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29.モレジオ

たくさんの応援ありがとうございます!

仕事が忙しくなってきましたが、これからも執筆を続けていきます。

皆さんのご支援は日々力になっています。

今後ともよろしくお願いします。


「きたー! やったぞぉぉ! ついにモレジオだぁ!」

「あぁ! やったな、ロン!」

 そうロンが叫ぶのも無理はない。俺たちがルドンの村を出てから実に2週間程が過ぎている。村を離れた経験のないロンと、この世界初心者の俺は他の面々がちょっと引くくらいの喜びを感じていたのだ。紆余曲折を経ての到着となったのも大きい。

 遠くにモレジオの町と思しき外壁が見えてきた。というか、外壁の周りの家屋の数がとんでもなかった。ちょうど小高い丘のような場所を歩いていたので、やや上の方からモレジオを見下ろすかたちとなっていた。俺たちが目指していたモレジオはギドーさんにも説明を受けていたが、元は普通の町だったらしいが、付近にダンジョンが発見されたことで爆発的に人口が増え、旧市街に収まらない人々が外壁の外に無作為に家屋を建て続け、気づいたときには旧市街の外壁を取り囲むように家々が立ち並ぶようになっていたのだ。

「久しぶりに来ましたが、やっぱりモレジオの規模は別格ですね。」

 ミオも感心したように町を見ている。彼女は前のパーティの時、既にここを訪れているようだった。

「ミオさんはやっぱり来たことあったんですね。落ち着いたら案内してください。」

「えぇ、勿論です! ここは1日じゃ見て回れないくらい、大きな町ですからね。今から楽しみですね!」

 ミオも心なしかテンションが上がっているようだ。以前は町を楽しむ余裕もなかったのだろう。

「みなさん、もうすぐモレジオです。先にお伝えしておくことがあるのですが、町が近づいてきたら物乞いの者たちが寄ってきます。皆さんお優しい方ですから気になるとお思いですが、絶対に施してはなりません。」

 ギドーさんが神妙な声でそう言った。モレジオを知る面々はその光景に覚えがあるのか、鷹揚に頷いていた。一方で、俺やロンなど、モレジオを知らない側からすると受け入れがたく聞こえてしまう。

「無視するってことだよね? そんなの可哀そうじゃんかよ・・・。」

 キュウマが至極まっとうな感想を述べた。俺も少なからず、少年に同意する気持ちが強い。

「お気持ちはわかります。ですが、彼らにとってはそれは『稼ぎ』にしかなりません。こちらの思いやりなどは一切通じないのです。むしろ誰か1人に施しをすれば、それ以外の者から怨嗟の感情を向けられます。施された者の立場が弱ければ、我々がいなくなった後で酷い仕打ちを受けることだってあるのです。モレジオには想像もつかないほど、多くの人がおります。そのすべてを救うことはできませんし、彼らが自ら生きていく術は自分で獲得しなければならぬのです。」

 ギドーさんが悪者のようになっているが、彼が言っていることは事実なのだ。配慮なしに施したところで、一時的に相手を喜ばせるだけで、根本的な解決にはならないのだ。


 町がかなり近づいてきた。

 そして、町に近づくにつれ、街道沿いに座る者や、藁を広げて細々と物を売る者が見られるようになった。

「おい兄さん! 冒険者だろ!? この薬草はいらんかね? 傷につけときゃたちどころに回復できる代物だぞ。どうだい?」

「そこのお姉さんにはこっちの花なんてどうだい? きれいだろ。今朝摘んだばかりさ。見ているだけで心が癒されってもんだろ?」

 往来はかなりの人がいて、俺たちよりも先を歩く冒険者たちが次々と物売りに捕まっている。どの冒険者たちもうっとおし気に断っているが、売り手がかなりしつこい。中には服を掴んでくる者もいそうだ。

「おい! お前さんたち羽振りがいいんだろ!? 俺たちゃ食い扶持もこんなもんで、買ってもらえないと生きていけないんだよ。頼むぜ・・・後生だ・・・。」

 別の物売りが哀れっぽく絡んでいる。

「わ・・・わかったよ。ほら、1つ買ってやるよ。だからそこをどいてくれ! ほら、早く!」

 見かねた別のパーティの男性が男から物を買ってやっていた。すると、更に周りの物売り達がその男性へ殺到してしまっていた。

「私のも買っとくれよ! 私も毎日つらくてつらくて・・・。」

「なんでその男からだけ買うんだい! あたしのも買っとくれよ!」

 辺りはものすごい喧騒だ。

 俺たちはかねてからの打ち合わせ通り、馬車の外になるべく人が出ないように乗り込み、輜重スキルの高いゼオルに一気に駆け抜けてもらうことにした。彼は見た目が強面でもあるので、一定速度で走りさえすれば物乞いに捕まりにくいのだ。先に捕まった冒険者たちには悪いが、街道の脇を一気に抜けさせてもらい、貧しい人々の住む区画を突破することに成功した。

