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20.それぞれの3日間(ロン・ピノト編)



SIDE:ロン


「イテテ・・・ひでぁ目にあった。酒なんて飲むもんじゃないな・・・。」

 俺は痛む頭を押さえ、カラカラに乾いた喉の不快感を感じながら寝台からもぞもぞと起きだした。

 時刻は8時過ぎ。いつもよりも寝坊した。ゼオルのおっさんは未だに高いびきをかいている。タクトとギドーさんはすでに起きていて、何か相談事だ。ゴブの姿は見えなかったので、寝台の裏をそっと見てみたがいなかった。寝ぼけて落ちた、ということでもないようだ。

「ロン、おはよう。二日酔いの方はどうだ?」

 タクトが声をかけてきた。タクトも昨日は随分飲んでいたと思うけど、大人ってすげぇな。ちなみに、この正解では16歳から飲酒はOKである。

「最悪。喉が渇くのも困るよ。」

 そう答えると、タクトが水差しから水を差しだしてくれた。ありがたく頂戴し、一息にあおる。朝の水ってこんなに美味いんだな。

「サンキュ。ゴブはどこ行ったのかな?」

 ギドーさんたちも知らないようだった。2人とも「さぁて」と頭を振っている。

「俺たちが起きた時はもういなかったよ。朝の日課かもな。ロンは今日はどうするんだ?」

 そうそう、それそれ。

「俺は剣を探しに行くよ! ここは武器屋もあるし、市場も見てみたいな。最近腕も上がってきたしさ、そろそろ新しい武器を試してみたいんだ。タクトのおかげでお金もたっぷりあるしな。タクトは?」

「武器か。そうだな。いいのが見つかるといいな。俺は工房に行ってみようと思ってる。さっきギドーさんに聞いたら、1軒だけあるんだそうだ。楽しみだよ。」

「ホッホッホ、ついに夢への一歩ですな。ロンさん、武器ならひとまず大通りの武器屋に行くのがおすすめですよ。店舗を構えている店は商人ギルドにも加盟していますから、価格を吊り上げていることはありません。まずはそこに行き、相場を探るといいですよ。そこで気に入った一振りをチェックしておいて、市場に行くのです。武器は真ん中あたりの区画に扱う店が多いですな。市場は駆け出しからベテランまで、様々な売り手がいますから、中には同じ物でも値段が上下しています。上手くいけばお買い得な物も見つかると思いますよ。」

「そうします。ありがとうございます!」

 俺たちはゼオルをそっとしておき、朝食を摂りに食堂へと向かった。食堂にはミオさんもいる。今日は旅装用のフロンティアドレスじゃなくて、たんぽぽの刺繍が施された普段着の方を着ていた。食堂には他の宿泊客たちもいるので、頭はターバンみたいな飾り布で覆っていた。よく見ると、他の宿泊客の、主に男たちがちらちらとミオさんに視線を向けている。

 ミオさんは美人だ。卵型の顔に、鼻筋は通っていて、たれ目気味の大きな目をしている。栗色の髪はつやつやしている。初めて会った時はやつれている感じで頬もこけていたから、「大丈夫かな」とか思っていたけど、今は血色もいいし、ふっくらとしている。もちろん太ったとかじゃなくて、健康ってことだぜ? 

 多分、一人で朝食を摂るミオさんに声をかけるタイミングを探っているんだな。

「ミオさん、おはようございます。頭痛くないですか!? 俺もう散々ですよ。」

 俺が声をかけると、ミオさんは笑顔で小さく手を振った。へへ、男たちが悔しそうな顔をしている。残念。ミオさんは暇じゃないんですよ。

「ロンさん。おはよう。それに皆さんも。うーん、私はあんまり飲まなかったので大丈夫ですよ。ロンさんはがんばりすぎたんじゃないですか。水、飲みます?」

 ミオさんはそう言って、タクトと同じように水を差しだしてくれた。ミオさんって俺にも敬語なんだよね。まぁ、ミオさんの場合、距離があるとかどうとかじゃなくて、みんなにそうなんだけど。声も可愛いから、なんか心地いいんだよね。

 ところが戦闘中は顔が違うっていうのかな、凛とした顔で、いつも前に出て魔物たちと戦う。ゼオルのおっさんみたいに多少の傷なんかへっちゃら、ってタイプじゃなくて、前に出て素早く動いて敵の動きを翻弄するんだ。時々死角から一撃を入れる。俺はバルクさんにも剣を習っているけど、ミオさんの剣は力に頼らないで、体重移動とか攻撃方向を意識しているところが参考になる。ただ、動きは真似できないんだよな。空中でくるっと回ってさ、バク宙したりするんだよ。あんなの無理無理。1回試してできなくて、次から1つ1つの体の動きをよく見たんだけど、絶対真似できないよな。そ、それに・・・時々太ももとかさ、その、な? 俺も男だし? 目に入るというか・・・。

 タクトがミオさんの隣に座った。遅れてきた3人も朝食メニューを注文して、宿の給仕さんがトレイを運んでくるのを待っている。

 ってかこの2人だよ。絶対付き合ってると思ったんだけど、どうもそうじゃないんだよな。ミオさんの方はタクトに気があるのは間違いないんだけど、タクトの奴、気づいてないのか、なんか踏み込まないでいるのかよくわかんないんだよな。まぁ、ミオさんはタクト一筋っぽいし、タクトもいい奴だからいいんだけどさ・・・。



「じゃあ俺、行ってくるわ! タクトとミオさんも気を付けてな!」

 食事の後に身支度を整えると、俺は村に跳びだした。もう結構人通りが増えてきている。ルドンの村とは大違いで、建物から人々の服装から驚かされっぱなしだ。俺は、ギドーさんに言われた通り、大通りの武器屋に入ることにした。

