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24.告白

この話で第2章終了です。

いつもお読みいただきありがとうございます!

みなさんのおかげでここまで続けられました。今後も頑張ります!


 時刻は夜8時。

 村の酒場はたけなわで、往来の出店も繁盛している。酒に酔った2人組が肩を組んで次の店を探してあたりを物色したり、男女が仲睦まじく歩いていたりする。村は夜半にも拘らず、とても賑やかだ。

 ここは村の中では北寄りに位置する村長の邸宅である。村の北側は古参の村人が多く住んでおり、開拓民に繋がりのある家柄が多く、建物も比較的立派である。街路は他の地区よりも整備され、家と家の間も広めに取られている。

 今、その静かな住宅街を幾人かの男女が早足で移動している。そして、村長の邸宅付近の物陰にて、小声で何かを打ち合わせていた。

「キュウマ。助かった・・・。ここまでありがとう。ここからは危険だ。すぐに離れるんだ。」

「いやだよ。ここまできて戻れって? 俺もゴブのために何かさせてくれよ!」

 キュウマは見たところ、まだ少年の域を出ていない。道案内ならまだしも、これ以上危険なことに関わらせるわけにはいかなかった。

 とはいえ、ここを離れまいとするキュウマにいつまでも構っていられなかった。俺たちは先ほどの作戦の最終確認をすることにした。

「ギドーさんとシュリカさんが第1陣で村長と接触。その後邸宅に侵入し、アリオスを引き付けてくれ。俺が第2陣。村長の家族を引き付ける。ゴブとロンは別動隊だ。なんとかミオさんを発見し、アリオスと接触させるんだ。仮にアリオスとミオさんが同じ場所にいた場合は、村長の家族の避難を代わってくれ。ゼオルは中の様子を伺いつつ、外からの侵入を防いでくれ。アリオスは腐っても貴族だ。俺たちがもめ事を起こしたとなれば、あちら側に裁判で勝てる確率は皆無だ。よろしく頼む。」

 俺の説明に、ゼオルはやや不安そうだ。

「タクトよ、悪ぃ、一応確認だが、村長の家族を引き付けるのが手間取ったらどうすんだ? お前の作戦じゃ、どうしてもミオとあの野郎を接触させる必要があるんだよな? ミオと合流させる前に俺たちのことがばれたら厄介なことになるんじゃねぇか?」

「その通りだ。でも・・・やるしかない。俺もなんとかやってみる。ごめん、どうしてもこれしか思いつかなかった・・・。」

 かなり粗のある作戦なのだ。いくつか賭けをしなければ成功は薄かった。

 その時、ここまで黙って俺たちの話を聞いていたキュウマが話に割り込んできた。

「あのさ! 俺たち鬼人族なら、なんとかできるかもしれないよ! えっとさ・・・・」

 キュウマの話を聞き、俺たちは驚きの声をあげる。抜けていた最後のピースがはまるような、そんな感覚であった。

「よし、行こう!」

 全員が俺の合図に頷いた。

作戦、開始だ。




 同時刻。村長邸。


 ミオは村長宅の地下にある小部屋に入れられていた。家具も最低限しかない簡素な部屋で、昨日まではガイツやピノトら、アリオスの手下たちが使っていた部屋である。現在はいないが、かつての村長たちが側仕えの使用人を雇っていた際に、その使用人たちが使っていた部屋だ。

 森から転移クリスタル、高価なマジックアイテムらしい、マリの村に戻ったアリオスは不機嫌であった。

 彼の家はこの国の魔法の名門であるアルモン家だ。アルモン家は代々魔法の適正に優れた血統であり、宮廷魔導士を多数輩出していきた。その実力も折り紙付きで、他国との戦争や高位のダンジョン調査など、常に国の最前線で戦ってきた歴史を持っている。また、かつての先祖が国の魔導士たちの質的向上と、人材確保のために魔術学院を創設。現代に至るまで多数の魔導士を世に送り出している。この国の魔導士たちはアルモン家に礼節を尽くしているのだ。

 しかし、先代、当代のアルモン家当主の代になり、その状況は変化している。長引く戦乱によって国力が低下し、その余波をアルモン家の領地を襲ったのだ。アルモン家の領地には魔力回復剤の素材となる希少な薬草が群生している場所がある。その場所は秘匿され、他者を寄せ付けないようにされている。その薬草の成熟が需要に追い付かなくなっているのだ。

 魔法は、使用者本人の魔力で威力が、そして数値化は難しいが魔力量によって使用回数がある。魔力回復剤はその魔力量を回復させることができるので、魔導士たちは回復剤を持たない人間と比べ、優位に戦闘を行うことができるのだ。魔力量は自然回復するが、やはり戦場においては回復剤の存在が瞬間火力に結びつくため、各国血眼になって求めている。

 戦場での権威に影が差し、加えて名門ゆえの傲慢さがお家の経営をずさんにしていた。

 そこで、当代のアルモン家の当主は、嫡男であるアリオスに命令を下した。「冒険者として名声を得て、民心をつかむべし」という。アリオスは傲慢で愚か者ではあったが、厳格な父には逆らうことができなかった。それに、性格はどうあれ魔法の実力は生まれつき高く、また、虚栄心もあるため、父の命令に従ったのだ。

