22.それぞれの3日間(続・タクト編)
22.それぞれの3日間(タクト編)
「おはようございます、タクトさん。」
「ミオさん、おはようございます。」
休暇2日目の朝になった。ゴブとロンは先に起きていたのか、姿が見えない。相変わらずゼオルは寝ているようで、黙って寝かせておくことにした。どのみち旅が始まれば毎日早起きなのだ。寝られる時に寝坊させるのは最低限のマナーだろう。俺はギドーさんとともに食堂へ向かうところで、ミオと鉢合わせしたのだ。
「あれ、ミオさん。その飾り布・・・。」
「あ、これですか? そうなんです。昨日市場で。」
「なんだか雰囲気が違いますなぁ。素敵ですよ。」
ギドーさんも如才なくコメントをする。男性陣に褒められ、ミオも嬉しそうだ。
「タクトさん、鍛冶の修行の方はどうですかな?」
「お陰様で・・・。スキルも習得できました。ようやく念願の鍛冶なので、すごく楽しいですね。みんなに付き合わなくて申し訳ないんですけどね。」
俺が申し訳なさそうにしていると、ミオがフォローしてくれる。
「タクトさんはいつも私たちのことを優先してくれるじゃないですか~。そうやって自分のやりたいことをするのも大事ですよ! 昨日は研磨とか鉄の製造をやっていましたよね? 私が工房を出た後はどんなことをしていたんですか?」
「今はハッサンさん、親方さんのご厚意で鉄の製造をしながら剣を打たせてもらっていますよ。俺たちって、俺以外みんな剣を扱うんで、新しい剣を打てると旅も楽になるかなと思って。」
剣と聞いて、ギドーさんもおすすめしてくれた。
「なるほどなるほど。剣は最もポピュラーな武器ですからな。研磨や精錬、鍛造に慣れておくのはいいですね。いずれ店を持つなり、工房を立ち上げるにしてもお客が来やすいですよ。」
「そうですか。ギドーさんにそう言ってもらえると自信がつきます。」
ギドーもミオもにこにこと笑っている。
「ど、どうしたんですか2人とも? 俺の顔になんかついてます・・・?」
「なんか楽しそうだな、と思って(笑)」
「ま、まぁやっぱり楽しいですね。そういえばミオさんは今日はどうするんですか?」
俺が問いかけるとギドーもミオを見ている。
「そうなんですよ・・・。昨日市場も見て回りましたし、どうしようかなぁと思ってて・・・。うーん、逆に、タクトさんやギドーさんから、『依頼』はないですか? 私も冒険者の端くれですし、受注しますよ?」
「ギドーさん、どうです? 何かありますか?」
「いえいえ・・・すいません、思いつかないですな。」
俺は何かないか考えてみる。と、まさに困っていたことを提案してみることにした。
「薬草類が全然ないのが気になっていたんですよ。キーオでギドーさんに買い取ってももらう時にほとんど使っちゃいましたからね。旅の途中で素材探しなんて時間はなかったし、まぁ最悪素材を買えば調合スキルで作れるですけどね。店には質のいい物ばかでもないので、できればいくつかストックがあると嬉しいなぁと思っていました。」
「いいですね! 薬草集め、その『依頼』受注しますね♪」
「じゃあ報酬の方も考えておきますね。よろしくお願いします、ミオさん。」
話しているうちに食堂に到着した。そこにはすでにゴブとロンがいて、何やら今日の計画をしているようだ。
「おはよう、ロン、ゴブ。今日の相談か? そうだ、昨日は驚いたよ。まさか工房で会うとはなぁ。」
俺たちが声をかけるとロンたちもあいさつを返してくる。どうやら、2人は新しい武器の試し切りに行くのだそうだ。そこにミオも薬草収集「依頼」目的で参加することになった。3人いれば安全だろう。ゴブもいるし。
ロンとゴブはこのあたりの土地勘がないので、ミオに先行してもらうようにアドバイスした。あのあたりは昨日の感じだと危険な魔物も少ない感じであった。たしか・・・
「遠目に見た感じだけど、大きめのカエルのような魔物と戦っているパーティがいたと思う。カエルだから毒とか、麻痺なんかに気を付けるといいんじゃないか? 3人いればお互いの安全も守れると思うけど、無理はするなよ? ゴブ、みんなを頼むよ。」
「マカセロ モンダイナイ。」
ゴブはサムズアップして答えてくれた。頼りになるゴブリンである。
みんなと別れ俺は今日も工房へと向かった。中に入るとハッサンさんが炉に火をいれているところだった。
「おはようございます! 今日もよろしくお願いします。」
「おう、来たな。精々がんばれや。ちょっと待ってろ。今火を入れたばかりだからまだ時間がかかる。」
「待っている間に、いくつかまた質問させてもらってもいいですか?」
「構わねぇよ。何が知りたい?」