「らっしゃい。おう兄ちゃん、見たところ冒険者か? 剣はあっちだ。展示品にぶつからねぇように気をつけろよ。」

 店のおっちゃんは丁寧に案内してくれた。腰に差している武器を見て、展示場所まで教えてくれる。この村の武器屋はそれほど大きくない感じはしたが、それでも剣だけでたくさんの種類が展示してある。剣といっても、ナイフに近いものから大ぶりの両手剣まで様々だ。俺はその中で、片手でも扱える長さの物を中心に見ていく。大きな違いと言えば、刃が片側にあるか、両側にあるかだ。俺の好みは両刃の片手直剣だ。別にそれだけってわけでもないけど、なんかデザインが好きなのだ。

 店内に他の客がいないこともあり、おっちゃんも暇だったのか、俺がしばらく剣を物色していると、近くに寄ってきて話しかけてきた。

「獲物は剣か? 見たところだいぶ使い込まれているな。今の装備がブロンズソードなら、ここのブロードソードはどうだ? 刀身がブロンズソードより10cmくらい長い分、威力も上がるぞ。取り回しも現状とほぼ変わらんだろうから、買ってすぐに扱えるよさがあるな。値段は7000ギルだ。武器を買いに来るくらいだ、それくらいの持ち合わせはあるんだろ?」

「金の方は大丈夫だ。持ってみてもいいか?」

「もちろん。」

 おっちゃんの許可を得て、おすすめされたブロードソードを握ってみる。刀身の長さと、使われている素材が違うので、結構持った感じの重さは違ってくる。

「うん。結構重いな。体重移動とか、慣れるまで時間がかかりそうだよ。」

「そりゃそうだな。兄ちゃんは見たところこれからまだタッパも伸びるだろ。これくらいのを使っていても無駄にはならんはずだ。この辺りの魔物も、冒険者ならモレジオのダンジョンなんかを目指すんだろうが、あそこの魔物も田舎なんかと比べると外皮が固いからな。なまくらじゃダメージも与えられんさ。」

 いい情報を仕入れることができた。試し切りもしてみたいので、この辺りの魔物の話はありがたい。

「そうなのか? 俺はルドンからモレジオに向けて、仲間と旅してきたんだ。おっちゃん、いい情報ありがとう。」

「ルドン? ずいぶんそりゃまた遠くから来たな? その剣でここまで来れるなんてな、見かけによらず腕もいいな。そうかい、お仲間は属性持ちや魔法使いはいるのか?」

 腕前をほめられて嫌な気はしない。おっちゃんも話し好きのようだ。

「俺なんかまだまだだよ。えっと、属性・・・みんなそういうのはないよ。魔法も誰も使ってないな。」

「剣で飯を食ってくなら属性とフィット感は大事にしたほうがいいぞ。いくら獲物が良くても、身体に合わないものは本来の力を発揮できんし、自分も仲間も危ねぇからな。属性は仲間内で被らないようにするのが鉄則だ。火山に行くとか、よほど極端な場所でない限り、初見の魔物に属性被ったら危ないからな。もちろん追加効果は魅力的だが、ソロで生きていくでもないなら、そこんとこも考えた方がいい。兄ちゃんの話だと属性を気にしなくていいんだよな? それなら今後、武器を選ぶのに困ることはしばらくないだろうな。」

 そうだよな。属性のことまで考えていなかった。今は良くても、そのうち装備の選択肢は広がるが、みんなと被らないようにしないといけないことは覚えていようと思った。

「おっちゃん、ありがとう! でも、ごめん。俺この村に来たばかりだから、市場も見てみたいんだ。そっちも見てみて俺に合うのがなかったら、このブロードソードを買いにくるよ。」

「なんだなんだ、そんなの気にしなくていいんだよ。俺は商売人だが、冒険者の命は何よりも大事だからな。使えねぇ武器を売りつけておっ死んじまったらそれこそ困る。ゆっくり見てこいや。」

 俺は再度おっちゃんに礼を言うと、店を後にした。

次は市場だ。なんだかわくわくしてきた。

(あー、なんか俺冒険者やってる感じだな。へへっ)



 時刻は11時を少し回ったあたりで、昼飯にはちょっと早かったが、市場でゆっくり武器探しをする前に腹ごなしをすることにした。空腹だといらない買い物までしてしまいそうだったからだ。

 武器屋から市場に行く途中で、食欲を刺激するいい匂いがしてくる。マリの村は食事のできる飯屋の他に、カフェや常設の屋台がいくつかあった。先ほどから揚げ物を揚げる音や炭火で肉を焼く音などがしていて、どれにしようか目移りしているところだった。

 俺は揚げ物屋の前に並ぶことにした。大ぶりの肉や魚が串に刺さって売られていて、ついさっき横を通り過ぎた男女が美味そうに食っていたのだ。

「そこの肉のやつとそれから魚のやつ、1本ずつ頼む。」

「あいよ。2本で300ギルだ。」

 店のおばちゃんから揚げ物をもらい、道の端に依る。スパイスのいい香りが鼻を刺激してくる。まずは魚の方にがぶりと食いついた。淡泊ながら、身がほろほろとしていて、うま味が広がる。スパイスの塩辛さが溜まらない。続いて肉だ。こちらは噛んだ瞬間に肉汁がじゅわりと唇を伝う。俺はやはり、肉派だな。若さに任せ勢いよく粗食すると、指で唇をぬぐい、「ふーっ」と一息ついた。店で食べるのもいいが、こういうのも悪くない。

 さて、腹がいっぱいになったところで、いよいよ市場に突撃である。出がけにタクトに教わった方向へ向けて歩くと、村の中でもひときわにぎやかな一角が現れた。人がごった返し、あちこちから売り込みの威勢のいい声が聞こえてくる。

 ギドーさんに教わった真ん中あたりの区画へ移動する。人が多く、よそ見をしていたらぶつかりそうになる。

 目当ての武器を売っている店を発見した。敷物や木箱に武器が立てかけられている。しかし、ここは槍やメイスの専門なのか、剣は売っていなかった。よくよく見ると、売り手の方も周りと差別化を図っているのか、武器ごとにすみ分けがされているところが多かった。1つの店で雑多に色々な物を売っているところもあるが、質や値段はかなりばらついているし、特定の一点ものを狙って買いに来る客目当てのようだ。