 しかし、数か月前の依頼の失敗から歯車が狂い始める。依頼不達成をギルド職員に伝えると、それまで優先的に回されていた魔物討伐依頼が激減した。選民意識の強いアリオスにはそれが大変不満であった。

「なぜ名門貴族であるこの俺が、他の平民共と同様の仕打ちをうけねばならんのだ!」

 そのようにモレジオギルドの職員、はたまたギルドの所長にも訴えたのだが、ギルドにも冒険者と国の秩序を守るという矜持があった。断固として対応は変わらぬまま現在に至っている。アリオスとしてはこのような不快な状況は耐え難かったが、依頼に失敗したことが父の耳に入るのもまた恐ろしかった。ゆえに、不満はありつつも他の冒険者と同等の扱いを甘受し、イライラしながら依頼をこなしていたのだ。

 そのような経緯でマリに滞在している時、古参の手下であるガイツがピノトという男を連れてきた。なかなか使える男で、様々な情報をアリオスにもたらし、物資の調達や女の手配などに一躍買っていた。このアリオス、昔から大層な女好きで、アルモン家の屋敷にいた頃から使用人たちに手をつけていた。彼の扱いのひどさから屋敷をやめていく女たちは後を絶たなかった。それにも飽き足らず、よく領内に出向いては「視察」と称して村長の邸宅に居座り、手下を使って村の女たちを漁ってきたのだった。ピノトはそんなアリオスの嗜好を見抜き、時に金で、時に脅しで女たちを確保してきた。昨日はマヤとかいう生意気な女に側仕えを拒否されたとかで、主人は大変機嫌が悪かった。主人に大変叱られたピノトではあったが、代わりに大きな情報を得てきた。それがエリアボスである「怪花ラフレシア」がモレン湖付近にいるという情報である。

「フン! 巨大花ごとき、俺の火魔法で消し炭にしてくれる!」

 アリオスはそう息巻き、手下を伴ってモレン湖の森へ向かった。道中の魔物たちは彼の魔法で近づくやいなや消滅させられていく。ボスも簡単にひねり、冒険者ギルドに報告して、職員たちに嫌味でも行ってやろうと、森の奥に足を踏み入れた。しかし、向かってみれば小賢しい冒険者たちのパーティによってボスは寸でのところで討伐されてしまっていたのだ。

 彼は血が沸騰するような怒りを感じ、咄嗟に魔法を放ってしまった。

「ファイアレイン!」

 膨大な彼の魔力と空気中の酸素が反応し、一体に火の雨を降らせた。中級火属性範囲魔法である。

 勿論、無抵抗な人民に対する魔法の行使は固く禁じられているし、傷害の罪である。アリオスもそのことはわかっていたのだが、度重なるストレスから我を忘れ、ついに魔法を放ってしまったのだ。ただ、彼の身勝手な言い訳を借りれば、範囲魔法をたまたま放った中に、たまたま運悪く冒険者がいた、となるのだが・・・。

 冒険者たちはアリオスの魔法に身体を焦がし、必死に逃げまどっていた。弱者をいたぶる快感に溺れていた時、かつて自分が「買い」、ルドンの村の一件から行方がわからなくなっていた。女奴隷が生きていたことを知ったのだった。

 かつてミオは満足な栄養もとらず、給金を渡しても一向に自分のために使わなかったため、いつもみすぼらしい恰好をしていた。目の前をうろつく様がなんとも不快であったのだが、しばらく見ぬ間に、どうだろう。肉付きは良くなり、健康的な身体になっているではないか。衣服もまぁマシなものを着ている。不思議なことに冒険者の面々はミオの素性を知らないようで、愉快なことに「仲間」などと言っていたのだ。可笑しくなったアリオスは事情を説明してやり、「元気そうに」なったミオを伴って屋敷に戻ってきたわけだ。

 屋敷に戻った当初は、村長から接収した部屋にミオを呼び、ねんごろな言葉をかけてやった。ちょうど手下を「不慮の事故」で失ったところだ。先ほどの動きを見る限り、この女はかつてよりもレベルも上がり、使える駒になっている。それに・・・

「ミオ。ずいぶん元気そうじゃないか? 平民にしてはいい服も着て、考えが変わったようだな。今日からまた俺に仕えさせてやる。なぁに、しばらく不在だった件は不問してやる。俺は寛大だからな! ハッハッハ!」

 彼としては、気風の良い主人の姿を見せたつもりである。ミオが泣いて謝り、喜びに打ちひしがれると思っていた。ところが、ミオは生気の無い、人形のような表情を浮かべ、淡々と立っているだけであった。アリオスは初め怪訝そうな顔になり、そして、次第に不機嫌になった。

