26.ファイアボールとおこパ
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「確か、モレジオはマリから3日間くらいの道のりでしたよね?」
俺はすぐ前を騾馬に乗って進むギドーさんに話しかけた。
「ええ、マリからモレジオまではこの通り道も整っていますし、一本道ですからな。魔物の襲来はあれど、よほどのことがなければ予定通りに着くと思いますよ。」
「そうですか。安心しました!」
「みんな、魔物だ! またさっきのやつだ。突進と感電に気を付けてくれ!」
ロンが全員に警戒を伝えた。
俺たちは現在、マリの村からモレジオへの街道を南下している。ギドーの言う通り、街道は通行人が多いから
かしっかりと踏み固められていて非常に歩きやすい。難点は両脇の植物の丈が高く、見通しが悪いところだ。そ
の藪の中から、時折魔物が襲い掛かってくる。とはいえ、ミオの気配察知スキルのおかげで敵の襲来は予測でき
るうえ、以前よりも戦力が整っている。落ち着いて対応すれば、無傷で倒すことも可能であった。
「先頭の1体はゴブが相手をしてくれ! 左は俺が止める。ミオさんフォローを! 右のはタクトが頼む。キュウマ、キョウコ! タクトが動きを止めた奴を狙うんだ。敵の毛が光ったら触れるなよ!」
ロンが巧みに指示を出している。先日のラフレシアとの初戦でも、彼がうまく全体の指揮を執ったことをゴブ
から聞き、この旅程中は彼に任せることにしたのだ。
それに、出発してすぐ、昨晩ミオと夢を語り合ったこともあり、ロンの夢も聞いてみたくなって尋ねてみた。
「勿論今は冒険者として有名になることが夢だよ! いつかは自分のパーティを組んで、ランクも上げていきたいよ。それに・・・俺もタクトみたいに、いい相方が欲しいよなぁ。」
相方云々の話は置いておくとして、やはりロンは冒険者として上を目指すことを望んでいるようだった。俺は、リンネから教わった目利きの極意の効果を試すべく、ロンに意識を向けてみた。
ロン 人族 男 Lv14
スキル 剣術 目利き 騎乗
適 正 統率
目利きの極意では相手のスキルの詳細まではわからなかったが、「統率」という見たことのないスキルが表示された。村長のファーゴさんの息子だからなのか、ロンは生まれつき人の上、もしくは中心になる素質を持っているようだ。ロンは明るいし思いやりもあり、納得の適正である。名称から察するに周囲に影響を及ぼすスキルのようなので、それならこの旅でも戦闘面でみんなを取りまとめてもらえば、それが彼の今後のためにもなると考えたのだ。
ロンの指揮を受け、ゴブやミオが躍動する。ゴブは危なげなく電気羊、ライデンシープの突進を躱し、すかさず後方から突きを放っている。体毛により斬撃効果が薄くなることを緒戦で学び、すぐさま対応している。このあたりの戦闘におけるテクニックは、やはり俺たちパーティで最も優れている。落ち着いて剣を抜くと、続いて弱点部位である体毛の薄い脚を狙って薙ぎ払いを放つ。これにはたまらず電気羊もうなり、大きくよろめいた。一撃は体格と筋力の問題で重くはないが、素早い連続攻撃で確実に相手を屠っていった。
ロンとミオも巧みな連携を見せている。ロンが敵の注意を引き、ミオが死角から攻撃する。今まさに、右手のダガーで敵の後ろ足を薙いだ。寸でのところで後ろ足を引いたため、切断するにはいたらなかった。しかし、何故かライデンシープががくっと体勢を崩し、そのままだらりと動かくなった。まだ息はあるが、明らかに苦しそうだ。
「ミオさん! 毒が効いているみたいです! ここは俺が引き受けますから、周囲の警戒を!」
そう、ミオのダガーの片方はには毒属性の追加効果があるのだ。ポイズンスネークの魔石の効果である。
「了解です! あ、後方右手から接近する物体があります! 同じくライデンシープが1体だと思います。私が向かいますね。ゴブさん、フォローお願いします。」
「マカセロ モンダイナイ。」
さて、俺はというと、盾とこん棒を使い、電気羊の注意をこちらに向けながら戦っている最中だ。このこん棒は、この世界にきたばかりの時に使っていたもので、ドワーフの斧に比べると格段に殺傷力は劣る。だが、今はそれこそが狙いであった。
「キュウマ、さっきと同じでいい。お前を補足することがあれば俺が引き付けるから、正面以外から攻撃するんだ! ロンが言った通り、毛が光ったら要注意だぞ。キョウコ、よく狙うんだ! 俺やキュウマに当たらないよう、魔法の飛ぶ方向を考えて位置取りをするんだ!」
「了解!」
「はい!」
そう、俺はキュウマとキョウコの支援に徹しているのだ。攻撃力の低い武器と小盾によるバッシュによって、適度に敵の注意を引く。その隙に2人に攻撃させ、経験を積ませるとともにスキルLvの向上を狙っている。
「いきます! ファイアボール!」
ボフッ・・! ジュワッ!