 その時、後ろから肩を叩かれた。ぎょっとして後ろを振りむくと、ギドーさんが立っていた。

「あれ、ギドーさん、どうしたんですか? お仕事なんじゃ?」

「今は手が空いたので、少し抜けてきたんですよ。ロンさんがそろそろいらっしゃるかと思いましてね。初めてだと面食らうでしょう、ここは店の種類も多いですからな。よければ剣を取り扱う店を、いくつか案内しますよ。」

 渡りに船とはこのことだ。俺はありがたく、ギドーさんにお願いすることにした。

「ありがたいです。正直目が回りそうで・・・。お願いします!」

「では、こちらへ。もう武器屋へは行かれたんですよね?」

「ええ、店の人がいい人で、ブロードソードを見せてもらいました。」

「なるほどなるほど。通りに店を構えているようなところは、一定の客足が必ずありますからな、詐欺の心配はほとんどありません。私は武器屋には縁が薄いですが、いい方に出会って良かったですな。逆に、例えばあちらの店をご覧ください。ここから小声で。」

 ギドーさんが指し示す店を見ると、その店はナイフやダガー類を扱う店のようだった。店主の後ろに板があり、様々な武器の紹介や値段、追加効果などの文句が書かれている。

「ああいった店は、看板の情報を鵜呑みにしないように。『魔石を使用する回数もあり、あなたの好きにカスタマイズ可能!』なんて書かれていますが、実際にはすでに魔石が使用されていて残り回数がない場合があります。似たようなものですと、『〇〇の魔石を使用済み。すぐに効果が得られます』などと書かれていても・・・。」

「実際には魔石なんか使われていない、とかですか?」

「その通りです。これらは購入前に実際に物をよく確かめれば誰でもわかりますから、初歩的な詐欺防止です。他には、今回はロンさんには関係ありませんが、素材が雑多に陳列してあって粗悪品と普通の質のものばかりなのに、『良品多数』とかね。これは目利きのスキルや経験が必要ですから、より悪質な詐欺だと言えますね。ま、基本的にはよく見て、よく考えて買う。これを守れば大丈夫ですよ。」

 さすがは行商をして各地を回っているだけのことはある。俺はギドーさんという頼もしいサポート役を得て、彼がおすすめするお店に案内してもらった。

「ここなんかどうでしょう。魔物産やダンジョンの宝箱から得た貴重な品も扱っていますよ。」

 ギドーさんに案内してもらったのは、商品が複数種類置かれたタイプの店であった。店主は冒険者風の男で、隙なく客である俺たちを観察している。

「なんだ兄ちゃん? 冷やかしはごめんだぜ? ここはおもちゃ屋じゃねぇんだ。駆け出しは武器屋の量産品でも買うんだな。」

「まぁまぁそう言わずに。こちら若いし駆け出しの冒険者ではありますが、ルドンからマリまで実力で来られました。ニードルエイプの群れにも臆さず立ち向かう実力のある若者ですよ。」

 ニードルエイプと聞いて、男が片眉をぴくりと動かした。あの時は必死だったからわからなかったが、結構強敵だったらしい。

「ほう・・・それがフカシじゃねぇんなら、まぁ見て行く分にはいいぜ。ここにあるもんは俺が男女やら魔物からゲットしたドロップ品だ。既製品とは一味違うぜ。当然、値段も張るぞ? 兄ちゃん、懐は大丈夫なんだろうな?」

 俺は店主の挑発ともとれる言い方に腹が立ったが、ここは黙って頷いた。そして、いくつかあった装備の中から、唯一の剣に注目した。刀身も今の剣に近く、見た感じ取り回しはしやすそうだ。

「そこの剣はどういう武器なんだ?」

「こいつに目をつけるか。こいつはな、ウインドソードと言って、風属性の片手剣さ。水属性や地属性に相性がいいな。それに、風属性はすばやさに補正がかかる。こいつは素の能力を+2してくれる優れものさ。魔石は使えないが、この刀身の片手剣にしちゃ高い方だ。威力は+12だな。」

 今俺が装備しているブロンズソードの威力は3しかない。しかも、手入れなんてしている余裕も場所もなかったから、本来の威力が失われている。属性もついているし、追加効果も俺向きであった。かなり垂涎のシロモノだった。

「それ、いくらだ?」

 店主は「来たな」という顔をした。こちらが払えるとは思っていないのか、愉快そうな笑みを浮かべている。

「ぴったり20万ギル。びた一文負ける気はねぇぜ?」

 高いだろうとは思っていたが、やはりかなり高級品である。

 しかし、俺には出せない額ではなかった。念のため剣の説明を確認したが、詐欺の心配もない。

 俺は隣で微笑むギドーさんを確認すると、コクリと頷いてくれた。だから、意を決してこう言ったのだ。

「それ、くれよ。20万ギルな。」

「はっ・・・?」

 その店主も、そして隣で店をしていた商人たちも、驚きのあまる口を開けている。

「だからもらうって。20万ギルね。間違いはないと思うけど、心配なら数えてよ。」

 店主は目の前に渡された袋をおずおずと広げた。中にはぎっしりと銅貨や銀貨が詰まっている。

「ま、毎度・・・」

 こうして、俺は新しい装備を手に入れたのだった。




 市場から少し離れた場所へ移動すると、俺はギドーさんに、改めて付いてきてもらったお礼を伝えた。

「なんのなんの。ロンさんにもここまで無事に連れてきてもらった恩がありますからな。ああいう魔物ドロップの装備は無数にありますが、効果が自分に合致するものを探すのは一苦労です。いい買い物でしたな。マリの村はそれなりの規模とはいえ、モレジオや州都などと比べると滞在する冒険者のLvも下がります。つまり手持ちの額はそれほどでもないわけです。20万ギルはここいらではかなりの大金ですからな。売り手が驚くのも無理はありませんよ。ロンさんはこれからどうされるんで?」