 貧民街区画を通り過ぎると、あたりの様子はがらりと変わってきた。建物の大きさや造り、装飾などが様々に施されている。かと思えば、石造りの武骨な建物、木組みのログハウス調の建物など、かなり雑多である。移り住む住民が雑多なためか、建物も全体に統一感はない。ただ、町全体を覆うような、熱気だけは伝わってきた。

「おっきい建物が多いですね! マリも大きいと思ってましたけど、村の何倍もおっきい!」

 キョウコが荷台から顔を出し、素っ頓狂な声をあげた。貧民街区を通り過ぎたので、荷台から各々が降りたのだ。

「俺たちの村って目茶苦茶ちっちゃかったんだな。こいつはすげぇ・・・。」

 ロンも驚いている。俺も激しく同意である。日本でも有名な電気街があるが、あの裏通り感というのだろうか。建物が雑多にひしめき合い、商店からは店員の喧しい声が聞こえてくる。往来を歩く人の数も多く、非常に活気に満ちているのだ。

「ささ、今日はひとまずどこかの宿を取りましょう。この町は宿の数も多いですが、我々は大人数ですからな。一気に泊まれる宿はそう多くはありません。冒険者の方々で埋まらないうちに、急ぐとしましょう。」

 ギドーさんの号令一下、俺たちは「白鹿亭」という中規模の宿に移動することとなった。そこはギドーさんが以前隊商に属していた頃に何度も使った宿らしく、俺たちの一行が一度に泊まれる広さであるらしかった。この町でも割と歴史があるようで、町の中心からもほど近く、各種ギルドへのアクセスも良好らしい。

 主街区をしばらく歩くとお目当ての宿が見えてきた。

「あれが白鹿亭です。ここのシチューは絶品ですよ。だいぶ夜が冷えるようになりましたからね。私は主人に話をつけて参ります。ゼオル殿、すみませんが荷台を裏手に回しておいて頂けますか?」

 ゼオルは「おう」と頷くと、2頭の馬と騾馬を引き連れていった。

「タクトさん、今日はこの後どうしますか?」

 横でミオが尋ねてきた。他の面々も大きな町に興味津々といった様子で、辺りを見て回りたいという雰囲気が伝わってくる。

「マリの時と同じで、とりあえずここまでで得た不要な素材や魔石なんかを換金したいですね。みんなも手持ちがないと町で行動するのに不便だろ?」

 俺の至極当然の問いにみんなが頷く。ロンやミオはマリで分配した手持ちの資金がまだ残っているし、キュウマはゴブから託された大金を持っているものの、シュリカや、今荷物を移動してくれているゼオルなどはほぼ無一文だ。先立つものは必要である。

「今日はこの宿が取れれば食事の心配もないし、換金した後はそれぞれ自由に過ごしていいと思う。この町を知らない俺とロン、キュウマとキョウコは誰かと一緒に行動した方が無難だとは思うけどね。昨日みたいなこともあるし、なるべく単独行動は避けた方がいい。」

 昨日のこと、と聞き、一同に緊張が走る。人が多くてにぎわっているということは、同時にトラブルも多いのだ。無暗な行動はそれぞれに迷惑がかかる。

「皆さんお待たせしました。無事に記帳できましたよ。部屋の方にご案内しますので、私に付いてきてください。ゼオル殿、お疲れ様でした。」


 丁度ゼオルとギドーさんが戻ってきたので、俺たちは部屋へ移動することとなった。宿内は広く、落ち着いた雰囲気である。随所に調度品が置かれ、客の心を和ませてくれる。床や階段はきれいに清掃されていて、ちょっと今までの宿と質が違う感じである。そのまま階段で2階に上り、突き当りの部屋のドアを開けて中に入った。中はスイートルームのような造りで、みんなが集まれるリビングのような部屋と、そこから寝室として使える部屋が4つもついている豪勢な部屋だった。

「すげぇ! 俺、こんなでっかいベッド初めて見た! イヤッホォ!」

 キュウマが寝室の一つを開け、中のベッドに飛び込んでいる。奥のベッドにキョウコも飛び乗り、ぴょんぴょんとジャンプしている。こういうところは2人ともまだ子どもなのだなと実感させられる。隣の部屋でロンが同じようにはしゃいでいるけども・・・。

