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23.秘められた事実

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 ゼオルが起きるのを待ち、俺たちはモレン湖に向けて歩き出した。

「ふぁーあ・・・全く人使いが荒いぜ・・・ま、ちょうど憂さ晴らししたかったところだ。問題ねぇけどな。」

 彼は不満を口にしているように見えて、きちんとこちらの反応を伺いながら話している。意外と機微にさといのである。

 4人ともモレン湖には一度足を運んでいたため、湖までの行程は順調であった。時折出てくる魔物も、ミオとロンが露払いしてくれる。ここまで俺やゼオルが出る幕はなかった。

 森に入る前に、一旦小休止し、ついでに昼食を摂った。3人の話からすると、ラフレシアはいわゆるフィールドボス、エリアボスクラスの敵である。周りの魔物よりも1段も2段もLvが高いと見て間違いない。そんな魔物と戦闘行うということで、ゼオルから俺の料理を食べる提案があったのだ。今回は焚火をすることもでき、出発前にミオにお願いして買い出しもできたので、猪肉のサンドイッチにすることにした。前回よりも野菜類を追加することで、力+3だけでなく、丈夫さ+1のバフ効果を得ることができた。これで2時間は戦力増強が期待できる。

 腹を満たした後に作戦会議をする。俺は、マジックバッグから鍛冶で作った鉄製の盾を取り出し、ゼオルに手渡した。

「急で悪いんだが、ゼオルにはその盾も持ってほしい。この中で一番膂力があるのはゼオルだから、その盾の重量でも使いこなせると思う。俺たちは基本的に敵の攻撃を回避しながら戦っているけど、いつも回避が十分にできるわけじゃないしね。それに、ゼオルや俺は素早さを生かして戦うタイプじゃないだろ? どうかな?」

「なるほどな・・・結構重いが、お前さんの言う通り、ちょこまか動けるタイプでもねぇ。助かるぜ。俺たちゃ回復役もいねぇからな。いざってときはポーションぶっかけてでも回復頼むぜ。」

 それから、立ち位置の確認をした。ミオとゼオルが先行し、真ん中にロン、後ろに俺が立つ。ゴブは遊撃担当だ。これが現状ではベストな陣形だと思う。念のため残りの回復剤を全員に分配し、俺たちは森の中へ入っていった。

「前回よりも靄が薄いです。気配察知はやっぱりやりにくいですけど、ある程度は効果がありそうです。」

 ゴブとロンも頷いている。前回はよほど劣悪な環境だったということだろう。よく無事に帰ってきてくれたと思う。

 俺たちはそれぞれの武器を油断なく構え、ミオの先導で歩いていく。

「蛾です! 鱗粉に気を付けて!」

 ミオが敵を察知し、警戒を告げる。俺は矢を節約するため、手近な拳大の石を構え思い切り投げつけた。3体いた蛾のうちの1体に命中し、胴体が大きく歪んでそのまま落下する。落下した魔物にゼオルが接近し、とどめを刺した。続いて、石をもう1発。今度は直撃はさせることはできなかった。軽く羽根に命中させることができ、1体が体勢を崩した。そこに、ミオが高い跳躍から、ダガーの一撃を見舞った。新調した鉄製の刃の一撃を受け、胴体を真っ二つに裂かれて絶命した。