「フン! 奴隷風情が付け上がりおって! せっかく主人が恩赦を出したというのに! もういい、この部屋から出ていけ。地下の部屋にも籠っていろ!」

 ミオは生気のない顔で一礼すると、村長の部屋から出て行った。

 ミオが出て行った後、アリオスの怒りは収まらなかったものの、今は空腹とのどの渇きが優先された。村長を

いつものように呼びつけると、食事と酒の手配をさせた。

「フン! まぁいい時間はたっぷりあるしな・・・。フフフ、『食べごろ』になったじゃないか。フフフ・・・。」

 アリオスは下卑た笑みを浮かべると、ミオがいなくなった方を見ながら高笑いするのだった。


 結局、村長に用意させた食事では満足できず、アリオスは夜半まで村に繰り出していた。そこで散々楽しみ、

その店は大変な迷惑だったが、ようやく邸宅に戻ってきた。

「フン! 今帰ったぞ! 賓客が帰宅したというのに出迎えがないぞ!? 全くこれだから平民共は・・・!」

 怒鳴り散らしながら家の戸を開け、どかどかと室内に入る。村長が慌てて応対する。

「おかえりなさいませ! お風呂になさいますか、それとももうお休みになられますか?」

 アリオスはすでに酔っていて、顔を赤くしている。

「フン! そうだ! 初めからそうやっておればよいのよ。平民は貴族に奉仕するものだ。そうだな、風呂に、ん、まてよ・・・? いや、もうよい。下がっていいぞ。ほら、早く下がれ!」

 先ほどまで出迎えろと騒いでいたアリオスが急に下がるよう命令してきた。村長は怪訝な顔をしていたものの、また怒鳴り散らされてはかなわないと、素直に従うことにした。さっきからこの男の怒鳴り声で、妻と子どもが怯えているのだ。

 村長を適当に下がらせたアリオスは、その足で地下室へと向かった。地下への階段や通路には余分な明かりがともされていない。元々使用人の部屋と倉庫しかないからだ。酒に酔っていて足元が多少怪しい。

「ミオ! ご主人様だ! 起きているだろうな!」

 アリオスは鼻息荒く部屋に入った。部屋の中に入ると、ミオが文書机の木製のいすに腰掛けていた。時刻は9時を回っていたので、突然の来訪に顔をこちら向けてきた。先ほどは能面のようだった彼女も、アリオスの様子に気づいたのか、立ち上がりやや後ずさったように見えた。

 出迎えにこないことに腹を立てつつ、ミオが立ったことはアリオスにとって喜ばしいことだった。立ち上がったことで、身体がよく見える。彼女は飾り布を外していて、たれ目気味の大きな目がこちらを見ている。可愛らしい唇はきゅっと結ばれている。フロンティアドレスは旅装であるから、露出は少ない。しかし、それでもきゅっと締まったウエスト部分や、わずかに開いた胸元から見える肌、適度に盛り上がった胸元が悩めかしい。そして、膝から見える膝小僧が美しかった。

 ミオは、全身を舐めるように見つめられ、嫌悪感と恐怖から寝台のある方へ後ずさっていく。しかし、それは彼女自身で部屋の隅へ移動してしまうことになり、自分で退路を断つ結果になってしまっている。

 アリオスはゆっくりと彼女に近づいていく。そして、手を触れられる距離まで来ると、手を伸ばし、ミオの髪の毛に触れる。

 ミオは髪の毛を触れられた瞬間、虫が這ったような強烈な怖気に襲われ、全身が固まったように動けなくなってしまった。

 アリオスはそれをいいことに、ミオの背後に手を回して腰のダガーを1本引き抜いた。刃を拝借する途中で、わざと臀部に触れる。旅装の硬い布越しではあったが、その感触と恐怖に目を瞑る女の姿に興奮が高まった。そのまま、手にしたダガーで邪魔な肩部の外套との結びを切っていく。両側の結び目を断ち切ると、華奢な女性の両肩がより明らかになった。用済みになったダガーを放り投げると、さらにミオへ一歩近づく。そして、両肩に手を置き、恐怖で身を固くする彼女を、無理やり寝台に押し倒した。

「いやぁ! アリオスさん、いやぁ、やめてください! やめて!」

 ミオが全力で暴れるものの、組み敷かれた状況ではびくともしなかった。アリオスは下卑た笑みを浮かべたまま、右手で体に触れようとした。

 その時だ。

「アリオス様・・・。すみません、アリオス様にお客様がお見えです!」

 声の主は村長であった。アリオスは取り込んでいるところに声をかけ大変不快であった。

「客だと!? こんな夜半になんのようだ!」

 村長はアリオスの機嫌を損ねるのを恐れてはいたが、必死になって来客を告げた。

「商人ギルドの商人で、本日遠方から旅をして参ったそうです。アリオス様が我が家にお泊りであることを知り、至急ご挨拶をと。献上品を多数持って来訪しております。」

 お楽しみのところを邪魔されたものの、村長が話す内容には聞くべきところがあった。

(ほう、平民にしては殊勝な心掛けではないか。資金の足しになるのは助かるな。それに、ミオはもう手元にあ

る。いざという時は奴隷紋を発動させればいいのだ。フフ、こやつはいつでも相手にできるからな・・・。)

 アリオスが言うように、ミオにかけた隷属魔法に距離的な制限はないのだ。この数か月ミオに影響がなかったのは、アリオスが勝手に彼女が死んだものとしていたからで、いざとなればいつどこにいても相手の行動を抑制することができる。

 アリオスは組み敷いたミオの上から名残惜しそうに下りると、「また別の機会に可愛がってやる」と捨て台詞を吐き、衣服の乱れを直してドアを開けた。さすがの彼も、体裁を気にしたのだ。