 俺は試し切りをしたい気持ちでいっぱいだったのだが、あの親切な武器屋のおっちゃんの顔が頭に浮かんだのだった。

「武器屋のおっちゃんに一言声かけに行こうと思います。結局武器買わなかったし、丁寧に説明してくれたのに悪いなって。」

 ギドーさんは若者の真摯さを眩しそうに見ている。

「わかりました。私は仕事に戻りますので、どうぞ行ってらしてください。それじゃあ、また。」

「はい、ありがとうございました!」

 ギドーさんと別れた俺は、最初に行った武器屋へと走り出した。なんだか足取りが軽い。これも、ウインドソードの効果だろうか・・・。

 目的の武器屋が見えてきた。俺は軽やかな足取りで段を上がり、扉に手をかけようとした。そこでちょうど、中から出てきた客とぶつかってしまい、寸での所で先にでてきた客に肩を思い切りぶつけられてしまった。その拍子にバランスを崩し、そのまま空中で回転して前向きに地面に手をついてしまった。

「どけ平民! 服がよごれるだろうが! 愚図が!」

 若い男の声であった。その男は謝りもせず、そのまま足を踏み鳴らして行ってしまった。文句を言ってやろうと、痛みを堪えながら振り向いた時には、すでに人込みの中に紛れてしまっていて、その姿は確認できなかった。俺は仕方なく、服に着いた泥を払うと、店の中に入った。店のカウンターには昼間のおっちゃんが立っている。が、なんかすごく不機嫌そうであった。

「お前は昼間の・・・、おう、どうだ? いい武器はあったのか?」

 言葉の節々からいら立ちが伝わってくる。俺は腰のウインドソードを恐る恐るおっちゃんに見せ、ここで買えなかったことを詫びた。

「おっちゃんごめん。市場でいいのがあってさ。でも、丁寧に説明してくれてホント助かったよ。ありがとう。」

 俺の言葉に、おっちゃんは驚いているようだ。面食らったような顔をしていたが、それから破顔し、昼間の気のいいおっちゃんに戻ったのだった。

「なんだ・・・わざわざそれを言いに来たのか? そんなの気にすることねぇんだぜ? 全く・・・ふざけた貴族もいると思えば、兄ちゃんみたいにまっすぐな若者もいるんだな。悪かったな、兄ちゃんの前に来た野郎がとんでもないやつでな。ロクに話も聞かず、うちの店に暴言吐きやがったもんで、気が立ってたんだ。こちらがごめんだ。そうか、いい武器が見つかってよかったじゃないか。」

 俺はおっちゃんの機嫌が戻って一安心し、腰の一振りを見てもらった。

「いいモノだな。魔物産の属性剣か。そうだ、兄ちゃん、昼間の剣もそうだが、手入れはちゃんとした方がいい。剣って武器は刃こぼれが命取りだ。少しでも手入れを怠ると、力が変にかかってすぐに折れちまうんだ。この村にも1軒鍛冶場があるから、そこに一遍行ってみるといい。ハッサンっていう奴が仕切ってるから、武器屋の紹介で来たって伝えてみろ。きちんとメンテしてくれるはずだ。」

「ありがとう! その、仲間の武器も頼んでもいいのかな? みんな手入れとかする当てもないだろうし・・・。」

「もちろんだ。職人は気難しいがな、兄ちゃんみたいに誠実なやつは断らんはずさ。俺の紹介だっていえば、猶更大丈夫さ。古くからの付き合いだからな。兄ちゃん、がんばれよ。何かあったらいつでも寄ってくれ。」

 俺はおっちゃんに礼を言うと、戸を開け外に出た。誠実に生きる、確かに大事だよな。




 それから、俺は鍛冶場にも顔を出してみることにした。今日はいいこと続きだ。もしかしたら、次もいいことがあるかもしれない。

 鍛冶場は村の外れにあった。そう大きくはない建物だったが、周りは熱のせいかかなり熱い。火事を防止するためなのか、周りの建物とは距離を空けているらしかった。中から、鉄をたたくような鋭い音が聞こえてきた。

「こんにちはー! ハッサンさんいますか?」

 俺は恐る恐る扉を開け、中に入った。なんとなく、鍛冶場の親父は怖いイメージがあったからだ。

「おう、誰だ? どうした兄ちゃん?」

 中はそれほど広くなく、入り口のすぐ横にカウンターがあり、そこに職人の格好をした中年の男が立っていた。不思議そうな顔でこちらを見ている。正面には工房があり、奥の方で誰かが鉄を叩いている。なんか見たことあるような・・・。

「あ、すいません。武器屋の親父さんから紹介されてきました。ロンって言います。今度から武器を手入れしてもらえって。ハッサンさんに頼めば間違いないって言われて・・・。」

 武器屋の話を出すと、ハッサンさんは合点がいったというように頷いた。そしてさらに、今まで奥で作業をしていた人物が、ふっとこちらを振り向いた。

「あれ、ロンじゃないか? どうしてここに?」

「なんだお前たち知り合いだったのか? タクトは今日からここで修行してるんだ。そうか、お前がタクトの仲間ってわけか。あいつは筋がいいぞ。」

 朝鍛冶場を探しに出て行ったと思ったら、もう修行を付けてもらってるってわけか。

「あ、そうなんですね。じゃあタクト、がんばれよ! みんなにも伝えとくよ。」

 「あぁ頼む。」と、短く言うと、タクトは再び鉄を打ち始めた。多分、ほっとくとダメなんだろうなと思う。

「ハッサンさん、タクトのことよろしくお願いします! 俺たちもうしばらく村に滞在するので、剣のメンテでも、お世話になります。」

 そう伝えると、邪魔になっては悪いと思い、俺はそそくさと工房を後にした。

 

 夜、だいぶ辺りが暗くなってからタクトは帰ってきた。汗だくでへとへとだったけど、夢に向かっている感じがなんかかっこよかった。

 よし、明日は俺も、一丁修行に出てみるか!