「すごい! タクトさん、このダガーすごい威力です。」

 ミオが興奮気味に呼びかける。

 残りの1匹は攻撃のために低空飛行していたところをロンが2撃で片付けた。やはりこの中では、ロンの機動力と攻撃力が重要なダメージソースになるようだ。

「5人だとすげぇ! 俺も攻撃に集中できるから助かるわ。」

 ロンはやはり、攻撃に専念してもらう方が殲滅のスピードが上がる。俺はあまり戦力にならないが、全体指示を出せる位置に常に動くことを意識した。

移動中に真新しい薬草を4本見つけることができた。嬉しい発見である。目利きの極意を発動させて、新種の薬草を鑑定してみた。


月桂樹(良品)・・・初級の麻痺を解除することのできる薬草。薬草や毒消し草と比べ繁殖力が弱く、貴重である。良品のため、体力を小程度回復させる効果がある。


 なんと麻痺回復効果のある薬草であった。しかも驚くべきことに、4本すべてが良品であった。そのことをみんなに伝える。

「ラッキーじゃんか! どんどん見つけて行こうぜ。前回はラフレシアに引っ張られてそれどころじゃなかったからな。」

「もしかして、ラフレシアの効果ですかね? もしくは、逆にラフレシアが質の良い薬草類がいる場所に集まる習性があるのか・・・? 何にせよ貴重な薬草は嬉しいですね!」

 ロンとミオが前回の狩りと比較し、それぞれ感想を述べている。2人の話をまとめると、ラフレシアとの距離は確実に狭まっているということになる。森の深さはわからないが、ここまでで20分ほど経過している。料理の残り効果時間も意識すべきであった。

「3人は前回森に入ったんだろ? 森ん中にゃ蛾とラフレシアしかいねぇのか?」

 ゼオルの問いは俺も気になるところだった。

「わかりません・・・。別の魔物が出現する可能性も考慮にいれておくべきだと思います。」

「ソノトオリダナ。ミロ・・・オキャクサンダ。」

 ゴブが剣先を森の奥へと向けた。向かって左奥から耳障りな羽音とともに、巨大な蜂型の魔物が4体、こちらに気づいたのか突っ込んできた。

「モリノ オクヘ トンデイタガ コチラ キヅイタ。カマエロ!」

 言うが早いか、ゴブは蜂へ向けて突っ込んでいった。蜂は自分たちに向けて突撃してくるゴブに驚いたのか、先頭の1体のスピードが少々鈍った。しかし、自分たちに怯えないことに腹がたったようで、尻の太い針を向けてゴブに襲い掛かった。ゴブはすばやく左右に動き、的を絞らせない。そして、自分を襲ってきた1体に対し、逆袈裟に剣の一撃を叩きこんだ。外皮が固く、胴体に剣が阻まれてしまったが、空中で動きを止めたところで、ロンが鋭い突きを放ち、胴体を貫かれて絶命した。しかし、その隙に背後に回り込んだ別の1体がロンに迫る。

「おらぁ!!」

 そこへ、ゼオルが盾を構えて体当たりをぶちかました。横手からの衝撃に、巨大な蜂も意識を失い、びくびくと痙攣している。スタン状態に陥ったようだ。地上に落ちた蜂は、哀れにもゼオルに踏みつけられ、ぺしゃんこにされた。

 残る敵は2体だ。未だ闘争心は落ちていないようで、ブンブンと羽音を立てながら俺たちの周囲を飛び回っている。スズメバチやアシナガバチよりもはるかに巨大な蜂が、不可思議なうなりをあげている。この世界の人間の感覚はわからないが、黄と黒の縞々模様からはやはり生理的な恐怖心を掻き立てられる。

 と、2体のうち1体に突然何かが巻き付き、空中で動きを止めた。緑色の触手のようなものが体にと顔面に巻き付き、80cm近い蜂の体が締め付けられながら急激に森の奥へ引き込まれていく。最後の1体は、何か危険なものが接近していることの気づいたのか、森の入り口方向へ逃げて行った。

「みなさん! おそらくラフレシアです!」

 ミオが警告を発した。俺とゼオルは件の魔物を見ていないが、先ほど蜂を捉えたツルの太さから警戒感を最大限に引き上げた。

「イクゾ! テキ チカイ。」

 ゴブの果敢な一言で、俺たちはさらに森の奥へ向かって走り出した。




 森の奥に進むにつれ、靄が濃くなっていく。それに、何か甘ったるい、嫌な匂いがする。

「ギシャァァァ・・・クシャ・・・ギシャシャ・・・」

 俺たちが開けた場所に到達した時、先ほどの巨大蜂が真っ赤な花の中央部の穴に吸い込まれるのは同時だった。穴に吸い込まれた後、中から骨や皮が砕けるような、嫌な音が聞こえてきた。

「タクト、ゼオル! あいつはツルを伸ばしてこっちを補足してくる! なるべく動きを止めないこと、誰かが捕まったらフォローすることを意識してくれ! それと、前回ダメージを与えて花びらの一部が裂けているはずだ。そこから中心部に攻め込もう!」