 村長に連れられ、アリオスは来客用の部屋へと向かった。そこにはすでに商人風の男が待っており、彼が到着するや王に侍る様に深々と臣下の礼をとった。商人の態度に大層気を良くしたアリオスは椅子に腰かけると、商人の男に顔をあげるように言った。

「お初にお目にかかります。私は旅の者で、商いをしております。村の者からかの有名なアルモン家のご嫡男が滞在していると聞き、夜半にも拘らずこうして参った次第です。常識外の時間での来訪、平にご容赦ください。」

 そうして、ギドーは深々と頭を下げた。その姿を見て、アリオスは寛大な君主のごとく、鷹揚に頷いた。

「うむ。俺は魔術の研究に忙しいが、わざわざ挨拶に来る者を拒みはしない。民は宝だからな。」

「過分なご配慮、ありがとうございます。こちら、心ばかりではありますが、ご挨拶の品です。お受け取りくださいませ。」

 そう言って、ギドーは大きな布袋いっぱいに入った硬貨、大量の布、陶器類を並べていった。それらの中で、特に大量の金はアリオスを喜ばせた。思わず、笑みがこぼれる。

「これは殊勝な心掛けだ! ギドーと言ったな? お前の名は覚えておく。俺はいずれアルモン家を継ぐ男だ。そうなった暁には便宜を図ってやろうぞ!」

「ありがたき幸せ。アリオス様への忠誠、このギドー。揺るがぬことをお約束致しましょう。さて、実はまだありまして・・・。」

 そう言うと、ギドーは手を「パンパン」と2度叩いた。すると、扉の奥で控えていたらしい女と、その侍従と思しき男が入ってきた。

「この女は異国より私が連れて参った者です。閣下の「研究」をゆっくりお聞かせ願いたいと、申しております・・・。」

 ギドーの意味深な視線に対して、アリオスはその意図に気づいたようだった。隣で酌をする女を見やると、異国風の開放的な衣装を纏い、蠱惑的な笑みを浮かべてこちらを見てくる。化粧してはいるが、若干アリオスよりも年上ではあったが、瑞々しい身体は嫌いではない。本日一番の笑みを浮かべ、にやにやしながら杯を受け取った。

 と、視界の隅で村長が部屋を出ていくのが見えた。だが、些細な問題だ。今は隣の美しい女と、自分に恭しく従う商人の話を聞きたいと思ったのだ。


 村長は目の前でアリオスが接待を受けているのを黙ってみていたのだが、背後から小声で話しかけられて振り

向いた。後ろを向くと、衛兵風の装いをした小柄な兵士が、小声で話しかけてきた。

「失礼します。お取込み中のところ申し訳ありません。村長様に緊急の伝達事項があって参りました。お客人が

おられると思いますのでこっちへこい、いえ、来て下さい。」

 村長は兵士の言葉遣いに若干の違和感を覚えつつも、緊急事態と聞き、黙って家の入口付近まで付いて行った。

「夜分にご苦労だな。それで、緊急事態とは?」

「村に盗賊の一味が侵入しました。現在自警団の者が対応しております。」

 盗賊と聞いて村長は慌てた。

「なにっ!? 盗賊がこの村にか、それはまずい! すぐに指揮をとらねば。」

「お待ちください! ここで村長様が騒げば、お貴族様が動揺されます。村の警備体制について問われれば、村長様のお立場も面倒なことになりましょう。ここは我々にお任せくれ、いや、ください。とはいえ万一の危険も

ありますから、村長様はご家族を連れて、村の中でも頑丈なノールの宿に避難を。さぁ、お急ぎください!」

 ここを離れるのも気がひけたが、兵士の言う通りでもあった。家族は心配であるし、アリオスが騒ぐのも面倒だ。宿にさえ避難すれば、その後自分が指揮を執ることもできるのだ。そう考え、忍び足で家族を起こすと、とるものとりあわず、兵士の案内で一目散に宿へと向かったのだった。

(はて・・・この村にこのような兵士、おったかな・・・?)

 実は、この兵士はキュウマが化けたものだったのだ。キュウマ達鬼人族は、種族の固有魔法で一定時間だけ姿形を変えることができる。能力は変わらないので使いどころは難しいが、今回はその魔法効果を知ったタクトの提案で、村長とその家族を安全圏に逃がす役を任されたのだ。宿に着いた後は、宿の主であるノールに事前に事情を伝えておいたので、宿で待機してもらうつもりであった。


 兵士に扮したキュウマが村長たちを連れて闇に消えたのを見計らって、ロンとゴブが動き出した。村長の家はさすがの広さで、地下室と2階まである。部屋数も多いので、2人は手分けをして探した。ゴブは身軽さを生かして2階へ、ロンは1階を担当した。客間からはアリオスの高笑いと、ギドーの声が漏れ聞こえてくる。ロンは特に慎重に足音を忍ばせ、1階の各部屋を回っていく。しかし、どこを探しても人の気配がなかった。