「部屋の大きさが色々あって便利だね。こりゃあいい部屋だよ。なんだかくっついてきたのに申し訳ないね。」

 さすがのシュリカも殊勝な様子である。それくらい、この部屋の質は良い。

「ギドーさんすいません。かなり高かったんじゃないですか? 俺の方で宿代は出しますから、仰ってください。」

 ギドーさんに向かってそう言ったのだが、彼は穏やかに笑って俺の提案を辞退する。

「いえいえ、ここまで無事に来られましたし、タクトさんのおかげでかなり稼がせてもらいました。まだ交易品の取引はこれからですが、これまでの行商では一番の売り上げになることは間違いないですよ。とりあえず2泊は宿を押さえましたから、私からのお礼です。ゆっくりお休みになってください。」

「ありがとうございます。みんなもこの通り大喜びです。」

「ギドーさん、ありがとうございます。私もこんなお部屋に泊まるなんて初めてです!」

 ミオが俺の横でペコリと頭を下げている。

「ほっほっほ、それは良かった。生憎と別部屋が取れず・・・お二人には申し訳ないですが、ここなら皆さんで今後のことも話しやすいですし、ご容赦ください。」

「そ、そんな・・・!」

 ミオが赤くなっている。紳士のおせっかいはありがたいが、俺たちはまだそういう関係ではないのだ。


 部屋の探検に一区切りがついたので、俺はミオさんに伴われ、ロンとともに冒険者ギルドに向かうこととなった。この町には魔石や素材を扱う店や魔法屋などが大小かなりあるらしいが、信用のおける店をすぐに見つけるのはかなり難しいとのことだった。特に魔石は個々人で需要にかなりの差があるため、相場よりも高値になる相手もいるが、多くは買いたたかれてしまうらしかった。であれば、信頼のおける冒険者ギルドに直接引き取ってもらう方が確実であるし、資本もしっかりとしているので換金しやすいだろうという助言をもらったのだ。

「タクト。冒険者ギルドに行けば、換金ついでにランクの更新とか、いろんな情報が聞けるんじゃないか? 依頼なんかもあるだろうし、俺もギルドに行ってみたい。」

 と、冒険者志望のロンの後押しもあり、俺たち3人はギルドへ向かうことにしたのだ。

ギドーさんは商人ギルドへ交易品の運び込みだ。そちらはゼオルと、部屋でじっとしていられないというのでキュウマにお願いすることにした。キョウコとシュリカは宿周辺の区画をぐるりと散歩するそうだ。

「冒険者ギルドは町の中心街区のすぐ外側にあります。剣が交差した看板もありますし、何より、周囲よりもかなり立派な建物なので、見てすぐわかりますよ。あ、ホラ、あれです!」

 ミオが指さした先に、俺にも見てわかるほど「ギルド感」を放っている建物が見えてきた。レンガ造りの大きな建物で、出入り口付近には多くの冒険者たちがたむろしている。新人らしい少人数のパーティもいれば、古強者っぽい一団もいる。

「あ、手前ら!」

 ギルドへの階段を上っている最中で、昨日の男たちと鉢合わせしてしまった。思わず緊張が走る。

「あ、昨日の方々ですね。昨日は失礼しました。すみません。」

 咄嗟に以前の世界のように頭を下げた。相手の態度はどうあれ、こちらに非があったのだ。こういう場合は、誠意を込めて先に謝るしかないのだ。

「む・・・まぁ、気をつけりゃいいさ。お前冒険者か? 珍しい野郎だ。おい、行こうぜ。」

 俺の態度に毒気を抜かれたのか、はたまたギルドの目の前でもめ事を起こしたくなかったのは定かではないが、男たちは特にこちらに突っかかることもなく、そのまま去っていった。

「ふぅ、焦ったよ。またもめ事になったらヤバイと思ったぜ。」

 ロンが緊張を解いてやれやれと言った。

「そうだな。俺も焦ったさ。ケンカなんてしたくないしな。素直に頭を下げてよかった。」

 予想外の事態は起きたものの、俺たちはついに、冒険者の象徴たる冒険者ギルドへと足を踏み入れた。




 ギルドの中は大きな市役所のような造りになっていた。各地のギルドが同じ造りなのかはわからなかったが、丁寧に表示も設置されていて、「登録」「昇格」「依頼」「買い取り」「販売」「相談」といった文字が並んでいる。建物内にも冒険者はたくさんいて、何人かで談笑していたり、壁の依頼書と思しき者を見ている者など様々だ。