 前回の戦闘経験を活かし、ロンが対処方法を叫ぶ。確かに、彼の言う通り、すでに敵もこちらを認識し、ツルをしごいてこちらを狙っていることがわかる。

 俺はバッグから斧を取り出す。獲物が大きい時は、当然こちらの方が有効である。

 ツルは一斉に伸び、俺たちを補足しにかかる。まずは先頭にいたゼオルとミオを狙うつもりのようだ。

「おりゃぁぁぁ!」

 ゼオルは曲刀でツルを打ち払いつつ、盾を構えて突っ込んでいく。あえて目立つ動きをすることで、敵の注意を引き付けてくれている。盾を使うのは初めてのはずだが、タンク役を見事に担ってくれている。

「ロン、ツルが再生するか確認したい! 悪いがツルに攻撃を集中してくれ!」

「了解!」

「ゴブとミオさんはゼオルに攻撃が集中しすぎないように攻撃位置を調整してみてくれ!」

「わかりました!」

 俺は全体を見渡せる位置に移動しつつ、ゼオルの体力に気を配る。これがゲームであればHPバーが表示されるのだが、現実にはそんな便利な物はない。時折声をかけながら、ツルの攻撃がどれほどの強さでゼオルに当たっているかに注目していた。

 

戦闘から15分くらい経っただろうか。ロンの攻撃が冴え、ツルの本数が着実に減少している。危惧していたツルの再生はないようで、じわじわとラフレシアの攻勢も弱まっている。

「よし、ミオさん! ゼオルへの援護を代わってください! 俺も斧で攻撃に加わります!」

 ミオと視線を合わせ、互いに頷き合う。

 俺は斧を構え、ツルの攻勢の隙間を縫って本体脇に近づいた。そして、思い切り振り被ると、そのまま重さを生かして思い切り唐竹割りに切り込んだ。本日一番の悲鳴を上げ、ラフレシアの巨体がぐらつく。続いて同じところにもう一撃。反対側では、ロンが前回同様に花弁に剣を突き立てて切り裂き、中心部への道を強引に作っている。2方向から攻撃できるのも間近だろう。ゴブは軽量さを生かし、花弁の上を移動しながらショートソードを立て続けに突き刺している。

 そして、ついにその時は来た。俺たちの断続的な攻撃を受け続けた巨大花は、一瞬ビクンと身体を震わせ、そのままだらりと崩れおちた。残っていた花弁も、力尽きたのか地面に落下した。

「いよっしゃぁぁ!」

「勝った! 勝ちましたね!」

「ざまあねぇな! ガッハッハ!」

 みんな口々に鬨の声をあげ、お互いの健闘を喜び合った。俺は、初めてのおそらくボスと思われる魔物との戦闘に喜びよりも、死ななかった安堵感が大きかった。斧を握っていた手は震え、全身から汗が噴き出した。

「は、ははは・・・良かった。みんな生きてるな・・・ふーっ・・・。」

 そのまま片膝をつき、地面に倒れこむ。年長者としていささか情けないのは許してほしい。

「大丈夫ですか、タクトさん!?」

 ミオが心配して駆け寄ってきた。彼女は平気そうだ。俺よりよほど精神が強い。

「おーい! タクト、見てみろよ! ここ、すげぇぞ! 薬草がいっぱいだ。毒消し草とか、さっきの月桂樹なんかもあるぜ! 来てみ・・・・」

「ファイアレイン!」

 その時だ。ロンの明るい呼び声が突然の爆音でかき消された。しかも、初めの1発はラフレシアの中心部で聞こえたが、そこからさらに、周囲の木々でも爆発が起きた。しかも、頭上から火が雨のように降り注いできた。

 爆発の勢いで熱風が吹き荒れ、頭上から降ってくる火が服や肌を遠慮なく焦がしていく。生まれて初めて、熱さと痛さが同時に襲ってくる。

 俺は、先ほど駆け寄ってくれたミオを無理やり引っ張って押し倒し、上から負ぶさった。重いとか痛いとか、この際そんなことを配慮していられない。

「きゃああぁぁっ!!」

「うわぁぁぁ!」

 火の雨が落下し終えると、今度は付近一帯が所々燃え始める。ロンやゴブ、ゼオルは熱風を受けて吹き飛ばされたものの、付近の岩や木に捕まり、頭上の火の雨からは逃れることができたようだ。