「いいぞ! よしっ、俺も!」
キョウコが魔法を詠唱すると、ソフトボール大の火の球が現れ、一直線に魔物に向かっていった。彼我の距離が近いからか、発動から着弾までの時間も短く、かなり正確に命中させられるようになってきた。初めは魔法そのものは発動すれど、火の球の大きさも速さもいまいちであったが、適正があると言われていたのと、俺のスキルの恩恵によって火魔法スキルを習得してからめきめき効果が高まっている。今日戦い始めたばかりだというのに、すでに火魔法スキルがLv2になったらしい。
キュウマの方も、潜在的な才能なのか、武器をとって戦い始めるとどんどん動きが良くなっている。まだ筋力が備わっていないものの、ゴブやミオとは違い、決してすばやくはない中で最小限の動きで効率的に敵を攻撃するような戦闘スタイルだ。今の段階でも一撃が重く、これで成長し、武器も良い物を持てば、すぐに冒険者パーティで活躍することも夢ではないと思わせる活躍である。
初めの3体と、後から増えた1体を無事に討伐し、再び歩き始める。話題は今の戦闘のことだ。
「今まで俺たちのパーティには魔法を使えるやつがいなかったから、キョウコの加入は大きいな。まだ子どもなのに、すごい威力だよなぁ。」
ロンが感心したように話している。年の近いロンに褒められ、キョウコも嬉しそうだ。
「そんな・・・タクトさんに買っていただいた魔法書のおかげですよ。私もびっくりです。自分が魔法を使っているなんて。それに、魔法スキルも習得できて・・・自分じゃないみたいですよ!」
「ほぉ、そいつぁ羨ましいな。おいタクト、俺にもいい武器買ってくれよ~。」
「ちょっとあたしも混ぜとくれよ! あたしも魔法で楽したい~。」
「おっさんとおば・・・」
「あんだって!?」
「いえナンデモアリマセン。」
おっさんとおばさんにねだられてもと言おうとしたのだが、シュリカに人睨みされてしまった。
「ロンさんの言う通りですよね。弓ももちろん有効ですけど、咄嗟の時に魔法っていう攻撃手段があると戦略の幅も広がりますね。」
ミオも相槌を打っている。俺もみんなの意見には大いに同意で、キュウマとキョウコの加入は心配もあったが、パーティとしての戦力はかなり増強されることとなった。
「そういや、タクト。魔物の素材はどんな感じだよ? 結構たまってきたんじゃないのか?」
「そうだな。さっきのライデンシープの素材は雷属性の耐性付与効果があるみたいだし、アシッドフロッグの方は防御低下耐性があるみたいだ。マリの村で裁縫の道具も買ったし、久しぶりに裁縫で防具を作れるかもしれないな。俺もだけど、シュリカさんも裁縫ができるんですよね? 良ければ教えてください。」
「お、いいね。魔物素材を使った装備はあまりやったことがないから、あたしも色々試させてもらいたいね。」
戦闘面だけでなく、シュリカの加入により食事、装備面での充実が見込まれた。暫定的なパーティではあるが、お互いに影響し合える部分は刺激し合っていきたいものだ。
この日は散発的な魔物との戦闘はあったものの、特に大きな被害を受けることもなく、旅は順調であった。予定通り全行程の3分の1を踏破し、今晩は街道沿いの適当な空き地にて夜を明かすこととなった。
俺はみんなに指示を出す。
「じゃあ俺とシュリカさんで食事の用意をします。ロンとキュウマは枝を集めてきてくれ。ギドーさんとキョウコは寝床の準備を。ゼオルは馬たちの世話だ。ゴブとミオは周囲の警戒を頼む。」
9人になり、分担できる仕事も増えた。それぞれが持ち場に向かって歩き出す。
「さっそくやるかね。でも9人分の飯なんて大変だねぇ。タクト、何かアテはあるのかい?」
シュリカが聞いてくる。元酒場の店主だけあり、彼女の料理の腕は昼食で実証されている。ただし、屋外で大量の料理をと言うと、勝手も変わってくるのだ。
俺は、ハッサンさんの工房で作ってもらったある物をマジックバッグから取り出して言った。
「今日はこいつを使って『お好み焼き』を作ります。」
聞きなれない言葉だったのだろう。シュリカが不思議そうな顔をしている。
「オコノミヤキ? なんだいそりゃ、聞いたこともないね・・・。まぁあんたの指示に従うから、あたしは何をすればいいんだい?」
「ありがとうございます。それじゃあこいつ・・・キャベツをみじん切りに。それから、小麦粉に少し水を入れて、それからこの魔獣の卵を・・・、そうですそうです。その後かき混ぜてください。」