 2日目の朝、俺は昨日よりもぱちっと目を覚ます。

 そして、いつも誰よりも早起きのあいつの姿を探した。だけど、やはりどこにも姿が見えない。こんな早い時間から出かけたようだ。

 それから1時間くらいして、ようやく帰ってきた。

「ゴブ、今日は時間あるか? 近くの魔物を狩りに行きたいんだけど、一緒に行かないか?」

 そう、ゴブだ。ゴブが毎朝修行をしているのを知って驚いた。

 元々、ゴブリンは人型の魔物の中でもかなり弱い魔物である。体も小さいし、力も知恵も弱いからだ。しかし、ゴブは村のリーダーだけあり、剣や弓の腕はかなり立つ。その上、毎日修練を続けているので、そこいらの人間なんか秒殺である。下手するとこのパーティで一番強いかもしれない。

「ロン、イイゾ。キノウ カッタ ブキ タメスノカ? モンダイナイ。」

 ゴブはにやりと笑っている。新しい武器を試したい気持ちは人も魔物も共通らしい。

 俺とゴブは目的地を決めるべく、食堂で行き先を話し合っていた。そこへ、タクトとミオさん、ギドーさんが下りてきた。ゼオルは相変わらず寝坊かよ・・・。

「おはよう、みんな。タクトは今日も修行か?」

「あぁ、まさか工房で会うとは思わなかったよ。時間も限られているから、悪いけど今日も鍛冶場に行かせてもらうと思う。ロンはいい武器が買えたんだって? 良かったな。」

「ロンさんとゴブ殿は今日はどちらへ?」

 ギドーさんが質問してくる。

「ゴブと一緒に試し切りに行こうと思ってるんだ。Lvや素材集めもしたいしね。ギドーさん、この辺りの魔物のことは何か知っていますか?」

 ギドーさんは逆に俺に問われ、困っているようだ。

「申し訳ありません。私は戦闘はからっきしでして・・・村の東側に湖がありまして、その奥に森があるくらいしか・・・・。」

「ロンさん。それじゃあ、私も連れて行ってもらえませんか? 昨日、鍛冶の材料集めに砂鉄探しで湖に行きましたから、そのあたりの事は多少わかります。薬草類の収集もしたいなって思ってたんです。お邪魔ですか?」

 ミオさんの思わぬ申し出に、俺は慌てて応える。

「そんなそんな邪魔なわけないですよ! おなしゃす! よろしくお願いします!」

 いやほら、女の人が一緒ってなんか緊張するじゃないか。それだけだよ?

「3人いればもしもの時も安心ですね。それじゃあロン、これを使うといい。素材収集が楽になるぞ。」

 そう言って、タクトは普段使っているマジックバッグを手渡してくれた。魔法が込められていて、手に入った素材が自動で蓄積されるらしい。解体に時間がかからないのはありがたい。

「サンキュ! じゃあ3人で、がんばろう!」

 こうして、俺たちは東の泉へ向かうことになった。




「ミオさん、左のカエルお願いします! ゴブ、俺と右のやつを!」

「ワカッタ!」

「せぃやっ!」

 ズバッ、ズブシュッ・・・! ケロォ・・・

「これで8匹目。いい感じだ!」

 続いて、ミオさんが動きを押さえているもう1匹のカエル、アシッドフロッグに側面から近づき、ウインドソードの切っ先を一気に突きこむ。わき腹を突き刺されたカエルが悲痛の叫びをあげ、血しぶきをあげながら地面に倒れこんだ。

 俺たちはマリの村を出発した後、街道沿いに東の湖へと向かった。モレン湖、という名の湖で、大昔の大地震が原因で地殻変動が起きてできたらしい。この辺りの地域では珍しく、湖畔の地面から砂鉄が産出できるようだ。ミオさんも昨日、タクトともに鍛冶場のハッサンさんから使いを頼まれてここに来たらしい。

 湖の近くは美しい風景である。しかしながら、水を求めてくるのは魔物も同じようで、広い湖のあちこちに魔物の姿が見えた。先ほどから俺たちが相手をしているのはアシッドフロッグというカエル型の魔物で、発達した後ろ足で地面を踏みしめて突進してきたり、口から酸性の液体を飛ばしてきたりする。この液体、ゴブが放った矢じりを簡単に溶かしてしまうほどの威力で、直接体にかかった姿はあまり想像したくない感じである。見た目は固そうに見えないのに、外皮も武器屋のおっちゃんが言っていたように、峠を越える前の魔物たちよりも固いくらいで驚いた。

 しかし、何より俺たちを驚かせたのはウインドソードの切れ味だった。タクトの斧よりも威力は低いはずなのに、面白い様にダメージが通る。俺は普段の戦闘では決定打になることが少ないので、チームの止め役になれるのはかなり嬉しかった。それに・・・

「ヤルジャナイカ ロン。タビ マエ ヨリ ダイブ ウデ アゲタ。」

「すごいです! ロンさん。私も負けてられませんね。ふふっ。」

「い、いや武器のおかげですよ・・・。」

 3人の中で最も熟練のゴブに褒められると悪い気はしない。ゴブが言う通り、スキルの方も旅の前よりも上がってきている。スキル以外でも、相手の動きを読めるようにもなってきた。ミオさんも拍手を送ってくれる。口では謙遜しているものの、きれいな人に言われると嬉しさもひとしおだ。

 湖付近には多数のアシッドフロッグが徘徊している。味方が攻撃を受けると、近くの味方がこちらに向かって集まってくるのが特徴だ。その特徴を見破り、適度な距離を取りながら、1匹、また1匹と討伐していった。

「困りましたね。ミオさんが探している薬草はこのあたりにはありませんね。ゴブ、奥の森に行っても平気かな?」

 年長者(?)のゴブに確認を取ってみる。俺だって、調子に乗って突っ込まないくらいの分別はあるのだ。

「ソウダナ・・・モシモノトキ スグニ ニゲル。フカオイ サケル。ソレナラ モンダイナイ。」

 ミオもゴブの言葉に頷いている。

 目的は決まった。俺たちは薬草を求めて、奥の森へと足を踏み入れた。


 森に入ると、それまで明るかったのが嘘のように、辺りが暗くなった。空には太陽が出ているはずなのに、木の密度が濃い。それに、何か不穏な靄のような、得体のしれない霧がかかっている。