 1階を探し終えたところで、2階を担当するゴブと再会したものの、2階ももぬけの空だったようだ。

「となると・・・残りはあそだけだな。いこう。」

 2人はそろりそろりと地下への階段を下りた。そして、倉庫ではない方の扉に手をかけた時、中から息を飲む音が聞こえてきた。

「ミオさん!」

 中ではミオが恐怖に引きつった顔で外套を体に巻き、こちらにダガーを向けて奥の壁に立っていた。彼女は入ってきたのがアリオスではなく、ロンとゴブだと気づいたのか、緊張の糸が途切れたようにその場にへたり込んだ。ロンはミオを助け起こすと、ミオの状態を確認した。

「ミオさん! 無事でよかった! その、大丈夫でしたか?」

 ロンも言葉を選ぼうとしたが、どう言っていいかわからず、結局月並みな質問になってしまったようだ。女性が監禁されたのだ、最悪の事態を想定もしたが、上手い言葉が見つからなかった。せめてもと、目線だけ相手をおもんばかっている。

 ミオは両手で体をきつく抱いている。言葉を発することはない。

ロンとゴブはその様子から、時間に遅れてしまったことを後悔した。とはいえ、いつまでもここにいるわけにもいかなかった。ロンはミオを落ち着かせ、タクトから言伝された作戦を丁寧に伝えた。ミオはそれを黙って聞き、決意の籠った目で頷いた。

「イクゾ モウスグ マクビキダ。」

 ゴブの一声で、ロンたちは客間に向かって歩き出した。


「いやはや、今宵は非常に満足じゃ! ギドー殿、すまぬ! 俺はそろそろ休む。貴殿とはさらに語り合いたかったが、また別の機会としよう。貢物はありがたく使わせてもらう。大儀であった! さがってくれぃ。」

 アリオスはすでにかなり酔っていた。隣の女性、踊り子に扮したシュリカが巧みに酒を勧め続けたからである。

「これは失礼しました。それでは、お暇を頂戴したいと思います。これ、しっかりとアリオス様に『ご教授』賜るのだぞ。」

 そういう言ってギドーは一礼し、シュリカと侍従を残して部屋から去っていった。

「お前ももう戻ってよいぞ! 俺たちはこれから『講義』があるからな! ハッハッハ!」

 アリオスはシュリカを伴い、寝所へと歩き出そうとした。

「そうはいかないぜ! 糞野郎! 覚悟しろよ!」

 突然ロンとゴブが抜剣して部屋の中に踏み込んだ。その後ろからミオがダガーを両手に構えて入ってくる。顔

に怒りを浮かべ、強い決意の籠った目でアリオスを睨みつけている。侍従の男は慌てふためき、倒れこんでいる。

「なっ! られら、きしゃまら!」

 アリオスはおぼつかぬ足取りでロンを指さした。そして、無礼な侵入者たちが、昼間の冒険者一行であること

に気づくと、大きな声で高笑いした。

「ハッハッハ! どこのどいつかと思えば、昼間の連中か! なんだ? ミオを取り戻しにでも来たのか? よ

く見ると男の数が減っているではないか、ガキと魔物だけで何ができるんだ! ミオ、とんだナイト様の登場だ

な! ぐわぁ!!」

 アリオスが嘲っている最中で、隣の女が肩に手を回していたアリオスを急に払いのけた。その衝撃でアリオス

はよろよろと転倒する。

「貴様! 俺様に何をする!」

 カッとなったアリオスは手元の杖を引き寄せると、反対の手で女を再び捕まえようと手を伸ばした。しかし、

シュリカはさっと身を翻して距離をとった。

「お生憎様。豚野郎の相手はまっぴらさ。よかったね、こんな美人と飲めるなんて、金輪際ありゃしないよ!」

「なにを!」

 シュリカの挑発にアリオスは更に怒った。ただ、同時に自分を囲む人数にやや冷静さを取り戻してもいた。自

分も睨みつける冒険者たちを再度嘲るようにねめまわす。

「フン! それで追い詰めたつもりか? 忘れたのか。俺には障壁がある。お前たちの攻撃など1mmも通すこ

とはないからな。」

「うるせぇ!」

 ロンとゴブが思い切りアリオスに切りかかった。しかし、剣でも障壁を抜くことはできず、見えない何かに弾

かれたように吹き飛ばされた。

「アリオス! 私の仲間を傷つけないで!」

 ミオが強い口調で、かつての主人であるアリオスを睨みつけた。

「ほう・・・ミオ、貴様、いつから主人に命令できる立場になったんだ? 生意気な奴だ! お前の立場を分か

らせてやる!」

 そういって、アリオスはミオに向けて隷属魔法の発動キーとなる魔力を飛ばした。

途端にミオが苦しみ始める。

その時、それまで床に倒れていた侍従の男が急に立ち上がり、懐から拳大の宝珠を出した。

「この時を待っていたぞ! ゴブリンオーブ、発動!」

 この侍従は、もちろんタクトである。俺はかつてゴブにもらったオーブを構えると、アリオスに向けてかざした。宝珠は淡い光を放っただけであったが、その光が収まった時、今まで苦しいんでいたミオから痛みが消え、代わりに魔力を飛ばしたアリオスが痛みにのたうち回り始めた。

「ぐあぁぁぁ! な、なんだ、あああぁぁ、何が・・・ぐわあぁぁっ!」

 これまでの人生で初めて味わう苦痛であった。彼は床に膝をつき、身体中をさされるような痛みと必死に戦っていた。しばらくすると痛みは収まったものの、普段自分が見下している平民たちの前で失態に顔を紅潮させ、自らに痛みを与えた不遜な者共に制裁を加えるべく、杖を構えた。