「どこから行きますか?」

 ミオが俺たちに尋ねてきた。

「素材の買い取りって検品もするだろうから時間がかかると思うんだ。だから、先にそこで素材を処理してもいいかな? その後で、昇格窓口なんかに行くといいと思う。」

「いくらになるか楽しみだな。じゃあ、俺は適当にそこら辺の手配書っぽいやつを見てみようかな。付近の危険な魔物のこともわかると思うし。」

 俺の説明に2人とも納得してくれたようで、買い取りの列に並ぶことにした。まだ昼前だったからか、買い取り列には人がほとんどおらず、すぐに俺たちの番になった。

「こんにちは。買い取りですね。お持ちの素材はどれくらいの量になりますか?」

 窓口の女性が事務的に聞いてきた。冒険者の相手は慣れているのだろう。

「すいません。今日冒険者ギルドに来たばかりでわからないんですが、買い取りはどのように行われますか? 手持ちの素材が結構多いんですが・・・。」

「そうですか。初めてお越しなんですね。基本的には、この窓口で出せる程度の量であればこの場で出してもらって構いません。物によって大きさも違いますからね。見たところ大荷物をお持ちでないようですが、ギルドの外に置かれていますか?」

 確かに、女性の言う通り、今の俺たちはまったくの手ぶらである。これで素材がたくさんあると言われれば、外にあるのかと思うだろう。

「あ、実はマジックバッグを持っていて、この中にあります。ここで出してしまうとご迷惑をおかけするかと思って・・・。」

 俺がマジックバッグと言った瞬間、あたりの喧騒がわずかに止み、方々からひそひそと話声が聞こえてくる。

(おい、あんな弱そうなやつらがマジックバッグだってよ!?)

(マジックバッグっていったら冒険者が最初に目標にする便利アイテムだからなぁ)

(今日初めてギルドに来たって言ってたぜ? どんな場所でそんなお宝手に入れたんだ?)

 改めて思うに、便利すぎるなと思ってはいたが、このマジックバッグはかなり高級品なのだと思う。食材の鮮度も落ちないし、持ち運びも便利なのだ。

「わかりました。それではこちらの札を持って奥の『買い取り』という表示ある部屋にお入りください。そこで別の担当の者がおりますから、荷物を出してください。」

「わかりました。ありがとうございます。」

 なるほど、カウンターで扱えないような量の買い取りは別部屋で行われるようだ。

俺たちは案内された部屋の中に入る。中には中年の男性職員がおり、俺はその男性に木札を渡した。

「いらっしゃい。大口の冒険者さんだね。買い取り希望の物を出してもらって構わないよ。」

「わかりました。」

 俺は部屋の奥の方から、これまで買い取りに出していなかった各種素材を出していった。ホーンラビの毛皮など、今では懐かしいものから、ライデンシープの肉など、真新しいものまで様々だ。かなりの苦戦を強いられたポイズンスネークの皮やラフレシアの花弁、そしてマリからの道中で手に入れた各種魔石も並べていく。

「ちょ、おいおいおい! ラフレシアの素材があるじゃないか!? これってボス素材だぞ! 見たところそんなに高ランクの冒険者には見えないのにすごいな! それに、この大量の魔石は!? こんな量の魔石が一度に並ぶなんて普通じゃありえんぞ! あんた一体何者なんだ!?」

 リンネに買い取りをお願いした際は、まだリンネと初対面だったこともあり、一度にすべての魔石を並べるのを躊躇したのだ。しかし、ここは冒険者ギルド。口は堅いだろうし、幸いなことに周りに別の冒険者はいない。不要な素材は一気に買い取ってもらうことにしたのだ。

 後ろで見ているミオも、俺のドロップ確率にだんだん慣れてきていたものの、部屋一杯の素材と大量の魔石を目にしてかなり動揺している。

「タ、タクトさん・・・。すごいとは思っていましたけど、こうしてみるとやっぱり異常ですよ・・・。タクトさんを取り合って戦争が起きてもおかしくないと思います・・・。」

「お二人の反応から察するに、これってかなり異常なんですよね? 俺にもよくわからないですが、ドロップ率が良いのは事実です。冒険者ギルドを信用していますが、改めて、このことは内密に願えれば嬉しいんですけど・・・。」

 中年の職員さんは俺の言葉にハッとなったようだ。

「勿論だ! 俺たちは機密は必ず守る。冒険者はいろんな奴がいるが、世界の安全には絶対に必要な存在だ。そいつらのマイナスになるようなことはしない。た、ただな、こんなことは初めてだ。どうせお前さんたちが帰った後でギルド長に報告することになるから、今呼んできてもいいか? お前さんの身が危険にならんよう、今後もこの国で、いや、この世界で生きていくうえでの対応を考えた方がいいと思う。」