バッグから野菜や木の器、マリの市場で買った小麦粉などを取り出し、シュリカに指示を出していく。
「へぇ・・・小麦粉とキャベツをこんな風に使うことはなかったねぇ・・・。お、なんか面白いものを出してきたね。タクト、そいつは?」
「これは市場で買ったジャムやそれっぽいソースですね。上手くいくかは未知数なんですけど、試しに調合して、イメージしている味に近づけてみようと思って・・・。これとこれを混ぜて・・・うま味が足らないな、これは? お、なんかオイスターソースっぽい。これも・・・お、いい感じ! シュリカさん、ちょっと味見してもらえますか?」
俺は木さじに自己流ソースをつけ、シュリカに手渡してみる。見た目はどろりとしていて茶色っぽい。初めて見る者にとっては多少勇気がいるかもしれない。ただ、シュリカは先に俺が味を確かめていることもあったのか、割と躊躇なく口にしてくれた。そして、これまた驚いたような科顔をした。
「どれどれ・・・お、うまいじゃないか!? 食べたことない種類の味だね。しょっぱさよりもちょっと甘さがあって、魚介のうま味が遠くの方にあって・・。へぇ、勉強になったよ。こいつをどうするんだい?」
シュリカに味見してもらったのはお好みソースもどきだ。本物のような複雑な味は再現できなかったが、これならそれっぽい味になっているはずだ。
「あとは材料をさっきの鉄板で焼くだけなんですよ。あ、みんなも戻ってきましたね。おーい、みんな、飯にするぞ! 集合だー!」
俺の声で7人が集まってきた。食事と言う割にまだ何もできていないので、それぞれ怪訝な顔をしている。
「おいおい、タクト。飯ってそのキャベツやら生肉か?」
と、パーティで最も大食漢なゼオル。
「いえいえ、こいつらをこの鉄板で焼いていくんですよ。見ててください。」
そう言って、油を引く。十分に熱くなった鉄板の上で、油がふつふつと音を立てる。そこへ、薄切りにした肉を置いていく。肉の焼ける香ばしい匂いがあたりに広がる。
「その肉だけで普通にうまそうだなぁ・・・。早く食べたいよ。」
「お腹がすきましたね。」
キュウマとキョウコがお腹を押さえている。我慢ならない様子である。
肉の周りに適当に切った魚介類を置いていく。これも市場で買ったもので、貝やエビらしきなど様々だ。
「俺は肉もいいけど、そこのエビが好きなんだよな・・・。うまそうぜ。」
「私もです。香ばしいエビっておいしいですよね!」
ロンとミオもテンションが上がっている。こういう臨場感は、鉄板焼きの大きな魅力であろう。
溶かした小麦粉と合えたキャベツを上からかける。肉や魚介類が上から蒸し焼きにされ、しばらく置くと円形に広げた小麦粉の淵のあたりがふつふつと泡立ってきた。
「そこで、こいつを使ってひっくり返すんだ。」
といって取り出したのはアレである。
「タクトさん、私もそれは初めてみますな。薄い鉄ですか? それは一体・・・?」
博識なギドーさんでも見たことが無いようだった。この世界では一般的ではないらしい。
「こいつはヘラっていうんですよ。ほら、薄いでしょ? 調理に使うんですけど、工房で作ってもらうのに苦労したんです。」
そうなのだ。鉄板もこのヘラも、金属を薄く均一に伸ばす必要がある。機械などないこの世界では手作業なのだ。何分前例がないためスキルの力を使うことも難しかったので、俺が説明しつつハッサンさんに打ってもらったのだ。俺の鍛冶スキルではまだ技術的に難しく、鉄が無駄になってしまうのだ。
「ここがこのお好み焼きのメインイベントです。こいつをひっくり返すんですよ。見ててくださいね・・・。イチ、ニの・・・サンっ!」
「「「「おおぉお!」」」」
夜の平野に歓声が上がった。9人分ということで形も大きかったので、失敗せずにひっくり返せるか自信がなかったのだが、なんとか及第点であろう。淵のほうがぐねっと曲がっているところがあるのはご愛敬だ。
「すごいすごい! 次俺にもやらせてよ!」
キュウマは大はしゃぎだ。
「さぁ、ここにさっきのソースと・・・マヨネーズをかけると・・・見ろ! この見た目! 音! 最高だろ!?」
そうこれだ。
ソースとマヨネーズが鉄板の熱で爆ぜる音。
周囲に流れる独特の香り。
これに食欲を刺激されぬ者などいようはずがない。
「お、おいタクトよ! 早く食わせろよ! 俺ぁ待ちきれないぞ!」
「そうよそうよ、後生だから、早く取り分けて!」
年長者二人がやかましい。だが、その気持ち、わかる!