「クズ共が! 己のしでかしたことの重さを理解させてやるぞ! エアスラッシュ!」

 ここは狭い室内だ。彼我の距離も近く、魔法の回避は難しかった。アリオスは自らの魔法で体を裂かれる平民たちの姿を想定したのだが・・・いつまでも部屋には何も起きなかった。

 逆に、魔法を唱えられたゴブやシュリカは身構え、ロンなどは事前に俺から説明を受けていたにも関わらず反射的に近くの床に飛び込んでいた。ロンが床に飛び込む音だけがあたりに響く。

「なっ、なぜだ! 何故魔法が発動しない!? ええい、エアシュラッシュ! ファイアボルト!!」

 部屋にアリオスの半狂乱になった声だけが響いた。室内の面々、特にミオが憐れんだ目でアリオスを見ている。

「くそっ! その目をすぐにやめろ! おい、貴様ら! 俺様に何をした!? 何故魔法が発動せんのだ!」

 俺は手に持ったままの宝珠を大切に懐にしまうと、つかつかとアリオスの元に歩み寄った。

「ミオさんに申し訳なかったが、お前がミオさんに向けて魔法を使うのを待っていた。このオーブはゴブからもらった大事なものだ。こいつはな、一度だけ魔法効果や呪い効果をそのまま相手に返すんだ。そして、魔力の一切を封じるんだ。つまり、お前はミオさんの奴隷だ。お得意の魔法も、二度と撃つことはできない。」

 アリオスが驚愕の表情を浮かべ、自分の両手を見つめている。はた目から何をしているのかわからないが、この時アリオスは魔力を掌に収束させようと試みていた。しかし、いつもは一瞬で膨大な魔力を生み出す体から、一切の魔力が吹き上がってこないのだ。己に起こった変化に、次第に脂汗が浮かび、えもいえぬ恐怖が吹き上がってきた。

(お、俺が魔法を使えない!? どどど、どうする? これでは父上に殺される・・・。いや、それこそ家なんかに戻れない・・・・!)

「わわわ、悪かった!! この通りだ! た、頼む! 魔力を戻してくれ。魔力を失ったら、俺は、俺はこの世界で生きていけん! 家にも、父上の前にも戻れんのだ! 頼む! ミオ、お前からも何とか言ってくれ! この通りだ! 何でもする、何でもするから・・・!」

 アリオスはようやく自分の状況を理解したようだ。必死に命乞いするとともに、魔力の復活を食い下がってきた。俺は、今更わが身可愛さに命乞いをするアリオスに急速に怒りがこみあげてくる。両手で奴の首元を掴み、強引に引き上げた。

「お前は同じことを嘆願したミオさんや、これまで関わった人たちが同じことを願った時、どう答えてきたんだ!」

 俺はそう怒鳴りつけ、思い切り拳で殴りつけてやろうとしたが、俺がそうするより先に横にいたシュリカが奴の頬を全力で叩いたのだった。

「下衆野郎! あたいは絶対に許さないからね!」

 アリオスはすっかり威勢を失い、抵抗を示さなくてなっていた。己が身におこるこれからの未来に打ちひしがれていた。

 ふと、戸外から大勢の人の声が聞こえてきた。

 部屋の扉からゼオルが息せききって入ってきた。

「おう、上手くやったようだな! 聞け聞け、ノールのやつが村長を説得してくれてよ。自警団の連中を本当に動かしてくれたんだ! 今この家の周りはこの糞野郎の被害にあった連中で一杯よ。おい、手前ぇ年貢の納め時ってやつだ! 観念するんだな!」

 ゴブは慌てて変装用の仮面を被り、部屋の隅で気配を消した。それと同時に、それまで黙っていたミオがアリオスの前に歩いてきて立ち止まった。アリオスは彼女が何を言うのか、顔をあげて待っている。

「お世話になりました。私から命令です。もう二度と、私のような人を出さないでください。誰も悲しませてはダメです。それと、私の仲間に姿を見せないでください。さようなら。」

 そういうと、ペコリと一礼して部屋から去っていった。俺たちもまた、ミオに従って出ていく。

 後に残されたのは、魔力を失ったアリオスただ一人であった。




 家を取り囲む人の中心にいた村長とノールさんに後のことをお願いし、俺たちは宿へと戻ることになった。アリオスから被害を受けた村人は大変な数に上るようで、俺たちが手をくだすよりも大変な結末になりそうであったが、これも自業自得である。