「ちっ・・・ドブネズミ共が、俺の獲物を横取りしおって! 実に不愉快だ! まとめて消し炭にしてやろうか!?」

 後方から若い男の声が聞こえてきた。なんとなく聞き覚えがあったが、声だけでは判断がつかなかった。俺は、目下のところ最大の脅威である延焼から逃れるため、ミオの手を引き、向かいの茂みへ逃げこもうとした。

「俺の持ち物に勝手に触るなぁっ! エアスラッシュ!」

「いけないっっ・・・!!」

 なぜか突然ミオが掴んでいた手を離したので俺は驚いたのだが、彼女が手を離したことで生じた手と手の間の空間を何かが切り裂いて飛んで行った。左手に鋭い、何かで切ったような痛みを感じ、咄嗟に左手を見ると、手のひらの淵が切れ、赤い血が滲んでいる。俺たちの間を通った何かは、そのまま前方のラフレシアのツルや木を切り裂き、森の中に突然巨人が剣を振るったような跡ができた。

 俺は、以前にもこの魔法を受けたことがあることを思い出した。あれは北の森で、森の深部に行く時・・・

「フン! ドブネズミはすぐ増えると言うのは本当だな。あの時よりも数が増えている。忌々しい。それに、な

ぜゴブリンがここにいる!?」

 再び若い男の声がする。俺は、自分とミオを傷つけんとする人物を睨みつけた。

「お前は・・・確か、冒険者ギルドの・・・アリオス?」

 そう、目の前で不機嫌そうに立っていたのは、かつてルドンの村が大変な時、ファーゴさんの要請で冒険者ギ

ルドから派遣されたにも拘らず、依頼を途中で投げ出したアリオスだったのだ。

「誰に向かって話しかけている! この平民のドブネズミどもが! エアスラッシュ!」

 再び何かが勢いよく迫ってくる。死の危険を感じ、咄嗟に倒れこまなければ、今頃真っ二つになっていただろ

う。

「ちっ・・・ちょこまかと! おい、ガイツ! ピノト! こいつらを始末しろ!」

 名前を呼ばれた男たちがアリオスの後ろの木の陰から跳びだしてきた。ピノトは俺から近いゼオルに接近し、ラフレシア戦で疲弊した彼に向かって剣で切り付けている。何か所か傷つき、動きの遅くなったゼオルでは、本来負ける事のない相手でも苦戦してしまう。俺の方にガイツと呼ばれた槍使いが迫ってきた。俺は魔法を避けるのに精いっぱいで、今は丸腰である。左手のバックラーを使ってなんとか攻撃をいなしているが,ついには追い詰められ、穂先を眉間に突き付けられてしまった。

「悪く思うなよ? 世の中運が悪いやつが悪いんだ。」

 ガイツはにたりと笑うと、槍をしごき、俺の頭を貫かんとした。

「ぎやぁっ!!」

 いつまでも痛みが襲ってこない。恐怖につぶっていた目を開けると、ガイツがその場にのたうちまわっている。彼の太ももには、深々と矢が刺さっている。

「ひえぇぇ、あ、あああ、助けてぇぇ・・!」

 少し離れたところでは、ピノトが死角から戦線に復帰したロンによって取り押さえられていた。いくら体力が落ちているとはいえ、ロンもこの旅で死線を越えてきた猛者だ。しかも、ゼオルとの2対1だ。初めの強気がどこへやら、今は武器を取り落とし、両手をあげて降参の構えだ。

「馬鹿共が! ファイアレイン!」

 先ほどの強力な火の雨が再び襲ってきた。皆、必死に避けているものの、直撃を避けるのが精いっぱいで、身体のあちこちから熱と痛みが襲ってくる。

「あああああ! ぎゃややぁぁぁ・・・!」

 なんということか、味方であるはずのピノトとガイツは逃げ遅れてしまい、アリオスの魔法の雨によって全身を火に包まれてしまったのだ。初めは服に燃え移っただけだったが、やがて全身に火が回り・・・そのまま黒焦げになって動かなくなった。