俺は昨日の修行が終わってから、聞きたいと思っていたことを思い出しながら質問していく。なにせ明後日にはこの村を出なければならないのだ。少しでも時間が惜しい。
「昨日の鉄の製造の話の中で鉄鉱石のことを話してくださいましたが、鉄鉱石はどこで手に入りますか?」
「あぁ、なるほどな。主な入手方法は3つだ。1つは鉱山で採掘すること。この辺りでいえば、マリを北に向かうとトランドって州都がある。そのトランドから東へ進んでいくとアッテムト鉱山ってのがあるんだ。そこで採掘する方法だな。ここは現役の鉱山だから、麓にいくつかある小屋で手続きをして、坑道内でツルハシを使って採掘するんだ。2つ目は、魔物から得る方法だ。その鉱山にも一定数、鉄鉱石をドロップするストーンスライムって魔物が存在する。各地のダンジョンや地域にも散見されているから、そいつらを狩るんだ。こいつは体内に鉄鉱石を生成する性質があるんだ。強敵ってわけでもないが、かなり固いんである程度の実力が必要になってくるな。ストーンスライム以外にも鉄鉱石をドロップする魔物は多いから、そいつを冒険者から買い取るって手もあるな。最後に、今の話と関連するが、店や個人から買い取ることだ。鍛冶ギルドでは、冒険者ギルドとのつながりを生かして鉄鉱石を仕入れている。ギルドに行けば鉄鉱石や鉄、インゴットなんかを買うことが可能だな。このほかに、高炉による鉄の製造で必要な石炭や石灰石もほぼ同じ方法で入手できるぞ。」
やはり、現代と同じように鉱山から採掘するのが基本のようだ。ただ、重機などないだろうから手作業になる。結構な重労働なのだろうなと思った。
「鉄鉱石や石炭なんかをドロップする魔物が出るダンジョンはこのあたりにありますか?」
「タクトたちはモレジオを目指しているんだろ? そのモレジオの南東の方にあるダンジョンが一番ここから近いな。後は、それこそそのモレジオの冒険者ギルドで聞くといいさ。俺らが知らないような情報を得られるはずさ。」
モレジオの近くにはダンジョンがあるそうだ。冒険者ギルドがあるだけのことはある。モレジオに行く目的が増えたな。
「わかりました。すいません、話が戻るんですが鉱山で採掘する場合って、何か条件みたいなものはありますか? 誰でも入れるんですかね。」
「そうだった、説明が抜けていたな。当然、ある。坑道に入るには条件が3つあって、どれかを満たさないといけない。まずは、本人が鍛冶ギルドに所属していること。次に、鍛冶ギルド員が同行していること。最後に、冒険者ランクがD以上であることだ。鍛冶ギルドはある程度の規模の町にはあるし、やはりモレジオにも存在するぞ。」
「モレジオって本当にすごいですね。何でもあるんだなぁ。」
俺の素直な感想に、ハッサンさんも笑っている。
「まぁな。ダンジョンのある場所には冒険者があつまるわけで、そうなると自然とそこに人が増えて、関連する施設ができるってわけだな。」
「色々聞いちゃってすみません。鍛造と鋳造ってお話ありましたが、どう違うんですかね?」
「おう。鍛造ってのはタクトが修行でやっているやつよ。職人が手で打って作るわけだ。いわば一点ものだな。これは手間も時間もかかるが、性能はもっとも良くなるし、魔石を使用な数も変わってくるんだ。今お前さんも鍛冶スキルを手に入れたから、Lv1でもナイフやら、いくつか作れるものが選択できるだろ? このスキルってのが不思議なんだが、作りたいものを選べば失敗して鉄くずになるってことはないんだよな。ただし、スキルLvが低いと質の低い物しかできない。Lvが上昇していくことで品質が良くなっていくっつう仕組みだな。質は『悪い<やや悪い<普通<良い<最高級』の5段階だ。武器や防具は使い手の命を預かるからな。最低限普通ランクの物でないとな。だからまぁ、普通以下の物はある意味『失敗』となるわけだ。で、鋳造はいわば完全にスキルで作る量産品だ。設備と材料があればスキルで作りだすことができる。店で売っている武器の大半がこれだな。量産品をいちいち鍛造で作ってたんじゃ数が足りないからな。鋳造も立派な鍛冶技術だ。鍛冶スキルは使用すると体力を消耗するから、無限に作れるってわかじゃないが、鍛造よりは楽だ。逆に弱点もあって、武器や防具には鍛造で『普通』ランクのものがコンスタントに作成できる鍛冶スキルLvがそれぞれあるが、鋳造はその要求Lvが上がることだな。しかも、Lvを満たしても良いよいランクの物が出にくい。魔石をしようできるものができることも稀だ。ま、だからこそランクの高い装備は高く売れるんだけどな。」