 部屋に戻り人心地がついたものの、ミオの表情は晴れない。みんなもどう声をかけていいかわからずにいる。

重い空気を切り裂き、ミオに声をかけたのはゼオルであった。

「おう嬢ちゃん。大変だったみてぇだな・・・。今日はゆっくり休んで、明日はモレジオ行きだからな! 懐も

寂しくなったしよ。また狩りに精を出さねぇとなぁ。」

 普段から何とはなく気を配れる男である。この時もわざと明るく振舞い、ミオが仲間であることを確認し、彼

女を安心させようとしたのである。暗かった雰囲気が少し晴れ、ミオの顔も上がってきた。

「ミオ ヨク マケナカッタナ。ミオ デテイカナイト サクセン セイコウ ナカッタ。」

「ゴブの言う通りだぜ。あの呪いって痛いんだろ!? 作戦のためとはいえ見ていられなかったよ。」

 ゴブとロンがミオの武勇伝を再現している。場に明るさが戻ってきた。

「姉ちゃん、強いんだな! 俺、強い魔法使いに立ち向かっていて、すごいって思ったよ!」

 キュウマの妹のキョウコも一緒にこの部屋へ避難している。キュウマもまた、ミオの様子を再現し、彼女をたたえていた。

 ようやく、ミオが言葉を発した。みな彼女が何を言うのかに注目し、視線が注がれる。

「みなさん・・・私なんかのために、ありがとうございました。みなさんが助けにきてくれて、本当に嬉しかったです。でも、同時にすごく怖かった・・・。あの男は強力な魔導士です。皆さんの身に何かあったらと思って・・・でも、今は、またこうして皆さんといられて幸せです。私なんかがお願いしていいのかわかりませんが、またご一緒してもいいですか?」

 皆、「当然だ」というように頷いた。旧知のシュリカはミオの傍らに寄り添い、頭を撫でてやっている。

 俺はすっとミオの前に移動し、彼女を安心させるように、そしてこの場にいるみんなに宣言するように言ったのだ。

「ミオさん、また『私なんか』が出ていますよ? 『私なんか』じゃなくて、『ミオさんだから』俺たちも助けに行ったんです。俺たちは仲間じゃないですか。それはこれからもずっと変わりませんよ。」

「はい・・・! みなさん・・・ありがとう・・・ござ・・います。ありがとう・・・ございます・・・。」

 その後、ミオはシュリカに肩を抱かれ、しばらく泣き続けたのだった。


 さて、夜も更けてきた。

皆、救出劇では全力をつくしたこともあり、緊張が解けると急に疲れが襲ってきたので、三々五々、それぞれ

の部屋で休むこととなった。ノールの気遣いで、ちょうど部屋も空いていたので、シュリカとキュウマたちきょうだいの部屋もそれぞれ用意して頂けることになった。

「ノールさんすみません。急にこちらの事情で巻き込んでしまったうえに、お部屋まで・・・。」

「いいんだよ。お前らはゼオルの連れだし、あの野郎には村のみんなが煮え湯を飲まされてたんだ。構わねえよ!」

 俺たちは部屋まで来てくれたノールに礼を言い、それぞれの部屋へ向かうことになった。そこで、俺は急にシュリカに腕を掴まれ、ぐいっと引き寄せられた。

「タクト、今日はご苦労さん。ちょっとさ、ミオちゃんを部屋まで送ってあげなよ。今日は色々あったしさ、ホレ・・・・わかるだろ? 早くしな!」

 年上(?)と思しき女傑にそう詰め寄られ、ドンとミオの前に押される。他の面々も「じゃ、俺たちは休ましてもらうぜ~」と、ひらひらと手を振り行ってしまった。

 俺は引くにも引けず、目の前のミオのことも気になったので、ここは部屋まで送ることにした。といっても、部屋はすぐ隣なのであるが・・・。

「ミオさん、行きましょう。」

「あ・・・はい。すみませんタクトさん。」

 部屋の扉を開けてやり、ミオを部屋へ入れる。中の明かりはついていなかったので、真っ暗だ。すぐに廊下の燭台から火をもらおうとドアに手をかけたところだった。

 ギュッ・・・。

「ミ、ミオさん・・・?」

 後ろから腰回りに抱き着かれ、身動きが取れない。もちろん、無理やりふりほどくことはできたのだが、それはミオを拒絶しているかのようだし、どうすることもできず、そのまま固まってしまった。

「タクトさん・・・私・・・怖かった・・・すごく怖かったんです。あのまま屋敷にいたら、あの男に無理やり・・・私、身体に触れられて・・・今でも身体がぞわぞわって・・・すいません・・・すいません。」

 ミオは身体を震わせて涙を流し始めた。腰にしがみつく力は先ほどよりも強く、強くなっていく。

「大事なオーブを、すいません。たった1度きりのアイテムなのに・・・私なんかのために、すみません・・・すみません・・・。」

「違うんですミオさん。ミオさんだから、あのアイテムを使うっていうのは全然惜しくなくて、俺にできることはこれしかないって思ったんです! ミオさんを救うのに、躊躇なんてなかったんです。」

 そう言って、自分の腰に回された彼女の掌をぎゅっと握る。きつく握られていた力が弱まり、彼女の熱が伝わってくる。

「そんな・・・すみません・・・でも、すごく嬉しいです。だからこうして、皆さんと、タクトさんとまたいられるんです。本当に・・・ありがとうございます・・・。」

 どれくらいそうしていただろうか。ミオのしがみつく力が弱まったのを感じ、そっと腕を外す。ミオもそれに逆らわず、密着していた体が離れ、2人の間に空間が空いた。俺がおやすみの挨拶をしようと彼女の顔を見た時、唐突に彼女が言ったのだ。