 注意して進むことにする。先頭はミオさん。真ん中に俺、殿はゴブだ。女の人に前を歩かせるのは申し訳ないが、ミオさんの気配察知のスキルと感覚は高レベルだ。適材適所。小さいプライドよりも、より危険の少ない方を選択すべきだった。

「変ですね・・・気配察知のスキルにも、私の感覚にも全く反応がありません・・・。これだけの規模の森で魔物がいないということは無いと思うんですが・・・。」

 ミオさんの感覚が働かないのは確かにおかしい。俺たちは警戒Lvを一段階引き上げ、慎重に前へと進んでいく。

 ふと、何の気なしに顔をあげて驚いた。巨大な蝶、というよりも蛾が、醜悪な姿でこちらを睨み、羽根を広げて頭上を飛び回っていたのだ。羽からは細かい鱗粉が舞っている。俺は直感的に身の危険を感じ、口元を押さえながら2人に叫ぶ。

「上! 魔物だ! 2人とも息を抑えて!」

 俺が声を上げるのと、ゴブが弓を構えるのは同時だった。ミオも咄嗟に頭のターバンを下し、口元を隠した。蛾がこちらの殺気に気づき、空中を旋回する。頭上から、面で鱗粉による攻撃をしているのだ。あの鱗粉の効果はわからないが、体に良いものではないことだけは間違いなさそうだ。

 ゴブが狙いすまして矢を放つ、しかし、弓の名手であるゴブをしても胴体部分をわずかに掠っただけに終わった。蛾の動きは不規則で、矢では狙いをつけにくいのだ。

 さらに間の悪いことに、木の裏から1匹、また1匹と蛾が襲い掛かってきた。もしかしたら、あの鱗粉には味方を呼び集める効果があるのかもしれない。俺は、口元を左手で抑えながら、懸命に左右に剣を振るった。なんとか、蛾の体勢を崩すことに成功する。その隙に、ゴブとミオが直接蛾を切りつける。幸い、防御力自体は大したことはなく、剣の直撃を受けると、緑色の体液をまき散らしながら、蛾は息絶えた。仲間をやられた蛾は、さらに襲い掛かってくるかと思いきや、急速に反転し、森の奥へ去っていった。

 突然魔物がいなくなったことに驚きつつ、俺は2人の状況を確認した。体調に大きな変化はないようだった。

 喜ぶのはつかの間だった。

さらに強大な敵が背後に忍び寄っていたのである。

 

 初めは、何が起きたのかわからなかった。突然猛烈な勢いで視界が変わったかと思うと、ものすごい力で空中に引っ張りあげられていたのだ。遠くの方で、「ロンさん!」というミオさんの叫び声が聞こえたが、返事をする間もなく引っ張られている。途中で木の枝がバシバシ体に当たる。太い枝の直撃だけは避けているものの、未だに左足足を猛烈に引かれている。そして、気づいた時には、眼前に真っ赤な巨大な花を咲かせ、大きく口を開いた魔物、ラフレシアが現れたのだ。よく見ると、別のツルが先ほどの蛾を捕まえ、その口の中に放り込んでいる。身動きの取れない蛾は、無残にも食い散らかされて出てくる。全く同情はできないが、生理的嫌悪感が全身をかけめぐった。ラフレシアの花弁からは、何か霧状のものがもくもくと上がっていて、どうやらこれが、ミオさんの感覚を狂わせていた原因のようだ。

「や、やべぇな・・・でも、やるしかないぞ・・・!」

 俺は生存本能からか辛くも離さなかったウインドソードを握る手に力を込めた。思い切り、左足を拘束するつるに刃を食い込ませる。弾力のある表面が破け、不気味な維管束が露出する。足を踏ん張れない体勢のため、それから同じところを2,3度切りつけ、ようやく自由を取り戻した。ラフレシア本体は痛みを感じていないようだったが、蛾よりも大きな獲物が逃げ出そうとしていることに気づき、別のツルを伸ばし、再び拘束しにかかってきた。俺は、近くの木の幹と幹の間に素早く移動し、ツルが来る方向をなるべく限定できるようにしながら、懸命に迎撃し続けた。

 すると、後方からゴブとミオさんが近づいて来る音が聞こえてきた。

「ゴブ、おそらく花の中心が急所だ! なんとかそこを狙ってくれ! ミオさんはゴブの援護を! ツルの攻撃に気を付けて!」

 攻め手が3人に増えたことで、攻撃が分散される。俺を襲うツルの攻撃頻度が薄れていく。

 ゴブは弓を背負い、近くの木を登っていた。高い位置から口内を攻撃する算段のようだ。

 ミオさんはかなり苦戦を強いられている。元々、俺もそうだが、ミオさんは一撃の重さよりも手数を意識し、敵の急所を狙い撃つタイプだ。ところが、ツルは断続的に襲ってくるし、ミオさんのダガーの威力ではツルを断ち切ることができない。ゴブに向かうツルを払いのけ、露払いをするのが精いっぱいのようだ。

 ラフレシアの表情は勿論わからないが、焦れたのかミオさんに攻撃を集中してきた。無数のツルが彼女に向かい、回避しきれなかったうちの1本がミオさんの足首に絡みついた。そのままミオさんを逆さに、宙づりにする。

「キャアァッ! こ、この・・・!」

 見えてはいけないものが見えている気がするが、今はそんなことを気にしている暇はなかった。ラフレシアの意識が削がれたことを好機とみて、成功するかわからなかったが花弁に向けて思い切り跳躍し、真上から剣を突き刺した。そのまま自身の方へ剣を寄せる。肉厚の花びらが避け、樹液のような汁がぽたぽたと垂れている。

「ギシャァァァ!」

 言葉で表せない、不思議な絶叫をあげる怪花。続けざまにもう一度、花弁を攻撃する。ついに、巨大な花弁の一つが落下する。弱点と思しき口が近づいてきた。同時に、樹上のゴブが口の中へ狙いすました一矢を見舞う。これまでで最も大きな声で絶叫し、その場でのたうち回り始めた。その拍子に、ツルで補足されていたミオさんが落下してしまったが、咄嗟に身を翻して着地した。

「イマダ ヒクゾ!」

 ゴブの咄嗟の一言で、俺たちは弾かれたようにその場を後にした。命からがら、懸命に走ることで森の外に脱出することが叶った。背後を振り向いたがラフレシアが追ってくる気配はなかった。

「ふーっ・・・た、助かったぁ・・・。」

「とりあえず、村まで戻りましょうか。付近にまだ魔物もいますから。」

 ゴブとミオさん、2人の無事を確認して、村に戻ろうと歩き始めた時、急速に目の前が真っ白になる感覚が襲ってきた・

「・・・ンさん・・・、ロ・・・・!」

 薄れゆく意識の中で、ミオさんとゴブが慌てた様子で俺に声をかけてくれている気がした。




(あれ・・・ここは・・・?)

