるっす。まぁ気難しい人も多いんで、基本は見て学んでいく感じっすけどね。」

「素材が安く買えるのはありたいなぁ。まだ冒険者ランクが低くて鉱山に入れないんで、マリの村で教わった砂鉄からの製鉄をしないといけないんですよ。この辺りのどこで砂鉄が取れるかもわからないんで、それこそ鉄の状態で買えるのは助かります。」

「ホントっすよね。ただ、やっぱり元素材は安いですけど、鉄そのものやましてインゴットなんかは高いっすよ。修行するにも元手がいるんで、そこは折り合いをつけていく感じっす。早速登録しますか? 登録はすぐにできますよ。」

 俺はマイクに頼み、早速鍛冶ギルドに登録させてもらうことにした。

「注意点としては、鍛冶で得た報酬の一部を年間でギルドに納めないといけないっす。この鍛冶ギルドカードも冒険者のカードと似たマジックアイテムなんすけど、あっちみたいにランクがあるわけじゃないけど鍛冶の経験がカードに蓄積されていくんです。それで、年に1回経験に合わせた金額を支払うことになるっす。計算式みたいなのは未だに謎なんですけど、1年の間に鍛冶の経験を積んだら積んだだけ支払いは安くなるんすよ。」

 あれか、ペーパードライバーに厳しいシステムなのだろうか? スキルLvが上がっても研鑽に励め、ということなのかもしれないが、俺はありがたくカードを受け取った。

「ありがとう。ちなみに、今は作業場は空いているのかな?」

 マイクが後ろを指差して言う。

「見ての通りっすよ。今は俺以外いないんで、使い放題っすね。素材が必要だったら・・・あっちに保管庫って札があるでしょ? あそこの軽量台に素材を置いて、鍛冶ギルドカードをかざすと必要な額が軽量台に表示されるんで、近くの箱にお金を投入すればOKっす。ちょろまかすのはやめた方がいいっすよ? 以前バカやったやつが先輩方に袋叩きにあいましたからね。」

「いやいや、しないって(笑) じゃあ遠慮なく使わせてもらうかな。色々ありがとう、マイク。これからもよろしく。」

 そう言って、俺は彼のごつい手をしっかりと握って握手をした。

 マイクと別れ、保管庫とやらに入った。そこは扉がなく、広い倉庫になっていた。奥の方に麻袋やら木炭やらが積み上がっている。右手には鉄がこれでもかと山になっていて、左手奥の棚にはインゴットがきれいに陳列されていた。

 俺はマリの村の修行でなじみのある鉄を手に取り、軽量台に乗せていく。今回俺が挑戦したい物に、どれくらいの鉄が必要か見当が付かなかったので、30kgを購入することにした。

「製鉄からしなくていいのは楽だな。その分の経験値は入らないけど、制作に時間を使えるのは大きいな。」

 俺はマイクに教わった要領でカードをかざし、必要な額を箱に投入した。

 その時、後ろで人の気配がしたので振り向いた。そこには、人よりも小柄ながら、小さな樽のような体に筋肉がパンパンに詰まった、髭面の男性がこちらを見上げるようにして立っていた。

「なんだ、兄ちゃん。見ない顔だな? 新顔か? ぼけっとしてねぇでどいてくんな。俺も軽量台使いたいんだよ。」

 初対面でなんとも失礼だなとは思ったが、男性の言うのはもっともだ。ここは日本ではないのだ。言葉が荒々しいのは文化の違いもあるのだ。

「あ、すいません。失礼しました。自分はタクトって言います。さっき登録したばかりで、手際が悪くてすいません。すぐにどきます。」

「さっき登録? なんだ、それにしちゃ随分買いこんでるな? どっかで修行したのか?」

「あ、はい。マリの村で、ハッサンさんという方に修行をつけてもらいました。」

 俺が口にした名前を聞いて男性は驚いたようだった。髭で表情はわかりづらいが、驚いた後、嬉しそうに話しかけてきた。

「なんでぇ、お前さんハッサンと知り合いか? あいつが人に物を教えるたぁ驚きだぜ。時間が経つのもはえぇなぁ・・・。俺はウリバルト。一応あいつに鍛冶を教えたモンだよ。」