 男性の提案は至極まっとうだった。俺の特殊なスキルはうまく付き合わねば同道するミオたちを不幸にしかね

ない。ギルドの長にも協力を依頼できるのは大きかった。

「やっかいな事になってすいません。よろしくお願いします。」

 俺の同意を受け、職員さんはすぐに部屋を出て行った。そして、数分後、慌ただしく初老の男性を引き連れて戻ってきた。年老いてはいるが、たくましい偉丈夫だ。その男性は目の前の素材の山と多数の魔石に顔を引きつらせていたが、さすがの年季で落ち着きを取り戻し、握手を求めてきた。

「この者から話を伺いました。私は冒険者ギルド長のシュリングです。話を聞いた時は半信半疑でしたが、いやはや、これは圧巻ですね。魔石がそこらの石くれのように・・・。お名前を伺ってもよろしいですか?」

「はい。タクトと言います。ルドン村から。こちらはミオさん。後は、広間の方に連れが1人います。」

 俺が名乗ると、シュリングさんは鷹揚にうなずいた。俺たちを観察しているのは肌で感じたが、不思議と嫌な感じはしなかった。

「なるほど、タクトさんと仰るのですね。ギルドに来るくらいですから冒険者登録はされているのでしょうが、あまり冒険者らしくないですな。失礼。お気を悪くしたらすみません、ただ、おそらくは冒険を生業にしているわけではないのでは?」

「そうですね。今は知り合いの行商の方の護衛でここまで来ました。私としては生産の仕事に携わりたいと思っているので、本格的に冒険者稼業をするという線はないですね。」

 俺の返答に半ば納得しつつ、もう半分は惜しいというように、シュリングさんは苦笑している。それもそうだろう。俺がその気になり、本格的にダンジョンに潜るとすれば素材と魔石がかなり市場に出回ることになる。この世界の魔石のすべてを熟知しているとは言い難いが、今の俺でも倒すことのできる魔物の魔石がかなりの値段で取引されていることはわかっている。素材にしても同様だ。通常よりもドロップ確率が優れているならば、希少な魔物を狩り続けることで冒険者たちの戦力拡充を図ることができるのだ。

「貴方が不思議なスキル、ないし加護をお持ちだということはわかりました。興味はありますが、それを詮索するのは野暮と言うものですな。私たち冒険者ギルドとしては、貴方の身の安全にできるうる限りで貢献したいと思います。この国の首脳部や各国への情報開示も徹底して制限することをお約束します。」

「ありがとうございます! 俺としても、それが一番ありがたいです。」

 国へ情報が洩れれば、嫌が応にも何かに協力させられることが増える事は予想できる。貴族間の派閥争いや、俺の身柄を狙っての暗殺や国家間戦争など起きようものなら、この世界に転生してきた意味がなくなってしまう。

 シュリングさんはさらに続けた。

「今後も素材の買い取りは窓口ではなく、この部屋で行いましょう。窓口には必ず来ていただきますが、その量の素材や魔石を他の冒険者の方々に晒すのはあまり得策とは言えないでしょうからな。この部屋を担当するこちらのサロモと、窓口の職員で共通理解しておきます。換金もこの部屋でそのまま行えるように手配しますよ。」

 俺はサロモさんと呼ばれた担当の職員さんにも頭を下げる。

「今後ともよろしくお願いします。」

「あぁ、秘密は洩らさない。安心してくれ。」

「基本線としては、あなた方を大事にする意味でも、無暗な特権を与えることは避けていきます。冒険者同士の噂は出回るのが早い。下手に便宜を図れば、邪推する者たちも出てくるでしょう。今後も良識ある行動をとっていただくのが良いと思います。ただ、何かお困りのことがあればいつでも相談にいらしてください。一冒険者として、タクト殿の今後を応援させてもらいますよ。」

 ギルド長のシュリングさんがいい人で本当に助かった。話を伺うと、冒険者ギルドは世界各地にあるそうで、国とは協力関係にあるものの、独立した権限を有しているのもありがたい。