 茫洋とする意識が少しずつ明らかになっていく。

 目の前に見慣れた天井が見える。そうか、ここは宿か・・・・。

 部屋の寝台に寝かされていることに気づき、身体を起こそうとするが、うまく力が入らない。それでも、頭をなんとか動かし、右側を向いてみる。少し離れたところに、ベージュと茶のフロンティアドレスを着たミオさんが後ろを向いて立っている。手を動かすごとに水音が聞こえてくる。何をしていのかな・・・? ミオさんが両手を持ち上げると、水滴がぽたぽたと水差しに垂れ、そのままぎゅっと何かを絞った。

(ああそうか・・・タオルを・・・)

 ミオさんがこちらを向き、手にタオルを持って近づいてきた。そして、こちが目を開けていることに気づくと、タオルを握ったまま駆け寄ってくれた。

「ロンさん! 目を覚ましたんですね! よかった・・・森を抜けた後、急に倒れたんですよ。心配しました・・・ロンさんに何かあったら・・・ファーゴさんたちに申し訳が立ちませんよ・・・よかった。」

 心底安心したように微笑んでくれた。昔、母さんが見せてくれた絵本の中に出てくる女神みたいだなと思った。目の前で目にかかる髪を横にかき上げるミオさんに見惚れていると、ドアが開き、ゴブが入ってきた。

「ロン メヲ サマシタカ。ヨカッタナ。」

 ゴブも心配そうに側に来てくれた。ゴブリンだけど、なんか親父に似て見えるから不思議だ。

「すいません。俺、無茶やって・・・2人が無事でよかったです。すいませんでした。」

 俺は途端に申し訳なくなってきた。湖で調子よくいっていたのをいい事に、深追いしすぎてしまった。でも、ゴブがかぶりをふり、俺の肩をポンと叩いてくれた。

「ロン ヒキギワ シッカリ マモッタ。ミンナ ブジ ロンノ テガラダ。ヨクヤッタ。」

「そうですよ。ほら、見てください。これ。」

 ミオさんが取り出したのはラフレシアの花弁だった。あの時、無我夢中で放った一撃で、敵の一部に損傷を与えていたのだった。意識を集中させると、素材の説明が出てきた。

「すげぇ・・・毒耐性の素材だ・・・! こんなの初めて見ました!」

 俺は初めて、自分の力でレアな素材を勝ち取ったのだった。

 

それから、ミオさんとゴブに安静にしておくように言われ、素直に従うことにした。

寝台横の棚に置かれた花弁を見ながら、幸せな気持ちで眠りについたんだ。



次に目を覚ましたのは夜だった。

タクトも帰ってきていて、無事に鍛冶スキルを得ることができたんだってさ。

ミオさんとゴブが昼間のことを話してくれた。タクトもすげぇ感心して聞いてくれた。

ラフレシアめ。次はパーティ皆で挑んで、絶対討伐してやるからな!

俺は新たな闘志を胸に、心地よい眠気に襲われ、食事中だというのに眠ってしまったんだ。




SIDE:ピノト


 俺はピノト。

 ようやく、マリの村へ流れ着いた。時刻は6時。もうすっかり日も落ちている。

今回はマジでやばかった。タクトとかいう野郎に捕まった挙句、峠でニードルエイプの集団に襲われたんだ。ま、やつらが魔物にかかりきりになっているうちに、隙を見て逃げ出すことができた。猿サマサマって感じだな。

 その後は大変だ。なんせ両腕を拘束されたままだったからな。命からがら峠を下り、マリ方面に歩いているところで、商人に出会ったんだ。俺は哀れっぽい声色でそいつに近づき、縄を切らせた。それで、適当な身の上話をでっちあげて、油断したところを襲ってやった。結構金持ちでよ。当座の資金はばっちりさ。縛り上げて道の横に転がしておいてやった。

親切だろ? あれならそのうち誰かに発見してもらえるはずさ。俺は無駄なコロシをやらない主義なんだ。


 俺は元々、商人の家の生まれだ。そのくせ、親父は商売の才能がなくてよ、借金まみれでいつも大変だった。こんな家いられるかって、跳びだしたんだ。だけど行く当てんなんかありゃしない。俺は腕っぷしも弱かったから、とにかく強いやつに取り入った。

 けんかの強いやつは大概馬鹿だ。ちょいとおだてりゃ調子に乗って、俺を手下にしてくれる。なんかあったら適当にごまかせば、どいつもこいつもころりと騙されるんだ。

 そうやって過ごすうちにゼオルのやつと出会った。あいつもどこかから流れてきたらしいが、このご時世、そんなやつどこにでもいるからな。あいつはそれまで見てきた連中の中でも特に強かった。しかも、まぁ悪い奴でもなかった。

 コンビを組んでしばらくしてから、色々あったが結構うまくやってきたんだが、ヤキが回ったのか、捕まっちまった。男の方は冴えない感じなんだが、女の方、ミオとかっつたな。なかなかの美人でよ。獣人なのは頂けねぇが、強いんだなこれが。それにタクトの馬鹿は気づいてない様子だけどおっかなくてよ、どうしようかと思っていたわけだ。