「お、おい・・・てめぇ! ピノトをよくもやりやがったな! そいつぁ、今はてめぇの仲間だろうが!? 何やってんだ!」

 ゼオルは全身を傷だらけの状態で、なんとか曲刀を杖替わりにして上体を起こし、悲痛な怒鳴り声をあげた。

しかし、アリオスは憮然とした顔のまま、吐き捨てるように言う。

「フン! 仲間? 平民のグズを仲間だと思ったことなどないわ! そこの獣人もだ。主人が自分のおもちゃに感情を向けるか? 馬鹿なことを言うな!」

 俺だけでなく、ミオをおもちゃ呼ばわりされたロンが怒りの声をあげた。

「おい! ミオさんがおもちゃだって! 主人面してんじゃねぇよ! ミオさんは誰の物でもないだろうが!」

 ロンの言葉に、アリオスがぴくっと動きを止めた。そして、さも愉快そうに、気色の悪い声で大きく笑った。

「ハッハッハ・・・なんだ? ミオ。貴様こいつらに何も言っていないのか?」

 俺たちはアリオスの言葉の意味がわからず、混乱する。自然と、ミオに全員の視線が集まる。ミオはみんなの視線を受け、よく見ると肩が震えているのだった。

「主人面するな? 誰の物でもない? ハッハッハ・・・まぁ、普通はそうだな。普通は。だが・・・」

 その時、何を思ったのかアリオスが右手をミオに向けてかざした。すると、突然ミオが両手を交差して体を抱きしめ、苦しそうに喚きだしたのだ。

「あぁぁ・・・っ・・・痛い、痛いぃぃい・・・やめてぇぇ・・・・!」

 何が起きたのかはわからないが、アリオスがミオに何かをしたのは明白だ。左手のバックラーを腕から抜くと、投擲スキルを発動させ、思い切り奴に向けて投げつけた。

 しかし、アリオスに当たる直前、何か障壁のようなものに阻まれ、小盾はむなしく地面に転がってしまった。

 アリオスは盾に目もくれず、目の前で苦しむミオに向けて言った。

「さぁメス犬。以前のように頭を垂れろ! そして後ろの連中に言うんだな。私のことは忘れてくださいとな!」

 ミオは全身を震わせながら、のそのそと立ち上がり・・・やがて俺たちの方に身体を向けた。そして、涙で顔を濡らし、悲しそうな声で言ったのだった。

「私のことは・・・忘れてください・・・みなさん、お願い・・・。」

 何が起きたのか状況を呑み込めずにいる俺たちを見て、アリオスがあざける様に言った。

「こいつはな、俺様の奴隷なのさ! 数年前に身寄りのないこいつを俺が買った。俺が魔力を込めれば、隷属の呪いが身体を蝕み、激痛が走るわけだ。はっはっは、残念だったな? ミオ。それにしても、そいつらに随分といい思いをさせてもらったみたいじゃないか。クックック・・・俺からも礼を言ってやるぞ? 特別に、お前たちの命は見逃してやる。本来なら、俺の汚点を知るやつは生かしておくつもりはなかったが、今は気分がいい。ハッハッハ!」

 アリオスは高笑いすると、懐から宝石のようなものを取り出した。そして、ミオに自身の近くまで来るように指示すると、ミオは嫌そうであったが、その宝石に向かって何かを呟いた。すると、突然2人が光を包み、その光は上空に上がった後、マリの村の方へ一瞬で去っていったのだった。

 俺たちは仲間を失った絶望感に打ちひしがれ、しばらくその場を動くことができなかった・・・。

 火魔法で燃えた草が、未だに陽炎のように揺らめいていた。




 アリオスらが去った後、俺たちは一度集まり、傷の手当をし始めた。誰もが無言で、重苦しい雰囲気が辺りを支配している。

 俺は3人に回復剤を手渡した後、打ち捨てられたように転がっていた斧を手に取ると、思い切り地面に叩きつけた。刃が深々と地面に刺さり、反動で腕がびりびりと震えた。

「絶対、絶対に取り戻して見せる! ミオさんを、また一緒に旅をするんだ!」

 俺は普段、感情があまり上下しないタイプだ。これは現世にいる時からそうで、特に人に対して怒りをぶつけることがほとんどなかった。しかし、今は猛烈に怒りが沸き上がってくる。絶対にやつを許すわけにはいかない。他の3人も、気持ちは同じようだった。全員獲物やばらばらになった道具をかき集めると、俺の元に集まってきた。