「さて、後は査定ですな。ここからはサロモに任せるとしましょう。彼は仕事が早くて正確です。私はこれで失礼しますが、今後ともよろしくお願いします。」

 そう言って、シュリングさんともう一度固く握手をし、彼は部屋から出て行った。

 こうして、俺は冒険者ギルド長と顔見しりとなり、後ろ盾を得る事ができたのだった。




「・・・以上が素材の買い取りの内訳だ。占めて44095ギルになるな。」

「結構な額になりましたね。買い取りでお願いします。」

「わかった。ほい、これが硬貨だ。」

 シュリングさんと別れた後、サロモさんが1つずつ魔物素材を査定してくれた。目録などもない無いのにどのように鑑定するのか不思議だったが、なんとサロモさんは一般に出回る素材の種類と相場を覚えているようで、次々に処理してくださった。しかしも、俺が鍛冶や裁縫、調合といったスキルを持っていることをしていことを知ると、有用な素材についてもレクチャーしてくれた。おかげで、売るつもりで並べた素材の約半分はバッグに戻すことになったものの、今後の生産が楽しみな結果になった。マリの村での魔石の買い取り額がすごすぎて霞んでしまう感じは否めないが・・・。

「低級から中級の魔物素材ばかりとはいえ、これだけの量はすごいぞ。素材の買い取りだけで食っていける冒険者ってのはランクが一定以上ないとほとんどいないからな。大抵は依頼の報奨金とセットで、なんとか贅沢をしないで食べていけるくらいなもんさ。ま、だからこそ、ダンジョンで一山当てようと躍起になるんだけどな。4万ギルもあれば、しばらくは宿に困ることはないだろうな。」

 確かに。俺が昔プレイしていた某MMORPGなどでも、低級の魔物が落とす素材の買い取り価格などはたかが知れていた。あの世界は別にキャラクターは寝泊りする必要がないし、HPだけで管理されているから回復魔法をかけてもらえればそれでよかった。空腹などもない。生身の俺たちはログアウトすれば済むのだ。

 ところがこの世界は違う。同じように魔物を狩って素材を得て、寝泊りしなければならないのだ。食事にもっ宿泊にも金がかかる。服も着ていれば痛んでくるのだ。当たり前だが、生きていくにはお金を消費していく。資金はいくらあっても困らない。

「残りは魔石だな。こっちは低級でも桁が違うからな。どれどれ・・・。」

 マリの村でリンネに買い取ってもらった以降に手に入れた魔石は以下の通りだ。


アシッドフロッグの魔石 9個

パピヨンの魔石     4個

フォレストビーの魔石  3個

ラフレシアの魔石    1個

ライデンシープの魔石 23個


 アシッドフロッグとライデンシープの魔石が大量なのは、やはり相手にした総数が多いからだ。特にライデンシープは肉が美味いこともあり、この3日間でだいぶ相手をしてきた。逆に、パピヨンやフォレストビーはモレン湖の森で遭遇した数も少なく、それ以降お目にかかっていないため少な目である。ラフレシアはボスクラスなので言わずもがなだ。

「やはりこのラフレシアの魔石が飛びぬけるぞ。効果は薬草類を採集する際の質の向上だから、冒険者に人気があるかと言われれば微妙なところだが、薬草類はポーションを製作する上で不可欠だ。製薬をする連中と懇意にしている冒険者からは垂涎の魔石だな。ボスクラスの魔物っていうのもあって、希少度は折り紙付きだ。ギルドで買い取るなら500万ってとこだな。個人で需要のある冒険者なら700万ギルまでは出すだろうな。ただ、タクトは調合もできるんだろう? だったら自分で使う選択肢もありだと思うぞ。」

 サロモさんの言う通りで、俺たちにとってポーションの存在はなくてはならないものだ。薬草類の品質向上はかなりありがたい。

「そうですね。やっぱりこれは自分で使うことにします。」

「それがいいだろうな。他の魔石はアシッドフロッグは防御低下効果を少し減少させる効果で1個25000ギルだ。パピヨンの魔石は麻痺の追加効果がわずかに上昇だな。これは60000ギルだ。フォレストビーの魔石は倒した相手が一定確率でハチミツを落とす効果で、24000ギルだ。ライデンシープの魔石は防具の雷属性の抵抗値が上昇するな。これは1個400000ギルだな。ライデンシープの数がすごいな。一財産だぞ。普通は魔石なんてめったにお目にかかれんからな、『1個〇〇ギル』なんて説明したのは初めてだよ。」

 サロモさんが半ば呆れている。確かに大根1本、みたいな感覚で魔石を扱うことなどないだろう。

「タクトさん、このパピヨンの魔石ですが、魔石をセットしていない方のダガーにつけてもいいですか? 私の力だと魔物に大きなダメージを与えられないので困っていたんです。麻痺効果で戦闘の補助ができると思うんですが・・・。」

「それもそうですね。じゃあ、俺もこのフォレストビーの魔石を残そうかな。ハチミツが手に入ったら料理の幅も広がるだろうし。」

 ハチミツと聞いてサロモさんが噴き出した。あまり冒険者らしい発現ではなかったらしい。

「お前さんもまた珍しい魔石をチョイスするな。こんなのって言ったら失礼だが、ハチミツを集める魔石なんてネタ武器だぞ。まぁハチミツ自体は有用だけどな。貴重な武器の魔石枠をこれで埋める冒険者は少ないわな。」