 この偶然には俺も驚いた。まさかこの人がハッサンさんの親方さんだったとは。

「え、貴方がハッサンさんの!? すごい偶然だなぁ・・・。ハッサンさんにはすごく世話になりまして、ハッサンさんの工房で鍛冶スキルを身に付けることできたんです。その後も色々教えてもらって・・・。」

 弟子の成長はやはり嬉しいようだ。先ほどの不愛想な感じは無くなり、武骨ながら親し気に話しかけてくれる。

「あいつの弟子だってんなら俺も面倒見ないわけにはいかねぇな! ま、志が同じ奴は仲間だしな。入り口にマイクの奴がいたからここの使い方はわかったろ? 何か困ったことがあればいつでも言え。俺で良けりゃ、いつでも修行つけてやるからよ。」

 ハッサンさんが師匠と謡うことはある。ファーストコンタクトは良くなかったが、ウリバルトさんも悪い人ではないようだ。むしろ、世話好きのいいオジサンである。

「ありがとうございます。今日は自分、メイスを作りたいんですが、挑戦するのは初めてでしで、何か気を付けることはありますかね?」

「メイスか? よし、それならいっちょ実際に打って見せてやるよ。ついてきな。」

 言うなり、ウリバルトさんは適当に軽量台に鉄を載せ、30kg分の鉄を購入すると、片手で軽々と素材を持って「こっちだ」と俺を先導して歩き出した。俺はマジックバックがあるので今は重量を感じてはいないが、入れる際はかなり苦戦したうえ、何回かに分けて入れたというのに、ウリバルトさんは軽々と持っているのには驚いた。

 ウリバルトさんは先ほどのエントランスの手前側の空いている金床に陣取り、素材の鉄の一部を炉にくべた。

「なんでぇ驚いた顔して? 何か可笑しなことでもあったか?」

「あ、いえ、ウリバルトさんが力持ちだなと思って・・・」

 俺の疑問に合点がいったというように、ウリバルトさんは鷹揚に頷いた。

「なんだ、そういうことか。お前さんたち人間族と違って、俺たちドワーフ族は筋量が多いからな。これくらい分けないのさ。鍛冶は力仕事だ。俺たちの間じゃ、鍛冶が一番仕事、生業にしてる奴が多いくらいさ。」

 俺たちのイメージ通り、やはりドワーフは鍛冶が得意なようだ。さすがに初対面で苦手な物を聞くのは気が引けるので聞かないでおいたが、魔法や戦闘は苦手なのだろうか。

「そうなんですね。ドワーフの方とは初めてお会いしました。自分はルドンの村から来たんですが、これまでいらっしゃらなかったので・・・。」

「そうかそうか。ま、この国は基本的に人族至上なところがあるからな。モレジオはあんまりそういう風潮はないが、住みにくいのは確かだ。お前さんが会ったことがないのもそういうことなんだろうな。おっと、よし、鉄がいい具合になってきた。お前さん、普段はどの種類の武器を打つのが多い?」

 種族の話は一旦おしまいになった。鉄が溶けたことで、武器製作に入る。正直、種族間の話題はこの国だとマイナス方向に転ぶことが多く、話題が変わったのは大変ありがたい。

「剣で修行しました。パーティに剣を扱う者が多いので・・・。」

「そうか。メイスは剣と比べて、刃の薄さや切れ味を意識する必要が薄いのはわかるな? 必要なのは使い手の筋量と重量のバランス、後は全体の長さと重心なんかだな。すべてを鉄で作る場合と、木と組み合わせて合成棍棒として作る場合と大きく2択になる。前者は強度に勝るが当然重くなる。後者は強度はやや落ちるが、取り回しはよくなる傾向があるぞ。タクトは何か軸になる棒を持っているか?」

「はい。ずいぶん前に森で自作、というか手ごろな奴を拾っただけですけど・・・これです。」

 俺はマジックバッグから、かつてルドン北の森で手に入れ、最初の頃相棒にしていた棍棒を取り出した。

「こりゃまた随分年季が入っているな。どれどれ、うむ。まだ十分使えるぞ。芯のしっかりしたいい奴を選んだじゃないか・・・。極端なことをいえば、こいつの先端に輪状の鉄を取り付けただけでもメイスになるぞ。持ち手の方から輪状の鉄を通して・・・こんな感じだ。」