「ゴブ ユルセナイ。タタカオウ!」

「あの野郎、ギタギタにしてやるぜ・・・・!」

「ミオさんを、俺たちの仲間を取り戻そうぜ!」

 それから、ひとまず辺りの薬草の中で、アリオスの魔法から生き残ったものを採集することにした。奴の魔法は脅威だ。激戦を勝ち抜くには、怒りだけではどうにもならない。先だって回復剤を失ったので、改めて準備する必要があった。

 それからの行動は素早かった。皆一切無駄口を叩かず、疲れた体に鞭を打って町まで一気に走った。そして、俺がポーションの調合をしている間、ゴブとゼオルは村の中の探索、ロンは市場で必要な物の買い出しを頼んだ。

 それから2時間後、再び全員が集合した。

「ダメだ・・・あの野郎がマリに戻っているのはおそらく間違いねぇが、どこにいやがるかの手がかりが全くね

ぇ・・・。糞っ、せめておっ死んじまった奴らの手下でもいれば、しっぽを掴みやすくなったんだがな・・・。」

「ゴブ ムラ ヒトマワリ シテミタ。スガタ ミエナイ スマナイ。」

 捜索組の2人の成果は芳しくないようだった。しかしこれも無理はない。小さくはないマリの村で、たった一

人の人間を探すのは骨が折れる。ミオもあの様子では、アリオスの側を離れるということも考えにくい。この村のどこかに潜伏しているはずなのだ。

 買い出しを任せたロンは必要なものを集めることができたようだった。俺の方も、森で集めた薬草類からでき得る限り最大量のポーションを作ることができた。できあがった物は各自に配り、いざという時にすぐに使えるようにしてもらった。

 物資の方は整ったが、アリオスの手がかりはまるでない状況であった。どうにも手詰まりで、焦りばかり募る。

 時刻は7時。夜の闇が、タクトたちの心と村を黒く覆おうとしていた。





 俺たちだけではどうにもならなかったため、ギドーさんの知恵を借りようということになり、ロンに商人ギルドまで行ってもらおうとした矢先、ギドーさんがタイミングよく戻ってきてくれた。この町について最も詳しい彼にも事情を話すと、喜んで協力してくれることになった。

「みなさんに質問ですが、そのアリオスという男はどんな人物ですかな?」

「おいおいギドーさんよ。今そんなこと言ってる場合じゃねぇだろうよ。あんな奴のことを考えても胸糞悪くなるだじゃねぇか。時間の無駄無駄。」

「ゼオル殿の言うことはもっともですが、こういう場合、相手の立場に立って考えてみるのも大事ではないでしょうか? そのためには、相手の状況や人となりを踏まえなければなりません。何でもいいですから、その方の話していたことなど、覚えていませんか?」

 ギドーさんの質問の意図がわかり、全員がなるほどな、と頷いている。

「平民平民ってうるさいよな? なんか俺たちを見下している感じでさ。」

 ロンが言うと、ゼオルが反応する。

「そういや、なんか服装も貴族みてぇだよな。」

「アイツ ミオ カラダ ミテタ。タブン コロサナイ。」

 俺はゴブの発現の意図を言語化してみる。

「つまり、その・・・女好きというか、好色ってこと? 考えたくはないけど、そういうことなら、命を奪われるようなことはない。でも、急がないと・・・!」

 俺たちの言葉を受け、ギドーさんがまとめてくれた。

「つまり、その方はおそらく貴族であるわけですな。そうなると居場所はかなり絞られます。この村で、プライドの高い貴族の方が泊れる宿などありません。この宿にいればさすがに気づきますよね? つまり、この村の中で比較的身分の高い者の家にいると見て間違いないでしょう。空き家も線も考えましたが、まぁそんなところで満足するとは思えません。」