 あとは念のため、ライデンシープの魔石も3つほどストックしておくことにした。今後手に入った装備によっては使いどころも出てくるだろう。

「じゃあフォレストビーの魔石、パピヨンの魔石を1つずつ、ライデンシープの魔石を3つ残して他の買い取りだな? 全部で835万3000ギルだ・・・。久々の大口買い取りだわな。今後もよろしく頼むぜ。」

 そう言うと、サロモさんは奥の金庫から硬貨を取り出し、俺に渡してくれた。金庫は特殊なマジックアイテムなのか、サロモさんが手をかざした瞬間にぽうっと光、扉が開くと袋に入ったお金がそのままでてきた。

 マリの時の3倍はあろうかというずしりとした重さに驚きながら、袋をバッグにしまった。一般家庭で生活していた俺にとって、一瞬で何万何十万などという額が取り引きされるのは異常な事態である。つくづくここが異世界であり、俺が稀有なスキルを有していることに冷や汗が出る気になる。

「ありがとうございました。今後もよろしくお願いします。」

 こうして、俺たちは買い取り部屋を後にしたのだった。





 買い取り部屋を後にした俺たちは広場で待ちくたびれていたロンと合流し、昇格窓口に並ぶことにした。辺りに他の冒険者がたくさんいる中で買い取り内容のことを聞くのは控えていたロンであったが、俺がサムズアップすると目茶苦茶喜んでいた。

「手配書っていうのか? 種類は結構あったのか?」

「ああ、って言っても、見てもどれくらい強いかなんてわからないけどさ、さすがは冒険者の町って感じだよ。俺なんか手配書見るだけで興奮してくる感じだよ。」

「確かにな。・・・お、俺たちの番だ。行こうか。」

「はい! 昇格できるといいですね。」

 俺たちは連れだって、昇格窓口の前に立った。買い取り窓口と別の職員さんが対応してくれる。

「こんにちは。ここは昇格窓口です。ギルドカードをお願いします。」

「はい。3人分です。よろしくお願いします。」

 俺たちからカードを受け取った職員さんが「少々お待ちください」と言って奥のマジックアイテムと思しきものにカードを載せた。すると、先ほどの金庫同様、ぽうっと淡く光りカードを包んでいく。おそらくカードの情報を読み取っているのだろう。数分で3人分のカードを確認し終えた職員さんが戻ってきた。

「お待たせしました。カードをお返しします。おめでとうございます。3人とも、Eランクへの昇格が認められました。冒険者ランクがEになりましたので、モレジオダンジョンへの通行が許可されます。通行は可能ですが、探索は勿論危険が伴いますのでお忘れないように。カード情報を読み取っていて驚きました。Fランクでポイズンスネークや、ボスクラスのラフレシアを倒されたんですね!」

 職員のお姉さんもやや興奮気味だ。隣の列に並ぶ冒険者たちも「ラフレシア!? すげぇな」という声が聞こえてきた。絶対的な強さはさておき、Fランクは冒険者の中でも最も低いランクである。そのランクでのボス討伐は異例なのだろう。

「ちなみに、冒険者ランクっていうのはどうやって上昇していくんですか? 俺たちはギルドで正式な依頼を受けたわけじゃないので、おそらくラフレシアの討伐でランクが上昇したのかなとは思うんですが・・・。」

 俺の疑問に、お姉さんは丁寧に答えてくれた。

「タクトさんの仰る通りです。ランク上昇は依頼をこなしたり、討伐対象の魔物を倒したりすることで得られるポイントで決まります。後は、買い取りの価格も一部査定に入ります。これは、買い取った素材や魔石が他の冒険者に分配される機会を作り、冒険者全体の利益に貢献しているからです。タクトさんたちは素材面での貢献が最も大きいですね。ここだけの・・・。」

 と言って、周囲に聞こえないように小声で続けてくれた。

(皆さんは買い取り額だけでみればDランクへの昇格も可能です。ただ、ランクが上がればそれだけ名が広まります。短期間で昇格すれば猶更です。それは皆さん望んではいないでしょう? 後は、ランクが上がれば皆さんのLv帯では対処の難しい魔物討伐依頼への参加が求められることもあります。よって、今回はEランクへの昇格とさせて頂きました。)

 どうやらギルド長さんの気遣いは本気のようだ。こちらの職員さんも俺たちの状況を鑑みてくれたようだ。

「ありがとうございます! お気遣い感謝します。今後ともよろしくお願いします。」

 