 ウリバルトさんが棍棒を手に持ち、両手の指で輪っかを作って棒を挟むように持ってイメージしやすいように示してくれた。

「初めて作るんなら・・・こいつを使うといい。この鋳型に熱で柔らかくなった鉄を置いて、こうやって上から叩くんだ。そうすると、棒の外枠に近い輪状の鉄ができる。後は輪の幅が均一になるようにこうして叩いていく。幅が均一でないと薄い部分から劣化していくからな。ここは要注意だ。鉄は熱いうちに叩かないとすぐ冷めて硬度が戻っちまうからな、スピード勝負だ。で、後は好みの問題だが先端の尖った細かい鉄鋲をつけておく方法もあるな。とりあえずやってみろ。」

「はい! ありがとうございます。」

 俺はマリの村での修行を思い出し、炉で鉄を熱していく。最初は黒かった鉄の塊が次第に赤色化していく。十分に熱したのを確認し、炉から取り出すと、金づちで一気に叩いていく。鍛冶スキルのおかげで数回叩くうちにイメージに近い形になっていく。

「いいぞ。ハッサンのところできちんと学んだようだな。」

 ウリバルトさんが背中を押してくれる。

手に持つ金づちにも力が入る。そのまま続けて作業していく。時折ウリバルトさんが実地で細かく指導してくれたおかげで、俺は無事に鉄製のメイスを完成させることができたのだった。久々に鍛冶に関するシステムメッセージが頭に浮かび上がってきた。


鉄のメイスの鍛造に成功しました。鍛冶スキルLvが9になりました。

鉄のメイス・・・鉄と木を組み合わせたメイス。攻撃力+10。刺突には向かないが、重量を生かした打撃攻撃が可能である。


「やりました! ウリバルトさん、ありがとうございます!」

 強面のウリバルトがニカっと笑った。

「鍛冶スキル持ちだとは思ったが、結構な練度じゃないか。集中力もある。俺はメイス系と斧系が得意だからよ、これからも遠慮なく聞いてくれ。メイス系は使い手の幅が広くていいぞ。」

 俺は再度ウリバルトさんに頭を下げると、彼は満足したように片手をあげて別の作業台へと去っていった。

 俺は今回のメイス作成によって、剣系統とメイス系統の鍛造を身に付けることができた。ウリバルトさんの話だと、どちらも使い手が多いらしいので、鍛冶師を本格的に始めることができた後も客足に困らなさそうで助かった。

 それから、材料の許す限り色々なメイスを自作してみることにした。剣と比べると言葉は悪いが単純な機構なので、アレンジもしやすい。作業に慣れてくる鉄を薄く、細く打つ技術があがってきた。

 スキルLvの上昇に合わせて、試しに素材全てを鉄にしたメイスを自作してみると、思いのほか成功することができた。重量も押さえることができ、これなら攻撃だけでなく防御にも使えそうである。最終的に、鍛冶スキルLvは11まで上昇し、万々歳の結果となった。





 夕刻。

 俺たちは再び部屋に集合した。

「それで、キュウマは無事に冒険者になれたんだな? よかったじゃないか。」

 今俺たちの目の前には真新しい冒険者カードが置かれている。鬼人族の少年、キュウマの物である。

「へへっ、ありがとう! ロンやミオたちがいてくれたから、今日で俺もキョウコもEランクまで上昇したよ。」

 そうなのだ。別行動をとっている間に、ロンとミオ、ゴブによりキュウマたちの冒険者登録と、依頼達成によるランク上げを行ってくれていたのだ。

「キョウコちゃんもがんばってましたよ。昼前に登録して、午後から依頼を始めましたけど、採集依頼と討伐依頼をこなしてましたもんね。」

 ミオがキョウコの頭を撫でてやっている。これはMMORPGなどでよくある初級のクエストのようなもののようだ。話によればモレジオ付近の魔物は低級のものもいるようで、新米冒険者にも討伐しやすいようになっているらしい。モレジオまでの道中で、剣術と魔法を身に付けた2人の手にかかれば朝飯前という感じだったようだ。