 ギドーさんの推理はとても納得できるものであった。みんなの顔が明るくなる。そこにゼオルも一計案じてきた。

「やつは女好きなんだろ? ってこたぁ村の酒場の女たちに聞いてまわりゃ何かわかるかもな! よしっ、そっちの方は任せろ。この村にそういう店は多くねぇ。すぐに回ってきてやる。」

「ゴブとロンと俺はもう一度村を周ろう。大きな家を中心に探すんだ。こっちもそう多くはないはずだ! もし見つけても、絶対に単独で突っ込まないでくれ。また1時間後にここに集まろう!」

「「「わかった(ワカッタ)」」」


 ゼオルは宿を飛び出すと、この3日で訪れた酒場を順に回っていった。どこも営業中だったので、店には迷惑

をかけたが、ミオの命と身の安全がかかっている。是が非でも情報を引き出さなければならなかった。時に追い

出され、時に店主に嫌な顔をされつつ、懸命に店を回った。しかし、アリオスという名前、それから子分を2人連れていることしかわからなかった。

 ふと、自分が今マヤの店のある通りにでてきた事に気づいて立ち留まった。

(いるわきゃないよな・・・とっくに逃げだしているはずだよな・・・。)

 そうは思ったが、何か気になるものがあり、マヤの店に向かってみることにした。辺りの居酒屋はゼオルの気分とは裏腹に盛り上がっている。

 ふと、マヤの店だった場所に、人が立っているのに気づいた。店はもう目茶苦茶にされ、扉は閉められているはずなのだが・・・。

「おい、アンタ、この店に何か用か?」

 ゼオルは不躾に、その人物に声をかけた。

「用? 元々あたしの店さ。文句を言われる筋合いはないね。」

「あんたの店・・・?」

 ゼオルの方に顔を向けたのは、妙齢の獣人の女性である。暗くてよく見えないが、溌剌したいい女という感じだ。どこか影があるのが気になるが、今はそんなことを気にしてはいられない。

「そうか、悪いな。俺もこの前ここでマヤって女から、ここが自分の店って聞いたんだがね? 何かの間違いじゃねぇか?」

 目の前の女性は、ゼオルが口にした「マヤ」という名前を聞いて驚いたようだった。

「え、ちょっと、マヤがどうしたのさ!? あたしはこの店をマヤに譲ったもんで、シュリカってもんさ。あんた、もしかしてマヤのこと何か知っているのかい? 村を去る前に自分の店だったところを見て行こうと思ったら閉まってるし、ただ事じゃない様子でさ・・・。あんた、何か知っているんだったら教えとくれよ。」

 ゼオル自身にも時間的余裕はなかったが、何か放っておけない空気を感じ、状況を説明してやった。

「シュリカって言ったか? あんたとマヤは知り合いなんだな? マヤとは酒場で意気投合してよ。昨日はあいつの店で飲もうと思ったんだ。そうしたら糞野郎のアリオスとトラブったとかでよ。今朝には姿が見えなくなっちまったんだよ。」

「今アリオスって言ったかい!? あんの野郎、よくもマヤを・・・! 絶対許さいよ!」

「何でぇ、お前、アリオスの奴を知ってるのか!? 俺たちも野郎を探してんだ。頼む! 力を貸してくれ!」

 ゼオルはそういうと、シュリカを引き付けれて宿に戻るのだった。



 同時刻。

 ゴブとロンは村の中を探し回っていた。しかし、貴族が住むほどの家は何軒かあるものの、付近はまだ人通りが多い事もあって、中の様子を伺うこともできず、八方ふさがりになっていた。このままでは埒が明かないと、現状を報告するために、宿に向かっているところだった。

 2人は途中でタクトとも合流したが、互いに首を左右に振っている。いずれも確たる手がかりはない様子だった。

「あれ、あんたゴブだよね!? 探してたんだ!」

 後ろから急に話しかけられ、思わず身構えたものの、誰もいない。いや、正確には小さくて見えなかった。よく見ると、まだ小さな子どもが、俺たちの前に立っている。ゴブに向かって話しかけていたようだが・・・