ギルドでやるべきことを終えた俺たちは、一度宿に戻ることにした。いい加減、みんなも退屈していることだろうと思ったからだ。

宿に戻り、部屋の扉を開けると、5人が待ちわびたように出迎えてくれた。

「おう、遅ぇぞ! 待ちくたびれちまったぜ。俺は飲みたくて飲みたくて・・・で、どうだったんだよ!?」

 ゼオルが前のめりに聞いてきた。マリの村のこともあり、買い取り額がとんでもないことになりそうなのは予想できているらしい。キュウマやキョウコもわくわくしている。事前にゼオルから話を聞いていたのだろう。

「うん。今回は更にすごい。総額で800万を超えたんだ。みんなが一緒にいた時期が違うから端数は切るとしても、1人100万ギルの分配だよ。」

「「「「ひゃ、100万ギルっ!!!???」」」」

 一同額の大きさに目をむいている。

「ちょ、ちょいと待っとくれよ!? タクトあんたさすがにそれはフカシすぎだよ!? 100万なんて金額どうやって都合つけたんだい?」

「100万ギルって、一体どんだけだよ!?」

 シュリカとキュウマが信じられないという様子で大げさにリアクションをしている。

「たまたま手に入った魔石が思いのほか高くてね。はい、みんなの取り分だよ。」

 そう言って小分けにしたお金を机に並べていく。それぞれにきっかり100万ギルずつ入っている。

「額が大きくて驚くと思うけど、みんなで得たお金だから遠慮はなしだ。キュウマとキョウコに大金を持たせるのは危ないんだけど、君たちも立派なパーティメンバーだ。子どもだからといって頭数に入れないのは悪いからね。受け取ってもらってかまわないよ。シュリカさんもです。ここまで同道するお約束でしたから、条件は同じですよ。再出発の資金にしてください。」

 さすがに現金を見ると、3人も俺の話を信じたようだ。年長者のシュリカはおそるおそるといった様子で袋を受け取った。

「本当にすごい大金だね・・・。いや、なんか申し訳ないよ。あたしゃ連れてきてもらっただけなのにさ、ホントにいいのかい?」

 俺は力強く頷いて答えた。

「勿論ですよ。シュリカさんはミオさんにやさしくしてくださったんですよね? きっと、今のミオさんがいるのはシュリカのおかげですよ。マリの村でもシュリカさんがいなかったら作戦はうまくいっていなかったと思います。遠慮なく受け取ってください。」

「タクトさん、そうしたら、私はスキルブックと鑑定のお金をそちらのお金で支払います!」

 キョウコは布袋に手をつけることなく、先日の支払いに充てるようだ。

「そうかい? 了解。そしたら、これでお金の貸し借りはないからすっきりだね。キュウマ、こっちの100万ギルは君たち2人で使うといい。大金を持ち歩くのは危険だから、ギドーさんに管理の仕方を習うといいよ。冒険者として生きていくのに使うといい。」

 キュウマは恭しく、俺から布袋を受け取った。お金の重みで、冒険者への決意を新たにしたようだ。

「ありがとう! タクトのおかげで冒険者としてしばらく生活していけると思う。でも、まだしばらくは一緒に行動させてもらってもいいかな・・・?」

「あぁ、大歓迎さ。」

 俺の答えに、キュウマとキョウコは嬉しそうだ。

「ギドーさんも受け取ってください。ここまで無事に来られて良かったですね!」

「タクトさん・・・。本当に感謝しかありません。キーオの村でお会いした不思議な縁で・・・まさか私がこんな大金を手にできるとは・・・。いえ、お金は勿論ですが、貴方という人と出会えたことが奇跡ですな、貴方と会えて本当に良かった。」

 ギドーさんが手を固く握ってくれた。

「そんな、ギドーさんにはこの国のことをたくさん教えてもらいました。こちらこそお金じゃ得られない経験ですよ。ありがとうございます。この町にしばらく滞在しますよね? まだ色々と教えてください。」

「なあ、おい、湿っぽいのはそれくらいにしてよ。飯でもいかねえか? 俺はもう腹ペコでよ。」

「そうそう! だいぶ待ちくたびれたぜ。宿の飯うまいんだろ? 今夜は到着記念だ!」

 ゼオルとロンの元気コンビが肩を組んでやいのやいの言っている。

 2人の言うことももっともだ。

 まだこれから相談しなければいけないことはたくさんあるが、今日はいいだろう。

 俺たちは明るい気分で、食事を摂るべく部屋を出たのだった。


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