「えへへ、嬉しいです。あ、タクトさん。依頼の際にスライムを狩ったのでスライムゼリーが10個手に入ったんです。それに薬草も5個余ったので持ってきました。ミオさんから、タクトさんが調合で使うかも、と伺ったので取っておきました。良かったら使ってください!」

 そういってキョウコが持ち物袋からスライムゼリーを1つ取り出してみせた。

「ありがとう。じゃあ、10個とも買い取るよ。薬草も5個ね。薬草は5個とも普通の品質だから75ギルで・・・はい、225ギルだ。」

 俺がお金を払おうとすると、キュウマとキョウコが慌てて手を引っ込めた。

「え、タクト、そんな、お金なんていいよ!? これまで世話になりっぱなしだったしさ。これで役に立つんならもらってくれよ。なんならこれからも手に入れてくるからさ!」

 キュウマたちなりに、自分にできることをと思ったのだろう。

「気持ちはありがたいが、2人はもう冒険者だろ? お金も、2人に渡した分はすでに半分は返済でなくなっているんだ。2人はいずれ自分たちの足で立って生活していくんだから、たった225ギルでもきちんと貯めておくことだよ。2人の頑張りの、正当な報酬なんだからね。」

 俺の言葉に2人はハッとしたようだ。そう。今は俺たちは一緒にいるが、いつかは自立しなければならないのだ。仲間だからこそ、なあなあになって年少の2人から搾取するような形になってはならないのだ。

「わかった・・・ありがたくお金、もらうよ。ありがとう。」

「ありがとうございます!」

 代表してキョウコにお金を渡す。そして、キュウマの肩をポンと叩いてやる。

「今回はパーティで使うように素材のまま残しておくけど、またスライムゼリーと薬草が手に入ったら次はポーションにしてあげるからいつでも言ってくれ。俺もキーオの村でギドーさんに買い取ってもらったけど、今は需要が増しているからポーションにするだけで1個350ギル程度になるから素材との差額でいいお金なるよ。」

 俺には調合スキルもあるのだ。身内でポーションに作り替えてやった方が利益が出るし、俺の経験値上げにもなり一石二鳥なのだ。

「こいつらもEランクになったし、明日からは俺たちも含めてEランクの依頼をこなしていこうぜ。タクトもなんだっけ、鉱山に入るのにランクが必要だっただろ? ランク上げついでにこの辺りの魔物を狩ってLvも上げたいしさ、素材も集めたいよな。」

 ロンがそう提案した。確かに彼の言う通り、この辺りの魔物素材にも興味がある。

「そうだな。5人は今日の依頼でこの辺の地理に少し詳しくなったんだろ? 案内してもらえると嬉しいな。」

「じゃあ明日は私たちも『冒険者ご一行』ですね。」

「護衛からついに冒険者になりましたね。ゴブも一緒に来てもらっても大丈夫か?」

「モンダイナイ マカセロ。」

 ゴブが力強く胸を叩いた。初めて会った頃よりも人語がかなりうまくなっている。

「タクトの方はどうだったんだい? 今日は役場に行ったんだろ?」

 シュリカが水差しから水をコップに注ぎながら聞いてきた。そうだった。その相談もあったのだ。

「そうだった。みんなに相談があるんだ。明日からの本拠をどうするかについてだ。まず、大きく2択だ。ここの宿は過ごしやすくて助かるけど宿泊費が高すぎるから、別の宿に移る方法。もう一つはこの町に家というか拠点を構える方法だ。」

 家と聞いて、ギドーさんと俺を除く一同が驚いたようだ。

「タクト、家ってお前、マジか!? 昨日でっけぇ稼ぎがあったけどよ、家ってそんなポンと買えるもんじゃねぇぞ!?」

「ゼオルの言う通りなんだけど、俺の中ではかなり現実的な方向で考えているんだ。まず、俺たちはこのモレジオに来るっていう目的でここまで同道しただろ? その後どうするかは、それぞれのやりたいようにやってもらっていいんだ。ただ、俺としてはみんなといるこの時間や雰囲気は心地いいんだ。だから、それぞれが別の道を歩むにしろ、この町にいるうちは近くにいたいなって思うんだ。みんなが嫌じゃなければだけどさ。」