「キュウマ ドウシタ コンナ ジカンニ。」

「え、ゴブとこの子、知り合いなのか!?」

 ロンも俺も驚いた。魔物であるゴブと普通に接していたからだ。

「あんたたち、誰だ? ゴブと知り合いみたいだけど。」

 男の子も不審そうな目でこちらを見ている。

「俺はタクト。こっちはロン。ルドンの村からきた旅をしてきたんだ。ゴブは俺たちの仲間だよ。」

「ソノトオリダ タクト ロン イイヤツ。」

 ゴブもちょっと誇らしげである。キュウマもまた、ゴブが朝言っていた「ナカマ」が、目の前にいる2人だと理解して驚いている。

「あんたたちが・・・そうか。俺、キュウマっていいます。朝、ゴブに助けてもらったんだ。ゴブの方こそこんなところで何してるんだよ? 何か探してる感じだけど・・・。」

「イマ ナカマ ヒトリ サラワレタ。アリオス サガシテル。」

 ゴブが口にした人物を、キュウマという少年は聞き覚えがあるようだった。

「え、仲間がさらわれた!? マジかよ。それにアリオスって、あのやな奴だろ? 俺、あいつが入っていった家、知ってるよ。」

「「「ええぇ!?」」」

 こうして、俺たちは大きな手掛かりを得ることになったのだ。




 このままアリオス宅に駆け込みたいところだったが、ぐっとこらえ、キュウマを連れて一旦宿に戻ることにした。すると、タイミングのいいことにゼオルも戻ってきた。後ろには見慣れない獣人の女性を連れている。

「ゼオル! 戻ったんだな。そちらの女性は・・・?」

 ゼオルが答えるより早く、女性がすっと前に出て応える。

「あたしはシュリカ。ミオちゃんの・・・古い知人だよ。そんなことより、ミオちゃんが大変なんだって? ゼオルから聞いたよ。あたしにも何か手伝わせとくれ。」

 女性はそういうと芯の強そうな目でこちらを見ている。俺はありがたく協力してもらうことにした。ですから安心してください。そこを納得して下さらないなら、すみませんが協力は結構です。」

 俺はきっぱりと宣言した。それに、今はゴブの事情を説明している時間もない。

「わかったよ。ミオちゃんもこの一行の仲間なんだろ? あの子が認めているんなら、それで十分信用できるさ。それで、そっちの坊ちゃんは?」

 全員の視線がキュウマに集まる。

「俺はキュウマ。ゴブに助けてもらったんです。だから、ゴブに協力したくて来ました。」

 これで全員。ミオの救出のためのメンバーがそろった。

「まず、キュウマ。アリオスのいる屋敷はどこにあるんだ?」

「うん。村の北側の大きい家だよ。前あいつが手下と一緒にそこに入るのを見たんだ。確か、この村の村長の家だったと思う。ここで説明するのは難しいから、実際に案内するよ!」

「ありがとう。助かる。なるほどね。確かに考えてみれば、村長は一番の権力者だ。そこにいるのは不思議じゃない。くそっ、時間を浪費したな。」

 俺はいら立ち、拳を机に叩きつけた。俺の様子を見て、ロンが言う。

「でもおかげで奴の場所がわかったじゃん! で、後はどうするかだよ。まさか正面から突撃できないよな。ミオさんを人質に取られたら身動きとれないぜ?」

 まさにそこが問題なのだ。

「村長の家っつうことはよ。村長とのその家族だから、母ちゃんと子どもか? 後はこの規模だと召使がいる可能性があるわな。あとはあの糞野郎っと・・・。さすがに野郎は腹立つけどよ、村長に迷惑かけるのはまずいよな? なんとか村長の家族と野郎を引き離せばいいんだよな・・・。」

(引き離す・・・そうか、そうだ! この手があった・・・! あとはもう出たとこ勝負だけど・・・)

 俺は自分の考えをみんなに話し始めた。これは、ここにいる全員の協力が必要だ。

「みんな、聞いてくれ。キュウマ、シュリカさん、2人の協力も必要だ。力を貸してください! まず・・・。」

 俺の考えを必死に聞いてくれたみんなは、それぞれの動きを懸命に覚えている。そのうえで、お互いに何ができるかを伝え、作戦を修正していった。

「この作戦はだれが欠けても、誰が失敗してもダメだ。だけど、絶対成功させよう。そして、ミオさんを取り返すんだ!」

「「「「あぁ!」」」」

 こうして、俺たちの作戦が始まった。


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