ハッサンさんの説明により、だいぶ鍛冶スキル関連の仕組みがわかってきた。スキルは便利だが、やはり修行が必要なようだ。やりがいも出てくる。
「お・・・よしっ、炉の温度も上がってきたな。早速やってみろ。なぁに、鍛冶は丹精込めて、数を打つことさ。がんばんな。」
俺は工房の鉄をお借りし、炉の中に入れて溶かしていく。漫画やテレビの番組なんかで見ていたイメージと同じで、次第に熱を帯びて真っ赤になっていく。小学生の頃鉄工所で上から見た鉄の塊を思い出す。当然、かなり熱い。スキル云々もそうだが、ここにいるだけで体力を消耗するのだ。鉄が溶けてきたら、金づちを使って真っ赤な鉄を成形していく。手早くやらないと温度が下がってしまう。温度が下がると鉄は固くなるので、温度が下がったら再び炉に入れるのだ。幸いなことに、鍛冶スキルのおかげで作業はだいぶシンプルだ。昨日の夜まで修行をさせてもらったので、俺の鍛冶スキルはLv5だ。昨日はナイフしか作ることができなかったが、ナイフを数本作るうちに剣系統の物がいくつか作れるようになっている。ハッサンさんが言っていた通り、その他の武器種や防具類はまだ最も基本となるものしか作れないでいる。Lv3になったあたりから普通ランクの物ができ始めるようになった。現在は少しずつ作れるものを増やしている最中だ。
「はいっ! よろしくお願いします!」
こうして、俺の修行2日目が始まったのだった。
「で、できたぁ・・・ハッサンさん! やりました! ついに完成しました!」
時刻は7時。俺は朝から金づちを握り、時々休憩を挟んで体力を回復しながら、無心になって打ち続けた。そうして、ようやく納得のいくものを作り終えたのだった。完成した物を手に抱え、師匠の元に恭しく持っていく。
「どれ・・・・おぉ、こいつはすごいじゃないか! どれも『良い』ランクで、魔石を使用可能と来てる。ずいぶんと頑張ったじゃないか!」
ハッサンさんが太鼓判を押してくれる。何本も試行錯誤を繰り返し、店の営業時間が終わるギリギリまでかかって、ようやく納得のいくものが完成した。これなら、みんなに使ってもらうことができると、確信が持てるものだ。
「失敗した物は分解で鉄に戻したとはいえ、貴重な鉄をかなり消費してしまってすみませんでした・・・。」
作成に失敗したものは分解することによって素材に戻すことができるのだ。ただし、使用した量の何割かしか戻らないので、当然ながら絶対量は減ってしまう。
「ま、いいってことよ。さすがにタダってわけにはいかねぇがな。明日商人ギルドの連中から鉄が届く日になっているから、備蓄に関してはそこで買うから大丈夫だ。」
「すみません。これ、足りなかったら言ってください。鉄やその他の素材の費用です。」
そういって、布袋にお金を入れてハッサンさんに手渡した。余談ではあるが、ハッサン氏は俺が帰ってから袋開けて目が跳びだしたそうだ。素材の代金のおよそ10倍もの額が入っていたからだ。
「こっちこそすまねぇな。中途半端なところで終わりになっちまってよ。様子を見ていたが、今のタクトは鉄のみで作れる剣系統の武器は全て作れるようになったはずだ。他の武器や鉄製の防具なんかは、修行を続ければ身に着くぞ。鍛冶スキルLvも上がっているはずだ。新しい武器種を修行するにしても、呑み込みは早いはずだ。ここからは色々な素材、色々な組み合わせを試してみるんだ。鍛冶はスキルLvがあがると作れるものが自然と増えていくが、アレンジは無数に存在する。お前は冒険者と兼業の鍛冶師だから、素材を手にいれたら色々試してみるといい。」
俺としても、明日も修行を続けさせてもらいたかったのだが、午後に大口の武器作成依頼があったのだ。ハッサンさんの工房を、いつまでも俺の修行で占拠するわけにはいかない。
「色々とありがとうございました。『師匠』に追いつけるよう、頑張ります!」
俺の言葉に、ハッサン氏は照れたのか頭をかきながら言った。
「よせよ、照れるじゃねぇか! ま、俺の初めての弟子であることはまちがいねぇが、ここから同じ鍛冶仲間さ。こいつをお前にくれてやる。金づちだと携帯用の金床。ま、卒業記念ってやつだな。ハッハッハ!」
俺は慎重にハッサンさんから金づちと携帯用の金床を受け取り、深々と頭を下げた。
「モレジオを目指すんだろ? あそこについたら鍛冶ギルドに登録して、ダンジョンに潜りながら修行を続けるといい。鍛冶ギルドにいけば、素材は実費だが作業用の工房を無料で使うこともできるからな。頑張れよ。」
がしっと俺の手を掴み、力強く握手をしてくれた。
俺はもう一度師匠に頭を下げ、みんなの待つ宿に向けて歩き出した。
SIDE:???