「タクトさんやみなさんといるのが嫌なんてありえないですよ!」

 キョウコが力強く宣言してくれる。他の皆も同様に頷いてくれた。

「ありがとう。で、だ。8人が一緒に住むとなると、どうしても宿代がかかるんだよ。1か月宿を借り続けるくらいなら、物件によっては家を月割りで契約する方が安く上がるんだ。」

「まぁそりゃそうだよな。家具とか飯の工面は必要だけど、宿の方が高いのはあ当たり前だよな。」

 ロンが腕を組んでそういった。

「あぁ。それに、キュウマとキョウコは冒険者としてこの町でやっていくつもりだろ? 俺たちパーティとしての稼ぎじゃなく、これが2人だけの稼ぎで暮らしていくとなると、今よりかなり生活の維持がきつくなるのは目に見えているんだ。衣食住全部を賄うんだからな。だから、住む場所だけでもあればかなり負担は軽くなるんだよ。あとは、ゼオルとシュリカも、この町で仕事を探す間、やっぱり拠点はいるだろ?」

「まぁな・・・俺としてもお前らといるのは悪かねぇし、やもめがあるのは助かるが・・・。」

 ゼオルは頬をぽりぽりとかきながら言った。ちょっと顔が赤いのは照れている証拠だろう。

「シュリカはマリで店をやっていたって言ってたし、今日調べてきた候補地も1階が店舗のやつにしたんだ。そこなら自由に店をやれるし、仕事が見つかるまで店番っていうのかな、このパーティで手に入れた素材を売る店をやろうと思うんだけど、そこで店を任せられると助かるんだ。もちろん夜はシュリカがやりたいって言っていた酒場にしてもらってもいいし、作った服を売ってもらってもかもわない。その売り上げはシュリカが今後の資金にすればいいしね。ギドーさんに仕入れなんかで相談するといいんじゃないかな。もちろんギドーさんがご自身のお店を持つまで、そこで仮店舗って形で商いをやってもらうこともできますし。」

 俺の計画を知り、みんな真剣に耳を傾けてくれていた。ゴブは完全に客分だけど、「また何か面白い事をはじめる気だな」と、楽しそうだ。

「今日町役場で聞いた中で候補地を3つほど選んできた。どうかな、拠点を構えてみないか?」

「私は、タクトさんが決めたことについていきます。まだ夢の途中ですが、その夢に一歩近づくためにも、今はこの町で実力や経験を積む時です。」

 ミオさんがすっと隣に寄り、ふっと微笑んでくれた。

「俺も賛成! しばらくこの町で冒険者として頑張るつもりだからさ、親父とお袋には連絡するとして。キュウマとキョウコにも負けてらんねぇしな!」

「あ、ロンずるいよ! 俺だって負けないからな!」

 ロンとキュウマが火花を散らし、そんな兄の様子をみてキョウコが嬉しそうに笑っている。

「タクトさん、ありがとうございます。私も店を持つのが夢です。それが一歩現実を帯びてきました。何から何までお世話になりますが、私自身のためにも、皆さんに協力させてください。」

 ギドーさんが力強く手を握ってきた。俺もそれを握り返す。

「タクト・・・ありがと。アタシ、マリで店を追われた時、強がっちゃいたけどさ、もう店なんて無理かなと思ったんだ。それがまさかこんな大きな町で、こんなに早く再開できる目途が立つなんてさ・・・アタシもがんばるよ。ギドーさん、よろしくお願いします。」

 シュリカとギドーさんも握手を交わしている。2人が協力すれば、店の形はなんとかなるだろう。

「悪いな、また世話になるぜ。」

 ゼオルは短くそう言った。

「ゼオルはどう過ごすんだ? やっぱりしばらくは冒険者か?」

「いや、モレジオには水運業もあるんだよ。お前らの店も勿論手伝うけどよ、久々に船に乗りたくなってな。そっちに顔を出してみようと思う。」

 彼は適性が操船である。船乗りはまさに天職だ。

「いいな。がんばろう、お互い。ゴブはどうする? まだしばらくここにいてくれるのか?」

「アア ナンダカ タノシクナリソウダ。」






 こうして俺たちはモレジオに拠点を構えることになったのだった。


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