 マリの村に着くやいなや、適当な飯屋に入った。今はとにかく空腹だ。もう腹が減ってしょうがない。

「親父、すぐに出てくるもん。なんでもいい、腹減ってるんだ。頼むよ。」

 俺の注文に、店の親父は何事かという顔をしていたが、そこはプロよ。炙った肉と野菜を丼にして出してくれた。これこれ、こういうガッツリした奴が欲しかったんだ。

「うめぇ! 親父、最高だぜ。一杯もらいてぇんだが、あるか?」

 続いてエールを頼む。へとへとの体に染みるぜ。甘辛い肉との相性がまた、イイ。

 夢中で飯を食らい、酒で流し込んだ。

会計を済ませ、店を出る。

歩くのは億劫だったが、寝床を探さないわけには行かない。疲れた体を押し、宿屋に入る。

幸い1部屋空きがあった。チェックインを済ませ、部屋に入ると、そのまま寝台に倒れこんだ。そして、泥のように眠りについたのだった。



 翌朝。だいぶ陽が上ってから目を覚ます。

 適当な店で朝食を摂り、この後の身の振りを考えていると、やけに身なりの良い服を身にまとった魔術師風の男と、その手下らしき風体の男とが、周囲に当たり散らしながら歩いているのが見えた。のべつ幕なしに人々に威張り散らしている。とんでもねぇ連中だが、腕は立ちそうだ。そういえばあの家紋、どこかで・・・。

連中が酒場に入っていったのを見計らい、俺も同じ店に入っていく。相手に気づかれないよう、さりげなく近くの席を確保し、様子を伺う。こういう連中に取り入るには、まずは情報収集が肝心なのだ。

「全く、腹の立つことばかりだ! この俺が何故素材集めなど下らん依頼をしなくてはならんのだ!」

「まぁまぁアリオス様、落ち着いてくださいよ。この依頼さえクリアすりゃ、Cランク冒険者に昇格ですよ。ランクがあがれば行けるダンジョンも増えますし、お宝さえ手にはいりゃ、名も上がるってもんです。」

「フン! まぁいい・・・。それに父上も父上だ。『アルモン家の次期当主たる者、市井の暮らしを肌身で感じ、かつ名声を集めて参れ』ときた! 俺は誰よりも強力な魔法を使いこなせるっていうのにだ! ま、父上も大変なんだろうがな。ここの所戦続きで、魔力回復剤の価格も上昇している。魔力回復剤はアルモン家にとって命綱だ。戦で戦果が挙げられなければ名声も落ちる。落ちた名声を上げるには、戦以外でも華々しい結果が欲しいんだろうよ。」

「さすがアリオス様。ご明察痛み入ります。この村で数日英気を養い、再びダンジョンに向かいましょう。」

「この俺にこんな田舎で満足しろというのか!? それにガイツ、新しい手駒はどうしたんだ! ルドンの一件

で手下を2人も失ったんだ。生きているかどうか知らんが、新しく使えるやつを2人見つけておくように言った

はずだぞ! まだ見つからんのか!」

「へい、すいやせん。何分旅をしながらで・・・。今日もまた村で探してまいりやす。」

 なるほどね。アルモン家のご子息ってわけか。馬鹿で、それに高慢で始末に負えないときてる。こういう手合いは御しやすい。しかし、このガイツってやつも可哀そうなもんだ。ボンクラにいい様に言われてやがる。腹ん中じゃ怒り狂っていそうだがな。

「それと・・・あの2人、生きているとしたら厄介だ。俺の唯一の汚点だからな。必ずこの世から消しておかねば・・・。ミオとか言ったか、あの獣人の奴隷女の方は、なかなか使えたのだがな。」

 ん、今あのアリオスとかいう男、ミオって言わなかったか? ひょっとしてこいつは・・・

俺は千載一遇のチャンスが巡ってきたことを確信し、アリオスと呼ばれた男の前に跪いた。




 こうして、俺は口八丁手八丁で奴を誑し込み、手下の一人になることができた。思った通り、奴はミオを逆恨みし、血眼になって探しているのだ。ミオたちが生きているかどうかなんて知ったこっちゃねぇが、精々あることないこと言って、利用させてもらうことにするか。

 アリオスは数日この村に滞在し、依頼をこなすということらしかった。人としてはとんだクズ野郎だが、実力はすごかった。魔法を詠唱すれば、一瞬で魔物は消し炭になる。口だけじゃねぇらしい。

 俺の役目はあいつの夜の世話だ。村の中で、いい飲み屋や飯屋、それから・・・女を探すのだ。貴族のくせに、貴族だからなのか、あの野郎とんでもねぇ女好きで毎晩相手を探してこいなんて言いやがる。

 ちょうど、これという女を町で見かけて、その女が店に入っていくのが見えた。外から中を伺うことができなかったので、店の中に入り、「上品に」交渉したんだが、生意気にも首を縦に振らなかった。おいおい勘弁してくれよ。ここで相手を見つけないと、俺があの馬鹿に詰られるんだ。ちょっと脅してやったんだが、それでもその女は従わないもんで、業を煮やしたアリオスが店に入ってきやがった。どんだけ盛ってやがるんだ・・・。あいつは無理やり手籠めにしようとしたようだが、騒ぎを聞きつけた周りの住民が集まってきた。貴族はメンツを大事にするらしく、俺たちは渋々寝床に戻ることになったのだ。

 翌日、俺はガイツってアリオスの古参の手下に命令され、食糧の買いだしを済ませた。あの野郎もいつか見ておけよ、とイライラしながら歩いていると、見知った顔が向こうから歩いてきた。

 ゼオルのやつだ。どうやらこいつも無事だったようで、タクトに取り入ってこの村に滞在しているらしい。偉そうに、この俺に、詫びをいれてまたあいつ等の元にいこうぜなんて言いやがった。誰が行くか!

 そして、奴が消えたのを確認し、ほくそ笑んだ。

 連日、千載一遇のチャンスが巡ってきたからだ。

 俺は急いでねぐらに向かった。ミオの奴が、近くにいるはずだということを奴に知らせるために・・・。


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