「フフフ、すっかりみんなお好み焼きの魔力に取りつかれているな・・・。・・・よしっ、あとはこのヘラで切り
分けて、さぁどうぞ! 熱いうちに食ってくれ!」
俺はヘラで適当な大きさに切り分け、器に盛りつけてみんなに渡していく。みな自分に器が届くと、我さきにと一口。食べた者から歓喜の雄たけびが聞こえてくる。
「うめぇぇぇ! なんだこれ、目茶苦茶うめぇ!」
「ウマイ ウマスギル!」
ゼオルとゴブがあまりのうまさに跳び上がっている。
「この『ソース』とやらとマヨネーズの焦げた感じがまたいいですな。これも王都で出せば、一財産ですよ!」
普段冷静なギドーさんも大興奮だ。
「うまいよな。俺の住んでいたところじゃ、こうやって鉄板囲んでお好み焼きをすることを『おこパ』っていうのさ。今日はキュウマたちとシュリカの歓迎会だ。」
俺の意図に気づいたのだろう。ミオが器を持ち、キュウマとキョウコに笑顔を向けた。
「ようこそ。キュウマさん、キョウコちゃん、シュリカさんも! 一緒に頑張りましょうね!」
そう言って、ミオがキョウコの頭を撫でてやる。キョウコは気持ちよさそうにミオに身を委ね、「えへへ」と嬉しそうだ。
「みんな・・・ありがとう・・・。俺たち、こんな風に家族以外にあったかく、優しくしてもらうなんて初めてで・・・、このオコノミヤキもすげぇうまい・・・」
キュウマはしみじみと言い、お好み焼きを咀嚼した。
2人の子どもを囲んだ俺たちは、この子たちが置かれてきた状況を思い、胸がすくような思いだった。いつの世も、世の中の矛盾や醜悪さは最も弱い立場の者に強く影響を及ぼすのだ。ミオやギドー、シュリカも被差別の対象であるし、ゼオルは圧政と貧困により盗賊に身をやつした。ゴブは魔物であるから、人間とは本来相容れない存在だ。ロンはこの中で最も差別とは縁遠いが、彼もまたかつてスキルを持たないことで劣等感を感じていたことだろう。
「みなさん、私たちを受けいれてくださって、ありがとうございます。私、今日のこの味、みなさんの心遣いを一生忘れません・・・! 本当にありがとうございます。」
キョウコがそう言い、立ち上がって深々とお辞儀をした。兄もそれに倣い、妹と並んで礼をする。
その2人の姿に、俺たちも温かい気持ちにさせられた。
9人にとっても、この日のことは忘れられない大切な思い出になることだろう。
「さあさあ、冷めないうちに食べようぜ。歓迎会はまだまだ続くんだろ? タクト、俺にも焼き方教えてくれよ!」
ロンが明るく言い、会が再び動き始めた。こういう気遣いはさすがである。
「よしっ、おこパ再開だ! 今日は盛り上がっていくぞ!」
「「「「うおぉぉぉ!」」」」
今日一番の歓声が夜の闇に響いたのだった。
ついにPTに魔法キャラが登場しました。
筆者は魔法キャラの描き方が苦手なのでここまで参加が遅くなりました。
どこまで「魔法」や「スキル」で片付けていいかいつも悩みます・・・。