マリの村の中心部にある村長の家には2週間前からある客人が泊っている。
「フン! ここもだいぶ落ちぶれたものだな。それに、未だに亜人共がねずみのようにちょろちょろしているじゃないか。おい、村長のお前は何をやっているんだ。もっと厳しく取り締まれ! 町をきれいにするんだ。」
貴族風の服をまとった若い男だ。村長が座る村で最も豪華な椅子に座り、横には杖を立てかけている。その椅子の本来の主はというと、若い男の前に立たされ平伏しきっている。
(くっ・・・何も知らず、突然やってきたと思えば好き勝手なことを・・・)
村長も、若い男のあまりの態度に心中は穏やかではない。しかし、男の背後にある名門の威光と、男自信の魔法の実力の前に、表向きは臣従を誓っているのだ。
「飯もマズい! 酒もマズい! 部屋は粗末! おまけに、村の女どもは反抗的と来ている。俺がわざわざ声を
かけてやっているというのに、嫌々だという態度がにじみ出ていやがる。やつらなどは黙って俺に従い、身体を
差し出せばよいものを!」
「申し訳ございません・・・。我が村が行き届かず・・・。このような小さき村ではなく、モレジオや王都など
に行かれては如何でしょうか・・・? 冒険者としての仕事も、美しい女も、貴方様をご満足させるものは多か
ろうと存じます!」
村長はそう提案してみる。早くこんな厄介な客人には出て行ってほしいのだ。
「うるさい! 平民が俺のやることに口を挟むな!」
若い男は突然激高しはじめた。一体何が原因だったのかよくわからぬまま、村長は深々と頭を下げた。
その時、若い男の部下らしき男が部屋に入ってきた。風体は見るからにチンピラである。
「アリオス様。いいネタが入りました。この近くのモレン湖とかいう湖の奥の森にラフレシアが現れたそうです
ぜ。あいつはDランク上位相当のボスなんで、討伐すれば名声が上がりますぜ! これであん時逃げ・・・いや、
何でもないっす! この町ともおさらばできますよ。」
「ガイツか。情報に免じて、余計なことを口走ろうとししたことは聞かなかったことにしてやる。フン! この俺にかかればラフレシアなど雑魚同然よ!」
(の割には以前ポイズンスネークの奇襲で逃げ出しやがったじゃねぇか・・・はぁ、そろそろマジでとんずらするかな。)
アリオスが自信満々でそう豪語している。確かに、彼の火魔法は強力で、ラフレシアとか属性の相性も良いだろう。そのこともあり、手下のガイツもこの情報を持ってきたのだ。
「あ、そうだ、それと、最近入った新入りの、ピノトの奴が言ってたんですが、もしかしたらこの村にあの女がいるかもしれません。それっぽい奴を村の菓子屋で見たそうです。呑気に飯食ってたらしいですね。あいつも生き延びてやがったんですね。」
あの女と聞いて、アリオスの眉がピクリと反応した。
「そうか・・・そうか! ハハハッ、それはいい情報だ。あの女は消す! ルドンの一件を、俺の唯一の汚点を知っている奴は一人残さず消す。本当は村ごと焼き払ってやりたいが、糞が! さすがにそれはギルドの奴らにマークされるからな。ここまでのこのことやってきたんなら好都合だ。必ず消してやるぞ・・・。」
狂気に満ちたアリオスの姿に、その場にいる村長とガイツが身震いした。
危機は近づいていた・・・・。