「タクトさん、私、ミオはタクトさんが好きです。愛しています。だから、これからもお側にいさせてください。」

 彼女は耳まで真っ赤にして、それでもまっすぐこちらを見つめている。それは、こちらの気持ちを知りたいのは勿論だが、どんな答えが返ってきても、自分の気持ちは変わらないという種類の目であった。まっすぐ、ただひたむきにこちらを見つめている。

「・・・ありがとうございます。ミオさんの気持ち、嬉しいです。」

俺の、否定とも肯定とも受け取れない微妙な返答に彼女は困っている。俺は、これまでミオには伝えていなかったことを伝えるべき時が来たのだと感じ、それを打ち明けることにしたのだ。

「その、ちょっと座りませんか? 俺からもミオさんに言っておかなきゃいけないことがあって。」

 ミオは俺の誘いに同意したのか、ちょこんと、俺と30cmくらい隙間を空けて横に座った。

「にわかに信じられないと思います。でも、本当のことなので聞いてください。俺、元々この世界の人間じゃないんです。前の世界では妻と3歳になる前の息子と、生まれたばかりの娘がいました。ある時事故にあって、息子はどうやら無事だったんですが、俺は死んで、だけど不思議なことが起こって、気づいたらこの世界に来ていたんです。死後の世界みたいなところで、神様みたいな人に『今度は自分がやりたいと思っていたことをやりたい』っていう願いをかなえてもらって、この世界に来たんです。そこでロンやバルクさんに助けてもらったんです。」

 ミオは俺の話を黙って聞いてくれている。

「この世界の生活は、前の世界の生活とは全然違って、新しいことの連続ですごく充実しています。ロンやミオさん、ゴブとか、いい人たちにも恵まれて・・・。その、俺も、ミオさんのことは好きです。もうすでに、仲間として大切な存在になっています。だけど、同じくらい、それに応えていいのかって気持ちもあるんです。妻とけんか別れをしたわけじゃない。妻とは会えないとわかっていますけど、それでも、やはり大切な存在であることは間違いありません。残してきた子どもたちのことも、今でも思い出すんです。ありえない話ですけど、これからひょっこり、何かの拍子に3人が転生してきて、「おとーたん!」って会いにくるんじゃないかって、荒唐無稽ですけど、そんな風に考えてしまう自分がいます。だから、そんな気持ちを腹に抱えたまま、ミオさんの気持ちを受けいれちゃまずいと思うんです。すいません。奇も衒いもない、これが俺の正直な気持ちです。」

 しばらく沈黙が続いた。俺自身、なんと声をかけていいかわからず、ミオの反応を伺ってしまっている。

 すると、ミオが口を開いた。

「タクトさんって家族思いなんですね。すごく大切にされているんだなぁってわかります・・・! 正直に、誠実に答えてくださって、ありがとうございます。・・・やっぱり、私、タクトさんが好きです。今はその気持ちを変えることがはできません。だから、改めて、タクトさんの側にいさせてくださいませんか?」

 ミオはまっすぐこちらを見ている。

「もちろんです! その、ミオさんがいてくれる毎日は楽しいですし、こちらこそ、よろしくお願いします。」

「ふふっ、タクトさん。タクトさんのやりたいことって、鍛冶師なんですよね?」

「ええ、今のところ。ミオさんは世界を見て回りたいと仰ってましたよね?」

「はい! でも、少し夢が大きくなって・・・私やシュリカさんのような獣人、キュウマたちのような鬼人族、他にもこの世界にはたくさんの種族がいますが、みんなが自分らしくいられる場所を作りたいっていう夢ができました。」

 キュウマたち鬼人族も差別の対象であるということを、本人やギドーさんから伺っていただけに、ミオの夢はまさにこの世の目指すべき姿だなとも思った。

「いいですね! じゃあ、いつか俺もその村で鍛冶工房を開かせてもらいたいですね。その夢、応援させてくだ

さい。」

 俺の提案に、ミオがすかさず制止をかけた。

「ちょ、ちょっとダメですよタクトさん! また自分のことより他人を優先してます。それじゃあ、この世界に

来た意味がないじゃないですか!?」

「いえいえ、俺の夢がたまたまミオさんの夢の途中にありそうだと思っただけですよ。俺『たち』の夢、絶対にかなえましょうよ。」

「タクトさん・・・はい! 嬉しいです!」

 

こうして、俺の夢とミオの夢は、「俺たちの夢」になった。

この壮大な夢は、紆余曲折と様々な幸運が重なり、近い将来、急速に形になっていくのだが、今はまだ2人は知る由もなかった。


「それじゃあ、明日は夢の第一歩です。遅くなるといけませんし、俺はこれで失礼します。」

 と、寝台に置いた手に力を込め、立ち上がろうとしたした時だ。ミオが俺の右手を押さえ、恥ずかしそうに小声でお願いしてきた。

「あ、あの、タクトさん・・・今日は、その久しぶりに一緒に寝てくださいませんか・・・? あの、実はまだ、一人で寝るのは不安で・・・。あの、ダメですか?」

 そう上目遣いでお願いしてくるミオに抗いきれず、俺たちは久しぶりに、同じ部屋で眠ることにしたのだった。


奪還作戦は「アルスラーン戦記」における港町ギランの件を参考にしています。


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